2000年9月「うまいもの無差別級」


9月もノンジャンルでうまい店をご紹介。
1年半に渡ってお届けしてきたこの連載も今月でおしまい。東京転勤になってしまったので
仕方ないです。楽しみにしてくださっていた方々、すいません。メールもたくさんありがとう。



「梅市」  割烹:大阪・ミナミ

大阪市中央区東心斎橋1-6-3 ハイツ千年町2F/06-6243-9126/17〜22/日祝休
南警察署の小道向かい。

カッポー、カッポー

 こんなコラムを書いてるせいだろう、「オレだけに特別にうまい店を教えろ!」と知り合いからリクエスト(脅迫)を受けることはとても多い。また、東京の友人から「こんど関西に行くから、これぞ関西割烹(かっぽう)!とうなるような店を教えろ!」と頼まれる(すごまれる)ことも非常に多い。つーか、みんなずうずうしいぞ。いまや情報は産業の米なのだ。こちとら自腹でコツコツ開拓した情報をタダで教えているのだ。土産くらい持ってきなさい(→せこい!)。

 まぁ土産はいらんが「これぞ関西割烹!」っちゅうリクエストにはいつも悩む。そんな高い店にしょっちゅう行けるわけではないから比較検討しにくい。しかも、ココだけの話、たいしておいしくない店も多いのだ。プライドが高くて、敷居も高く、値段も高い、そしてマズイ…そんな店が多いのも事実なのである。

 まぁでもなー、関東人とかに関西の凄みのある薄味を味わわせてあげたいしなー。薄い味の中に舌を泳がせ、その奥に深い旨みを探し出した時のあの喜悦は、関東とかの濃い味では体験できないからねー。

 ミナミの「梅市」はそんなボクがたどり着いた関西割烹の名店。でも決して敷居は高くない。値段も、味を考えればリーズナブル。親父さんも女将さんも気さくで親切。で、味は抜群。うん、特にここの出汁(だし)には迫力を感じるな。ミクロ単位でピントがビシッと来ているのだ。せっかく関西にいるのなら(来るのなら)こういう薄味に驚愕してみるのはどうだろう? で、驚いたらお土産、よろ〜(せこい!)。



「のぢぎく」  おでん:神戸・三宮

神戸市中央区加納町3-14-16/078-221-2696/17〜23/土日祝休
山手幹線とフラワーロード(新神戸駅に向かうヤツ)の交差点近く。交差点の北西だ。

あの子誰やのん?(ちくわぶ)

 そもそも「おでん」とは何か。おでんとは「心を温めるもの」なのである。カラダを温めるだけではダメ。ハフハフ食べているうちに心までがほんわか温かくなるべき食べ物なのだ。だからボクは夏でもおでんをよく食べる。心がひゅるりら寒いとき、やっぱり「清酒におでん」が効くのである。大吟醸とかでなく安い清酒ね。なぜかむっくり心がよみがえる組み合わせなのだ。

 昨今、「お寒い」おでん屋が増えている。店主が伝統と人気にあぐらをかいていばっていたり、インテリアは小洒落(しゃれ)ているけどまるでくつろげずサービスもひどかったり、創作系のおでんを小皿にひとつずつ出してきて上品に食べないといけなかったり…。特にインテリアがモダン系のおでん屋は「安易」なところが多いぞ。おでんを「目先を変えたメニュー&簡単に作れて楽々」くらいにしか捉(とら)えていない。違うのだ。ダメなのだ。そういうおでんは心がぬくもらないのだ。悔い改めよ。喝!

 今回ご紹介する三宮の「のぢぎく」はそういう店の対極だ。その空間にいるだけで心がふわーっと温かくなる。いや、別に趣ある店内というわけではない。最大の要因はその家庭的サービスであろう。女将(おかみ)さんとその娘さんたちによる温かくも気さくなもてなしはまさに「心の熱燗(あつかん)」である。疲れがふんわりとれていく。気持ちがやんわりほぐれてく。

 熱いおでんが食道を熱しながら通り過ぎる。うまい。めちゃうまい。かなりのものだ。そしてそこに女将さんや娘さんたちの温かい笑顔が重なる。うん。これが「おでん」なのだ。うまいだけでもカラダが温まるだけでもダメなのだ。心まで温まらないといけないのだ。

