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9月30日〜10月9日まで、ロシアを旅してきた。
それもひとり旅。8泊9日。うははである。
男42歳ともなると「なに〜! ひとり旅〜! 許せん!」と、まわりの同年代の嫉妬羨望のまなざしが厳しい。
みんな「旅行は家族と行くもの」という諦観&常識とともに生きている。子供もあり、仕事も忙しく、なにより学資やらローンやらに取られて金のないこの年代で、ひとりで休暇をとって海外旅行に行くなど(つうか、家族を差し置いてひとりでそんなにお金と休暇を使うなど)夢のまた夢なのだ。
それはボクにとっても同じであった。
ただ、ボクの場合は画期的なタイミングが訪れたのである。
この秋、正確にいえば9月3日に、「会社で倒れた」のがある種キッカケなのだ。
ここでそのことをくわしく書くのは目的に反するので簡単に書くが、夜7時頃、会社で急に激頭痛に襲われ、デスクに突っ伏したまま動けなくなったのである。痛みにはかなり強いボクであるが、1mmたりとも動けないほど痛かった。
後輩と仕事の話をしている最中に突然だったので、周りも焦り、気がつくと医務室の医者がデスク横にデリバリーされていた。血圧など測ったあと「すぐに!」と救急病院に運ばれた。車椅子に乗せられ、自動ドアがヌパーーッと開き、看護婦たちがのぞき込み、と、まさにERの世界。
まずは救急室で寝て問診を受けたあと、車椅子で各部屋回ってCTスキャンを撮ったりレントゲンと撮ったりしたんだけど、もちろん時間外なので診査室は貸し切り。看護婦も担当医も早足で車椅子もぐいんぐいん走る。うわードラマみたいー、と思いながら頭痛に耐えていたが、薬が効いてきたらあっけなく治ってしまった。うくくく。
検査も終了し、結果はすぐ出た。
話を聞きクスリもいっぱいもらい、とりあえず打合せのために会社に帰った。
どうしてもその日中にやらないとやばい仕事があったのだ。
ボクが運ばれた当時は騒然としたオフィス内(100人ほどいるフロア)であったが、ボクが救急病院から帰ってきても少ししか反応がなく、「あー大丈夫ですかー?」と数人聞いてきただけ。んでもって会議室に顔を出しても誰も「早く帰った方がいいんじゃないですか?」と言ってくれない(泣)。それどころか「やー来た来た! いまここんとこやってます。どう思います?」とすぐに実務へ。
いやーなんつうか、すげー社風と思いつつ、家路についたのでありました。
で、さすがに深夜に家に帰って妻にこのことを報告したら、会社とは違って大騒ぎしてくれた。
散々大げさに心配してくれたあと、こんな会話になったのである。
「どうもストレスもあるようなんだよね」
「それはあるわよねぇ。仕事、忙しすぎるもん。
そのうえプライベートで本とか書いてて土日もあまり休みになってないじゃない」
「うん……そうだよな……少し休んで旅とかしようかな」
「そうよ! それがいいわ! 行ってらっしゃいよ!」
「そうだなぁ……(お、いい流れだ)……ひとり旅でもしようかなぁ」
「そうよ! ひとりでゆっくりどこかに行ってきたら?」
「ひとり旅かぁ(うわ、本当にいいのかよ、マジで行っちゃうよ?)……それもいいかもなぁ」
「行っておいで行っておいで!」
うはははは。
転んでもタダでは起きないこの貧乏性!
というわけで、妻の気が変わらないうちに畳みかけるボク。
「ちょうど吉田さんにロシア誘われているんだよなぁ(海外旅行はさすがに無理か?)」
「ロシア!? あら、すごくイイじゃない! 行ってらっしゃいよ!
