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村上春樹

LV5「ロング・グッドバイ」

レイモンド・チャンドラー著/村上春樹訳/早川書房/2000円

ロング・グッドバイ
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20数年ぶりにチャンドラーを再読した。しかも村上春樹の新訳。ノーベル文学賞に一番近い日本人作家と言われる彼がこうして様々な海外文学を翻訳して出版してくれる幸せをまずは感謝したい。日本人はとても恵まれている。

清水俊二訳の「長いお別れ」(実は抄訳だったらしい)を読んだのは高校の時だったか。わかったふりをしていたが実はよくわかっていなかったと思う。今回熟読してみてこの本が名作と言われる理由がすんなりわかった。やっぱある程度の年齢は必要なんだなぁ。歳とることも悪くない。

というか、何人もの人が指摘しているが、村上春樹の「羊をめぐる冒険」って「ロング・グッドバイ」へのオマージュだったんだと初めてわかった。ストーリーだけでなく、登場人物の似通い方が尋常ではない。訳者あとがきでも彼は影響を認めているが、わざわざ自ら訳してそこを明かしてくるのか、と、この作品への愛の深さに打たれたくらいである。そう、それと「ロング・グッドバイ」と「グレート・ギャツビー」は同じ話であったことも初めてわかった。ちょうど村上春樹訳の「グレート・ギャツビー」を読もうとしているところなので、実に刺激的。この素晴らしい三作の連関性をゆっくり掘り下げて遊ぶだけで1年くらいは暇つぶしが出来そうなくらい。

ちなみに、素晴らしい訳だとは思ったが、会話の部分で違和感があったところも多かった。特に「でしたました調」のところ。会話のリズムが壊れ、キャラまで壊れている気がする。どうなんだろう。

2007年05月05日(土) 18:07:48・リンク用URL

ジャンル:小説(海外) , ミステリー

LV2「バースデイ・ストーリー」

村上春樹編訳/中央公論新社/1600円

バースデイ・ストーリーズ
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バースデイにまつわる10の海外短編を村上春樹が選び、訳した本。最後に村上春樹の「バースデイ・ガール」という短編も収録されている。

収録された短編は、レイモンド・カーヴァーのものをはじめ、ポール・セロー、イーサン・ケイニンなどの有名どころから、訳者ならではのセレクトによる現代アメリカ作家を含み、なかなか魅力的なラインナップ。訳者ファンならずとも、読んでみたくなるアンソロジーだろう。

と、紹介したうえで乱暴に決めつけてみたい。
この本は冒頭のラッセル・バンクスが書いた「ムーア人」のみでいい。これを読むためだけに買う価値があるとボクは思う。でも他の短編は……どうかなぁ。あんまりピンと来ないなぁという印象。この手のアンソロジーは好きだし、読者層の開拓にもつながるし、企画としてとても良いとは思うが、もうちょっとレベルを揃えて欲しい感じ。もしくはボクが読みとれてないのかな。

2003年09月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV2「翻訳夜話2 サリンジャー戦記」

村上春樹・柴田元幸著/文春新書/740円

翻訳夜話2 サリンジャー戦記
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うーん。前作の「翻訳夜話」でお腹いっぱいかな、ボク的には。あっちの方が数倍面白かったし、知的興奮があった。

今回は「サリンジャー戦記」ということで、村上春樹が訳した「キャッチャー・イン・ザ・ライ」の訳出裏話になっているのだが(他にもサービス原稿いっぱいなのだが)、なんだか(厳しく言えば)言い訳と苦労話と自慢が感じられてちょっと鼻についてしまった。著者は両者ともに尊敬しているボクだが、これは蛇足だったのではないかなぁ。「キャッチャー」に(著者との契約で)訳者あとがきを載せられなかった村上春樹が、せっかく書いた原稿の行き場を作りたくて対談もつけてしまった、みたいな見方すらしてしまうボク…。

もちろんサリンジャーマニアなボクだし、著者両者ともに好きなので、内容自体を楽しまなかったかと言われるとウソになる。
あぁこういうことだったのか、とか、なるほどなるほどー、とか、でもさぁ、とか、いっぱいあって十二分に楽しんだ。でもね、やっぱ蛇足だと思うのです。柴田元幸も、村上春樹を前にすると妙に軽薄でイヤ(笑)。つか、好きな素材が揃いすぎていて、なんか気分的に天の邪鬼になってしまったかも。そんな複雑な気分デス。

