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LV5「海辺のカフカ」

村上春樹著/新潮社/上下各1600円

海辺のカフカ〈上〉
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変な話、ちょっと「村上春樹のさだまさし化」を感じた。
さだまさしは途中から「もっと直接的に言わないと伝わらない」と焦ってしまったところがあって、いままで周辺状況を丹念に描くことで伝えてきた主題を、直接歌詞に乗せて歌いはじめた。個人的にそれからの彼をあまり好きになれないのだが、村上春樹もそうならなければいいな、とちょっと感じる。そう。村上春樹はもっと直接的に言うことに決めたのだと思う。それは、「アンダーグラウンド」以来現実とより深くコミットし始めた著者にとって、必然の成り行きだったのかもしれない。

例によって出来の良い寓話が入り組んで、奥の深い世界を構成している。その寓話(および隠喩)が何を指しているかがいままでよりもより直接的にわかりやすいように書かれている。そんなに種明かししちゃっちゃつまらないです、と訴えたくなるくらい。要所要所に違和感や異化を入れ込んだり(あまりに世慣れした15歳とか)、いままでになく時事的リアリティを入れ込んだり(街やテレビ番組の描写とか)、大筋に関係ない描写で読者を煙に巻いたり(フェミニストとの議論とか)、いろいろと著者の煙巻き(?)は感じるのだが、全体的にはこれまでの著作にないくらい直線的にイイタイコトに収束していく。
その寓話の設定と収束の仕方はさすがに見事で、これだけをとっても傑出した小説と呼べるだろう。ただ、いつもより「より説明的だ」ということだ。例えばジョニ・ウォーカーやカーネル・サンダースだってメタファーとしては実にわかりやすい。いままでならそこらへんをちゃんと謎っぽくしていたのだが。

主題はいままで彼が繰り返し語ってきた範囲を出ていない。著者をずっと追ってきた読者なら「またこれか」と思うだろう(同時に安心もするのだが)。でも今回はもう一歩踏み込んで「メッセージ」としているのが違うところ。また、ふたつの物語が交差していく構成は「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」と同じ。ただし、「世界の終わり…」は暗示としての交差だったのに、今回はリアルに交差する。こここそ、現実にコミットした村上春樹が変化した部分だと思う。

物語作家として、世の中にメタファーを提示する以上の役割を明確に意識し始めた村上春樹。たぶん次作で超寓話的物語を出してはぐらかし、その後「海辺のカフカ」よりも強い直接的メッセージを持つ物語を提示してくるのではないかな、とちょっと予想(笑

2002年10月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

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