1999年9月「残暑は肉ざんしょ!」


残暑は肉ざんしょ!
厳しい残暑を肉で乗り切ろう!ということで、
焼き肉やらステーキやらのご紹介っす。



「焼肉冷麺 味楽園」  焼肉:兵庫・尼崎

兵庫県尼崎市南竹谷町2-4/06-6411-9329/月休/17〜25.30
阪神出屋敷駅を出て南へ歩くと右側にある。

焼肉で元気に

 「焼き肉=精がつく」信仰は根強いものがある。ちょっと仕事で疲れたりすると「焼き肉でも行くかぁー!」と街に繰り出す人たちはたくさんいるのだ。うちの会社の上司Jなどその最たるもの。食べに行くだけならいい。彼と行くと恥ずかしいのは食べながら額に100円玉をペタペタ張ることである。そう、上司の額は焼き肉を食べるに従って脂でどんどんテカテカになっていく。硬貨はペタッとくっついて離れない。彼にとって、張った100円玉の数は精がついた量に比例するのだ。「ほら見てみぃ! 7枚や! こんなに精がついたで! ドハハハ!」…違うってば。脂がついただけだってば。まぁ気持ちはわかるんですけど。

 実際に精がつくかは別にして、気分的にとっても元気になるのが焼き肉のイイトコロである。厳しい残暑のころなど、まさに焼き肉にうってつけ。ぐわぐわ食べてどしゃどしゃ咀嚼(そしゃく)してブワーッと汗かいて、まだまだ続く残暑を乗りきろうではないか。

 そういう意味では尼崎の「味楽園」の特大骨付きカルビは特筆ものである。特大というだけあって、なにしろでかい。新聞紙半ページ分くらいはゆうにある大きさ。その見た目の豪華さがまず人を元気にさせる。それを店の人がハサミで切って焼いてくれるのであるが、これがまた実にうまい。柔らかくそして力強い。いかにも精がつきそうな味なのだ。うーむ。上司Jなら10枚は張るな。恥ずかしいからまだ彼とは行ってないんだけれども。



「千成」  肉料理:大阪・北新地

大阪市北区曽根崎新地1-5-15/06-6341-2129/日祝休/17.30〜22
桜橋交差点から国道1号を東へ歩いて、一つ目の角を右。すぐ。

牛を食べ尽くせ

 その昔「菜食主義」をしていたことがある。いまでは「おいしいと感じるものはなんでもカラダにいいのだ!」と信じているが、もっと若いころは割と「健康オタク」だったのだ。で、玄米正食という本格的な菜食を半年以上やっていたわけ。まぁ8キロやせたし、以前より野菜が好きになったから良かったんだけど、でもちょっとストイックすぎる日々だったよなぁ。

 なにしろ、そのころのボクは肉を敵視していた。そういう生活をやめた理由を語り出すと長くなるのでしないけど「肉食だっていいじゃん。おいしいんだから」と自分に許してからは以前にも増して肉のおいしさに目覚めてしまった。肉を食べなかったからこそ、肉の味に敏感になったわけである。

 北新地にある「千成」はそんな敏感になった舌も喜ぶおいしい肉料理店だ。牛肉のいろんな部位をいろんな料理法で食べさせてくれる。まず最初は刺し身から。レバーにはじまってタン、心臓、ヘレ、ミノの順番で食べるのだ。志も高く香りも高い肉刺し。ちなみにこの順番は決して変えさせてくれないので要注意。つまりミノを食べた後、おいしかったからってヘレには戻れないという掟(おきて)があるのだ。理由は食べればわかる。

 次は焼き物。牛の珍しい部位をおいしく食べさせてくれる。腰から尻(しり)にかけての「いちぼ」や赤身で柔らかい腰肉の「らむしん」など。ほーほーふむふむ、こりゃうまいではないか。そして最後にボクは煮込みをもらってご飯にぶっかけて食べる。ちょっとお下品だが〆にはとてもいいのだ。

 とにかく肉の魅力をフルに味わえるこのお店。ベジタリアンのアナタもどう? 野菜もいいけど、肉の魅力も再発見してみません?



