1999年4月「春はあげもの」


春はあげもの・・・。
揚げ物をテーマに4週連載しました。
ほら、ビフカツとか串揚げとか・・・。



「ゴメンネJIRO」  洋食:大阪・天満

大阪市北区池田町8-9/06-6354-0480/水休/11.30〜14/17.30〜22
JR天満駅を北側に降りて天満市場へ。その中の有名な奴寿司の前を通ってなお北へ向かうと右側にある。

春はあげもの……じゅっ

 つまりは「春はあげもの」なのである。暖かくなって気持ちがちょっと“攻め”になってきたせいか、どうもこの季節、揚げ物が欲しくなる(アナタはならない?)。だからってギトッと脂っこくて洋服が臭くなるようなのはイヤだし、かといってあっさり上品すぎるのも食べていて楽しくない。いい意味で下品で、食べ終わっても胃にもたれない、そんな程良い揚げ物を食べさせてくれる店はないものか…。

 とか思っていたら、同僚の女性がこっそり耳打ちしてくれた。「とってもいい洋食屋さんがあるんですけど」。残念ながら一緒に行きましょとは言われなかったからひとりさみしく行ってみたところ、ここが大当たりだったのだ。天満市場の北側にある洋食堂「ゴメンネJIRO」である。店名が奥村チヨの往年のヒット曲だったりしてちょっとセンスに不安を覚えるが、食べると杞憂と分かる。安くて実に程良い洋食が食べられるのだ。

 ビフカツ、卵コロッケ、エビフライ、といった揚げ物がまず、いい。鼻までブワッと香りが駆け上がってきて揚げ物を食べる快感に浸れる。まだ若いシェフが作る料理は、高級店的凝った味ではないけれど、人がうまいと思うツボをしっかりついてくれるのだ。

 揚げ物以外も、ハンバーグ、いため物、カレーに至るまで、焦点がピシッと来ていて勢いあり。ランチもいいが夜が特におすすめ。「ちょっとエビフライ」とか「ちょっとステーキ」といった少量メニューもあり、いろいろ食べてみたい向きにはうれしい構成だ。そしてなにより、めちゃ安い! 

 JR天満駅北側の天満市場の中に奴寿司があるが、その前を通って北に向かうと右側にある。カウンター8席、テーブルひとつの小さな店だから夜は予約した方がいいかもしれない。



「あーぼん」  串揚げ:兵庫・芦屋

兵庫県芦屋市楠町6-8-101/0797-22-2030/水休/18〜21(L.O.)
JR芦屋駅北口を出てすぐの道を東へ。宮川を越えて1つ目の信号を右折。踏み切り渡ったらすぐの右側。

 この食べ方は大阪発であるらしい。好きなときにストップできる、串揚げ店独特の食べ方の話である。つまり客が「いま揚げてる串でストップね!」とか言うまで、色んな素材を次々揚げ続けてくれるのだ。途中でやめてもいいしそのまま続けてもいい。塩、しょうゆ、ソース…揚げた素材に合った調味料をシェフに指示されるままにちょろりとつけ、ただハフハフとひたすら食べ続けるあの幸福! おなかの具合で好きなだけ食べられるから大食の人にも小食の人にもうれしい、実に優れたシステムなのである。

Kushikatsu Line

 この「あーぼん」はそんな串揚げ店の中でもトップクラスにうまい店だ。そのわりに無名なのでマスコミ掲載拒否なのかな、と思ってたらOKだった。うーん…情報誌の目は節穴か? ただ電話番号は載せないでほしい、とのことだから、行きたい方は住所を頼りに行ってみてください。でもいっつも地元客で込んでいるからなぁ…予約なしで座れたら大ラッキーだ。

 カウンターとテーブル席ひとつのこぢんまりした店で、18時と20時でキッチリ2回転しているくらいはやっている。油がいいらしく(しかも回転時に換えている)、もたれないし素材も揚げ時間も絶妙。ホタテや生麸など、揚げ具合でどうにでもなってしまう素材も見事に揚がっていて、もうたまらん!

