おしぼりで鼻をふさげ  --99.02.12




2月になってからまた忙しくなってしまい、この日記も2週間ちょいぶり。

おとといなんか、またまた徹夜だった。
朝11時から翌日の朝8時まで品川の編集室にこもりっきり。

いい加減慣れてはいるんだけど、やっぱり徹夜の編集はつらい。
この歳になると1週間くらい疲れが抜けないし。
でも、なんといっても徹夜編集でつらいのは、タバコ、なのである。


ボクは生まれてこのかた、まだ一度もタバコを吸ったことがない。
ちょうどタバコを覚える年代(中学とか高校とか)に、父親がタバコの吸いすぎでドクター・ストップにかかり、のたうちまわってタバコを止める姿を目の当たりにした。
その苦しみを目の前で見ている内になんだか吸う気がなくなり、そのまま37歳のいままで、タバコを口にしたことがない。

かといって、別に「嫌煙派」でもない。

吸わない人のことをそこそこ考えて吸ってくれれば、文句はない。

例えば外でオナラをするとき、する場所やタイミングを考えるよね。
ボクのオナラが他人の鼻になるべく入らないように頭をひねる。
まぁ喫煙する人もそのくらいの気遣いは最低限してほしい、程度のことだ(例えが変でわ?)。

他人のタバコが、吸わない自分の肺を汚す!ガンの原因になる!・・・なんてエキセントリックに騒ぐ人も多い。けど、喫煙者をそこまで責めるなら排気ガスとか大気汚染とかダイオキシンとかもきっちり一貫性をもって責めろよな、と、魔女狩り的な昨今の嫌煙運動についてはちょっと苦々しく思っていたりもするのである。


そんな中道路線を行くボクではあるが、編集室みたいな狭い密室で吸われると、やっぱり苦しい。
タバコを吸わない人にとって、あの香りは息が出来ないくらいイヤな香りなのだ(特に「マイルド」系の香りはマズイぞ。ショートホープとかの方が香りとしてはまだ楽しめる)。

この頃はそのことをわかってくれるひとが増えて、少々暮らしやすくはなってきた。
が、徹夜作業の時はそんな気遣いなど忘れてしまうみたいで(作業ストレスなどもあろうが、まぁあれはほとんど惰性だな)、みんなバカスカ吸いまくるのである。


先端のようでいてとっても旧体質なCM業界。
タバコを吸う人はかなり多い。

徹夜となると、スポンサーも会社の上司も同僚もプロデューサーもディレクターもアシスタントディレクターもアシスタント・プロデューサーも編集オペレーターもオペレーター助手も、みんなバカカス・・・もとい、バカスカ吸うのである。

お願いしたらやめてくれるかもしれないが、非常に気まずくなるのは目に見えている。なにしろ超少数派なのだからして。



一度、キレたことがある。

あれは真冬の午前4時。
ボク以外全員喫煙者。大切なスポンサーも喫煙者。
編集作業が行き詰まって、みんながみんなチェーンスモーキング状態だった。ボクはといえば、あまりに煙くて息は出来ないし、目も開けていられなかった。

とにかく息が出来ない。
ずっと我慢していた羊さんなボクも、だんだんイライラしてきた。
なんたる不遜。なんたる傲慢。
ほんのちょっとでいいから、吸わない人のことを考えたらどうなのだ!!

ついには羊さんなボクも凶悪狼目になり「めちゃくちゃ空気悪いですねぇ」などとわざとらしく声をあげながら編集室の窓を開け放ち、ついでにドアも開けて廊下の窓も全開した。

部屋の窓から廊下の窓へ、空気はピューーーーと駆け抜ける。

実際に空気はド濁りしているから、さしもの喫煙者たちも最初は歓迎する。
「あー、新しい空気はうまいなぁ」である。
そして彼らは、空気を入れ換えたら当然すぐ閉めるだろうと期待している。
なにしろ真冬の午前4時。寒いのだ。


でも、閉めない。


ボクにとっては煙いより寒い方がまだ楽なのだ!
たまには非喫煙者がわがまましたっていいだろう!
なんでボクばかり我慢しなければならないのだ!
ボクだって同じように徹夜で作業しているのだ!


ボクは凶悪な目をして窓横で仁王立ちした。
絶対窓は閉めないぞ!


全然閉める気配がないボクを見て、喫煙者たちも「反乱」に気がついたようであった。


どうだ、謝れ!
少しは吸わない人の身にもなれ!


