1999年10月「夜長く、酒うまし!」


秋の夜長は、酒がおいしい。
と、いうことで、日本酒・ワイン・洋酒などがおいしい店を紹介します。
あ、この月より朝日新聞東京版(やっぱり金曜夕刊)でも読めるようになりました。



「ながほり」  居酒屋:大阪・島之内

大阪市中央区島之内2-6-5/06-6212-5856/日祝休/17〜26
長堀通りをソニービルの方から東に行って高速道路のすぐ手前を右折(南)。1キロほど行った右側にある。わかりにくいから、住所を言ってタクシーの方がいいかも。

カット:酒うまし

 ひょっとしてボクだけかもしれないが、秋ってやたら酒がすすむのである。春すすむヒト、夏すすむヒト、冬すすむヒト、年中すすむヒト、いろいろいるだろうがボクは圧倒的に秋なヒト。日本酒に限らず焼酎、ワイン、スコッチ、バーボン、ジン、ウオツカ…。どんな酒でも秋なら似合う。ビール一辺倒だった厳しい暑さを越え、おいしい酒たちと共にしみじみと過ごしたくなるのである。ほら、涼しいし肴はうまいし蚊はいないし(?)。

 とにかく、居酒屋だのバーだののカウンターに陣取ってじっくり来し方行く末を想うには秋が一番はまるのだ。特に秋の初めは居酒屋! 清潔で威勢が良くて、日本酒・焼酎の種類が多くて保存も良くて、肴があれこれうまい。そんな居酒屋で秋の夜長をゆっくり過ごしたいのはボクだけではあるまい。

 「ながほり」はこの条件をすべて満たす大阪でもトップクラスの居酒屋だ。「奥播磨」「喜楽長」をはじめとする酒の種類もさることながら、なにより肴がうまい。基本である冷ややっこがまずうまい。お造りも絶品。現地直送の比内地鶏もいい。つみれ焼き、地鶏ウインナ…どれも抜群だ。ほかにも、ごろいか、いわしの岩石揚げなど、ハズレがない逸品ばかり。

 こういう店では「とりあえずビール!」などとは口が裂けても言わない。最初っからキリッと舌に厳しい日本酒で胃袋起こして、おいしい肴を腹に落とす。それが基本、だよね?



「マルコポーロ」  ワインレストラン:兵庫・西宮

兵庫県西宮市甲風園1-4-12不二屋ビルB1F/0798-64-5715/日休/17.30〜23.30
阪急西宮北口駅(たしか西口。北口の西口、ね)を降りたら目の前。

カット:俄然、赤ワイン

 まぁボクも「ウンチク野郎」だった時期があったのは否定しない。ワインの話である。産地からヴィンテージから造り手から品種から香りの表現から…まぁうんちくを語りたくなる飲み物なんだな、ワインってやつは。しかもその多様性たるやすごいものがある。仕入れた知識をひけらかしつつ飲みたくなるのもよくわかるのだ。

 が、個人的にはもうとっくにワインのウンチクには飽きている。いいじゃないの、おいしければ。いいじゃないの、どの産地で何年ものでどんな味がしようが。知識はソムリエとかにお任せして、スコスコ酔おうよ。んでもってワイン以外の話をしようよ。そう、どうもワインを飲みながらワインの話をする人が多すぎる気がする。お酒はわき役。会話が主役。そう思わない?

 さて、秋である。夏はその暑さもあって白ワインとかシャンパンとかばかりガブガブ飲んでいたが、涼しくなると俄然(がぜん)赤ワインが欲しくなってくる。雰囲気のいいワインバーにでも行きたいが、あいにくそういうところは「ウンチク野郎」がわりと来ているんだよね。そういう人が少なくて品ぞろえがよくて料理もうまいワインレストラン、どこかにないだろうか?

 「マルコ・ポーロ」はそんなボクの贅沢(ぜいたく)にこたえてくれる店。内装もいいしワインの値段もリーズナブル。なにより料理がいい。フランスの地方料理を中心にその日のおすすめ料理が黒板に書いてある。最初はおつまみ程度な気持ちで頼んだのだがこれがどうして。下手なフレンチレストランよりうまいのだ。ツボを心得た味付けで、上手にワインを引き立てる。

 会話が主役。ワインがわき役。それをまた料理が引き立てる。うーん、こういう店、好きかも。



「ザ・バーンズ」  バー:兵庫・苦楽園口

兵庫県西宮市南越木岩8-13/0798-72-4110/水休/18〜24
阪急苦楽園口を降りて駅前の大きな道を道なりに西へ。すぐ交番が左側にあるからその角を左折したらすぐ左側にある。

 昔に比べて「若いの」が酒につきあわなくなった気がしません?

バカボン?

 会社の若手を誘ってもめったに来ない。単にボクが嫌われてるだけかもしれないが、でもボクが新人のころなど高い酒をおごってくれるなら少々イヤな先輩でもついていったぞ。若くて金がないときはとにかく先輩にたかったものだ。んで、こっちが「先輩」と呼ばれる年になったら後輩に酒をおごる。そうやって順繰りに男の世界は受け継がれてきたはずである。その連鎖が途切れるのは悲しい。もっとつきあえ、若者よ!(ってボクもまだ若いけど)

 そんな毎日でボクは先輩たちの行きつけのバーを数々知った。カウンターには世間知らずなボクを夜な夜な辛抱強く説いてくれる大人たちがそろっていた。説教はイヤだけれど若者には飲めない高い酒をおごってくれた。で、仕方なく聞いているうちにいろいろなことを学んだ気がする。バーは人生教室だったのだ。しかも授業料はタダ!

