1999年7月「旅行に行かずに旅行する」


旅行に行かずに旅行する・・・。
時間的余裕とかお金がないとか、まぁそんなとき、
「旅行に行った気分にちょっとなれるよ」的レストランの紹介です。



「かりゆし」  沖縄料理:大阪・大正

大阪市大正区三軒家東1-14-18/06-6554-5576/木休/17〜24
JR大正駅と垂直に走る大通りを南に歩き、パチンコ店の角を斜め左に入る。そこからしばらく行くと左側にポツンとある。

「国内?」「口内旅行だヨ」

 大阪の大正区には「沖縄の街」がある。沖縄出身者が多く住んでいて、町並みは普通の下町風だが言葉や食べ物や音楽がすべて沖縄という超ディープな街なのである。食堂や居酒屋も客はほとんど沖縄の人で、さすがの関西人もズカズカ入りにくい雰囲気。その分、勇気を出して入れば沖縄にいるような気分に浸れるのだ。そう、沖縄ファンにはたまらない場所なのである。

 沖縄の雰囲気は好きだけどそこまでディープなところに行くのは怖い……という方には「かりゆし」をオススメしよう。JR大正駅から程近く便もいい。ただし、「沖縄の街」ほどではないにしろ店内はかなりディープ。20畳ほどの座敷は赤いじゅうたんにちゃぶ台で、客は思い思いにぺったんと座って沖縄料理を食べ、ステージが始まるのを待つ。土曜の沖縄民謡ステージは日に2回。オーナーの島唄なんぞを聞きながら、ゴーヤー・チャンプルーやらグルクンの空揚げやらを泡盛でのどに流し込む……すると、ゆっくり毛穴が開いていくのだ。これぞ沖縄の毛穴開放感! 転調して早くなった三線リズムに身を任せ、沖縄の人に交じりカチャーシーを踊る快感たるや!(かなり勇気もいるけどね)

 飛行機代を使わず、沖縄気分に浸りたいなら、もうひとついい手段があるよ。それは1冊の本。その本とは出来立てホヤホヤのボクの本『胃袋で感じた沖縄』(コスモの本/1500円)なんだけど…。すまん。まったく宣伝である。でも興味があったら読んでね。



「森繁」  インカ料理:京都・木屋町

京都市下京区西木屋町通四条下ル/075-351-1702/月休/12〜14/17〜20.30
阪急河原町駅を出て高瀬川の方(東)に歩くと川の手前に木屋町通りがある。そこを右(南)に曲がってすぐの右側。

 キミはインカ料理を知っているか?そう、あのインカ文明。南米で約500年前に栄えた広大なインカ帝国で食べられていた料理である。いや、ほとんどの方が知らないはずだ。だってこの店でしか食べられないんだもん。実は日本で唯一インカ帝国の料理が食べられる店が京都にあるのである。いったいどんな料理なのか、南米旅行気分で食べに行ってみようではないか。

珍しインカ、うまインカ?

 河原町四条近くの「森繁」はなんと40年以上も前からインカ料理を出している老舗。電話でコース料理の内容を聞いたら「8000円から10万円まであります。ええ、40年前から同じ値段でやっております」だって。うーん、10万円のコースっていったい…。

 とりあえずインカの雰囲気に浸りたいだけなので、一品をいろいろ取ってみることにした。祭りの時や一部の家庭に伝承されているインカ料理を日本人風にアレンジしているというだけあって思ったよりなじみやすい。カパックという料理は(インカシチュー付きで2800円)バナナやリンゴやジャガイモの揚げ物で、昔の王様が食べていた料理だそうな。質素な中にちょっと祝祭感があってとても楽しい。インカシチューはピリッと辛くて深い味だ。そうそう、飲み物もインカしている。天然のコーラの実から抽出したインカコーラやインカピスコというブドウの搾りかすから作ったお酒も珍しいよ。

 聞けばペルーを始めとする南米にもインカ料理専門店はほとんどないそうだ。遠き極東の地で食べるインカ料理…。はるか未来に日本もインカ帝国のように滅亡し、遠き異国で細々と「日本料理」が伝承されるような時が来るのかもしれないな、なんてちょっとセンチな思いに浸りながらピリカラのインカシチューを食べるボクなのでした。



「ランゼン」  チベット料理:京都・丸太町

京都市上京区土手町丸太町下ル駒ノ町554-3/075-256-0859/火休/11.30〜14/17〜22.30
河原町通丸太町の交差点から丸太町通を東へ二筋行った道を南へ曲がって510メートル行った右側。

Tibetah !

