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ブラームス「交響曲第1番」

Brahms
Symphony NO.1

Charles Munch
Orchestre de Paris

シャルル・ミュンシュ指揮
パリ管弦楽団
1968年録音/EMI

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ブラームスの第1番を聴くと、なぜかいつも開高健の小説を思う。

チャイコフスキーを聴くと、そのわかりやすい暗さと妙な明るさの混在から太宰治を思うし、ベートーベンを聴くとその生真面目さと内省癖から夏目漱石を思う。
作曲家を小説家に比するというナンセンスさは承知しているが、この「交響曲第1番」を聴く度に開高健を思ってしまうのだから仕方ない。ボクの中ではそうなのだ、ということだ。

どこで開高健を思うのかな。

まずその構築力。というか構想力。細部に至るまで揺るぎなく思想が届いている。
そしてゴツゴツしたその文体。楔をガシガシ打ち込むような迫力が一文字一文字一音一音に感じられる。
一見暗いその内容。それでいて俯瞰したときの意外にも華やかな展開……

どれもたいへん似通っていると僕には思われるのだ。
ブラームス、ニアリィイコール、カイコウケン。

ということはつまりこういうことだ。
開高健の小説を読むときのように、ブラームスを聴くときは他のことが何一つ出来なくなってしまうのだ。


音楽は、特にクラシックは「ながら」で聴くことが多いボクだが、ブラームスはその数少ない例外。
対面聴取。
読み出したらいずまいを正して読み込んでしまう開高健とそこらへんまで似ているのである。



さて。
中学のときだったか、音楽の教師が「ブラームスはむすっと暗い。だからブラーむすってんだ」などと下手な冗談を言って以来、ボクの中で「ブラームス=むすっと暗い」という公式が定着してしまった。

音楽教師は罪なことをしたものである。
暗い曲なんて聴きたくない、とばかりブラームスから遠ざかること15年。ボクが本格的にブラームスを聴き始めたのは 30歳になってからだ。高校時代に、いやせめて大学時代に聴き込んでいればなぁ、と今は思うのだが、まぁ30歳にして知るブラームスも悪くないものだ。いや40代で聴き込んだ方がもっといいかもしれない。

なぜならこの第1番。構想23年。ブラームス43歳のときの作品なのだ。
はっきり言ってバケモノみたいな執着力である。構想23年とはどういうことか……
子供が生まれた年に構想を練りはじめたとしたら、その子供が大学卒業して会社に入る年に完成、ってこと! なんてこった!

しかしこの23年間で「薄っぺらい暗さ」が削がれ「妙に軽い明るさ」も削がれ「生半可な勝利の歌」も削がれたわけだ。要は大人の作品になったわけである。
巨人ベートーベンの後でどう発表していいのかわからなかったということもあるだろう。
コンプレックスによる気後れもあったと思う。でもこの推敲が行き届いている様はなかなか見事だ。まさに構築力という言葉がふさわしいと思う。

ただモーツアルトみたいな「推敲なし」のイキオイがないのも事実。感情がほとばしるような軽やかなメロディが存在しない。理屈っぽい、理にかないすぎているところがある。まぁドイツ的といえばまさにそうなのだが。


このCDはそういう「ドイツ的」なところから一番遠いところにいるであろう「パリ管」の演奏である。
「フランスのオーケストラ=感情のほとばしりが得意」などという決めつけはしないが、フランス人が理屈っぽく推敲を重ねた交響曲を得意にするかというと、やっぱり苦手とすると思うのだ。

でもね、これが逆にブラームスのこの曲にイキオイを与えているから不思議なものだ。
モーツアルトにあるような腰の軽さが加わっていい意味で迫力が増しているのだ。面白いよね。

ドイツの典型、ベルリン・フィルが演奏したらどうなるかな、と思ってアバド-ベルリンのCDも買ってみたが、たいへん美しい演奏だったがなんかこのCDに比べると隙がなさすぎる印象。
隙がないブラームス。本来はそれの方が作曲家の意をくんでいるのかもしれないけど、やっぱりちょっと気が抜けなくて聴いていて疲れてしまう。

一発フルトヴェングラーで聴いてみようか、という気もあるのだが、なんか怖くて……
怖くない?フルトヴェングラーのブラームス。「反省せよ〜!」みたいに迫ってきそうだ。お〜、こわっ。



【1997年10月記】

1997年10月01日(水) 22:47:00・リンク用URL

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