2003年09月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:評論 , エッセイ

LV3「キャッチャー・イン・ザ・ライ」

J・D・サリンジャー著/村上春樹訳/白水社/1600円

キャッチャー・イン・ザ・ライ
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村上春樹訳のライ麦畑。
サリンジャーマニアだった大学時代を持つボクとしては見逃せない企画。というか2000年11月に読んだ「翻訳夜話」の中で予告はされていたので、じぃっと息を潜めて待っていた感じである。やっと出た出た。

読むにあたって、野崎孝訳の本も本棚から出してきて読み比べたりした。
最大の興味は、一世を風靡した「インチキ」を村上がどう訳しているかだったが、やっぱり「インチキ」だった(笑)。これにはちょっとこけたが、あとは村上特有の言い回し(やれやれ、とか)が多用されていたり、現代風に読みやすくなっていたり、訳も時代によって変えていくことにちゃんと意味があるのだなぁと実感。つか、改めて読んだ野崎訳がめちゃくちゃ古びていたことにビックリした。言葉は生き物だなぁ。

それと、敢えて言えば、題名を新訳してほしかった気持ちはある。そのまんまかよ、と。「つかまえて」という題名を訳としてどうなのだろうと思い続けて四半世紀。村上春樹なりに答えを出してほしかった。

2003年05月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV5「海辺のカフカ」

村上春樹著/新潮社/上下各1600円

海辺のカフカ〈上〉
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変な話、ちょっと「村上春樹のさだまさし化」を感じた。
さだまさしは途中から「もっと直接的に言わないと伝わらない」と焦ってしまったところがあって、いままで周辺状況を丹念に描くことで伝えてきた主題を、直接歌詞に乗せて歌いはじめた。個人的にそれからの彼をあまり好きになれないのだが、村上春樹もそうならなければいいな、とちょっと感じる。そう。村上春樹はもっと直接的に言うことに決めたのだと思う。それは、「アンダーグラウンド」以来現実とより深くコミットし始めた著者にとって、必然の成り行きだったのかもしれない。

例によって出来の良い寓話が入り組んで、奥の深い世界を構成している。その寓話(および隠喩)が何を指しているかがいままでよりもより直接的にわかりやすいように書かれている。そんなに種明かししちゃっちゃつまらないです、と訴えたくなるくらい。要所要所に違和感や異化を入れ込んだり(あまりに世慣れした15歳とか)、いままでになく時事的リアリティを入れ込んだり(街やテレビ番組の描写とか)、大筋に関係ない描写で読者を煙に巻いたり(フェミニストとの議論とか)、いろいろと著者の煙巻き(?)は感じるのだが、全体的にはこれまでの著作にないくらい直線的にイイタイコトに収束していく。
その寓話の設定と収束の仕方はさすがに見事で、これだけをとっても傑出した小説と呼べるだろう。ただ、いつもより「より説明的だ」ということだ。例えばジョニ・ウォーカーやカーネル・サンダースだってメタファーとしては実にわかりやすい。いままでならそこらへんをちゃんと謎っぽくしていたのだが。

主題はいままで彼が繰り返し語ってきた範囲を出ていない。著者をずっと追ってきた読者なら「またこれか」と思うだろう(同時に安心もするのだが)。でも今回はもう一歩踏み込んで「メッセージ」としているのが違うところ。また、ふたつの物語が交差していく構成は「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」と同じ。ただし、「世界の終わり…」は暗示としての交差だったのに、今回はリアルに交差する。こここそ、現実にコミットした村上春樹が変化した部分だと思う。

物語作家として、世の中にメタファーを提示する以上の役割を明確に意識し始めた村上春樹。たぶん次作で超寓話的物語を出してはぐらかし、その後「海辺のカフカ」よりも強い直接的メッセージを持つ物語を提示してくるのではないかな、とちょっと予想(笑