ボリショイでバレエ見て、エルミタージュ美術館! いいじゃない! 」
「(うわ、すげー流れ。いいのか?)でも、海外にひとりなんて悪いなぁ(一応下手に…)」
「いいに決まってるじゃない!」
「そう?」
ロシアという、妻が現時点であまり関心を寄せていない場所をとっさに選んだのも良かったみたいである。これがフランスとかイタリアなら、ぜ〜〜〜ってい無理であったろう。
ううむ。
結果的に妻の心配を利用したことになったが、とにかく! こんな機会でもないと働き盛り&家庭が大変な盛りの男がひとり旅など行けないのである。
会社の上司も、倒れたボクにびびっていて(部下が倒れるというのはある種上司の責任になるし)、いまなら1週間くらい楽に休みを取れそうであった。それにちょうどそのころ、「モスクワにボク行っているのだけど、向こうで合流しませんか? バレエとか見ませんか? ちょうどシーズンだからすごい演目やってますよ」と、友達の吉田さんが誘ってくれていた。なんというタイミング。これを逃す手はないのである。
それにしてもロシアに行くとは思わなかったなぁ。
でもこのタイミングって、ほとんど「出会い」なので、それを大事に行ってきたのである。
以下は簡単なロシアの印象である。
ロシアでは意外なこと・楽しいことばかりで、なるべく早くロシア日記を書いてみなさんとそれを共有したいと思うのだが、とりあえず簡単に印象をここで記しておこう。
旅行前は「ロシア=物がない=分厚いコート着て行列」なイメージで、治安も悪そうだし、寒そうだし、暗そうだし、、、あげくの果て「ホテルのトイレにトイレットペーパーなどない」「ホテルの部屋にタオルもない」という噂が入ってきて、準備の荷物はふくらみにふくらんだ。
が、行ってみたら、すべてウソ!
ロシアはとても豊かでいい国だったのだったった。
まぁちょっと前までの世界二大強国のひとつ。底力が違う。
ドストエフスキーとかトルストイとかチェーホフとかプーシキンとかツルゲーネフとか、チャイコフスキーとかムソルングスキーとかショスタコービッチとかラフマニノフとか、ま、なんつうか、文学でも音楽でも中高生次代になじみのある人たちばかり。文化だって世界最高峰。面白くないわけがない。
というか、「ユートピアの夢を描いた頭でっかちの理想主義者が、夢破れ、現実を知り、ちょっと大人になった」感じ。なんか現役生より浪人生の方が苦労した分、味があったりするじゃない? そんな感じで味がある。いい味だしてるじゃん!な国なのであった。
以下、ざっと表層的印象を。
くわしい印象はロシア日記をなるべく早く書くから、そちらで。
ただし、行ったのがモスクワとサンクトペテルブルグ(昔のレニングラード)なので、大都市だけの印象だ。
ロシア中央部やシベリアとかに行ったらまた違う印象かもしれないのはあしからず。
■「ロシアは暗い」のウソ
一般的にロシアって暗いというイメージがあるよね。
弾圧とか気候とか国民の表情とか。
でも、1991年のソ連崩壊前後ならいざ知らず、いまは全くそういうことはない。街にもヒトは溢れているし、みんなオシャレしているし、店はいっぱいあるし、とにかく明るい。
少し前は「ロシアマフィア」が跋扈していて、何事もマフィアが牛耳っているっていうイメージもあったが、モスクワの住民曰く「プーチン大統領になってからマフィアも一掃されて、とっても暮らしやすくなった」とのこと。あちらではプーチン人気はたいしたもの。特にマフィア一掃は評価されているようだ。
「街を歩くと警官が寄ってきてすぐパスポートチェックする」とガイドブックに書いてあったが、そんな風景もまっっっったく見なかった。ここ2〜3年で特に開かれた国に変わっていっている感じ。
ということで、表面的かもしれないけど、ロシアは明るい。とてもリベラルでオープンなのだ。
※写真はクリックすると大きくなります。 全部で680枚撮ったので(笑)、ロシア日記を書いたらもっといっぱい発表しますね。
■「ロシアは物がない」のウソ
ロシアは物がある。溢れていると言ってもいい。
