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さぬきうどんをCHAIN EATING! 〜怒濤篇2

この紀行文は1997年(まだブーム前)にさぬきうどんを求めて家族で香川を彷徨った様子を長々と書きつづったもので、翌年に「うまひゃひゃさぬきうどん」という題名で出版された元原稿でもあります。四部構成になっていて、このページは【怒濤篇】のその2です。

【立志篇】12
【風雲篇】1234
【怒濤篇】123
【回天篇】1234





……コホン。

ちょっと取り乱してしまってスマン。
気を取り直して先に進むことにしよう。



でもね、本当においしいの。
口中全体を刺激してくるあの快感はなんとも言いがたいもの。

優子もああやって冷静を気取ってはいるが、本当は小躍りしていたのである。

「ベストだわね」
「こんなんだったらなんぼでも食べれるな」
「たんぼでも食べれるわ」
「サンボでも食べれる」
「とんぼでも食べれる」
「マンボでも食べれる
           ………ウ〜〜〜〜ウッ♪


ってマンボを小躍りしていたのである。

 


まぁ『恐るべき』も麺聖も、「山越」の味が変わらないことを祈っているが、ボクだって優子だって地にオデコすりすり祈ってしまうよ。
香川県は「山越」を無形文化財とするべきである。早急に。
あ、でもそんなことしたら味が変わってしまうよなぁ……難しいもんだ。

 

■「谷川米穀店」〜主食の身代金〜


ということで、「山越」をボクらは後にした。次は「谷川米穀店」である。

「山越」にはかなり後ろ髪引かれた。おかわりがしたい。もっとココで食べていたい。が、さぬきうどんの本質を理解した(ような気がしている)いま、いろんな店の麺を試してみたくてしょうがなくなっているのも確か。
どんどん数をこなしたい気分なのだ。

ちなみに「釜玉」という釜揚げに生卵を入れてぐにゅぐにゅにしたメニューも山越では絶賛されている。 麺の「口中全身マッサージ」を卵のニュルニュルが助けるという秀逸なメニューだ。お出かけの際はこれもお試しください。

さて、谷川米穀店。
ココへの道はわかりやすいのだが、この旅行で一番道に迷ったのもここである。

山越からの道を説明すると、そのまま小学校を左に見て来た方と反対の方の山道を行く。ずっと行ったところの二又を左に行き、しばらく行くと県道17号線に出るのでそれを右。ちょっと行ったら国道438号線に出るのでそれを左。ここらは琴南町である。この国道は坂出市から琴平市をかすってのびている道なので坂出からまっすぐ来てもわかりやすい。
で、438号線を川(土器川)沿いに南に(上流に)行くのだ。

ここまではなんてことなかったのだが、とにかく迷った。川沿いにあるのである。が、看板も何も出ていないし、え?って言うほど上流にあるのである。琴南町川東1490という住所なのだが、川東という集落が長くだらだら続くのでよくわからないのだ。

じゃぁ誰かに道を聞けよ、ということなのだが、なんとなくそれも恥ずかしくて…
散々行ったり来たりして迷った末、しょうがないのでそこらに歩いている人に聞いた。

ら、

「すいませ〜ん、うど……」
「あ、もっと上流」

うひ〜〜!
尋ねられ慣れ!
谷川米穀店、大有名!



ヒントは落合橋。そういう名前の橋が出るまで小学校も郵便局も越えて迷わず走るべし。
橋を渡ったところに信号があるからそこを左に折れてみてください。すぐの川沿いに写真のような普通の家がある。そこが谷川米穀店である。
ちなみにごく近くまで行くと「※」と米屋のマークがあるのだが、ホントに近くまで行かないとこのマークは見えない。だから目印にはならない。


「ねぇ、なんで米屋がうどん屋やっているのかしら」
「うーん……
 この店、11時から13時までの2時間しかうどんやってないらしいから、
 要は副業、なんだろうなぁ」


米と、うどん…
正業が米で、副業がうどん…


谷川米穀店、あなどりがたし!
実に、この店、香川県の主食であるさぬきうどんと日本人の主食であるお米を両方押さえているのである。


ここらへんに住んでいる人は谷川米穀店に逆らえない。
なにしろ主食をふたつも押さえられている。


ほとんど身代金を取られているのと同じではないか!!



 「ばぁさんよ、明日の昼飯はパンがええなぁ」
 「ダメよ、そんな大声だしたら! 谷川さんに聞こえちゃうじゃないの!」
 「そっか、アソコににらまれたら、明日から米もうどんも食えないもんな」
 「でしょ、だから明日もうどんよ」



んん〜〜〜!!
ひょっとして琴南町川東地区は日本で一番パンを食べないところ?!




んなわけない(と思う)けど、谷川米穀店の昼飯は異様に混んでいた。

狭い店内は満席。
地元客ばかりのようだ。

こころなしか皆、ちょっと緊張して食べているような…なにしろ身代金を取られているからなぁ。

見慣れない顔のボク達夫婦はやたらジロジロ見られてしまった。
それともあれは「助けてくれ!わしらを救ってくれ!」という眼差しだったのか?!