2002年10月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「Sydney !」

村上春樹/文藝春秋/1619円

シドニー!
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村上春樹によるシドニーオリンピック観戦記である。
いや、観戦記というよりシドニー街紀行の趣の方が強い。ちゅうかシドニー滞在日記、かな。その滞在期間中にたまたまオリンピックがあった、みたいな距離感で書かれている。その距離感がボクには心地よかった。オリンピック賛歌にしてないし、熱くもなっていないし、無理矢理感動もしていない。
著者自身告白しているが「オリンピックは退屈である」という認識が原点になっているので(共感するなぁ)、作家の好奇心は当然別のところへ広がる。コアラや食べ物や潜水艦やオーストラリアの歴史へ。その辺の広がりをそのまま書いていることが実にいい効果を上げている。そして、ある感動的な出来事によりシドニーの街(オーストラリア人の意識)が変質化していく様の捉え方は、「アンダーグラウンド」以来醸成され続けてきた彼の主題に近いせいなのか、ちゃんと深く掘り下げてあって面白かった。

導入部と〆の部分もとっても良い。これらがあったからこの本は「作品」になったのだと思う。オリンピック選手という「オリンピックを最大の非日常」と置いている人たちの描写で、「オリンピックは退屈な日常」と思っている著者の日記を挟み込む、というその構成。それによって、この本は単なる日記と違う緊張感を得ている。
全体に軽妙でいいテンポ。習作的比喩の多用が作家の日常の努力をかいま見るようで興味深い。それにしてもあれからたった半年なのに、もうすでにずいぶん遠い昔みたいだね、シドニー五輪。

2001年03月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル: , スポーツ , エッセイ

LV5「翻訳夜話」

村上春樹・柴田元幸著/文春新書/740円

翻訳夜話
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素晴らしい企画。本屋でこれを見つけたときは目をむいたぜ。
なにせ村上春樹と柴田元幸が翻訳について語るのである。そのうえ村上がオースターを、柴田がカーヴァーを訳して対比させて、そしてそれをテキストにしてまた語り合うのである。うーむ。なんちゅう気の効いた企画なんだ!!

彼らの翻訳手法の対談は、同時に優れた文章談義になっており、また小説表現の秘密にまで踏み込まれている。このところ翻訳論みたいな本がいろいろ出ていたが(今月もそういう本を一冊読んだが)、納得したという面でこの本を越えるものはなかなかないだろう。つうか、たぶん「名手による経験談」かつ「平明シンプルな語り口」が効いているんだろうな。青山南も加えて三人で話したらまた違った展開だったろうなぁ。そういう対談も読んでみたい。

翻訳で本の内容が変わってくることにボクが気がついたのはディネーセンの「アフリカ農場」を違う翻訳で読み比べた経験から。
それ以来特に翻訳には注意を払っているが、村上と柴田の対訳を読んでみて「これほどまでに違ってくるんだな」と驚愕。だって同じ小説がまるで違う趣になるんだよ。比較的文体が近いふたりなのに。参ったな。そういう驚きを得るだけでも価値ある本。

2000年11月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:対談 , 評論

LV3「そうだ、村上さんに聞いてみよう」

村上春樹著・安西水丸絵/朝日新聞社/940円

「そうだ、村上さんに聞いてみよう」と世間の人々が村上春樹にとりあえずぶっつける282の大疑問に果たして村上さんはちゃんと答えられるのか?
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副題が「と世間の人々が村上春樹にとりあえずぶっつける282の大疑問に果たして村上さんはちゃんと答えられるのか?」という長いもの。まぁ内容はそういうことです、はい。

村上朝日堂のホームページに寄せられた読者からの質問に著者が丁寧に答えていったもので、その質問は多岐に渡る。じゃー村上ファンしか面白くないかと言われれば、それはそうなのだが、答えが丁寧なのでファンじゃない人も「なるほどねー」的納得は随所にあるだろう。まぁ端的に言って、ボクにはとても面白かった。創作に秘密にもずいぶん答えているしね。「なるほどねー」的納得感がボクにはとてもあったのである。

ちなみに村上朝日堂のホームページは以前愛読していたが(いまは著者による更新は終了している)、さぬきうどんの話題もいっぱいあって、その中で読者のひとりが「さとなおのページのさぬきうどん紀行が面白い」と村上さんに推薦してくれていて、ボクはドキドキと村上さんのそれに対する返事を待ったのだけど(数%の確率で公開返事として掲載されるのです)、それには無反応だったな。ま、当たり前か。そんなことを唐突に思いだした(笑)

