1997年2月。
アンディ・ウォーホールのミック・ジャガー・シリーズの1枚を買いました。

写真ではわかりにくいのですが、左下のミックのサイン(赤)、右下にウォーホールのサインが入っています。大きさは畳一畳分くらいでしょうか。画廊のマージンも入れて約100万円でした。

こんなに高い美術品を買うのはもちろん初めてです。
勇気がいりましたねぇ、100万となるとさすがに。でもバブル期なら300万〜500万は軽くしたシルクスクリーンの逸品です。人気が高いシリーズなんです。それ考えたらまぁ安いかな、って。車なら10年乗れば終わっちゃいますが、これなら一生もんですから。100万円は決して高くない!って自分に言い聞かしています。

さて同じ買うにしても、なんでウォーホールなのか。なんでミック・ジャガーなのか。
それには理由があります。あやうくこれと同じもの(もちろん番号は違うんだけど)をニューヨークで150万円くらいで売りつけられそうになったことが動機の大部分を占めているのです。

ニューヨークへは出張で行きました。96年10月のことです。
ちょこっと自由時間が出来たのでソーホーをうろついていたんですが、そこで「マーチン・ローレンス」という有名な画廊に入りまして、数多いウォーホールのシルクスクリーンを眺めていました。そしたらきれいで感じのいい女性(レスリー、良い名だ)が寄ってきてなんだか英語でウォーホールがいかに素晴らしいかを力説しだしたのです。
「OK,I know, I know」ボクは少ないボキャブラリーを駆使して(どこが駆使じゃ)逃げようとしたんですが、画廊の外までひっついてきます。まぁかなりきれいで好みのタイプだったので悪い気もせず「そうね、ウォーホールならミック・ジャガーとか好きだな」みたいなことを言ってしまったのが運の尽き。
「OH!! GREAT!! アナタノシュミ、スバラシイ! ナカナカ、ソンナニイイシュミノヒトニハ、アエナイ! ミック!ミック!ワタシモダイスキ!」ボクもまんざらでもなく「You also have good taste!」などと話をあわせていたら、この画廊にちょうどミックが6点ある、人気の高いこのシリーズが6点もあるのは奇跡だ、みたいなことを言い出してあとは御想像の通り。

暇を持て余していた店員は全員寄ってくるわ、画廊のオーナーは笑顔満面で奥から出てくるわ、何にも言わないのに値引きしだすわ、一体いくらなら買うのかと泣きにはいるわ……こっちが英語が不自由なのをいいことに、みんなで囲んでくどくんです。

その時の向こうの言い値が13500ドル。当時1ドル113円でしたから152万5500円。
海外で気分が大きくなっているのも手伝ったかもしれませんが、「お、わりと安いな」というのが正直な印象でした。だって天下のウォーホールですから。それにすごくそのシルクを気に入ったし。
人生なかなか気に入る物には巡り合えません。そういう意味では「ん〜、買いたい!」と思ったのも事実。それが顔に出ていたんでしょうね。「この日本人は買いたがっている」とわかっちゃったのでしょう。向こうはプロですから。
後から聞いたら、美術業界も不況の嵐でゼーゼー言っていたらしいです。マーチン・ローレンスといったら有名だし信頼のおける(らしい)画廊ですが、かなり焦っている感じでしたから。

結局その何となく伝わってくる「焦り」が買う気をちょっと萎えさせてしまいました。あと、150万ともなると、さすがに妻のゆうこにも相談しないとなぁ、と思ったし。
「日本に帰って妻と相談して決める」と言ったら「売れちゃうかもしれないから、手付けを1000ドル置いていけ」と言われました。
11万円も?
ヤダよそんなの。
これも気持ちが萎えちゃった原因のひとつ。


で、日本に帰ってきました。

「ウォーホールが欲しいのはわかる。でも150万はやっぱり高すぎるわ」とゆうこにも言われ、諦めかけたのですが、でもどうしても欲しくなってきてしまって。
なんかね、ああしてニューヨークの画廊で出会ったというのも縁かなぁと思ったし。それにいったん火がつくとダメなんです、ボク。

美術品に詳しい(というかコレクターな)芸大出の部長に聞いたら「そんなん日本でもっと安く買えるんちゃうか。知り合いの画廊に聞いたろか」とありがたいお言葉。
「それは縁や。絶対大事にせなあかん」とコレクターならではの言葉も出てきて、とりあえず聞いてもらったのです。

そうしたらその画廊「来週クリスティでオークションがあってそこにウォーホールのミック・ジャガーが出るみたいだから、もしそれが佐藤さんの気に入ったのと同タイプだったら落としますよ。どのくらい出せますか?」とすぐにレスポンスしてきました。

「ん〜…… は、80万円……」

かなり安めに言いました。
だって安ければ安いほどいいもん。
「じゃぁ80万円までは競りますね」と明るく言って画廊の電話は切れました。そんな安く落とせるわけがありません。150万のものなんですから。ボクはほぼ諦めつつ、「クリスティの競売」に参加している自分を楽しみました。間接的とはいえなかなか経験できることではありませんから。

結果・・・なんと80万円で落とせちゃいました
ボクの欲しかったタイプのミック・ジャガー。
もっと大口開けて笑っているやつとか、表情が明るいものもあったのだけど、なぜかこのタイプが気に入ったんです。

やっぱり美術業界、不況なんですね。信じられない値段でした。
で、画廊へのマージンと表装代、船での輸送費などをいれて約100万円。あぁ、なんか夢みたいなお話です。それにしてもニューヨークの野郎、ぼったくろうとしたな!(レスリーはかわいかったけど)



ウォーホールが神戸の自宅にはるばる着いたのは昨日(97年2月6日)のこと。

箱から出してよくよく鑑賞したら鳥肌が立ってきました。
やっぱり実物は違う。
我が家にはポスターのウォーホールはあったんですが(2000円で買ったイングリッド・バーグマンのもの)、やっぱり実物は全然違います。鳥肌ボリボリ。すごく良い。ウォーホールにしては地味目の色使いで、そこが気に入ったのですが、よく部屋に映えました。
うれしいなぁ。我が家の数少ない美術品に大きな仲間が増えました。うれしい、うれしい。値段なんかより、ウォーホールがそこにある、という事実がうれしいです。


と、ちょっとノロケっぽいコラムでスイマセンでした。
ついでに我が家の他の「美術品」もご紹介しましょう。画像が多いので少し重いです。美術品とまで言えないのもありますが……ボクにとっては思い出の品ばかり。

では。

97.2.7記 




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