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「神の子どもたちはみな踊る」

amazonとっても完成された短編6編。
共通するモチーフは阪神大震災である。そういう意味では「連作小説」になるのだろう。
わけわかんねぇよ、って読後感の方もいらっしゃるかもしれないが、ボクは非常にしっくりきた。それは阪神大震災による「喪失」を体験したという個人的環境も手伝っているのかもしれない。短編の名手がじっくり仕掛けたそれはボクの心の奥深くまでしっかり食い込んできた。
基盤を崩された者の不安感、カラッポ感、ひいては神の不在感、そして自分の不在感…。そんなものを浮き彫りにするために著者はいろんな仕掛けを繰り出す。
そして「突然基盤を崩される」ということが震災だけでなくごく日常に存在し、それはある意味「死」をも包含するのだということを暗示している。そこには神も不在である。自我も不在である。そしてそれを現代社会の病理ではなく、普遍の問題として描こうとしている。阪神大震災という時事ネタを使用してはいるが、著者は巧妙に物語から時制を排除し、問題を普遍化しているのだ。
地下鉄サリン事件を掘り下げた著者の当然の帰着点だろう。あれも突然な出来事による基盤の喪失であった。そういった体験が個人にどのように作用し人生がどのように変わっていったか、著者は尋常ならざる興味を持って取材し「アンダーグラウンド」一連の本に仕上げた。
なぜあそこまで興味をもったのか、当時はいまひとつピンとこなかったが、これを読んでようやくわかった。この短編はそれを受けての著者の「ある回答」なのだ。この短編の中のどれかは、将来著者によって長編に生まれ変わる予感がする。
2000年05月01日(月) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:小説(日本)
@satonao310