2000年09月01日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV5「月曜日は最悪だとみんなは言うけれど」

村上春樹編・訳/中央公論新社/1800円

月曜日は最悪だとみんなは言うけれど
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著者は熱心な「アメリカ文学ウォッチャー」である。その著者がいままで面白いと思ってアメリカの雑誌からスクラップしたいろいろなコラム、文章、短編、を親切丁寧に我々に提示してくれた一冊。

著者の「文学への視線」がこの本の雑多な文章を結びつけていて、そしてその視線はどの作家に対しても非常に「フェア」である。それが気持ちがいい(このフェアというスタンスは著者のあらゆる著作に通底するコンセプトだ)。例えば、こういう本は著者がその熱狂を語ってしまって読者を置き去りにすることになりがちだ。だが、読者に対してもフェアである村上春樹はそれを全くしない。これがなかなかに難しいのだ。それを著者はさりげなくやりおおせている。うーむ・・・。我々読者は、村上春樹という「アメリカ文学ソムリエ」を持っていることをシアワセに思うべきだろう。いやホント。

レイモンド・カーヴァーの話題で半分くらい取られているから彼の短編を読んだことない人にはつまらないかもしれない。が、読んだことある人なら「文学の成り立ち」を含めていろいろ考えさせられる。カーヴァー・ファンにもオススメの一冊。なお、はっきり言って題名は悪い。あまりに内容がわかりにくい。

2000年07月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外) , 評論

LV5「神の子どもたちはみな踊る」

村上春樹著/新潮社/1300円

神の子どもたちはみな踊る
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とっても完成された短編6編。
共通するモチーフは阪神大震災である。そういう意味では「連作小説」になるのだろう。

わけわかんねぇよ、って読後感の方もいらっしゃるかもしれないが、ボクは非常にしっくりきた。それは阪神大震災による「喪失」を体験したという個人的環境も手伝っているのかもしれない。短編の名手がじっくり仕掛けたそれはボクの心の奥深くまでしっかり食い込んできた。

基盤を崩された者の不安感、カラッポ感、ひいては神の不在感、そして自分の不在感…。そんなものを浮き彫りにするために著者はいろんな仕掛けを繰り出す。
そして「突然基盤を崩される」ということが震災だけでなくごく日常に存在し、それはある意味「死」をも包含するのだということを暗示している。そこには神も不在である。自我も不在である。そしてそれを現代社会の病理ではなく、普遍の問題として描こうとしている。阪神大震災という時事ネタを使用してはいるが、著者は巧妙に物語から時制を排除し、問題を普遍化しているのだ。

地下鉄サリン事件を掘り下げた著者の当然の帰着点だろう。あれも突然な出来事による基盤の喪失であった。そういった体験が個人にどのように作用し人生がどのように変わっていったか、著者は尋常ならざる興味を持って取材し「アンダーグラウンド」一連の本に仕上げた。

なぜあそこまで興味をもったのか、当時はいまひとつピンとこなかったが、これを読んでようやくわかった。この短編はそれを受けての著者の「ある回答」なのだ。この短編の中のどれかは、将来著者によって長編に生まれ変わる予感がする。

2000年05月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV2「もし僕らのことばがウィスキーであったなら」

村上春樹著/平凡社/1400円

もし僕らのことばがウィスキーであったなら
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なぜか秋くらいからシングルモルトに凝りだしている。そしたらこんな本が本屋に並ぶようになった。やっぱり流行っているのかな。それともボクが流行の先端を…(やめなさい)。

サントリークォータリーに97年に掲出したアイラ&アイルランド訪問記を一冊にまとめたもの。
奥さんである村上陽子の写真を多用してページ数を稼いでいるが、本文は値段を非常に高く感じる短さ。
文章は清潔で真摯でシングルモルトが行間から香り立つようだが、正直な読後感は「ものたりない」である。長く書けばいいというものではないが、やっぱりストレートグラス3杯くらいで終わっちゃう量だと詰まらないのだ。せめて一晩、ゆっくり飲みながら楽しみたいではないか。こういう本であればこそ。

