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LV5「ロング・グッドバイ」

レイモンド・チャンドラー著/村上春樹訳/早川書房/2000円

ロング・グッドバイ
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20数年ぶりにチャンドラーを再読した。しかも村上春樹の新訳。ノーベル文学賞に一番近い日本人作家と言われる彼がこうして様々な海外文学を翻訳して出版してくれる幸せをまずは感謝したい。日本人はとても恵まれている。

清水俊二訳の「長いお別れ」(実は抄訳だったらしい)を読んだのは高校の時だったか。わかったふりをしていたが実はよくわかっていなかったと思う。今回熟読してみてこの本が名作と言われる理由がすんなりわかった。やっぱある程度の年齢は必要なんだなぁ。歳とることも悪くない。

というか、何人もの人が指摘しているが、村上春樹の「羊をめぐる冒険」って「ロング・グッドバイ」へのオマージュだったんだと初めてわかった。ストーリーだけでなく、登場人物の似通い方が尋常ではない。訳者あとがきでも彼は影響を認めているが、わざわざ自ら訳してそこを明かしてくるのか、と、この作品への愛の深さに打たれたくらいである。そう、それと「ロング・グッドバイ」と「グレート・ギャツビー」は同じ話であったことも初めてわかった。ちょうど村上春樹訳の「グレート・ギャツビー」を読もうとしているところなので、実に刺激的。この素晴らしい三作の連関性をゆっくり掘り下げて遊ぶだけで1年くらいは暇つぶしが出来そうなくらい。

ちなみに、素晴らしい訳だとは思ったが、会話の部分で違和感があったところも多かった。特に「でしたました調」のところ。会話のリズムが壊れ、キャラまで壊れている気がする。どうなんだろう。

2007年05月05日(土) 18:07:48・リンク用URL

ジャンル:小説(海外) , ミステリー

LV3「ぬるい生活」

群ようこ著/朝日新聞社/1260円

ぬるい生活
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エッセイの名手である著者による「女性もこの歳になるといろいろつらいぜ」的エッセイ。更年期のつらさ、ダイエット、広がる毛穴の問題、ホメオパシーの効き目、悪霊とりつき系、などなど。カラダの不調とココロの不調がわりと静かな筆致で書かれていく。章ごとにバラバラに進むのかと思ったら、意外と連続性もあり、まとまりはよい。

たぶんこのエッセイに一番共感するのは、更年期前後を迎えた女性たちだろう。
ボクは男だし、もうちょっとだけ若いので、その点でいうと共感しにくい部分は出てくるのだが、読者に身近な部分から離れずに上手に書いてくれているので飽きずに読める。でもまぁ、ボクは読者ターゲットではないなぁ(笑)。ターゲットの人にはわりといい本だと思う。きっと共感がいっぱいある。

2007年01月26日(金) 9:00:13・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV5「13歳のハローワーク」

村上龍著/はまのゆか絵/幻冬舎/2600円

13歳のハローワーク
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この本を読むといままで子供たちに「自分のやりたいことを見つけなさい」とか言ってきたのがいかに無責任かわかるであろう。
これは村上龍が彼独自の「教育とは有利性の獲得」という持論に基づき、13歳前後の子供たちがこれから職業を選択していくための指針を具体的に示した職業百科である。全部で513の職業が収められており、子供たちがいま「好きでたまらないこと」の延長にどんな職業があるのか、それになるためにはどういう勉強・訓練が必要なのかが的確に示されている。いわば、人生の513択。

たとえばこの本は、いま子供が「おしゃれが好き」ということなら将来的にこんな職業がある、と提示する。
ファッションデザイナー、ジュエリーデザイナー、ファッションモデル、靴デザイナー、バッグデザイナー、帽子デザイナー、テキスタイルデザイナー、ソーイングスタッフ、テーラー、和裁士、リフォーマー、アパレルメーカーで働く、スタイリスト、フォーマルスペシャリスト、着物コンサルタント、着付師、美容師、理容師、調香師、メイクアップアーティスト、ネイルアーティスト、エステティシャン。

そしてそれぞれの職業の内容、功罪、なるための方法などをわかりやすく書いている。
ボクたちが13歳のころこんなに将来を具体的に意識しただろうか。すばらしいなぁ。もちろんすべて村上龍が書いたわけではないだろう。著というよりは編著に近い。