 いまボクが一番行ってみたい所は何を隠そうチベットである。そこには「我ただ足るを知る」みたいな精神が生き残っている気がするのだ。この過剰物欲時代にどっぷり漬かりきっているボクとしては、チベットに行ってそんな空気を吸ってくる必要がある気がするのである。いや、まるで個人的イメージなので実際に行ったら違うのかもしれないが、でもきっとそういう所なのだろうと確信はしているのだ。

 行きたい。行く必要がある。けどあまりに遠い…。だったら雰囲気だけでもチベットしてみようではないか。ということで今回はチベット料理。京都にある「ランゼン」は日本でも珍しいチベット料理専門店だ。チベット料理とは、一口でいうと中華と和食の中間といった趣で、わりと懐かしい系の味付け。チベット餃子の「モモ」は羊肉ベースで13種類。滋味がじみーっと浸み出してきて実にうまい。「アムドゴツェ」は黒豚のシチュー。ほかにも「チベットカレー」や「チュル」など、まぁチベットの人と日本人は顔とかも似てるし舌も似ているのかもね、と思わせる日本人好みの味ばかりだ。そして食後には「バター茶」を。高地にあり冷涼な気候のチベット料理のコンセプトは「身体を温めること」にあるんだなと思わせる、芯から温まるおいしいお茶だ。

 オーナーはチベット難民援助のボランティア活動をし、チベットをもっと知ってもらうために店を始めたそうだ。店内はチベット関係のグッズで埋まっており、売ってもいる。壁にはダライ・ラマ14世がほほ笑んでいる。日本が失いつつある精神をしっかり保っている(とボクが勝手に決めつけている)所、チベット…。もっと身近に感じるために一度いかがだろうか。



「ダブリナーズ・アイリッシュ・パブ大阪店」 アイルランドパブ:大阪・ミナミ

大阪市中央区宗右衛門町1-13/06-6212-7036/無休/17〜23.30(金土は翌1時まで)
ミナミの堺筋と宗右衛門町の交差点から宗右衛門町に入ってすぐの右側。

Pub's Life

 6年前にイギリスをレンタカーで1周したことがある。イングランド、ウェールズ、スコットランド、そして、南アイルランド…。いやー、バブル期ならではの長期休暇! いまそんなことしたら辞めさせられちゃうかも的ロングヴァケーションだったのだ。

 目的地もホテルも決めずの気ままな旅ゆえ、食事も行き当たりばったり。たいていパブに入り地元民に交じってキドニーパイだのフィッシュ&チップスだのをビールと共に流し込む毎日。実に楽しい日々だった。

 さて、こんな風にイギリス各地のパブを渡り歩いたボクなのだが、なんといってもパブはアイルランドに尽きる。人々の陽気さ、人なつっこさはもとより、なにより音楽がいい。たいていケルトミュージックのライブをやっていて、地元民が日常としてそれを楽しんでいる。で、踊りまくるのだ。

 そしてギネス・ビール! 現地で飲むギネスはどうしてあんなにうまいの?と、いまでも遠い目をしてしまうくらいのうまさ。黒く苦いそれをちびっと舌の先でなめては人生を思い、ごくっとのどを通しては愛を考える。人を陽気な寡黙へと誘う、そんな黒ビールなのだ。いやはや、うまい!

 で、そんなアイルランド・パブがまんま大阪のミナミにあるのをご存じか?「ダブリナーズ・アイリッシュ・パブ」は客の6割は外国人。現地から直輸入したインテリアと彼らに囲まれているとそこはまさにアイルランド(現地を知っているボクが保証する)。ビールはもちろんギネスの樽詰め生(空輸)。週末はケルトミュージックのライブもあるし、食事もなかなか本格的だし、まさにアイルランドがそこにあるのだ。これぞまさにミナミ・アイルランド!…おそまつ。



文章:さとなお(satonao@satonao.com) イラスト:中村三奈(minasann@syd.odn.ne.jp)


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