2000年01月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒 ,

LV5「スプートニクの恋人」

村上春樹著/講談社/1600円

スプートニクの恋人
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著者長年のモチーフである「どこにも行けないメリーゴーラウンド」が、「どこにも行けない、かつ一瞬しかすれ違わない人工衛星」に姿を変え、著者長年の主旋律である「こっち側とあっち側は背中合わせでその境目がどんどん希薄になっていく」様が丁寧に描かれている。スプートニクとは例のライカ犬が乗って世界で初めて宇宙を飛んだソ連製の人工衛星。小説中では少ししか登場しないが、この小説の「記号ではなく象徴」だ。とても上手だ。そこらへん。

このところボクの思い入れにいまいち応えてくれなかった村上春樹であるが、この本は彼の主題が折り重なって現れ、二重にも三重にも織り込まれ、目眩がしそうな充実感を覚えた。さすがである。
ただ、ストーリーテリング的にははぐらかされる人もいるだろうし、主題的にピンと来ない人には単につまらない本かもしれない。終わり方に不満の残る人もいるだろう。でもボクの中ではすべて辻褄があい、過不足なくすべてが絡み合った。

現実と非現実のどちらが「リアル」なのか、そして「リアル」を通して我々はどこかへ行けるのか…、そんな疑問に呆然としたことがある人なら読んで損はない。

1999年06月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV2「約束された場所で」

村上春樹著/文藝春秋/1524円

約束された場所で―underground〈2〉
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副題が「underground〈2〉」。つまり、地下鉄サリン事件の被害者たちをインタビューした分厚い本「アンダーグラウンド」の続編にあたる。

今度は加害者側をインタビューしており巻末に河合隼雄氏との分析対談もある。
インタビュアーが黒子をやめて一歩前に出てきた感じだ。それは小説家として正しい態度であると思うが(前作ではその点が少々物足りなかった)、今度はバイアスのかかり方が最初からいくぶん加害者否定になっているところが不満である。常識家ならそれでいいのだが、小説家がそれでいいのであろうか。

また、サンプル数が少ないのも不満。前作はその飽きるほどのサンプル数が結果的に全体を浮き彫りにしたのだが、今回はそういう作用がなかった。単に「特殊な人々」という見え方にしかならないサンプル数である。

評価すべきなのは「この時期に出した」ということ。もう一度あの問題を根本から考え直すのに最適のタイミングではなかろうか。

1999年01月01日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , 対談

LV2「辺境・近境」

村上春樹著/新潮社/1400円

辺境・近境
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辺境がなくなってしまった時代の辺境旅行記。
重い筆致と軽い筆致を取り混ぜながら、メキシコやらノモンハンやらさぬきうどん(!)やらアメリカやら神戸やらを著者が旅した記録である。時間をかけてじっくり書く小説群については超絶なる比喩や展開を軽々とやってのける著者であるが、このようにわりと軽く書いている本が思いのほか面白くないと感じるのはボクだけであろうか。例えば椎名誠や嵐山光三郎の紀行文を読むとその本を片手に同じところを旅してみたくなる。が、村上春樹のそれはどうもそういう気が起こらない。そこがこの本の問題点かもしれない。

最後の辺境は自分自身の内部だとしたら、村上春樹というヒトにはそこを旅してもらいたいものである。やはり小説が読みたい。紀行文にはあまり魅力を感じない。ちょっと厳しいか。

1998年07月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル: , エッセイ

LV4「Portrait in Jazz」

和田誠・村上春樹著/新潮社/2200円

ポートレイト・イン・ジャズ
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和田誠のイラストに村上春樹の文章でジャズを描く、となれば冬の一晩を楽しく過ごせること請け合いだ。

まず和田誠によるジャズ・プレイヤーのイラストありきで、それに村上春樹がエッセイを乗せていっているのが普通の本と逆。プレイヤーの個性をつかんだ上質のイラストに刺激されて(プレイヤーの人選がまたすばらしい)、実にリズミカルにエッセイがスイングしている。村上春樹はこういう企画ものでも大変丁寧に書き込む。しかも新しい視点を各編ひとつは読者に与えてくれる。やっぱりすごい文筆家なのだなぁ。
というか、ジャズを好きに書く、という場を得て、イキイキしている感じ。すばらしい。

