2000年1月「たべごろ なべごろ」


さて2000年。
2000円ポッキリの食べ放題の店!とかの特集にしようかと思ったけど
そんなの2週くらいしか持たないのでやめました。
で、やっぱり真冬は鍋でしょう、ということで、鍋特集。
魚すき、ちゃんこ、うどんすき、水炊き、ふぐ、すっぽん・・・
いろいろあるけど、わりと変わったところをいくつかご紹介しようと思います。



「西玉水」  ハリハリ鍋:大阪・ミナミ

大阪市中央区島之内2-17-24/06-6211-6847/17〜23/日祝休
ミナミの宗右衛門町筋を心斎橋から東へ。堺筋を越えてなおまっすぐ行くと右側にある。

あっと驚く たべごろー

 「コタツな冬」が絶滅寸前である。コタツでミカンというだれでも思いうかべる典型的な冬の姿はすでに絶滅しかかっている。エアコンのきいたマンションの一室でイスに座って紅茶でも飲む、みたいのが一般的冬の姿になりつつあるのだ。うーん、どんどん季節感・日本感がなくなっていくなぁ。

 「コタツな冬」の衰退にともなって、コタツで鍋も絶滅の危機にある。そう、鍋はコタツが似合うのだ。寒い部屋で盛大に湯気を立てながらメガネ曇らせてハフハフ食べる。雑炊にたどり着くころはもうコタツですら暑くって足を外にほっぽり出して涼んだりする。あぁこんな図も日本の家庭から消えてしまう運命なのか…。

 さて、コタツより先に日本の家庭からほとんど姿を消してしまった鍋がある。それは「ハリハリ鍋」という鯨の鍋。もちろん鯨肉自体が手に入りにくくなったからなんだけど、大阪では昔非常にポピュラーな家庭料理だったのだ。鯨と一緒に入れる水菜が、食べるとき「ハリハリ」と音を出すからハリハリ鍋。いまやほとんど専門店でしか生き残っていない。実に寂しい。

 ここ「西玉水」は大阪で一番古く、そしてたぶん一番うまいハリハリ鍋の店だ。ナガスクジラの尾の身しか使わないその鍋を初めて食べた時の驚きは今でも忘れられない。これって鯨? ホントに鯨? 最高級の牛肉やトロと間違ってない!? う、う、うまい!

 大阪の冬の代表料理だったハリハリ鍋。絶滅しきっちゃう前にぜひぜひ!



「楽」  ひね鍋:兵庫・夙川

兵庫県西宮市木津山町11-11 クオーターバレル2F/0798-71-5341/17〜24(日祝は〜23)/火休
阪急苦楽園口から歩くならちょっと遠いが駅前の大きな道を西へ10分ほど歩き、右に「一松一」というお好み焼き屋さんがある角を左折。また10分ほど歩くとわりと大きめな四つ角がある。その手前左角のビルの2階。(説明下手すぎ)

ひね鍋、食べな、ねひ!

 キミはナベハイを知っているか。いや、どれだけ鍋を食べられるかを競う鍋杯じゃなくて、鍋ハイ。ほら、よくランナーズ・ハイとか言うでしょ。マラソン走っているうちに気持ちよくなる状態のこと。あれに近いものが鍋にもあると思うのだ。盛りだくさんだが種類はそんなにない鍋の具をひたすら食べ続けるうちに訪れる快感な瞬間…それが鍋ハイなのである。

 だってさ、マラソンもある意味単調なように、よく考えたら鍋も単調だよね。だんだんダシが出て汁自体の味は微妙に変わっていくが、いったん食べ始めたら基本的に同じ味、同じ具。でもひたすらそれらを食べているうちに脳内に「あー、人生これでいいのだー」的物質がほんわかと出てくる。頭がすっきりし、ストレスがどこかへ飛ぶ。凝った料理がいろいろ出てくる食事よりこういうドバッとしたシンプルさこそ大切なのだ! という確信が心にわきあがってくる。これぞ鍋ハイ!

 ただし。マラソンを単調で苦手という人がいるように、鍋のそんなシンプルさを「飽きる」と表現する人もいる。それもわかる。そういう人には鍋を中心にやっている店より、ほかのものが中心だけど鍋もうまい、という店がいい。ここ夙川の「」もそういう一店。基本的には焼き鳥の店。出す焼き鳥は阪神間でもトップの出来。播州産の比内鶏の炭焼きは歯ごたえがあり香りに満ち実にうまい。そしてここの「ひね鍋」(比内がなまって、ひね)がまたオススメだ。胸肉の薄切りをしゃぶしゃぶで食べた後、野菜と一緒に鍋にする。それを楽しみつつ背ぎもだのつくねだのを焼いてもらって食べる。いいなぁ。ぜいたくだなぁ。焼酎(しょうちゅう)の品ぞろえも立派だから鍋ハイ&酎ハイも楽しい。そう、人生これでいいのだ。 



「ファン ド ジェリィ」  チーズ・フォンデュ:兵庫・六甲アイランド

神戸市東灘区向洋町中5-15 リバーモールウエスト2F/078-857-7494/11.30〜14/17〜22/木休
六甲アイランドの中央あたりにあるモールの中の2階。自社輸入チーズを小売りしているジェリィーズ・デリは1階にある。

チーズでおじや(ゃ)!