「ごめん、にいちゃん、そこらに立って食べるかい?」

おお、このおばちゃんが、ここらへんの主食を握っている実力者か。

「は、はい、そうします」
「温かいん? 冷たいん?」
「はい、ボクは冷たいのをいただきます」
「私は温かいのをいただきます」

なんとなく丁寧語になりつつ、注文をする。

この店はだしを置いていない。
温かい麺か冷たい麺にしょうゆをかけて食べるのだ。 まぁ「副業」という制約の中で、だしを作っている暇がないのだろう。 もともと「だしなんかいらない派」のボクは全く気にならないが。


さて、さぬきうどんを見切った(つもりの)ボクとしては、麺の固さはともかく、まず麺の表面のつるつる具合が気になるところ。

山越よりもちょっと細目の麺。
エッジは異様に鋭角。そして表面は…

山越ほどのピカピカさはないが、非常に色白で美しい。


色の白いは七難隠す、などと言われているが、この白さは黄色人種のそれではない。

まさにカリフォルニア・ガール(注:白人系)!!!

だからと言って肌がかさつき気味(完全に偏見)というわけではない。
適度なぬめりが表面にある。

ズズ、っとひと口。


 ♪ I wish they all could be California Girl



こんな日本的な風景の中でデイビッド・リー・ロスの歌(なぜかビーチ・ボーイズではない)が頭の中で響き渡るとは思わなかったぜ!

その白い麺は一見女性的な柔らかさで迫ってくるが、歯が侵入するにしたがって見事な抵抗を見せる。くぬやろ〜、とばかりに噛み切りにいくと意外に気丈な一面を見せ、しっかり押し戻してくる。こんなに細いくせによくぞ、と褒めたたえたくなるような、細腕繁盛記的うどんなのだ(古すぎ)。

全体にわりと直線的であり、口の中で曲がりくねって逃げることはしない。
ニュアンスとかサリゲナサではない、直線的なる刺激を与えてくれるのである。 ストレートな愛情を、口の中に惜しげもなく与えてくれるのである。

「そこらへんがカリフォルニア・ガールなわけね」
「いかにも」
「かなり、こじつけね」
「たこにも」

しっかし、さすがにこのあたりの主食を握っているだけのことはある。
かなり、うまい。
優子に至っては「私、山越よりこっちの方が好きかもしれない」と言っている。

ボクは山越の方が上だと思う。
山越の方が、麺の固さという「歯的快感」が強く、そして口の中を麺が逃げ回る快感もはるかに上である。

が、優子が頼んだ「温かいの」をひと口もらって優子の言うことも理解した。
温かい方が麺の硬直的直線さが和らぎ、より滑らかで気持ちよい口中全身マッサージになっているのだ。麺の固さも冷たいのに比べて遜色無く、こちらの方が総合的に快感が大きい。

なるほど、谷川米穀店は「温かいの」のほうが、うまいかも。


うーん、一口にうどんと言っても千差万別だなぁ。
いまさらながらにさぬきうどんの奥の深さに嘆息するのであった。

 

■「山内」〜舌がおごったせいなのか〜


おお、書き忘れるところであった。

谷川米穀店には自家製の青唐の薬味がある。
これが激うまなので、それをちょこっと入れて食べること。
ちょこっとであるよ。多く入れると唇が腫れます。辛すぎ。うどんの味がわからなくなるであろう。



さて。
琴南町川東近辺の主食をしかと握っている谷川米穀店は、結果的に「山越」と並び称される栄誉を我が家では獲得したのであるが、それはまさにダークホース的であった。
ボクも優子も全く期待をしていなかったのである。
が、次に訪れる予定の「山内」は、期待がまさに宇宙ほどに膨れ上がっている山奥の製麺所。
『恐るべき』の山内の項の冒頭にはこう書いてある。


麺通団顧問のH氏(42才・某社の営業室長)が、とんでもない店を発見したと報告してきた。
「俺な、たいがい怪しい店行ってきたけど、あんなすごいとこにある店は知らんわ。仲南の山の中や。道路からは絶対見えん。建物自体が見えん。山しか見えん。」
と言ったあと、しばらく考え込んだH氏はこう言った。
「営業する気あるんやろか。」
<中略>
「ちょっと、どんな店なんですか。」
「とにかくすごい。あれは見つからんで。」
「いや、それはええですから、うどんの味とか・・・」
「うどんか? うまい。 けどあれはわからんとこにある。」
「わかりました。いっぺん行ってきますのでほな道順教えてください。」
「とにかく山の中や。見えん。もういっぺん行け言われても行けんわ。ひょっとしたらもうないんちゃうか?」
私は一瞬"タヌキが経営してるのか"と思ったが、そんなこともまさかあるまい。しかしあまりにも情報が少なすぎるので、そのまま行けずじまいで時は過ぎていった。