1998年02月01日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:音楽 , 写真集・イラスト集

LV3「若い読者のための短編小説案内」

村上春樹著/文藝春秋/1238円

若い読者のための短編小説案内
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アメリカの大学での著者の授業そのままに構成してある日本短編小説ゼミナール。

テーマに指定した短編に対する著者の真摯なる態度と丁寧な読み込みは驚嘆に値するしこちらも背筋が伸びる。
が、もしできうるならばそれらの短編も一緒に収録して欲しかったと思うのだ。全然読んだことのない第三の新人と呼ばれる作家達の短編。一般書店では手に入りにくいのが多いので、熱意があれば図書館にでも行けばいいのだろうが、なかなかそうは時間がない人が多いから…。

いや、一般化するのは卑怯か。そう、僕はそれだけの努力をしてまでこれらのテキストとなった短編を探し出して読むパワーがない。同時収録してくれたらなんて良かっただろう、と夢想してしまった怠け者なのでした。だってテーマ本を読まないとこの本の面白さは半減以下なのだもの。

1997年12月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:評論

LV4「アンダーグラウンド」

村上春樹著/講談社/2575円

アンダーグラウンド
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地下鉄サリン事件の被害者達をたんねんに拾いだしてまとめた分厚いインタビュー集。先月の「AV女優」に似た構成。もともとこういう構成の本は好きだ。リアリティが違う。

作家村上春樹は知る人ぞ知るインタビューの名手で前にジョン・アービングをインタビューしたものを読んで舌を巻いたことがある。
今回も簡潔に要点をついている。が、読んでいるあいだ中「何故この著者が?」という思いが離れなかった。それは最後に著者自身の言葉で語られてはいるのだが、答えにはなっていない気がする。

地下や井戸を重要モチーフにする著者にとって「その日東京の地下で何が起こったのか」は興味があるところなのだろうが、ジャーナリズムでも小説でもない新しいカタチが著者によってここで現われるのではないか、と期待した読者は肩すかしを食う。
ボクは「東京の地下で何が起きたか」よりもインタビューをすべて終えた後「村上春樹に何が起きたか」が読みたかった。労作だが力作ではない。今後の著者の栄養にはなっただろうが。
ただし、インタビュー内容は衿を正されるような迫力がある。

1997年05月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション

LV5「レキシントンの幽霊」

村上春樹著/文藝春秋

レキシントンの幽霊
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村上春樹久々の短編集。全部で7編からなる。

この人の創作力はずば抜けているな、と今回改めて思った。
文体も一見羽毛のように軽快に見えるが、読み始めると1文1文しっかり噛みしめざるを得ない迫力を持っている。こんなに1文1文立ち上がってくる作家は他にカーヴァーくらいか。なんで同じ写植なのに他の作家のは立ち上がらないで、この人たちのは立ち上がるのだろう。不思議すぎる。まぁそれを「文体」と呼ぶのだが。

中では「氷男」「トニー滝谷」「めくらやなぎと、眠る女」がボクは好き。どれも「クロニクル」以前に書いたものらしいが、とても力がある。
村上春樹を読むとしばらくぼんやりしてしまう。何かを失ったような気がしてしまうのだ。こんな作家も珍しい。

1997年02月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「ねじまき鳥クロニクル〈第3部〉―鳥刺し男編」

村上春樹著/新潮社/2205円

ねじまき鳥クロニクル〈第3部〉―鳥刺し男編
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第3巻完結編。
いったいどうしたんだ?という1巻、2巻のダラダラから、一気にストーリーテラーの本領に達していくその収束力はすごい。この収束のために1巻2巻のゆるさがあったのだと納得してしまう出来。ここへきて第一級の文学の完成をみた感じである。すばらしい。
枝葉のストーリーが完結してなくてなんか欲求不満が残る部分もある。「死が生の一側面に過ぎないように(著者は今まで繰り返しこのことを語ってきた)、過去も現在の一側面に過ぎない、そして未来も」という今回の主題からして、わざとストーリーを完結させていないということもあるのかもしれない。とにもかくにも‘力作’には違いない。「国境の南--」の数倍好き。

1995年10月01日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

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