 5500円のコースのみで20本くらい。季節によって素材は変わる。デザートに果物も揚げてくれる。「果物を揚げるぅ?」ってまゆをひそめられるのもわかるが、まぁ食べてみてください。きっとボクに感謝するから。

 場所はJR芦屋駅北口を出てすぐの道を東へ。宮川を越えて1つ目の信号を右折。踏み切り渡ったらすぐ右側だ。



「C.C.ハウスなかしま」  ヒレカツサンド:大阪・お初天神

大阪市北区曽根崎2-2-11/06-6312-2621/18〜24/土日祝休
大阪のお初天神の東側路地にある。近くに「サンボア」がある渋い通り。

 渋いバーである。古くてシンプルで気楽で、そのうえダンディー(死語)だ。座席はカウンターのみ。老夫婦ふたりでやっている。店名からわかるように、お酒は基本的には「C.C.」しか出さない。え? 「C.C.」って何って? そのくらい知っていてくれー! カナディアン・ウイスキーの「Canadian Club」の頭文字だ。で、この「C.C.ハウスなかしま」が出す「C.C.」の水割りはまさに日本一なのである。職人の技だ。そのうえグラスもいい。手に持ったときの重さが完ぺきなのだ。

イッキにガブリと

 こういうバーだから、料理もしっかり職人技である。メニューに並ぶ料理はどれもこれもおいしいが、中でも「ヒレカツサンド」(1500円)は抜群である。ひょっとしたら「C.C.」の水割りと同じく日本一ではないか、とひそかに思っているくらいなのである。

 ちょっとレア目の分厚いヒレカツがちょうどいい具合に焼けたトーストに挟まって、口の中でゆらりととろけるのである。ヒレカツ自体の香りも高いのだが、それがトーストの香りと混じりあって、あ、実はカツというのはトーストが正式な女房なのかもしれない、とふと思う。「カツ+白いご飯」が最上の組み合わせと信じていた自意識が、ことりと崩れおちそうになるのである。うーん、罪なカツ。

 何年前だったか、一緒にカウンターの中に立っていた息子さんが独立して北新地に店を構えた。「レストラン&バーなかしま」(大阪市北区堂島1-3-39 第2二葉ビル5階/06-6341-3433/17〜26/土曜〜22/日祝休)。こちらでも同じレシピのヒレカツサンドが食べられる。ご両親の店よりももっとカジュアルだから、若い向きにはこちらもお薦めだ。



「グリル・モリタ」 ビフカツ:大阪・西天満

大阪市北区西天満2-9-3 西天満大治ロイヤービルB1F/06-6364-8886/日祝・第2土休/11.30〜14.30/17〜21.30
北新地の御堂筋向かいにあるアメリカ領事館の裏の方(アバウトな説明ですまん)

 「ビフカツがさぁ」と東京の友人に言ったら「ハ?」という顔をされた。「ビフテキとトンカツがくっついたもの?」などと聞き返されて、話がややこしくなってくる。「いや、ビーフのカツだってばさ」「え? カツってトンカツのことでしょ?」「いや、カツはカツレツの略だよ」「あ、そうか。でも……(疑惑の目線)」

/関西で“肉”ゆうたらま

 東京でカツと言ったらトンを前につけなくてもトンカツのことである。東京ではビーフのカツをほとんど見かけない。そんな料理があることすら知らない人もたまにいる。それはそれでとても不幸な街だぞ、東京よ。

 だいたいトンカツとビフカツは素材が違うだけではない。ビフカツは真っ赤なレアで肉汁たっぷり食べられるのが強みなのである。そう、ビフカツの神髄は「レア」にあるのだ。火をきっちり通さないといけない豚のカツとは快感の方向性がまるで違うのだ。

 今日ご紹介する「グリル モリタ」はシチューで有名な店だ。でもビフカツも実にすごいのである。ここまでとろけまくるビフカツをボクはほかに知らない。とろっととろけるそれをほお張れば、口中肉汁いっぱいになり、香りは脳天につき抜ける。まさにビフカツのすごみここにあり!

 ただし値段も高い。「特選ヘレ肉ビーフカツレツ」4500円。あぁ読者諸氏のブーイングが聞こえてくる。でもちょっと待ってくれ。しょーもない居酒屋に払う5000円やパチンコに使う5000円をたった1回ビフカツのために使ってくれさえすれば、日本最高峰のビフカツを体験できるのである。逆に安いくらいではないか!(ちょっと詭弁)。あのとろけるビフカツ……トンカツしか知らない東京の人にぜひとも食べてもらいたい味なのである。



文章:さとなお(satonao@satonao.com) イラスト:中村三奈(minasann@syd.odn.ne.jp)


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