そう、まずシチュエーションがすごすぎる(らしい)。
そしてそのさぬきうどんもかなり、かなりうまいらしい。
高松市内でいちばんうまいと言われる「あたりや」の主人はここ「山内」で修行した人らしい。
などなど。
とにかく期待十分。
我々は谷川米穀店に仕切られている可哀想な(いや、あのうどんなら幸せと言うべきか)谷あいの集落をあとに、胸ワクワクで山内に向ったのであった。


谷川米穀店からは国道438号を下流に引き返す。途中抜け道もあるが、とにかく県道197号に出るまでまっすぐ行ってそれを左折するのが迷わなくていい。
ここらへんは満濃町。「小縣家」やあした行くはずの「長田」はもう目と鼻の先である。で、県道197号からはずれずにずっと南下するのだが、JR土讃本線が左側に並走してくる。地図を見ている方は多度郡仲南町に土讃本線と並走している道を見つけるのが早い。それが県道197号線だ。
あらかじめ『恐るべき』ですごいシチュエーションらしいという事前情報を与えられていた我々であるが、それでもチト、不安になってきた。

「本当にこの道だろうか」
「本では逆から来る道が書いてあるからちょっと自信がないわ」
「でも、見渡す限り、山と畑と線路しか見えんぞ」

そうなのである。
人が住んでいない。
いくら香川県の主食であっても、人が住まないところに店を開いてもしょうがないであろう(まぁ製麺所なのだろうが)。


と。


「え・・・あれ?」
「ん・・・あれ?・・・あれほれひれはれ〜〜〜!」



線路の向こうに小さく「うどん」と書いた看板がポツンとあったのである。

人家が見えん。
看板しかない。
すぐ山である。
屋根すら見えない。
一応、踏み切りはある。なかったら線路を渡れない。
「香川県森林センター」と標識が出ている踏切を渡って、看板をたどっていくと、「山内うどん この上100m」という看板を見つける。

この上?
空を見上げるが店はない(あたりまえじゃ!)。

わきに坂道らしきものがあり、車が一台やっと通れるくらいの山道がクネクネと上に続いていた。
昼でも暗い、木のトンネルだ。まぁでもとりあえず上ろう。

そして。
Uターン出来なかったらバックでこの坂を戻るのか、ちょっと大変そうだなぁ・・・と思いはじめた時、そこに「山内」が忽然と現れたのである。


なんだか佐藤さとるの名作「だれも知らない小さな国」の中の「小山が隠していた奇妙な三角の平地を見つけた主人公の気持ち」を思い出してしまうような唐突さ。
確かに「営業する気あるんやろか。」のシチュエーションなのであった。

木を切り開いて確保したと思われるその敷地は、思ったより広い。駐車も10台くらいは余裕な敷地の真ん中にトタン造りの質素な山内があった。バラックと言ってもいい。
先客は5人ほど。
昭和初期から時が止まったような内装をながめつつ、カウンターでにこやかにしているおばちゃんに冷たいのの小を頼む。だいぶセルフにも慣れてきた自分が頼もしいぞ。お、200円。高いなぁ。山越や谷川の倍だ。やはり山奥だけあって客が少ないのだろうか。
でも『恐るべき』が出て以来ものすごく混んでいるとは聞いていたのだが・・・

出汁はすでにかかっている。置いてあるネギをかけて、さて、まず見た目を鑑賞する。
おや? ちょっとエッジが立っていないし、かなり太い。
麺は気持ち縮れが感じられる。
箸でつまむと、田村みたいな重量感。
表面のピカピカ感が少ないし、麺が生成色だ。

なんだかいままで食べたのとは違ううどんの印象。

で、ひと口。ズズズ。




・・・うーむ。




山越、谷川で舌がおごったせいだろうか、うまいのだが、感心はしない。
麺は、固い。歯がゴチっとあたり、なかなか食い込ませてくれない。で、歯が食い込んだ瞬間にしっかり押し戻してくる。粘りもたいしたものだ。歯的快感はなかなかである。
が。
口中総合で判断すると、なにより麺が口の中で暴れない。重すぎるのだ。そしてツルツルピカピカであるべき表面のぬめりがない分、ちょっとぼそぼそと感じられるのが残念。それに、出汁がしょっぱいぃ!!


「おいしいけど、うれしくないわね」
「異議なし。なんというか・・・
 歯にはおいしいんだけど、それだけなんだよね」
「やっぱりつるつるさが足りないのかしら」
「うん。多分。そして、麺が重すぎる気がする」


なんとなく自分の中で出来かけている「理想のさぬきうどん像」からはちょっとはずれるうどんであったわけですね。(注:その後再訪した時は、驚きのうまさだった)

でも、ここの真骨頂は、そのシチュエーションで客を驚かせてしまうこと。
「美食とは驚きである」とすると、この店は入店段階でそのハードルを軽く越しているのである(ちょっと驚かし方が違うが)。


さて。
では、「宮武」に向かおう。
噂では「自称・宮武評論家」がいるくらい、香川では重要なうどん屋らしい。
そこにはどんな麺が我々を待ち受けているのか・・・

食べれば食べるほど、さぬきうどんに対する興味がつのる、我々なのであった。


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