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ベートーヴェン 「ピアノ協奏曲第5番"皇帝"」

Beethoven
Piano Concerto NO.5 "Emperor"

Artur Rubinstein
Daniel Barenboim
London Philharmonic Orchestra

ルービンシュタイン
バレンボイム指揮
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
1975年録音/RCA

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ボクはこのCD(当時はLP)ではじめて「同じ曲の聴き比べ」を覚えました。あれは高校2年の頃のことです。

ベートーヴェンの「皇帝」は中学2年生の頃はじめて聴き、そのわかりやすさも手伝ってすぐファンになりました。
チャイコフスキーの「悲愴」、ベートーヴェンの「運命」「田園」の次くらいに覚えたクラシックじゃなかったかな。母親が買ってきてくれたんだけど、当時大はやりのカラヤンでなかったのが不満でした。

そのレコードは、オーケストラと指揮者は忘れましたが、ピアノはワイセンベルグでした。
以来何度聴いたでしょう。
20年前は娯楽の少ない時代で、レコードも相対的に高価だったから持っているものを繰り返し聴かざるを得ないのです(レンタル屋もまだなかった)。
だからボクの中での「皇帝」はワイセンベルグで形作られたのです。
それはいま考えるととても若い演奏でした。テンポも早く軽いタッチでちょっとケレン味のある語り口でした。でもまぁボクも若すぎるくらい若かったからうまくあったのでしょう。ぼろぼろになるまで聴いたのでした。

そんなある日、ルービンシュタインの「皇帝」をたまたまFMで聴いたのです。
いつもはFMで歌謡曲なんかを聴いていたのですがその日はなんとなくNHK- FM(当時はこれとFM東京しかなかったからねぇ)を聴くともなく流していて、あぁ「皇帝」だな、と思いながら本を読んでいました。

「皇帝」は「皇帝」。スコア(楽譜)が同じなのだから演奏者によってそんなに違いが出てくるわけがない。なのになんで世の中にはいろんな演奏者のレコードがゴマンとあるのだろう……当時のボクの素直な感想です。だからFMから流れてきた「皇帝」もいつも聴いている「皇帝」のはずだったのです。

しかるに!
なんだか様子が変だ。確かにメロディは同じだけど、なんだこのテンポは?その違和感は第2楽章になってさらに大きく広がりました。
え!? これ、おんなじ曲!?

ルービンシュタインのピアノはものすごくゆっくりだったのです。途中で止まっちゃうんじゃないかと思うほど。
そしてバレンボイム(指揮。この人はもともとピアニスト)もそれをゆっくりフォローしていきます。
ロンドンフィルも驚くべき忍耐力で丁寧についていっています。全体がものすごい緊張感を保ちつつ、雄大で上品で枯れている、そんな演奏でした。ボクは読んでいた本のことなどすっかり忘れ、曲に聞き惚れました。

この演奏はワイセンベルグの演奏の遥か上をいっていることが素人の耳にもわかりました。
まるで天上の音楽のように美しい。
同じスコアで同じ楽器でなんでここまで違ってくるのだろう! 演奏者の解釈の違いでここまで曲って変わってくるのか!

まぁ気が付いちゃえば当たり前の話なのですが、ボクにとっては青天の霹靂。なんてこったい。気が付かなかったぜ。

それからボクはクラシック好きの友達(少なかった)に「皇帝」のレコードを借りまくりました。
それぞれ趣きが違っていて飽きません。
へぇ〜、こりゃ面白い。しかしなんでこんなに違ってくるのかな…。

最初は違うという事実だけで満足していたのですが、いっぱい聴いているうちにだんだん自分の好みが見えてきました。数多い「皇帝」の中から他人の評価でなく自分の評価で自分のベストを選べるようになったのです。
違いを見つけることから自分を見つけることへ。
この成長過程は人生によく似ています。結果的にルービンシュタインがこんな訓練をさせてくれたことになります。


さて、いまボクは数枚の「皇帝」を持っています。
さすがにこの頃では聴き比べはしませんが、いまでも「皇帝」の興味をひく新譜が出るとCD屋に出かけていって確かめることがあります。何をって? それは演奏時間です。

演奏時間でだいたい演奏のタイプがわかるくらいは「皇帝」は聴き込みました。
もちろん細部の表現は全然違うのですが、そう「皇帝」ばっかり買ってられませんから、それで満足しているわけです。

ここにボクの持っているCDの演奏時間比較をお見せしましょう。
一番わかりやすい第2楽章で比べてみますね。


 * ルービンシュタイン/バレンボイム/ロンドンフィル :9分22秒
 * ミケランジェリ/ジュリーニ/ウィーン       :8分36秒
 * アラウ/デイヴィス/ドレスデン          :8分27秒
 * ポリーニ/アバド/ベルリンフィル         :7分48秒
 * バックハウス/クラウス/ウィーンフィル      :7分22秒


どうです?
10分弱の第2楽章で一番早いのとゆっくりなのの差が2分もあるんです。
2割以上も違うんですから違う曲にも聞こえるのも無理ないですよね。

もちろん圧倒的にゆっくりなのがルービンシュタイン版。
ベートーヴェンには一番定評があるバックハウスが一番早い演奏です。
どっちが好きかって? そりゃあなた、「皇帝」においてルービンシュタインの演奏にかなうものはありませんよ。
ちなみに懐かしきワイセンベルグ版のCDはまだ買っていません。買うのがちょっと怖かったりして……。

【1997年2月記】

1997年02月02日(日) 22:24:15・リンク用URL

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