「みやす」  ステーキ:兵庫・三宮

神戸市中央区下山手通3-2-19/078-391-3088/日休/12〜21(祝日15〜20)
神戸・三宮駅からトアロードを上がり、生田新道を左(西)へ。次の角にタクシー会社がある。その2階。

いい火だナ は、ははん

 いきなりだが、ステーキ(いや、ビフテキと言った方がしっくりくるかもしれない)は、戦後の日本の成長を支えてきたと言っても過言ではないと思うのだ。いや、過言かもしれない(どっちや)。でも「いつか偉くなって分厚いビフテキを腹いっぱい食べてやる!」みたいなことを起爆剤に高度成長期を猛進した人ってわりとたくさんいたのではないか、なんて想像するのである。血が滴るような分厚いビフテキ…それはある種、豊かな生活の象徴でもあったのだ。たぶん。

 で、ビフテキの中でも「神戸」の名は絶大な威力を誇っている。世界に名高い「神戸ビーフ」。ボクが神戸に住んでいると言うと関東の人など「いいな、ステーキうまいんだろうな」とうらやむのだ。調べたらこの神戸ビーフ、ちゃんと定義がある。兵庫県内で育った黒毛和種で「先祖から生粋の兵庫生まれ」「肉質の評価が5段階の4以上」「霜降り具合が12段階の7以上」の条件を満たさないといけないらしいのだ。なるほど、神戸で食べられるビーフ、というだけではないのね。

 さて、三宮にあるレストラン「みやす」は創業40年以上。つまり戦後まもなくからずっと「ビフテキの夢」を追わせてくれた名店だ。神戸にステーキ店数あれど、トップクラスのおいしい店として安心してオススメできる。店内は程良くすすけ、バーの趣もシックでレトロ。炭火でじっくり焼いたその肉は見た目とまるで違う軟らかさで前歯を出迎える。ぐっと歯を入れると予想以上に軟らかい至福の世界が開けるのだ。歯を肉が軟らかく包み込むあの快感。これぞビフテキ! である。

 ちなみに、昼のみ出されるハンバーグもうまい。ジューシーかつ濃厚。予算がない時などありがたいぞー。



「たんや舌(べろ)」  たん料理:大阪・梅田

大阪市北区梅田1-2-2 大阪駅前第2ビルB2F/06-6343-0836/土日祝休/11.45〜13.30/17〜21.30
梅田の大阪駅前大阪駅前第2ビルの地下二階。

舌をまくウマさ

 昼から焼き肉を食べるのに、何となく抵抗があるのはボクだけではあるまい。カルビやらロースやらをジュージューと火であぶりガシガシ食べるのは見るからにランチには不似合いだ。第一、ビールがほしくなる。そのうえにおう。焼き肉のにおいをプンプンさせて午後からの仕事相手に会うのはちょっとはばかられない?

 でも、同じ焼き肉なのにタンだとなぜか昼でも気にならないんだよね。なぜかな。あ、タンと言われてもわからない方がいるかもしれない。タンとはつまりtongue。通常、牛の舌を指してタンといい、焼き肉店やタン専門店で食べられるのだ。

 そう、牛の舌を人間の舌で味わう。ちょっと共食いみたいだが、確かに自分の舌をガリッと噛(か)んだときのような歯ごたえがある。ガリッて噛んだときちょっとコリッてするでしょ? あんな感じのコリコリさがある。そんでもってムチムチでサクサク。うーん、この食感がたまらない。世にカルビ専門店とかロース専門店とかはないのに(たぶん)、タン専門店はたくさんあるのもうなずけるうまさなのだ。

 さて、ここ「たんや舌(べろ)」は、昼にタンを食べたいときにボクがいつも利用するタン専門店。定番の「タン定食」もいいが、オススメは「コンビ定食」。タン焼きとシチューの組み合わせだ。これをお代わり自由のご飯とともに目いっぱい食べると大汗かいてワイシャツがびしょびしょになったりするのだが、「厳しい残暑も逃げるざんしょ」なパワーがつく(気がする)。

 夜もおすすめ。タンをあらゆる料理方法で食べさせてくれる。さしみ、たたき、焼き、スライス、シチュー…。タン焼きだけでは味わえない食感がタン能できるぞ。



文章:さとなお(satonao@satonao.com) イラスト:中村三奈(minasann@syd.odn.ne.jp)


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