今年の3月に作家の須賀敦子さんが亡くなってしまったショックが、いまだに尾をひいている。 彼女の本ほどボクを静かな気持ちにしてくれたものは他にはないし、彼女の本ほどうわっついた毎日を省みらせ地に足を着けさせてくれたものは他にはなかった。 あーあ、死んじゃったよー・・・ なんで死んじゃったんだよー・・・ そんな風に悲しみにくれていたものだから、遺作が出版されたのには全く気がつかずにいたのである。 おととい書店に行ったら「ミラノ 霧の中の風景」などと共に遺作が並んでいた。 「遠い朝の本たち」筑摩書房 さっそく買ってページをめくってみる。 うひー、懐かしいあの文体、あの表現! 須賀敦子がここにいる! もう一文字一文字目に吸い付いて離れない。 決して筆圧は強くないのだけど、というか弱いくらいなのだけど、心には強く直に文字が届く。 もう読み終わるのがイヤでイヤで、何度同じところを読み直し、ページが終わるのを意図的に避けたことだろう。 たった215ページの薄い本なのに、3日もかけてしまった。 それにしても、なんて須賀敦子っていいのだろう・・・ とまぁ須賀敦子を偲んで長々と書いても知らない人には「なんのことやら」だろうから、ここらでやめておこ。まぁ読んでみてください。 合わない人もいるみたいだけど、こういうのが好きな人は必ずはまります。 ところで。 「遠い朝の本たち」の中にアン・リンドバーグのある言葉が紹介されていた。 アン・リンドバーグは大西洋横断単独無着陸飛行をした飛行家チャールズ・リンドバーグの妻。 夫婦でアジアへの飛行ルートを探っているうちに千島列島に不時着。船でたどり着いた東京で熱烈な歓迎を受け、いざ横浜から出発するというときに、日本人が口々に叫ぶ「さようなら」という言葉の意味を知って以下のように書いているのだそうだ。 さようなら、とこの国の人々が別れにさいして口にのぼせる言葉は、もともと「そうならねばならぬのなら」という意味だとそのとき私は教えられた。「そうならねばならぬのなら」。なんという美しいあきらめの表現だろう。西洋の伝統の中では、多かれ少なかれ、神が別れの周辺にいて人々をまもっている。英語のグッドバイは、神がなんじとともにあれ、だろうし、フランス語のアディユも、神のみもとでの再会を期している。それなのに、この口に人々は、別れにのぞんで、そうならねばならぬのなら、とあきらめの言葉を口にするのだ そうならねばならぬのなら・・・ なるほど。何げなく使ってはいたけど、もともとはそういう意味かもしれないな。 普通に考えたら「さようなら」は「左様なら」だろう。 (・・・ちゃんとした漢字を使うなら「然様なら」) 「左様」というのはよく時代劇で武士が使う。 「左様か・・・それは困ったことでござるのぅ」 現代語でも山の手の奥様言葉で生きているよね。 「左様でございますか。それはもう大変でございましたわね、ほほほほほ」 あ、関西弁でも生き残っているな。 「さよかー。そりゃしんどいわなぁ」 そう、関西弁だと短くなる。 「さよう」が「さよ」に略されるのだ。 ん? ちょっと待てよ。 そうすると、「さようなら」を関西弁で言うと「さよなら」か? そうか、「さよなら」というのは関西弁だったのか!!! ♪ さよなら〜 さよなら〜 さよなら〜 もうすぐ外は白い冬〜 オフコースは関西弁で歌っていたのか!!! 閑話休題。 我々日本人は数多くの別れの言葉を持っている。 そういうことで。お疲れー。失礼します。バイバイ。じゃあね。それじゃ。まったねー。じゃ、こんど。ではでは・・・ でも、そういえば「さようなら」は、日常ではめったに使わない。 なんか大仰な感じがするもんね。 「それじゃ、さようなら」 「そーんな、一生の別れでもあるまいしぃ! やめてよー」 って感じだ。 なるほどな、「そうならねばならぬのなら」か・・・ 確かに日本人は「さようなら」と口に出して言うとき、そういう諦観を入れているような気がする。 やっぱり日本語というのは、ニュアンスに富んだ実に美しい言語なのである。 でもね、大仰な感じや諦観も入れずに、「さようなら」を言う方法もある。 また次に楽しく会えることを予感させる言い方・・・ ほな、さいなら。 ええかっこしいを嫌い、何事にもテレが少し入るシャイな言葉(ここらへん逆の認識を受けているよね)、関西弁のイイトコロである。 「あなたね、イントネーションが違うのよ、イントネーションが。 ほな、さいなら、って平坦に言うんじゃなくて ほな、さいなら、よ! いったい何年関西に住んでいるのよ。 はい、一緒に!」 ほな、さいなら。 「もう一度、はい!」 ほな、さいなら。 「うーん・・・なんか違うのよねぇ。 これからもワタシと暮らしていくのなら、 ちゃんと真剣に練習してほしいものだわね」 ・・・そうならねばならぬのなら。 しくしく。 |
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