映画の復活に学ぼう

2008年2月26日(火) 6:54:19

昨晩は「明日の広告」を読んでくださったある既存メディアの社長にお呼ばれ。

初対面の方だったが、ものすごく情熱的でものすごく本質を掴んでいる方だった。
いちいち指摘が的確。今の空気を肌感覚でわかってらっしゃる。消費者が変化する以前の成功体験を強く持っている人はどんどん世代交代していくべきである、とは思っているが、この年齢(60代後半の方だった)でもこういう方がいるから油断できない。あの本に強烈な共感を持ってくださり、しきりに「元気になった」「若返った」と笑う。既存メディアは(消費者に合わせて変化さえすれば)自信を失う必要なんかない、というのもあの本の主張のひとつなので、とてもうれしかった。

あの本では「ネット vs 既存メディア」という誤った構図を否定して、既存メディアの生き残る道も多少説いているのだが、「書いていることはよくわかりますが、そうは言っても我が業界はやっぱりどう考えても絶滅危惧種で」みたいな自虐的&閉塞感バリバリのメールをくださる方がわりといらっしゃる。

新聞業界と雑誌業界の方だ。

確かに若い人を中心に新聞も雑誌も読まれなくなっていると思う。ニュースもコラムも携帯で読んでいる人が多く、通勤電車内の風景も様変わりした。いままでオフィスにごろごろしていた雑誌もすっかり少なくなった。このまま何もせず眺めていたら、衰退するしかないかもしれない。

でも、ボクは「なぜ『映画の復活』に学ばないのかな」と思う。

50年ほど前にテレビが登場して、映画は一気に衰退産業となった。
無料で楽しい映像がふんだんに見られるテレビに映画はとても太刀打ちできないし、映画の意味はもうない、終わった、と、誰もが思った時期があった。70年代80年代は特に。そのうえビデオデッキが普及して映画館に足を運ぶ人はどんどん減り、もう過去の遺物に近い、という空気すらあった。いまの「ネット出現」よりずっと強いインパクトをテレビは持っていたのだ。

でも、いま、映画は復活を遂げている。
ハリウッドを中心に話題の新作が毎シーズン封切りされ、テレビドラマよりずっと話題になるし、一時ほとんど死にかけた邦画ですら10億円を超える興行収入のヒット映画がいくつも出てきている。たった2時間の映像を観るために我々は1800円もの高いお金を払って映画を見に行く。これって無料コンテンツがはびこる現代においてスゴイことだ。

で、この「テレビと映画の関係」って、「ネットと新聞・雑誌の関係」に似てません?

なんでもタダで見られるネットと、お金を出して買う新聞・雑誌との関係に。
いきなり出現してニュースやコラムの主役になろうとしているネットと、それに脅かされて悲観している新聞・雑誌業界の関係に。
ま、細かい違いはもちろんあるが、大きくはそっくりだとボクは思う。

でも、新聞や雑誌には、いいお手本がある。
まさに「映画の復活」という前例が目の前にある。

映画が一時期衰退したのは、テレビが出てきたからではない。面白くなくなったからだ。それが言い過ぎだとしたら「テレビに取って変わられた部分にずっと固執していた」からだとボクは思う。

テレビのせいにして悲観していた会社は駆逐され、映画にしか出来ない面白さを追求してテレビと棲み分けた会社は生き残った。そして成長した。その象徴であるハリウッドはそのやり方を批判されもしたが、あのときハリウッドが腹を括って変わらなかったら、いまの映画の姿はなかったかもしれない。

新聞・雑誌が衰退しているとすれば、それはネットが出てきたからではなくて、消費者にとって面白くないからだ。
映画が「テレビにできないこと:莫大なお金をかけたCGとか、ハリウッド的大スターシステムとか」に焦点を絞って復活したように、「ネットにできないこと」に焦点を絞って発信していけば、ネットと共存できるどころか、ネットを凌駕する部分も出てくるだろう。

最新のニュースやコラムを伝えるだけならネットに勝てない。
でも、例えば映画がやったのに近いことを書くなら、資本を集中させて莫大なお金をかけた見事なドキュメンタリーを作ったり、ちゃんとお金をかけて書き手を育て、彼らをスターにして何人も囲い込んでいけば、ネットはとても太刀打ちできない。新聞や雑誌の方が読んで面白ければ、読み手だって戻ってくる。

そういう意味で、コンテンツ・メーカーであるライターや記者を安いギャラで使い捨てている今の酷い状況をまず一番に改めるべきだろう。お金をたくさん払ってくれるところに優秀な人材は集まるものだ。充分なお金が支払われ、優秀なライターや記者が競い合うようになったら、コンテンツの質は様変わりする。

あとは、映画業界(特にハリウッド)が腹を括ってやったように、新聞・雑誌業界がいかに腹を括れるかにかかっている。宅配制度や再販制度など、システム面での問題も多々あるが、コンテンツ面ではまずは「映画の復活に学んだらいいのに」とかボクは思うのだが、どうなんだろう。

佐藤尚之(さとなお)

佐藤尚之

佐藤尚之(さとなお)

コミュニケーション・ディレクター

(株)ツナグ代表。(株)4th代表。
復興庁復興推進参与。一般社団法人「助けあいジャパン」代表理事。
大阪芸術大学客員教授。やってみなはれ佐治敬三賞審査員。
花火師。

1961年東京生まれ。1985年(株)電通入社。コピーライター、CMプランナー、ウェブ・ディレクターを経て、コミュニケーション・デザイナーとしてキャンペーン全体を構築する仕事に従事。2011年に独立し(株)ツナグ設立。

現在は広告コミュニケーションの仕事の他に、「さとなおオープンラボ」や「さとなおリレー塾」「4th(コミュニティ)」などを主宰。講演は年100本ペース。
「スラムダンク一億冊感謝キャンペーン」でのJIAAグランプリなど受賞多数。

本名での著書に「明日の広告」(アスキー新書)、「明日のコミュニケーション」(アスキー新書)、「明日のプランニング」(講談社現代新書)。最新刊は「ファンベース」(ちくま新書)。

“さとなお”の名前で「うまひゃひゃさぬきうどん」(コスモの本、光文社文庫)、「胃袋で感じた沖縄」(コスモの本)、「沖縄やぎ地獄」(角川文庫)、「さとなおの自腹で満足」(コスモの本)、「人生ピロピロ」(角川文庫)、「沖縄上手な旅ごはん」(文藝春秋)、「極楽おいしい二泊三日」(文藝春秋)、「ジバラン」(日経BP社)などの著書がある。

東京出身。東京大森在住。横浜(保土ケ谷)、苦楽園・夙川・芦屋などにも住む。
仕事・講演・執筆などのお問い合わせは、satonao310@gmail.com まで。

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