いい学校を出ていい会社に入るという生き方が必ずしもいい人生と限らないのは、ほとんどのサラリーマンが実感していることだ。
ボクを含めたサラリーマンたちは「何になるか」ではなく「どの会社に入るか」で人生を考えてしまった。このライフモデルは幸せになれるわけではないという点でとっくの昔に崩壊している。なのに新しい指針を子供たちに示せずにいるボクたち。村上龍はそこに具体的な職業紹介で応じた。さすがである。このコンセプトは切れ味がある。目指す職業を決めて一刻も早く社会に出て、アドバンテージを獲得しサバイバルせよ、という明確な指針。これがいまの大人たちに一番欠けているものかもしれない。

というか、ボクたちが13歳のころにこの本があったら…と強く思う。ボクたちはどんな生き方がこの世にあるか、具体的に知らずに大学生になり、大学3年のころにはもうつぶしがきかなくなっていた。そういう漠然とした生き方ではこれからは生き残れないだろう。

要所で入る、著者のエッセイもかなりシャープ。とてもよい。
特に最後にまとめてある「いろいろな働き方の選択」という項など、ほとんど人生論である。前書きで彼は「わたしは1日に12時間原稿を書いて、それを何ヶ月も、何年も続けても平気です」とある。そういう職業を見つけるために、この本をいま読もう。子供を持つ親だけでなく、すべての大人に勧める。人生100年時代。40歳とかだって13歳みたいなものなのだ。

2004年01月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:教育・環境・福祉 , 児童・ティーンズ

LV2「翻訳夜話2 サリンジャー戦記」

村上春樹・柴田元幸著/文春新書/740円

翻訳夜話2 サリンジャー戦記
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うーん。前作の「翻訳夜話」でお腹いっぱいかな、ボク的には。あっちの方が数倍面白かったし、知的興奮があった。

今回は「サリンジャー戦記」ということで、村上春樹が訳した「キャッチャー・イン・ザ・ライ」の訳出裏話になっているのだが(他にもサービス原稿いっぱいなのだが)、なんだか(厳しく言えば)言い訳と苦労話と自慢が感じられてちょっと鼻についてしまった。著者は両者ともに尊敬しているボクだが、これは蛇足だったのではないかなぁ。「キャッチャー」に(著者との契約で)訳者あとがきを載せられなかった村上春樹が、せっかく書いた原稿の行き場を作りたくて対談もつけてしまった、みたいな見方すらしてしまうボク…。

もちろんサリンジャーマニアなボクだし、著者両者ともに好きなので、内容自体を楽しまなかったかと言われるとウソになる。
あぁこういうことだったのか、とか、なるほどなるほどー、とか、でもさぁ、とか、いっぱいあって十二分に楽しんだ。でもね、やっぱ蛇足だと思うのです。柴田元幸も、村上春樹を前にすると妙に軽薄でイヤ(笑)。つか、好きな素材が揃いすぎていて、なんか気分的に天の邪鬼になってしまったかも。そんな複雑な気分デス。

2003年09月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:評論 , エッセイ

LV5「どこにでもある場所とどこにもいないわたし」

村上龍著/文藝春秋/1200円

どこにでもある場所とどこにもいない私
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非現実的な時間の流れの中でぼや〜っとカラダが浮かぶような感覚に、特に都会の人が多い空間でおそわれることがボクにはたまにあるのだが、そんな感じがわかる人にはこの本はとても共感できると思う。
これは、そういう時間凝縮感をどこにでもある場所(コンビニ、居酒屋、公園、カラオケルーム…)を舞台に描いた不思議な短編集で、すべての短編に小さな希望が用意してある。浮遊するような文体の中で描かれるそれらの希望は現実感がなく、それがとってもイマっぽい。ここらへんの距離感の取り方が相変わらず見事だなぁと感嘆。

村上龍はあとがきで「強力に近代化が推し進められていたころは、そのネガティブな側面を描くことが文学の使命だった。近代化の陰で差別される人や取り残される人、押しつぶされる人、近代化を拒否する人などを日本近代文学は描いてきた。近代化が終焉して久しい現代に、そんな手法とテーマの小説はもう必要ではない」とハッキリ書き、「この短編集には、それぞれの登場人物固有の希望を書き込みたかった。社会的な希望ではない。他人と共有することのできない個別の希望だ」と続けている。ええ。つまりそういうことです。というか、作家がそこまであとがきで説明しなくてもいいだろうとちょっと思ったけど(笑)。
関係ないが、カバーの背表紙が読みにくくてかなわん。浮遊感狙いかな?(笑)。もうちょっと読めるようにするべきだと思うが。