なんでも行列行列、という印象は10年以上前のもののようである。まったくそんなことはなかった。ほとんど日本と同じような感じで物が手に入る。店にもたくさん物が並んでいる。市場にも写真のように実に豊かに物が並んでいる。デパートも西欧と見劣りしない。ブランド店も日本と変わらないくらい出店している。
車はほとんど外車で、ケータイも普及しており、最新のオシャレをしているヒトも多い。屋台的売店もそこらじゅうにある。
■「ロシアは不便」のウソ
まず驚いたのが、ケータイの普及率。
日本並みとは言わないが、去年訪れたフランスより普及している印象だ。
24時間営業の店も多い。というか、コンビニを別にすれば日本より多いかも。だってレストランとか両替所とかが普通に24時間営業だったりするのだ。びっくり。窓口のヒトも微笑してくれたりする。ロシア人はサービス時に絶対笑わない、とガイドに書いてあったりするが、それもすでに是正されつつある。
移動は地下鉄がとても便利。この便利さも日本並み。しかも治安はよく、キレイだ。つか、地下鉄の駅はそれ自体が美術館のようで美しいこと感動的だ。改札は自動改札。そしてとっても時間が正確。地下鉄も長距離列車も飛行機も、時刻表通りに運行していた。
テレビのチャンネル数は日本の倍以上。アメリカの映画から海外のドラマまで、ありとあらゆる番組が流れている。サンクトペテルブルグではNHKも流れていた。
■「ロシアは寒い」のウソ
社会主義の名残なのか、極寒の地の知恵なのか…。
驚くことに、ロシアでは都市ごとセントラルヒーティングしているのである。
つまり、都市ごとに火力発電所があって、そこが街中にお湯を配給しているのである。だから安く暖房が得られる上に、建物の中はどこも例外なく暖かいそうである。
つまり北海道的なんですね。
よく「北海道のヒトが東京に来ると寒くて風邪をひく」というじゃん? 北海道は家の中が暖かいけど、東京は家の中の暖房が十分でなく寒い、と。それに似てるかも。
真冬に外に長時間いることなど普通はない。だから寒くて不便することなどほとんどない、というのである。
行ったのは「黄金の秋」と言われる10月初旬。だからシャツ一枚で歩けるくらい暖かかったのだけど、今度は冬に来てみたいなぁと思うくらい、みんなモスクワの冬を絶賛していた。冬が辛く長い、というイメージは軽く覆されてしまった。
※ただし、たまに火力発電所が故障とかで止まると、寒くて死ぬ思いをするらしいのだが…。
■「ロシアは治安が悪い」のウソ
滞在中、一度も怖い思いをしなかった。
というか、あるお宅にお呼ばれした帰りの深夜1時近く、薄着の女性がひとりで暗い道をジョギングしていた。要は、それでOKなくらいは治安がいいということである。
ヨーロッパ(特にイタリア、スペイン)やアメリカの方がずっと怖い。それは間違いがない。
地下鉄(メトロ)なんかも、日本と同じレベルで治安がいい。アメリカとは比較にならないレベルだ。
余談だが、ロシアにはとても面白いシステムがある。
「走っている車はみんなタクシーになる」システムなのだ。
いわゆる白タク。無許可営業車になるのだが、道の脇で手を挙げると、個人の民間車が止まってくれるのだ。例外なく。買い物帰りの主婦なんかも止まってくれたりする。たぶん極寒の地での助け合い精神の延長だと思うのだが(乗せないと凍死するかもしれないし)、これはとっても便利なシステムだ。
手を挙げて止まったら、助手席のドアを開けて「○○までいくらで行ってくれないか」と交渉する。折り合えば、どこへでも行ってくれる。タクシーを探さなくてもいいのである。あー便利。
いや、どうして突然こんなことを書いたかというと、「そんなのって普通、めちゃ危ないじゃん?」なのである。知らないヒトを乗せるんだもん、乗る方も乗せる方も犯罪に巻き込まれる危険があるでしょ? でもそういう危険がほとんどないから、こんなシステムが普及しているのである。
つまり、それだけ治安がいい、ということなのだ。
■「ロシアは貧しい」のウソ
そりゃソ連最盛期よりは貧しいだろう。
でも、上に書いたように、物はなんでも手に入るし、とっても便利に暮らしている。
