マンハッタンの44丁目の「Birdland」で素晴らしいおばぁちゃんを見た。 「Birdland」は言わずと知れたチャーリー・パーカーの伝説的なライブハウスである。 リニューアルして、また、この頃人気が出ている店だ。 店内はきれいで、何よりも特筆すべきはテーブルの配置がゆったりしていること。 スイート・ベイジルにしてもブルーノートにしてもウエイターが通れないほど椅子を詰め込んでいるが、ここはすごくゆったりしている。身体が楽だ。 今日は月曜日の夜。 「Birdland」のスケジュール表にはこう書いてある。 「The Legendary Toshiko Akiyoshi Jazz Orchestra Featuring Lew Tabackin」 毎週月曜日にここで「Toshiko Akiyoshi Jazz Orchestra」がライブをするのだ。 Toshiko Akiyoshi、つまり穐吉敏子。 そう、世界のアキヨシが久しぶりに定期ライブを始めたのだ。 1929年生まれの彼女は今年68歳。 もう41年、アメリカのジャズ界の第一線で演奏し続けている。 何回となくグラミー賞候補になりながら選ばれず(人種差別も確かにあったと思う)、「ダウンビート」の読者人気投票、批評家投票でも1位を数多くとって知名度はバツグンなのにレコードは売りに繋がらない。 食えない生活。 なんと一時はコンピュータープログラマーへの転職まで考えて学校に通ったりもしたとか… 出産、離婚、カクテルラウンジでBGMを弾くようなことまでして生きてきた。 運が向いてきたのは今の旦那ルー・タバキンと出会ってから。 オーケストラを組んでアレンジを数多く手がけ、「ミナマタ」などのメッセージ性の強い音楽を経て、そして辿り着いたオーケストラ…… アメリカ唯一の文化(と言ってもいいと思う)「JAZZ」にこうして半生をかけてかかわり続けてきた穐吉敏子。 若くして日本を飛び出して以来、東洋人に対する根強い偏見、蔑視、女性差別と闘いながらジャズ界の一線で活動してきたのである。 この前彼女の半生記「ジャズと生きる」(岩波新書)を読了したばかりの僕は、その半生の重みを背負った彼女のライブを聴けると思うだけで、しかもこのマンハッタンの「Birdland」で聴けると思うだけで、なんとなく涙ぐんでしまいそうになるのである。 がんばれ!アキヨシ! 時間になった。 彼女の旦那ルー・タバキンをはじめ15人ほどの白人を従えて彼女が登場する。 背中がちょっと曲がってきている。 68歳なのだ。 曲がってきてはいるが、背筋はピシっと伸びている。 まだ闘っているのがよくわかる。 その小さい小さい日本のおばぁちゃんは、 指一本で彼らを指揮し、勇壮にピアノを弾きはじめた。 あきれるほどに堂々としている。 なんだか誇らしい気持ちになる。 僕は彼女のレコードはあまり聴いていない。 彼女のアレンジは難解なものも多いから、わりと距離を置いてきたのだ。 「ミナマタ」みたいなメッセージ性の強いものも嫌いだった。 だけどいま目指しているものは、わりとわかりやすいジャズだと思う。 なんというかツボをはずさないように考えられたアレンジ。 とてもファニーでスタイリッシュでメリハリのきいたジャズだった。 テナーのルー・タバキンは最後の方に本領発揮。圧倒的な演奏だった。 穐吉敏子はオリジナルだった。 背筋の伸ばしてしっかりオリジナリティを主張していた。 オリジナリティは国境をこえる。 英語が少々しゃべれても国際人とは言えない。 本当の国際人とは「オリジナリティ」を持っている人のことだ。 もっと平たく言うと「自分を持っている人こそ、国際人」なのだ。 そういう意味で、穐吉敏子は真の国際人だ。 今宵、かのチャーリー・パーカーの「Birdland」に 東洋人がアレンジし演奏し指揮するオリジナルなジャズが流れた。 そして僕は感動冷めやらずホテルでこれを書いている。 僕はこのおばぁちゃんをとても誇りに思うのである。 酒でも飲まなけりゃ、ちょっと眠れそうにない。
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