2003年09月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV2「バースデイ・ストーリー」

村上春樹編訳/中央公論新社/1600円

バースデイ・ストーリーズ
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バースデイにまつわる10の海外短編を村上春樹が選び、訳した本。最後に村上春樹の「バースデイ・ガール」という短編も収録されている。

収録された短編は、レイモンド・カーヴァーのものをはじめ、ポール・セロー、イーサン・ケイニンなどの有名どころから、訳者ならではのセレクトによる現代アメリカ作家を含み、なかなか魅力的なラインナップ。訳者ファンならずとも、読んでみたくなるアンソロジーだろう。

と、紹介したうえで乱暴に決めつけてみたい。
この本は冒頭のラッセル・バンクスが書いた「ムーア人」のみでいい。これを読むためだけに買う価値があるとボクは思う。でも他の短編は……どうかなぁ。あんまりピンと来ないなぁという印象。この手のアンソロジーは好きだし、読者層の開拓にもつながるし、企画としてとても良いとは思うが、もうちょっとレベルを揃えて欲しい感じ。もしくはボクが読みとれてないのかな。

2003年09月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV5「ヤスケンの海」

村松友視著/幻冬舎/1600円

ヤスケンの海
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2003年1月20日他界したスーパーエディター安原顯(あきら)、通称ヤスケンの評伝。

彼の葬式で幻冬舎社長見城徹が村松友視に「書くしかないでしょ」と言ったのが始まりで、同年5月のスピード出版になった。
著者は中央公論の文芸誌「海」編集部当時ヤスケンの同僚だった間柄で、いわゆる親友。他界後まもなくという動揺や親友であったという心情、そしてスピード執筆という悪環境を感じさせない落ち着いた筆致で読者をヤスケンの世界に連れて行ってくれる。

個人的にはまゆみ夫人や娘さんの描写がもっと読みたかったし、ヤスケンの体臭に近い部分の記述が少ないとも思った。著者との仕事関係を中心とした内容になっているので、ヤスケンの表面的な部分しか浮かび上がってこない評伝になってしまっている。しかも死後評伝一番ノリを目指した出来の荒さもちょっとある。ただ、著者はヤスケンが中央公論にいた頃のエピソードを誰よりも知っているので、その辺の話は実におもしろい。

ヤスケンの人生を追った評伝にしないで、ヤスケン-ムラマツの編集魂血風録みたいな感じにテーマを絞って書いていたら傑作になったかもとちょっと思う。
まぁでも、そういうことを除いても十分な質と量かもなぁ。いろいろ条件を考えると。

ヤスケンの書評は、個人的にもっとも信頼していた。本書の中にヤスケンの言葉としても書かれているが「こと文学・芸術に関しては送り手(編集者)の偏愛以外、頼れるものはない」と考えているヤスケンの書評はまさに偏愛に満ち、ダメな物は心底ダメと切り捨てる刀の切れ味も素晴らしく、その激しさに戸惑いつつも参考にせざるを得ない説得力に満ちていた。あぁあの書評がもう読めないのだなぁと悲しみつつ、彼の一貫性のある半生に感動する。ヤスケンの生き方も、著者の書き方にも、拍手を送りたい。

2003年07月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , 自伝・評伝

LV3「キャッチャー・イン・ザ・ライ」

J・D・サリンジャー著/村上春樹訳/白水社/1600円

キャッチャー・イン・ザ・ライ
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村上春樹訳のライ麦畑。
サリンジャーマニアだった大学時代を持つボクとしては見逃せない企画。というか2000年11月に読んだ「翻訳夜話」の中で予告はされていたので、じぃっと息を潜めて待っていた感じである。やっと出た出た。

読むにあたって、野崎孝訳の本も本棚から出してきて読み比べたりした。
最大の興味は、一世を風靡した「インチキ」を村上がどう訳しているかだったが、やっぱり「インチキ」だった(笑)。これにはちょっとこけたが、あとは村上特有の言い回し(やれやれ、とか)が多用されていたり、現代風に読みやすくなっていたり、訳も時代によって変えていくことにちゃんと意味があるのだなぁと実感。つか、改めて読んだ野崎訳がめちゃくちゃ古びていたことにビックリした。言葉は生き物だなぁ。

