トフギ  --98.04.30




沖縄出張から無事帰ってきた。

「出張」と言っても、全日程8日間のうち後半の4日間は有休をとって沖縄を回ったから、文字どおり「遊び半分」だな。なんだか人聞き悪いけど。

でもおかげで沖縄のことが少し理解できたような気がする。

今回はかなり予習をしてから行ったので、沖縄戦のこと、沖縄の食文化のこと、島唄のこと、そしてその独特の沖縄語のことなど、それなりに効率的に理解できた。


そして、かなり沖縄にかぶれてしまった。

なんとも不思議な土地なのである。現代の日本なのに琉球王国が色濃く残っていて、住んでいる人がそれをまた大事にしている。そこにまたアメリカ領土であったという歴史が加わって非常に複雑な様相を呈している。
そういう環境もあろう。沖縄人の精神は揺らがない。日常も揺らがない。

ボクみたいに日々ゆらゆらしている人間からみたら、その根っこの深さがうらやましく、憧れに似た想いすらもってしまうほどだ。



なによりも琉球言葉が生きていることに驚く。

根っこが深く張っていることの証拠だ。
これは「方言」ではない。まったくの異言語なのだ。異言語が日常、普通にまかり通っているのである。

圧巻なのは食べ物用語で、食堂に入ったらメニューがまず全然理解できないのである。
チャンプルーくらいは理解できる。炒めものだ。が、そのあとはほとんどわからない。


 ゴーヤチャンプルー
 ソーミンチャンプルー
 クーブイリチー
 ナーベランブシー
 フーチバジューシー
 テビチ
 ラフテー
 ソーキ
 ミミガー
 スクガラス
 イラブー汁
 アバサー汁
 ヒージャー汁
 イナムドゥチ
 ジーマミ豆腐
 スバ
 スヌイ

などなどなど。
上に書いたものなど代表的なものばかり。
とにかくわからん言葉がいっぱい書いてあるのだ。


でも滞在が長いといろいろわかってもくる。

イリチーは炒めた後出し汁で煮たもの。クーブは昆布。
ンブシーは味噌味の炒め煮。ナーベラはヘチマ。
ジューシーは雑炊だが、かやくご飯状のものもある。フーチバはよもぎ。
テビチやラフテーやソーキやミミガーはそれぞれ豚料理で、順に豚足、角煮、スペアリブ、耳。
スクガラスは小魚の一種で、イラブーは海ヘビ、アバサーは針千本、ヒージャーは山羊・・・・


どんどん知っている単語が増えていって、滞在の最後の方になるともう店の人に聞かなくても注文できるようになった。


「ナーベラとクーブとジーマミとグルクンの唐揚げと、最後にフーチバジューシーね!」


うんうん。やっぱり食べ物のことについてはどんどこ頭にはいるなぁ。好きこそ物の上手なれ、とはこのことなのであるな。うん。



地元の店に入ってパッと注文できるようになったボクはすっかり自信を持って街を歩けるようになった。異邦人からの脱出である。
こうなると街のいろんな言葉が親しみを持って見えてくる。

 マチグヮー    (市場のことだな)
 ミーバイ     (赤いハタの一種だな)
 イラブチャー   (青い魚だ)
 クースー     (これは泡盛古酒のこと)
 ちんすこう    (変な名前だけど有名なお菓子らしい)
 サーターアンダギー(うんうん、これは知っているぞ、おいしいお菓子だ)


どんどんいろいろわかってくる。
なんだかずいぶん自信を持った頃、あるコンビニにさしかかった。

道に面したガラスに不思議な言葉が書いてある。



 トフギ



知らない言葉だ。

知らないけど、さすが沖縄!!!
全国一律っぽいコンビニまで沖縄特有のものを置き、沖縄特有の言葉で書かれているのだ!
しかも赤い字で表のガラスに堂々と大きく貼ってあるのだ。

沖縄は全国一律なんかしないのである!
琉球言葉を大切にするこの感覚、さすがである。




それにしてもなんなんだ? トフギって。




コンビニに入ってみる。
予想に反して、本当に普通のコンビニだ。
全国どこにあっても不思議ではない。品揃えもほぼかわらない。
強いて言えば「黒糖ハイチュー」とか「ゴーヤジュース」とか、沖縄限定発売の商品が目に付くくらいである。


トフギ、トフギ・・・豆腐の一種だろうな、きっと。トーフギを縮めたに違いない。


食品コーナーを探すが、それらしきものは、ない。

おかしいな。なんだろう?

ちょうどいい機会だから会社へのお土産用に黒糖ハイチューを買って、レジでついでのような振りをして聞いてみることにした。


「あのぉ」
「はい」
「あそこに書いてあるトフギ・・・・・・って・・・・・・あ!


!!!!!!!!!!!!!!!


その時、電流がカラダを駆け抜けた!




トフギ、トフギ、トフギ、トフギって、

もしかして!!!!



「・・・・はい?」
「あ、いや、なんでもないです。はい」


急いで言ってコンビニを出る。
店員の目線を背中で受けながら、空を仰ぎ、おもむろに右に歩いていったのだった。



そりゃね、沖縄でなかったらさ、素直に読むのよ。
でも沖縄にいるとさぁ、深読みしてしまうのよ。
だって異質な言葉ばっかりなんだもの。
うん、仕方がないよ。恥は最小限に抑えたし・・・



「お客さま〜!!」



な、なんと店員が追ってきた!!

に、逃げるか?! いや、逃げるのもおかしいか?!



「商品をお忘れですぅ!!」





店員の手には黒糖ハイチューが握られていた。


会社へのあまいあまいギフトである。



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