まぁ上司がこの場を取りなすだろう、みたいな甘えもあったんだけど、とにかくわりと強硬な態度を崩さなかったのだ。



そしたら・・・



彼らはコートやらダウンやらを着込み出し、
みな一斉に新しいタバコに火をつけたのである・・・



敵を見くびっていたようだ。
彼らは寒いことより吸うことを選んだのだ。



こうしてその夜、編集室は 極寒タバコ地獄 と化したのである。


ええ、ボクにだって意地はありますからね。
コートも着ずにずっと煙いのと寒いの、我慢してましたよ。

で、見事に風邪をひきました。







ああ、タバコについてはつらい思い出がいっぱいあるなぁ。

今日はもうひとつだけ。

もう5年くらい前、ファースト・クラスで世界一周した時のことだ。

あるメーカーの工場を、ドイツ、イギリス、アメリカ、カナダとビデオ撮りする仕事だったのだが、4カ国しか行かないとはいえ、一応西回りに世界一周なのだった。
で、ちょうどユナイテッド・グループが「世界一周キャンペーン」をやっていて、「いま世界一周をする人はエコノミー正規料金を払うよりファーストクラスに乗った方が安いんだよ」っつう素晴らしいサービスをしていたのだ。

それに便乗したボクはめちゃくちゃ快適に空の旅を楽しんでいた。

ロスから成田へ帰るユナイテッド航空のファースト・クラスでそれは起きた。

日本行きの太平洋便は喫煙者が多いせいもあって、まだそのころは全席禁煙ではなかった。
ファースト・クラスも例外ではない。
というかエコノミー・クラスより悲惨な状況だったのだ。

エコノミーはきちんと区画ごとに禁煙・喫煙が分けられている。
境にはカーテンもひかれている。

ところがファーストクラスは、もともと一区画しかないものだから、区画分けが出来ないのだ。 つまり1〜8列目までは禁煙で9〜12列目が喫煙、とかなってしまうのである。

まるで意味のない禁煙席・・・。


正規ではなくキャンペーンで乗っているせいなのだろう、ボクはその境目の8列目に座らさせられた。

境目の席である。
喫煙者が後頭部のあたりにいるのである。

い、息が苦しい・・・。


最悪だったのが食事のあと。
喫煙者が全員連鎖的にタバコを吸い出したのである!


我慢はした。状況的に仕方がない。でもボクは息がまるで出来なくなった。機内は密室なのだ。逃げ場がないのだ。だんだん腹が立ってくる。なんで禁煙席なのにこんな目に遭わないといけないのだ!

ボクはスチュワーデスを呼んだ。

「私は息が出来ない。
 こんな拷問のような目に遭うために
 ファースト・クラスのお金を払っているわけではない。
 なんとかならないのか」

安い料金で乗っていることを棚に上げて、英語で必死に訴えた。

白人の大きなスチュワーデスは最大限遺憾の意を表してくれたが、満席だから席の移動は出来ないし喫煙席にいる客にタバコを吸うなとも言えないと言う。まぁそうだろうなぁ。それはわかる。でも本当に息が出来ないのよ!


「わかった。ちょっと待ってろ」

ボクの子犬がすがるような目に心動かされたのか、スチュワーデスは後方に消えた。

なんだろう。なにすんだろう・・・

ちょっとワクワク待っていたら、彼女、おしぼりを持ってきたのである。

「これで鼻をふさげ。
 機内は乾燥しているから、おしぼりはすぐ乾いちゃうけど、
 10分おきに新しいおしぼりを持ってきてあげる」

と言って「いいサービスでしょ?」とばかりにウィンクするではないか!






こうしてボクはそのあと8時間にもわたり、おしぼりを鼻にあてていなくてはならなくなってしまった。

ちょっと油断しておしぼりをはずしていると、換えに来た彼女が「Oh〜!」と言って悲しそうな顔をする。
ちゃんと鼻に当てていると「あら、ちゃんと鼻をふさいでいるわね、ボク」とばかりにウィンクして通り過ぎていく。

常に左手でおしぼりを押さえてないといけないから本を読むのも面倒になってくる。
個人用ビデオを見ようにも、おしぼりを鼻にあてるために首を傾けるか左肘をあげるかしなければならず、長時間見ているのはきつい。
じゃぁ眠ろうかと思うと、10分おきに彼女がやってくるのである。


「Are you OK?」



OKじゃないわい!!!



こうして楽しいはずのファースト・クラスは 苦行おしぼり地獄 と化してしまったわけである。





・・・まぁ、こんな風に裏目ばかりいろいろあってさ。

喫煙に文句をつけるのにかなり慎重になっているボクなのであったった。




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