それと、敢えて言えば、題名を新訳してほしかった気持ちはある。そのまんまかよ、と。「つかまえて」という題名を訳としてどうなのだろうと思い続けて四半世紀。村上春樹なりに答えを出してほしかった。

2003年05月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV5「都立水商!」

室積光著/小学館/1300円

都立水商(おみずしょう)!
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おもしろい。もっと早く読めば良かった。
不満は題名のみ。ルビっぽく「おみずしょう」と振ってあるのだが、「おみずしよう」とも読める上に、「都立水商!」とどっちが題名でなんなのかがよくわからない。題名としては不利かな。装丁も内容とあっていない感じ。キワモノとして売るより本格小説として売って欲しかった内容。

ま、そんなことはどうでもいいやと思うくらいはおもしろかった。
工業高校、商業高校などの一環で水商売専門高等学校が出来ちゃう話。ホステス課、ソープ課、ホスト課など7学科。読む前はもっともっと荒唐無稽でハチャメチャかと思っていたが、実は細部でつじつまや理屈があっていて、リアリティがあったりする。
で、そこで展開されるお話もこちらが想像するようなおバカなものではなく、わりと感動的で感涙ものだったりもするのだ。「ちゃんとプロを目指して入学してきた、目的意識がしっかりした生徒たち」の存在がそれらのエピソードを可能にしていく。読んでいるうちに、現在の教育の問題点まで鮮やかに浮かび上がってしまうのもすばらしい。

著者は俳優から劇作家を経て、小説はこれが初めてだと聞くが、現代受けしそうなテーマ設定や問題設定、筋の持って行き方などなかなかただもんではない感じ。次回作も読もう。おすすめ。

2003年04月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「海辺のカフカ」

村上春樹著/新潮社/上下各1600円

海辺のカフカ〈上〉
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変な話、ちょっと「村上春樹のさだまさし化」を感じた。
さだまさしは途中から「もっと直接的に言わないと伝わらない」と焦ってしまったところがあって、いままで周辺状況を丹念に描くことで伝えてきた主題を、直接歌詞に乗せて歌いはじめた。個人的にそれからの彼をあまり好きになれないのだが、村上春樹もそうならなければいいな、とちょっと感じる。そう。村上春樹はもっと直接的に言うことに決めたのだと思う。それは、「アンダーグラウンド」以来現実とより深くコミットし始めた著者にとって、必然の成り行きだったのかもしれない。

例によって出来の良い寓話が入り組んで、奥の深い世界を構成している。その寓話(および隠喩)が何を指しているかがいままでよりもより直接的にわかりやすいように書かれている。そんなに種明かししちゃっちゃつまらないです、と訴えたくなるくらい。要所要所に違和感や異化を入れ込んだり(あまりに世慣れした15歳とか)、いままでになく時事的リアリティを入れ込んだり(街やテレビ番組の描写とか)、大筋に関係ない描写で読者を煙に巻いたり(フェミニストとの議論とか)、いろいろと著者の煙巻き(?)は感じるのだが、全体的にはこれまでの著作にないくらい直線的にイイタイコトに収束していく。
その寓話の設定と収束の仕方はさすがに見事で、これだけをとっても傑出した小説と呼べるだろう。ただ、いつもより「より説明的だ」ということだ。例えばジョニ・ウォーカーやカーネル・サンダースだってメタファーとしては実にわかりやすい。いままでならそこらへんをちゃんと謎っぽくしていたのだが。

主題はいままで彼が繰り返し語ってきた範囲を出ていない。著者をずっと追ってきた読者なら「またこれか」と思うだろう(同時に安心もするのだが)。でも今回はもう一歩踏み込んで「メッセージ」としているのが違うところ。また、ふたつの物語が交差していく構成は「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」と同じ。ただし、「世界の終わり…」は暗示としての交差だったのに、今回はリアルに交差する。こここそ、現実にコミットした村上春樹が変化した部分だと思う。

物語作家として、世の中にメタファーを提示する以上の役割を明確に意識し始めた村上春樹。たぶん次作で超寓話的物語を出してはぐらかし、その後「海辺のカフカ」よりも強い直接的メッセージを持つ物語を提示してくるのではないかな、とちょっと予想(笑