 さて、今回はボクの行きつけのバーを紹介しよう。苦楽園口の「ザ・バーンズ」。もうかれこれ13.4年通っているだろうか。ボクはここで150本のオールドグランダッド(バーボンの銘柄)を空けた。えーと1本8000円だから150本で……などと計算してはいけない。お酒は累積金額で計ってはいけないのだ。お酒はそのお酒と一緒に過ごした夜の深さで計る。河原崎長一郎を思いっきり太らせたような丸い顔のマスターと、気のいい常連さんたちと過ごした数々の濃厚な夜…。かけがえのない時間なのである。

 店内、気持ちよくすすけている。料理もそれぞれおいしい。いい店なのだ。どう? そこの若いの、1杯つきあわない? え? 早く帰ってドラマを見たい? うーん、さみしー!



「御酒蔵(さかぐら)」  居酒屋:大阪・大正

大阪市西区境川1-4-38ハイハットアベニュー/06-6586-3117/月一回休/17〜24(9F)/17〜27(10F)
みなと通沿。梅田方面から南港方面に向かって行くと右側にある。タクシーが無難かな。

一寸方式

 外食する時、家で出来ない料理を食べたい、という方はわりと主婦などで多いよね。まぁ当然だ。家で作れるような料理をわざわざお金払って小料理屋で食べてどうするのよ、ってなもんだ。だから主婦を「家庭料理の店」みたいなところへ連れて行っても全然喜ばない。あっ、家で料理を作らない主義の主婦は別だけど。

 ちなみにボクは普段料理をしないからかもしれないけど、店の料理が家庭料理でも構わない。が、お酒についてはあるんだよね。家で出来ないことを外ではしたいのだ。え? きれいな女の子が横についてくれるとかかって? そりゃ確かに家では出来ないが、それではあまりにオヤジな答え。そうじゃなくて、例えばそれは「多銘柄の飲み比べ」とかのことなのだ。

 そう、家で少量ずつたくさんのお酒を飲み比べるのは不可能だ。特に日本酒の地酒。このごろ小さなボトルも増えたが、まだまだほとんどが一升瓶。何十本も栓を抜いて飲み比べしたら当然お酒は余る。残ってしまった大量のお酒、一体どうする? って感じだよね。

 だからこそ、こういう「飲み比べが出来る店」は貴重だ。ここ「御酒蔵」はビルの9階と10階にあり、9階は比較的リーズナブルな地酒、10階はわりと珍しくて高めの地酒を置いている。特に9階は面白い。約300種類の地酒が冷蔵されているウオークインセラーに入って好きな銘柄を選んで一律1杯500円で飲めるのだ。4〜5人で行って異なった地酒を選んで飲み比べたら楽しいぞ。10階は店員がついでくれる方式だが、なかなか手に入らない銘酒が季節ごとに約100種類用意してある。これまた複数で行って回し飲みして楽しもう。きっとお気に入りの銘柄が見つかるはずだ。



「サウンドイン・サム」  バー:大阪・北新地

大阪市北区曽根崎新地1-3-21日宝スタービル4F/06-6345-8607/18〜/土日祝休
北新地の新地本通りに四つ橋筋から入って(西から入って)2〜3軒目のビルの4階。

懐かしい曲と

 なんだかうすら寂しいこの季節。急にもとまろの「サルビアの花」やNSPの「夕暮れ時はさみしそう」を聴きたくなるボク。あ、ビリー・バンバンの「さよならをするために」も聴きたい。バンバンといえば「いちご白書をもう一度」もたまにはいいな。「もう一度」と言えば小坂明子にそんな曲なかったっけ?

 小坂と言えば、小坂恭子の「想い出まくら」も聴きたいぞ!んー、聴きたい!聴いて泣きたい!泣いて飲みたい!飲んで歌いたい! カラオケなんかでなく、オリジナルの歌声に合わせて大声で歌いたい!ああ! …って、なんかひとりで興奮してしまったが、ま、懐かしい曲たちと一緒に酒飲みたい時ってあるよね。その時代の空気、暮らしていた部屋のにおいまで瞬間によみがえってくる懐かしい曲たち。最高の酒のさかなではないか。

 今回ご紹介する「サウンドイン・サム」はそんなアナタの思いに確実にこたえてくれるタイムスリップ・バー。マスター自身が手作業で録音したカセットテープが、なんと歌謡曲なら約30万曲、外国ポップスなら約20万曲。60〜70年代を中心に、ひたすらアナタのリクエストを待っている。「えーと、柴田まゆみの『白いページの中に』なんてないよねー」「もちろんあります」「じゃ、金井夕子の『パステルラブ』は…?」「当然あります」。うーん、ない曲はまずないのだ!

 元スクールメイツ出身のマスターは芸能界の裏の裏まで知り尽くしていて曲にまつわるいろんな話もおもしろおかしく披露してくれる。狭い店内は壁と言わず天井と言わずブロマイドやジャケットだらけ。そう、ここでウイスキーを飲むとアナタは確実に過去へ行ける。知る人ぞ知る「大阪名物」とはこの店のことである。



文章:さとなお(satonao@satonao.com) イラスト:中村三奈(minasann@syd.odn.ne.jp)


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