1999年5月「ノーライス、ノーライフ」


ノーライス、ノーライフ。
つまりは「ご飯がなけりゃ生きてけないぜ!」っすね。
カレーとか丼もんとか、いろいろあるよね。



「ん」  カレー:兵庫・夙川

兵庫県西宮市羽衣町5-19羽衣町コーポ1F/0798-23-4923/10〜22/月休
阪急夙川駅の南側ロータリーに出て駅前の大きな通りを右(西)へ。坂を上って夙川教会の手前を右折。30メートルほど行った右側。

No Rice, No Life

 ライス・イズ・ライフ。

 結局、ここに行き着くのだろうか。パンだのナンだの浮気してみても、やっぱりここに帰ってくる。あのほっかほかの白いご飯の魅力…。でも個人的には冷や飯も好きだ。冷たいご飯にあつ〜いみそ汁。お櫃で上手に冷ました白米のうまさは、熱いご飯とはまた別物である。うーん、うまい!

 実は、カレーも冷たいご飯にかけて食べるのがわりと好きだ。妻には変わり者扱いされるのだが、熱いカレーがちょっと乾き気味の冷や飯の表面をゆっくり湿らせ解きほぐす。ちょっとなじみが悪いところがインディカ米のカレーみたいでなかなか良い。辛くて燃えるようになっている口を冷たいご飯で冷ますのも気持ちがいい。

 あ、今日ご紹介する「」はもちろん冷や飯カレーではないですよ。ここは阪急夙川駅前の、木の香りがする渋い喫茶店なのだが、土日だけ愛にあふれるカレーを出すのである。木曜日からクツクツと小麦粉やバターを使わず煮込むそうで、野菜・果物ベースのうまみがたっぷり出ているおいしさ。家庭的で温かく、なんともうまい。○○風とかいう変に凝ったカレーと違って、母の胸に帰ったような安心感と共に味わえるのだ。秀逸なピクルスとアイスクリームがついて1500円。以前は別の場所にあり、古くて雰囲気抜群の喫茶店だったのだが、震災後ここに移転した。ちなみにここのルーをもらって、冷や飯にかけて食べてみたいという野望は、いまだ果たせてはいないけど。



「インペリアル」  オムライス:大阪・堂島

大阪市北区堂島3-3-1/06-6458-1359/日祝休/11〜19(土曜〜15)
梅田から国道2号を西へちょっと歩くと出入橋交差点。そこを左に曲がって一つ目を右。NTTの横にポツリとある。近くには有名な「出入橋きんつば」がある。ここのきんつばは絶品。

ドキドキのひとさじ

 ケチャップは赤い悪魔である。

 そのあやしい魅力。クセになり、たまに無性に欲しくなる。欲しくなり出すと矢も盾もたまらない。仕事が手につかない。あの酸っぱいような甘いような青臭いような香りが脳裏から離れなくなる。あぁ、ボクを誘惑しないでくれ。

 そのケチャップが存分に「悪魔度」を発揮しているのがオムライスである。黄色く薄い卵の膜の向こうにケチャップ色に色づいたライスが透ける。そしてプックリプリプリだ円形に盛り上がったその黄色い表面に、だめ押しのようにかけられた赤いケチャップ……。
 スプーンの背で卵の表面にケチャップを広げる。ケチャップの追加が欲しくなる。もうちょっとだけつけてくれない? でも子供じゃないからそんなこと言わない。でも言いたい。あー、断固として言いたい! そう、オムライスはケチャップを食べる料理なのだ。たまにドミグラスソースをたっぷりかける店があるが、出来ればケチャップにして欲しいとボクは思うのである。

 この「インペリアル」は洋食の名店だ。古く雰囲気のある店内は常ににぎわい、オヤジさんと若いスタッフが汗をかきかき絶品のハンバーグや一口カツ、かきフライ(冬のみ)などを作ってくれる。ボクはいつもこの店でハンバーグとオムライスを取る。ハンバーグが一口カツになることはあってもオムライスははずさない。非常にツボを押さえた味なのだ。ケチャップのうまみがほとばしり満足感が違う。チマチマしていないから腹いっぱい感も違う。
 ただ、問題は午後からまったく仕事にならないこと。食べ過ぎで血が全部胃に行ってしまうのだ。食べたくなっても仕事が手につかない。食べたら食べたで仕事が手につかない。どうしてくれるのだ、赤い悪魔よ!