2002年10月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV4「悪魔のパス 天使のゴール」

村上龍著/幻冬舎/1600円

悪魔のパス 天使のゴール
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サッカー小説と呼んでいいかもしれない。特に最後の100ページのサッカー描写は小説が初めてサッカーを描ききったと言えるくらいな出来で、村上龍もそれを目的にしたようである。

ただ、全編中田ヒデへのオマージュでもあるので、どうも「ねぇねぇヒデー、ボクってサッカーをとってもよく理解しているでしょ?  褒めて褒めて〜」みたいな著者の気持ちが少し見えてしまって、読者としてはちょっと白けるところがある。
そう、これは中田ヒデに対するラブレターに近い小説だ。サスペンス的な部分を付けてはいるが、それもちょっと中途半端だし(結末はいまいち)、ほとんど「ボクって中田とこんなに親しいんだよね。サッカーのことこんなに理解しているんだよね」という自慢に読めるのが弱点。

とはいえ、ラスト100ページだけでも買いである。
部分的に梶原一騎を思わせるような誇張もあるのだが、カラダが震える描写の連続。サッカーへの理解は確かに深い。下手に中田など準主人公として登場させずに(名前は夜羽。やはねと読ませるのだが、ほとんどヨハネである。神なのだ)、秀逸なサッカー描写を活かしつつ、もうちょっと違うストーリーにしてほしかった。オマージュするにしても、もうちょっと別のカタチがある気がする。

2002年06月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV3「ビッグ・ファット・キャットの世界一簡単な英語の本」

向山淳子・向山貴彦著/幻冬舎/1300円

ビッグ・ファット・キャットの世界一簡単な英語の本
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ベストセラーらしい。帯に「ついに英語がわかります!」とありがちなことが書いてあるのだが、全体が醸し出す雰囲気と題名になぜか惹かれ(あと薄さにも)、ふと手に取った。

その昔ボクは駿台予備校で伊藤和夫という先生に英文解釈を習い、目から鱗が何枚も落ちたことをよく覚えている。特に落ちたのは「文章の始めに出てくる名詞は主語である」という定理。当たり前かつ単純なことなのだが、伊藤先生がそれを解き明かすと魔法のように英文が読めるようになった。たった一時間の授業ですらすら読めるようになった。まわりには泣いている人もいた。それくらい感動的だったのだ。この本は(もちろんそこまで感動的ではなかったが)ちょっと伊藤先生の教え方を思い出した。英語を極限まで単純化しているという意味において。

著者は言う。「英語は世界で一番簡単な言語です。もっとも簡単な言語だったからこそ、こんなに広まったのです」。確かにそうだ。複雑怪奇な日本語を使いこなせる、という超高度な言語能力を持っている我々が、その世界一簡単な言語を使いこなせないわけがない。そういう自信と、単純化された英語の法則を得たい向きにはオススメ。きっと繰り返し読むべき本なのだろう。ボクみたいな英語落第者は特に。

2002年02月01日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:実用・ホビー

LV2「eメールの達人になる」

村上龍著/集英社新書/660円

eメールの達人になる
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メールというメディアにいち早く注目していた著者が書いたeメールの実践的使い方講座。
メールは手紙や電話とは根本的に性格が違うということをなんとなくわかっている人はいても、きちんと正確に理解している人は少ない、ということを前提に論は進む。日々多量なメールとともに暮らしているボクにも新鮮な記述はそれなりにあり、再確認された部分もいろいろあったが、やはりこれはメール初級・中級者に向けたものだろう。数をこなせば自然とわかってくるノウハウを、文章のプロとして一度丁寧に説いてあげよう、という感じ。特に仕事でメールを多用せざるを得ない人(で、かつ、文章にあまり意識を持ったことない方)には有効な本だ。

というか、この本でイイタイコトは、「コミュニケーションでもっとも重要なのは、相手に正確に伝わったかどうかだ。つまりそのためには、どう伝えれば相手に理解してもらえるかを考えなければならない」という一文にある。例えば件名に「重要」と書いてしまう人。「この人はコミュニケーションで何がもっとも重要なのかわかっていないと思う」と著者は断ずる。これの何が悪いか、わからない人は、読むべし。
eメールの特質は関係性の排除であるとボクは思っている。電話や手紙におけるナァナァがない。理解してくれるだろうという日本人特有の甘えが通用しない。だからメールは同じ文化の土壌を持たない人との国際的コミュニケーションの訓練の場としてかなり有効だと感じている。そういう意識を再構築する意味でも有効な本である。