 え?おでんにはまだ暑いって? いやいや晩夏のおでんはまた格別だ。だまされたと思って一度どうだろう。



「鯖街道 花折」  鯖寿司:京都・下鴨

京都市左京区下鴨宮崎町121/075-712-5245/9〜18/無休
下鴨神社の大きい道向かいにひっそりとある。

サバ・イバル

 なにを隠そう、鰺(あじ)・鯖(さば)・鰯(いわし)の光り物三大王に目がない。

 いや、彼らに目がないのではない。目はある。ボクがないのだ。いやボクにもある。ややこしいな。つまり好きで仕方がない、っつうわけですね。

 寿司屋に行ってもまず「光り物は何があります?」と聞く。小肌も大好物だが、活きのいい鰺・鯖・鰯があったりすると、ヘタするとそればかり食べている。光り物の握りを一通り食べて、白身と赤身と貝をちょいとつまみ、また光り物に帰ってハイお勘定!というわけである。

 トロやウニにあまり魅力を感じない性分なので安くすむのもいい。そう、ボクにとって「寿司屋は光り物」なのだ。光り物至上主義。まるで週末のミナミみたいである。

 そんなボクであるからして、棒状になったいわゆる「鯖寿司」にも目がない。いや鯖には目がある(もういいって)。鯖がおいしい時期になると京都までわざわざ食べに行くくらい好きなのである。

 え?どこに食べに行くかって? お教えしましょう。下鴨神社に程近い「鯖街道 花折」という小さなお店である。ここの鯖寿司はうまいぞー。まずぶっといのが良い。日本海の一本釣りの鯖を使っているせいで身が大きくしまっているのだ。舌だけでなく歯やアゴも喜ぶ、そんな鯖寿司だ。

 鯖は10月から2月がうまい。10月は秋鯖、2月は寒鯖。最もおいしいのは寒鯖で身が大きく脂がのっていてプリプリだ。これからが旬の秋鯖も脂がのって独特の風味だぞ。うー、いますぐ食べたい!

 東京からのお客さんとかにこれをお土産に渡すと非常に喜ばれる。ただその場合は新幹線で食べられるように一口サイズに切ってもらうおう。普段は切らずにどーんと入っているからね。



「天然鳥獣山菜魚 山女庵」  鳥獣料理:大阪・岸里

大阪市西成区岸里1-3-10/06-6657-2292/17〜23/日祝休
岸里の区役所のすぐ近く。

 突然だが、最終回である。

 というのも、東京に転勤になってしまったのだ。うぅ。東京にいながら関西のお店を自腹で開拓するのはちょっと無理。つうことで今回でこのコラムもおしまいです。1年半ありがとう! これからも毎月のように関西には来るので、その時開拓したお店はボクのホームページ(http://www.satonao.com/)で見てくださいね。

ひボタンばくっと

 そうそう、このコラムは11月中旬ころ、本になる予定です。出版社は「コスモの本」。価格未定。数百店プラスしてご紹介する上に、中村三奈さんのベタベタなイラストももちろん載るので是非! 自腹で買っても損しません!(ほんとか?)

 で、最終回のご紹介だー。えーとね、この店はね、ちょっと変わっている。なにしろ「鳥獣料理」が看板。天然の鳥獣、魚、山菜などを食べさせてくれるのだ。え?山の中の店かって? それが奥さん! 大阪は岸里の区役所すぐ近くですよ!

 その名も「山女庵(やまめあん)」。オヤジさん自ら鉄砲で撃ったイノシシの鍋(なべ)がオススメだが(冬場)、他にも天然ウナギの鍋やスッポン、野生のカモ、キジ、ヤマドリなどの鍋料理が楽しめる。10月ならキノコづくしの鍋(マツタケ、ホンシメジなど10〜13種のキノコに地鶏=じどり)が、お酒飲み放題で9000円で味わえるぞ。完全予約制だからオヤジさんに電話で相談して料理を選ぼう。小さい店だし野生の食材は手に入りにくいから予約制も仕方ないのだ。

 そう、岸里に深山あり。都会にいながらここまで野趣が味わえる店も少ない。鳥獣の新鮮さ、豪快さから考えるとかなりリーズナブルだしね。まさに自腹で満足!なのである。

 ちゅうことで、これでこの連載もおしまいだ。それではみなさん、またどこかでお会いしましょう!







文章:さとなお(satonao@satonao.com) イラスト:中村三奈(minasann@syd.odn.ne.jp)


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