 相変わらず外国の食文化をバシバシ受け入れているわが日本。家庭でも各国様々な料理がテーブルに並ぶ。白いご飯・みそ汁の横に、ギョーザや麻婆豆腐、キムチの小皿。魚のムニエルにサラダがあると思えば、ひじきや筑前煮、コロッケも並ぶ。子供にはハンバーグにスパゲティ…いったいどこの国の食卓なのだ!

 このように、ある意味進取の気性に富んだ日本の食文化なのだが、意外と鍋(なべ)に関しては保守的だ。昔ながらの水炊きや魚すきが家庭鍋の主流を占めている。例えばタイすきやチゲ鍋をする家がどのくらいあるだろう。スイスのチーズ鍋であるチーズ・フォンデュだってその例に漏れない。冬の寒い日のチーズフォンデュなど水炊きと同じくらいは温まり、栄養的にもすぐれた鍋なのだが家庭普及率は非常に低い。こんなにうまい鍋なのに。

 六甲アイランドの「ファン ド ジェリィ」はチーズ料理店。チーズの小売店も経営しているだけあって使っているチーズの質は最高。そしてここのチーズフォンデュがまたいいのだ。チーズって国や地方ごとにいろいろ種類があるんだけど、ここではその国や地方ごとに溶かすチーズを変えてくれる。例えばサヴォアと名付けられたフォンデュはフランスのサヴォア地方特産のチーズで作ってくれる。甘みと酸味と苦みが程良くブレンドされて非常に印象的。チーズの魅力、ここにあり!

 この店のフォンデュがいかにも鍋っぽいのは、最後におじやをしてくれること。少なくなったチーズに溶き卵とパンを入れて混ぜるのだ。これがトロトロのホコホコのフハフハで、想像以上にうまいのだ。この店に行ってやり方をつかんで、ぜひ家庭でも一度お試しあれ。うまいぞー。



「小川下(こかげ)」  草鍋:大阪・九条

大阪市西区九条1-16-13/06-6582-2750/17〜21/毎月第3月〜木休
九条駅の西南。うーん、説明しにくいな。九条駅の西南徒歩3分くらい。住所を見て探してください。

草鍋つよし

 以前タニマチだったことがある。タニマチ、つまり大相撲のスポンサー(ちなみに大阪の谷町が語源)。実体は、ある相撲部屋の後援会の一番安い会員だっただけなんだけどね。毎年大阪場所になると喜んで朝稽古を見学しに行ったものだ。でも、なんといっても一番の楽しみはちゃんこ鍋。会員は稽古を見たあと親方と一緒にちゃんこが食べられるのだ。すごいぞー、相撲部屋のちゃんこ鍋。ちゃぶ台にはぐつぐつ煮えた巨大な鍋と各自の前に丼ふたつ。ひとつでちゃんこを食べ、もうひとつでビールを飲む。そう、丼ビール。しかも、ちゃんこ番の力士はふろも入らずボクたちの横にべたっと張り付き、少しでもビールが減ると「ごっつぁんです」と言いながらドボドボついでくれる。タニマチ気分、ここに極まる!

 ちゃんこ鍋自体は具も味付けもその日によって違う、ほとんどなんでもありのやみ鍋状態。でっかい鍋で調理するから無差別に放り込んでもなんだかおいしくなるんだよね。でも相撲部屋で力士を給仕に親方と本当のちゃんこ鍋を一度食べちゃうと、店でお金を払って食べるのがばからしくなるのもわかるでしょ? 特徴あるちゃんこ鍋じゃないと、なんだか満足しないカラダになってしまったのだ。

 ここ「小川下(こかげ)」のちゃんこは通称「草鍋」と呼ばれている。ニラ、もやし、白菜などの野菜を中心とした個性的なちゃんこ鍋。中国の鍋をヒントに作ったというそれはかつおダシで、あっさりさっぱり滋味あふれるのだ。シャクシャクモガモガ、ひたすら野菜を食べているうちに噴き出てくる汗。うーん、ここのちゃんこ鍋ならタニマチ出身なボクでも大満足なのだ!(一番安い会員だったくせに)。 



文章:さとなお(satonao@satonao.com) イラスト:中村三奈(minasann@syd.odn.ne.jp)


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