「やっぱり、アナタの遺伝じゃないか、と、思うのよ」 ドライクリーク・ジンファンデルを飲んでほんのり赤くなった優子が 思い詰めた口調で言いにくげに話しだす。 まるで重大なヒミツを打ち明けるような口調だ。 「な、なにが?」 「あのね、異様に食べるのよ、この子。フツウじゃないらしいの」 娘の響子(きょうこ)のことだ。いま2歳と9ヶ月。 「は?」 「食い意地がはりすぎているのよ」 ぼくとしては「よく食べる子=健康で丈夫な子」という考えでいるから よく食べる我が子が誇らしく思いこそすれ、なのだが。 「食べない子供よりいいだろう? みんな、うちの子食べなくて、とか言ってぼやいているじゃん」 「でも食べ過ぎなのよ」 「そうかなぁ……」 「そうよ、お医者さんにも言われたし」 「医者に?」 イヤな咳をするので医者につれていったら、カゼはたいしたことないがちょっと太り気味ですネ、と言われたらしい。で、1日に食べる量を話したらおどろかれたとか。食事量を減らさないと成人病予備軍になります、と脅かされたらしいのだ。 「食べ過ぎかなぁ?」 「脂肪細胞の数はこのくらいの年齢で決まるんですって。 だからここらへんでダイエットさせないと、この子が一生デブで苦しむことになるわ」 そ、そんなたいそうな問題なのか! でもさ、よく食べるってことは生のエネルギーが豊富だってことで、好奇心も旺盛だってことで、だいたいよく食べる奴に悪い奴はいないし、もともと僕はやせている奴よりちょっとぽっちゃりめが好きで、えーと、えーと、 「この子が太っていることを気にしなければ別にいいけど、 もし将来、気にしたらかわいそうじゃない?」 「うーん、それもそうだなぁ ……あれ?でもぼくは別にデブではないぞ。遺伝とはなんだ?遺伝とは!」 「だ・か・らぁ! 食べるということに対するイヨーな情熱がイデンではないか、って言っているの!」 ・・・そうか。 たしかに娘の響子はよく食べる。 生まれ落ちたときから食欲のオニであった。 1歳半くらいの頃も、小食な大人の人以上の量をぺろっと食べていた。 2歳になってから逆にスキキライができて食べなくなるだろう、と思っていたのだが、一向に衰えを見せない。いや、加速した感すらあるのである。 スキキライなく野菜とかも食べるから安心していたのだが、とにかくドンヨクに食べ物に向かっていく様子はぼくでもたじろぐ迫力があるのだ。 「でしょ?このごろ朝から食欲のオニじゃない」 「そ、そうだな」 そう、まず朝からすごい。 目が覚めて一言めが 「おかぁさん、おなかすいてぃあぁ」だったりするのだ。 (おなかすいた、の「た」を「てぃあぁ」とするのが響子の中でのこの頃のブームである) 「きょうチャン!まず、おはよう、でしょ!」 「おなかすいてぃあぁ」 で、朝ゴハンを食べ終わったら終わったですぐ 「なんか食べゆ」 とのたまうのだ。(食べる、の「る」を「ゆ」と発音するのも彼女ブームである) 「いま食べたばっかりでしょう」 「なんか食べゆ!」 「ダメ!食べないの!」 「なんか食べゆ !!」 「ダァ〜メ!」 「なんか食べゆ!!! なんか、なんか食べゆ!!!! ぎゃ〜ぎょ〜 !!!!!」 大泣き。 そんなに泣くほどのことか? だってたったいま野菜スープとパンとほうれんそうオムレツとトマトとひじきと納豆とハムとプルーンとリンゴ、、、それにミルクを2杯飲んだばっかりじゃないか! 「なんか食べゆぅ〜うぅ〜うぅ〜!」 我が子ながらこわい。 お気に入りの食べ物をあげたりすると、 トコトコと部屋のスミに持っていって一人で味わうのを無上の喜びとしている。 ぼくなんかが覗きにいくとすごくイヤがる。ひとりでゆっくり幸せを噛みしめたいらしいのだ。 そのうち穴掘って埋めるのではないか、と心配になるよ、ぼくは。
たまにレストランに連れていったりすると、とても恥ずかしい思いをする。いや、静かにはしているのである。 でも、でもでも、写真を見てもわかるように、とにかく欠食児童のような食べ方をしやがるのだ。 文字どおり皿をなめるように食べるのである。 いつまでもお皿を離さない。お皿を取り上げると大泣きするからなすすべがない。 しかも食べ終わっての第一声が、 「おなかすいてぃあぁ!なんか食べゆ〜!」 うーん、恥ずかしい。 どうやら生まれながらに満腹中枢が欠損しているようだ。 「やっぱりアナタの遺伝でしょ?」 「いや、あの、つまり、……………………………ごめんなさい」 あやまってしまう自分が哀しい。 |
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