着物の効用

2007年12月17日(月) 7:59:46

当たり前のようだけど、金沢は「今現在の季節」で溢れていた。
なんというか、「今の季節」が溢れているのではなくて、「昔からある今」がちゃんと機能しているような印象。この12月中旬はこういう作業をして、こういう木々を愛で、こういうものを食べるもんだ、みたいな皮膚感覚がしっかり伝承されている感じである。

東京にはとっくにそれがない。
いや、昔から住んでいる江戸っ子にはあるのかもしれないが、外から来た人の集合体であるトーキョーにはそれはとっくにない。季節にふさわしい作業もなく、着ている服にも飾り付けにも店先にも、季節感がほとんどない(あるとすれば外来文化であるクリスマス感くらいか)。食べ物の「旬」においては、特にまったく崩れ落ちている。

今年の夏は、ある鮨屋で「今日はいいヒラメが入ってます」とか言われてびっくりした(ヒラメは冬にお願いします)。先週は銀座の割烹で「早堀りのタケノコがあります」とニコニコされて戸惑った(タケノコは春にお願いします)。四国の方で12月に早掘りタケノコの収穫があるとは聞いたことはあるが、見るのは初めて。体が冷える時期に食べたいとは思わないな。せめて年が明けてからにしてほしい。ハウス物が一年中出回る今の状況はそれなりにシアワセだとは思うが、天然物で旬が感じられないのは少々困る。

金沢って、なんとなく「そういうことをするもんじゃない!」とちゃんと叱ってくれそうな雰囲気が漂っている。
居酒屋行っても、鮨屋行っても、料亭行っても、どこ行っても「昔からある今」に忠実に季節感を味わわせてくれた。この季節のこの時期にはこういうことをするもんだ、と、年長が若者にきちんと伝えている気がする。こういう口伝こそ「文化」そのものだ。

これはたぶん「着物を着ている人が多い」ということが大きいと思う。
着物率で言うと京都よりも金沢の方が高いと思うくらい着物の人が多い街。着物はその柄自体、季節感を大事にするし、自然と茶道や和菓子に親しむようになる。接待や贈り物でも「常識」として季節感に気を遣うようになる。古くからある文化が「常識」になると、老人の経験に耳を傾けて教えを請うようになるし、自分の子供が恥をかかないように教え込むようになる。

こういう「いい循環」がきちんと機能している街。つまりは文化的である街。それが金沢だった。それはたぶん着物率に比例すると思うのだけど、日本ではもうほとんど絶滅寸前だ。着物率が高い街、他にも行ってみたいな。きっと季節が美味しく食べられるだろう(結局それかよ)。

佐藤尚之(さとなお)

佐藤尚之

佐藤尚之(さとなお)

コミュニケーション・ディレクター

(株)ツナグ代表。(株)4th代表。
復興庁復興推進参与。一般社団法人「助けあいジャパン」代表理事。
大阪芸術大学客員教授。やってみなはれ佐治敬三賞審査員。
花火師。

1961年東京生まれ。1985年(株)電通入社。コピーライター、CMプランナー、ウェブ・ディレクターを経て、コミュニケーション・デザイナーとしてキャンペーン全体を構築する仕事に従事。2011年に独立し(株)ツナグ設立。

現在は広告コミュニケーションの仕事の他に、「さとなおオープンラボ」や「さとなおリレー塾」「4th(コミュニティ)」などを主宰。講演は年100本ペース。
「スラムダンク一億冊感謝キャンペーン」でのJIAAグランプリなど受賞多数。

本名での著書に「明日の広告」(アスキー新書)、「明日のコミュニケーション」(アスキー新書)、「明日のプランニング」(講談社現代新書)。最新刊は「ファンベース」(ちくま新書)。

“さとなお”の名前で「うまひゃひゃさぬきうどん」(コスモの本、光文社文庫)、「胃袋で感じた沖縄」(コスモの本)、「沖縄やぎ地獄」(角川文庫)、「さとなおの自腹で満足」(コスモの本)、「人生ピロピロ」(角川文庫)、「沖縄上手な旅ごはん」(文藝春秋)、「極楽おいしい二泊三日」(文藝春秋)、「ジバラン」(日経BP社)などの著書がある。

東京出身。東京大森在住。横浜(保土ケ谷)、苦楽園・夙川・芦屋などにも住む。
仕事・講演・執筆などのお問い合わせは、satonao310@gmail.com まで。

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