「鳥岩楼」  親子丼:京都・西陣

京都市上京区五辻通智恵光院西入ル/075-441-4500/12〜21.30/木休
JR京都駅の真ん前から北に伸びる烏丸通り。その今出川との交差点まで行って左(西)に折れるとそこらへんが西陣だ。ま、あとは住所を頼りに行ってください。説明しきらん。

親子ドン……。

 世の中にはいろんなフリークがいるもので。

 カレーフリークから蕎麦フリーク、漬物フリークもいればポテトチップスなら全銘柄言い当てられるぞ、なんて人もいる。うーん、人の好みはそれぞれだ。ちなみにボクは「さぬきうどんフリーク」なのであるが、東京在住のボクの飲み友達、稲岡さんは、これまた熱烈なる「親子丼フリーク」なのである。

 日本全国のいろんな親子丼を食べ歩いてちょっぴりふくよかになった彼女は「おいしい親子丼」についてこう力説する。「卵に火が通り過ぎていてはいけない!」「鶏肉の歯ごたえがしっかりしていなくてはいけない!」「それからこれがもっとも重要なこと。決してタマネギが入っていてはいけない! タマネギがはいると甘くなりすぎる!」。わかったわかった。わかったから飯粒飛ばすなって。

 そんな彼女にここ「鳥岩楼」を紹介したのは1年前だったか。昼だけ親子丼をやっている京都の店だ。夜の「鶏の水炊き」もおいしいが、昼の親子丼がまたうまい。卵のとろけ方がちょうど良い。卵でねっとりとろけた口中に鶏肉がしっかりした存在感でむっちり主張する。もちろんタマネギも入っていない。

 こうして稲岡さん力説の条件をすべて満たしている上に、鳥スープがまた絶品なのだ。白濁した濃厚なスープで、鶏の臭みなどまったくなし。京の町屋そのままの店内も風情たっぷりでちょっとしたお昼には最高なシチュエーションなのである。ここならどうだ、稲岡さんよ!

 彼女はうなった。「こ、こ、ここは私のベストワンかも! 東京の有名店にもいくつも行ったけど、このバランス感はなかなかないわ! さ、さとなお! ありがとう!」。

 わかったわかった。わかったから飯粒飛ばすなって。



「黒門川ひろ」 うな丼:大阪・日本橋

大阪市中央区日本橋1-22-9/06-6643-5278/土日祝休/11〜19
黒門市場の一本東の道(松屋町筋と反対の方)。そこを歩くとある。(なんというアバウトな説明!)

うな丼……。

 「まむし」とはヘビのこと、というのが全国共通認識なんだけど、大阪ではちと事情が違う。「まむし」とは「うな丼」のことなのだ。鰻の姿形がヘビに似ている、ということではなくて、どうやら「鰻飯(まんめし)」がなまって「まむし」となったようなのである。まんめし、まんむし、まむし……なるほどね。

 ご飯の間にかば焼きをはさんで蒸すから「間蒸し(まむし)」なのだ、という説もあり、ご飯の間に入れてまぶす「まぶしめし」がなまったという説もある。そう、昔ながらの「まむし」はご飯の中にこっそりかば焼きが隠されていて、熱々のご飯にふかふかと蒸されているのである。ご飯の上にかば焼きがのっていない。ふたを開けるとご飯のみ。それを知らずにオーダーするとたいていの人はびっくりするから、東京とかからのお客さんを連れていくと面白いよ(ちょっといじわるだけど)。

 ここ「川ひろ」の「まむし」はご飯の間はもちろん、上にもかば焼きがのっている。お得感があってうれしい限り。江戸風と違って関西のかば焼きは蒸さないからちょっと皮が硬めに焼きあがる。だからご飯の上のかば焼きは硬めで歯ごたえよく香ばしくなる。

 一方、ご飯の間で蒸されたかば焼きはいい具合にしっとりしていて、鰻の風味がぷ〜んと立ちあがってくる。それがダブルで味わえて3000円。それだけの価値は十分にある逸品だ。そのうえ、サービスでつくキュウリの漬物がまた素晴らしい。キュウリを丸ごと一本使っていて、その上にキュウリが隠れるくらいかつお節がかけられている。これ目当てに訪れたくなるくらいだ。

 黒門市場のわきにひっそりとあるカウンターのみのお店。たたずまいのいいおやじさんの鰻話も楽しいぞ。



文章:さとなお(satonao@satonao.com) イラスト:中村三奈(minasann@syd.odn.ne.jp)


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