のんびりさぬき  --99.01.27




「今日こそ夢を叶えましょうね!」
「うん。絶対CHAIN EATINGしないぞ!」




香川に向かって高速を走りながら、ボクたちはしみじみ語り合ったのである。


その夢とは単純である。

いつか、
いつかゆっくり、さぬきうどんを食べてみたい・・・
CNAIN EATINGしないで、おいしい店を2〜3店、のんびり味わってゆっくり帰ってきたい・・・




なにしろ貧乏性夫婦なもので、香川に行くと「次の店はどんな味なんだろ」「この店の味はわかったから今度はあの店に行ってみよ」って感じでせわしなく食べ継いでいってしまうのだ。

どんなおいしい店に行っても、次の店が気になってしまう。
小を一杯もらって、めちゃくちゃ後ろ髪引かれながら次の店に向かってしまうのだ。

そんな性分から、一日11軒などというおバカな記録まで作ってしまった我々なのだが、いっつも「次行くときは、好きな店で、ちゃんと天ぷらとかも取って、おかわりとかもして、ゆっくり食べようね」などと誓っていたのだ。

だが、その誓いが守られたことはいままで一度もないのである。



「今日は予定も立てちゃダメ。食べたお腹の具合で適当に次の店を決めるの」
「うん。次の店に行かない自由も確保しないとな」


前の晩、ボクが行く店をぼんやり考えつつメモを作っていたら、優子にこっぴどく怒られたのだ。

「今回はのんびりさぬきでしょ! ダメよ、行きたい店考えちゃ!」

うーん、そうは言っても・・・せめて最初の一店は決めておかないと動きがとれんぞ。

「じゃ、最初の店だけね。山越!」
「おお! 決断が早いなぁ」
「山越でおかわりしまくっちゃって1軒でおなかいっぱいの可能性もあるわ」
「おお、それこそ、ボクたちの夢の実現だ!」





・・・ウジ虫みたいな夢である。





車は走る。
明石海峡大橋を抜け、徳島自動車道を通って、名店「谷川米穀店」の横に着く。

まだ9時半。
「谷川」は11時からだから、ここでは食べられない。つうか最初からそのつもりはない。
が、近くに有名な「佐々木豆腐店」がある。
ここの岩豆腐は有名だから、まずここで買い込んだのだ。

豆腐屋に寄る時点からして、今回は違う。
いつもだったら、9時半なんていい時間には血眼になって店を回っているのだ。


「余裕だわね」
「大人だな」


ゆっくり運転して「山越」に着く。
大駐車場が出来た、というのはウソではなかった。まだ10時半前なのに、駐車場は6割埋まっている。大人気である。



店内は以前と変わらず。

セイロに並んでいるうどんはピッカピカのツッヤツヤだ。
うーーーーー、うまそすぎ!



ええと、まずは釜玉の小でも食べるかな。
で、相変わらずうまかったら、そのあと冷たいのを食べて、それから温かいのを食べて、それでもまだ欲しかったら、釜揚げもらって・・・


山越 ・・・久しぶりだなぁ・・・え、山越さんよ、うーん、相変わらずなんというツヤ・・・うまそうだなぁ・・・あー、会いたかったよ、キミに・・・



まず響子に一口あげて口封じをしてから、おもむろに一口・・・ズズズ・・・







う、う、う、

うま、うま、うま、





「うまひゃひゃ〜〜!なんて叫ぶとバレちゃうわよ。
 なんといっても香川ではベストセラーの2位だったんだから」


あ、そ、そうだな・・・でもあれ読んで来てる人なんているのか?
まぁいいや。じゃぁ小さく。









うまひゃひゃひゃひゃひゃ〜〜〜〜〜










・・・あぁ、実感として蘇るさぬきうどんのこのうまさ!
   舌や喉や歯に記憶された快感が、またまた更新されていくのである。








「おいしいわね〜!」
「うまい。うますぎる!」


ボクたちは静かに目をかわしあった。


「おかわりしたいくらい、うまいけどさ・・・」
「なんだかまた、いろんな店を回りたくなって来ちゃったわねぇ」
「久しぶりに『宮武』も食べたくなってきた」
「ワタシ、『ジャンボ』の釜揚げがどうしても食べたい!!」




そう、舌や喉や歯が、記憶を取り戻した途端「回ろう!どんどん回ろう」と要求しだしたのである。

あああああ、やっぱりいろんなところでいっぱい食べたいのだ!!




「ゴメン、ワタシ、もうダメ!」
「ボクもだ!」
「きょうちゃんも!」


   「よし、次、行こう!!!」








こうして、ボクたち夫婦(+むすめの響子)の夢であった「一軒で思う存分食べる」という夢は儚くも潰え、「山越」を5分で飛び出した我々は、出だしの遅れを取り戻そうと車をぶっ飛ばすのであった。





すでにボクたちは「香川でのんびり出来ない体質」になっていた。





体質改善は、不可能なのである。







p.s.

結局その日行ったのは、

  • 相変わらずうますぎた「山越」(大駐車場完備)
  • 相変わらず独特の麺の「宮武」(これまた大駐車場が出来た)
  • 火木土のみやっている「山神」(うまひゃひゃ!しかも美人姉妹!ちょっとカルキ臭いのが気になるが・・・)
  • メールで教えてくれた「黒田屋」(「全店制覇」にも載っていない。生活うどんの極致)
  • 本当の意味での製麺所「橋本製麺」(『恐るべし』第二巻末で触れている幻の店。中で食べる仕組みになっていないから、玉を買ってマイ・ドンブリとマイ・しょうゆで車の中で食べました。小麦の香りがすごい!国産だろうか?)
  • 相変わらずうますぎた「ジャンボ」(国分寺の方。しょうゆも食べてみたけどやっぱりこの店は釜揚げに尽きる!うまひゃひゃ!)

出足遅れということもあって、6軒どまりだったけど、「黒田屋」「橋本製麺」を探すのに異様に迷ったから仕方なし。夕方には瀬戸大橋渡って帰ったし。
「山鹿」が一歩違いで営業終了だったのが痛かったなぁ。ホント、1分違いだった!




p.s.2

香川における大チェーン「宮脇書店」では「うまひゃひゃさぬきうどん」はまだ店頭平積みでした。 しかも写真のごとく手書きPOPつき。

宮脇書店太田店  コピーは

 うどんにはまった一家が
 うまいさぬきうどんを求めて
 香川県を右往左往
 うまひゃひゃさぬきうどん
 宮脇書店も出演!


 出演ってアンタ・・・




p.s.3

そういえば大好きな雑誌「太陽」1999年2月号に書評が載りました。
引用してみると、

蕎麦好きだった著者がはまった「本当のさぬきうどん」の味とは? うどんの聖地香川を旅し、ひたすらうどんを食いまくる。大笑いしながら読んでいくうちに、さぬきうどんを食っていない自分が嫌になって死にたくなる。食わずに死ぬのも嫌になる。危険な本だ。



あ、雑誌「ダカーポ」の1999年2月3日号にも載ったなぁ。
これで日経新聞・四国新聞・週刊文春・週刊プレイボーイ・本の雑誌・太陽・ダカーポ、と、書評が載ったことになりますね。うれしいうれしい。




p.s.4

あ、ナイアガラ瀑布はですね、華厳の滝、白糸の滝と変化していき、見事に固形・落盤状態となりました。ご心配をおかけしました。





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