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いわゆるひとつの企画のコツ

2012年10月10日(水) 8:21:07

前回の「ノマドって『企画の超重要な部分』が抜け落ちる」で、企画について少し触れたので、ついでにもうひとつ。

ボクは広告コミュニケーションを生業としていて、電通で26年、独立して1年半、クリエイティブ畑でCMやウェブやキャンペーンを企画してきた。

最近では「広告」という領域におさまらない仕事も多く、コミュニケーション領域全体を設計・構築する「コミュニケーション・デザイン」が仕事の中心になっている。だから肩書きはコミュニケーション・ディレクター。何をやっているかわからない怪しい肩書きだが、実は本人も何をやっているかよくわかっていないのであるw

とはいえ先端っぽい仕事ではある。
そう見えるせいか、学生とか若者とかからよく質問される。

「新しい企画や発想ってどうやったら浮かぶんですか?」

そういうとき、たいていの質問者は「アナタは才能があるからいいですね」という目をしてこちらを見ている。新しい企画や飛び抜けた発想には特別な才能が必要だと思っているようである。

でもね、自己完結していて必ずしも相手に理解されなくてもいい「芸術」ならいざ知らず、「企業による生活者に向けたコミュニケーション」は相手あってのもの。伝えたい相手に理解してもらわなければ話にならない。

つまり、相手と同じ感覚を持って、相手と同じ常識の範囲内で企画・発想するのである。そんなもの、特別な才能など何も必要ない。ちょっとした常識と気づきとビジネス感覚があればオーケーだ。

ただ、コツみたいなものはある。
そのうちのひとつについて、今回は書いてみたい。

実は、20代の頃だったか、ボクも先輩に同じ質問をした。

その先輩は賞も獲りまくっていて、とても優秀な人だった。企画もとてもユニークで面白い。その彼に聞いた。「先輩、そういうユニークな企画や発想ってどういうときに浮かんでくるんですか?」って。「アナタは才能があるからいいですね」という目をして。

その先輩は、しばし考えたあと、こう言った。

「"自分" の中から出てくる発想なんて、たいしたことないよ」

そしてこう続けた。

「自分が生きてきた数十年の経験から生まれてくる企画・発想なんて高が知れてるよ。みんな自分は特別な発想ができると思いすぎているからいい企画ができないんだよ。自分の中から出てくる発想なんてたいしたことはない。それをちゃんと自覚すること。そのうえでたとえば自分ではない人になりきってみる。そうすると "自分" と "他人" が化学反応していい企画ができたりする」

20代のころに聞いたこの言葉を、ボクは今でも律儀に守っている。

自分ではない人になりきってみること。

たとえばある缶コーヒーのCMを考えているとする。
自分の中から企画を絞りだそうとしても意外と発想は浮かばない。出てくるのは普通っぽい発想ばかり。んー困った。

でもここで、自分ではない人、たとえば長嶋茂雄だったら(←例が古い!)この缶コーヒーをどう言うかを考えてみる。彼だったらたとえば、「あー、なんですか、ここにボールを乗せると、いわゆるひとつのティーバッティングが出来ますねぇ」と言うかもしれない。

この切り口が使えるかどうかは別にして、「缶コーヒーを縦に積み重ねてティーバッティング!」という珍妙な発想は、絶対に「佐藤尚之」からは出てこない。ボクがひとりで頭を絞っても絶対出てこないのである。でも「長嶋茂雄になりきった自分」からは出てくる。ここに企画発想の新展開がある。

じゃ、スギちゃんならどう言うか、ローラならどう言うか、本田圭佑ならどう言うか、オバマならどう言うか、ミスチルの桜井ならどう歌にするか、アメトークなら何芸人が話すのか、「銀魂」ならどう描かれるか……。

こうやって「自分の人生と他人の人生をかけ算して考えていく」と、自分の枠を出た発想が無限に湧いてくる。

もちろん玉石混淆。
しょーもない発想もたくさんたくさん含まれる。

でも。
その中に「伝えたい相手の共感を得る発想」が必ずいくつか入っている。

それを見つけ出すことが次の大切な作業になるし、それはわりと経験値のいる難しい作業なのだが(ディレクターという人種は、そこの選択眼を役目として生きている)、でも、とりあえず絶対自分の中からは出てこない発想を数多く手に入れることは出来る。そこに思いもかけない玉な発想が必ず入っているものである。

ま、企画のコツなんて企画マンの数だけあると思うけど、ご参考までに。

ちなみにこのやり方は、コミュニケーション領域の発想以外にもいろいろ使える。
販売戦略や商品開発、イベント企画、そして経営戦略まで、狭い狭い自分の脳みそを拡張し、まったく思ってもみなかった発想を与えてくれることでだろう。

みなさんも是非おためしを。

佐藤尚之(さとなお)

佐藤尚之

佐藤尚之(さとなお)

コミュニケーション・ディレクター

(株)ツナグ代表。(株)4th代表。
復興庁復興推進参与。一般社団法人「助けあいジャパン」代表理事。
大阪芸術大学客員教授。やってみなはれ佐治敬三賞審査員。
花火師。

1961年東京生まれ。1985年(株)電通入社。コピーライター、CMプランナー、ウェブ・ディレクターを経て、コミュニケーション・デザイナーとしてキャンペーン全体を構築する仕事に従事。2011年に独立し(株)ツナグ設立。

現在は広告コミュニケーションの仕事の他に、「さとなおオープンラボ」や「さとなおリレー塾」「4th(コミュニティ)」などを主宰。講演は年100本ペース。
「スラムダンク一億冊感謝キャンペーン」でのJIAAグランプリなど受賞多数。

本名での著書に「明日の広告」(アスキー新書)、「明日のコミュニケーション」(アスキー新書)、「明日のプランニング」(講談社現代新書)。最新刊は「ファンベース」(ちくま新書)。

“さとなお”の名前で「うまひゃひゃさぬきうどん」(コスモの本、光文社文庫)、「胃袋で感じた沖縄」(コスモの本)、「沖縄やぎ地獄」(角川文庫)、「さとなおの自腹で満足」(コスモの本)、「人生ピロピロ」(角川文庫)、「沖縄上手な旅ごはん」(文藝春秋)、「極楽おいしい二泊三日」(文藝春秋)、「ジバラン」(日経BP社)などの著書がある。

東京出身。東京大森在住。横浜(保土ケ谷)、苦楽園・夙川・芦屋などにも住む。
仕事・講演・執筆などのお問い合わせは、satonao310@gmail.com まで。

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