そのうえ、精神的に豊かな暮らしができるのは、日本以上。比べ物にならない。
たとえば「ダーチャ」という別荘。
驚くことに、モスクワっ子のほとんどがこの別荘を持っている。
彼らは モスクワでは狭いアパートに住んでいたりするのだが、週末は郊外の別荘(ダーチャ)で暮らすのだ。自家菜園を持ち、静かで自然に満ちた生活を週末毎に送れるのである。
向こうでお世話になった岩田守弘さん(ボリショイバレエの第一ソリスト)は車で40分くらいのところにダーチャを持っていた。下の写真のような豪邸。決して彼はロシアではお金持ちの方ではないのにこの豪勢さ。うーん、豊か…。
また、岩田さんのモスクワのアパートから徒歩3分で深い森があったりする。市内中心部は別にして、ほとんど森や林に囲まれているのだ。素晴らしい自然が徒歩数分である贅沢。これは日本ではあり得ないなぁ。
岩田さんのダーチャの近くにももちろん深い森があって、そこでキノコ狩りもした。この時季、キノコやベリー類は森から採ってくるのが常識。いっぱい採って蓄えて冬に備えるのである。大都市にいながら自然と接する毎日の生活。これを豊かと言わずして何というのだろう。
文化の豊かさは書くまでもないよね。
たとえばバレエにしても、大都市なら3〜5つくらいは劇場を持っていて、同じ日に同じ演目を3つくらいの劇場が公演していたりする。こういうのを層が厚いというのだと思う。文学・音楽・美術、それぞれロシアは世界有数のものを持っているのは例を出すまでもない。
数年前に貧乏だったからって、ロシアを下に見る日本人が多いけど、日本の方がよっぽど貧乏だなと思う瞬間がいくつもあった。
■「ロシアは太ってる」のウソ
「若いうちは絶世の美女が多いが、中年になるとみーんな太っちゃって昔の面影がなくなる」と一般的にロシア人(特に女性)については言われている。
が、これも、ボクが見た限りではほとんどウソ。
田舎はしらないが、大都市では、中年以降もみんな普通の体型だった。そんなに太っているヒトはいない。
というか、アメリカやドイツのヒトの方が数倍太っている。
しかもこのごろロシアは健康ブームのようで、肥満は敵視されているようだ。
■「ロシア人はウォトカばかり飲んでいる」のウソ
いやー。旅行最後の日に「ロシアまではるばる来たんだから本場でウォトカを飲もう」とわざわざ思わなかったらウォトカなんて飲む機会すらなかったですわ。
つまり、それくらい、ウォトカも廃れている(というか以前が異常だったのだろうが)。
いま、ロシアではウォトカは流行っていない。どうやらウォトカを飲むのはあまり格好いいことではないらしく、いまはワインがブームのようである。
余談になるが、ロシアでは「酒を混ぜて飲むのはオコチャマ」だそうだ。つまり、ビールから飲み始めたら最後までビール(ロシア・ビールって数が多くておいしい)。ワインから飲み始めたら最後までワイン。ウォトカから飲み始めたら最後までウォトカ。なのだそうですよ。
ちなみに、サンクトペテルブルグのバーで「日本ではウォッカと呼ぶ。こっちでの正式の呼び名はどうなのか?」と聞いたら「ウォッカ? いや違う。ウォトカ(発音的にヴォトカに近い)だ」と。
みなさん。現地ではウォッカとは呼びません。ウォトカです。これを読んだヒトは今日から通っぽく「ウォトカ」と発音しましょうね。
ということで、ざっとの印象は終わるが、なるべく早くロシア日記は書く。
他にも面白いことだらけだったのだ。
8泊で8舞台バレエを観たり、ボリショイ劇場の楽屋をすべて回ったり、ボリショイバレエ第一ソリストの郊外の別荘に遊びに行ったり、夜行列車で移動したり、エルミタージュ美術館やエカテリーナ宮殿で魂抜かれたり……。
あぁ印象が薄れないうちに早く書かなければ!
とはいえ、今日からロサンジェルス出張である。あと1時間で家を出ないといけない(どうしてもアメリカに行く前に書いておきたかったの)。
あぁ、ロスなんて行かずにもっと書いていたい!
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