2002年01月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:実用・ホビー , 経済・ビジネス , IT・ネット

LV2「鳥頭対談」

群ようこ/西原理恵子著/朝日文庫/460円

鳥頭対談―何を言っても三歩で忘れる
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群(むれ)ようこと西原(さいばら)理恵子の対談が面白くないわけがないだろう。
近そうでいて方向性的接点がなさそうなふたりが、それぞれのファンを吸い上げる狙いを明快に表面に出しつつ、凄まじい内容の対談をしている。特にそれぞれの超浪費家母親に対する愚痴というか呪詛というかは秀逸で、稼いでも稼いでもサルのように使っていく母親たちへの報復ツッコミはまさに抱腹。またそれぞれの異なる青春時代へのツッコミもなかなか笑える。西原のマンガも、西原得意の「ちょっと上の権威を叩けるポジショニング」を得て、非常に冴えている。

この対談をした雑誌「uno」が早々につぶれたため、対談の数が足りず、薄っぺらい本になってしまったのが惜しい。
また、群自身、どちらかというと年上のほんわりしたボケにツッコんでいく方が向いていると思われる節もあり、西原のような年下からきついツッコミをされるポジショニングがそんなに得意でないように思われるのがちょいと可哀想。
要するに「ツッコミ×ツッコミ」のコンビになってしまったのが残念だ。群のポジショニングが中途半端になり、彼女の面白さが十二分に活かされなかったのが惜しいのだ。

2001年12月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:対談

LV3「ケーキの世界」

村山なおこ著/集英社新書/720円

ケーキの世界
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テレビ東京系「TVチャンピオン」で準優勝した後、大手乳業メーカーの製菓担当を辞め、フリーの菓子愛好家/菓子コーディネーターになった著者によるALL ABOUTケーキな本。
ティラミスーなどのブーム菓子の裏事情や洋菓子発展記、各国ケーキ図鑑など、内容は果物がぎっしり詰まったタルトのように濃い。もっとメレンゲのようなフワフワさを予想していたボクはちょっとビックリ。だってこの手の本って表面をさっと撫でただけの本が多いんだもの。

そういう意味ではなかなかいい本だ。菓子ブームの裏事情はオモシロイし、ケーキの歴史も一度さらっておくにはいいし、各国ケーキ図鑑もフレンチでデザートに目覚めたボクにはとっても参考になった。オススメのケーキ屋さんが載っているのもうれしい。ただ、全体的に資料集的な雰囲気を醸し出してしまったのが興味本位の読者にはつらいかもしれない。ケーキ好きの人には読み応えがあるだろうが。

2001年11月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒

LV4「アウェーで戦うために」

村上龍著/光文社/1500円

アウェーで戦うために―フィジカル・インテンシティ III
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週刊宝石に連載したサッカー・エッセイを編んだもの(三巻目)。
単なるサッカー観戦エッセイとも言えるのだが、これがどうして非常によく出来た「日本というシステム」批判になっている。

素材は主にアウェーで戦う中田ヒデ。
彼や海外のサッカーゲームを題材に、著者の思いは日本への嫌悪に近い感情吐露、そして日本という「チーム」を変えるためにどうすべきかという考察へとつながっていく。

帯に「アウェーで戦えない人材は、ホームでも使えない」とある。
このコピーは素晴らしい。本当のアウェーを体感し文章にしてくれたこと、アウェーで戦うということはどういうことかを教えてくれたこと、そしてアウェーで力を発揮するのはホームで力を発揮するのとは次元が違うということを示してくれたこと、それらだけでもこの本は価値がある。振り返って、この国の要人はアウェーで戦えるか、いやそれよりもまず「自分はアウェーで戦えるか」を考え直すいいキッカケになるだろう。
「アウェーで戦えるか?」はボクの中でいま大きな物差しになりつつある。

2001年05月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:スポーツ , 評論

LV1「『教育の崩壊』という嘘」

村上龍著/NHK出版/1300円

「教育の崩壊」という嘘
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「希望の国のエクソダス」以来、教育についての発言が目立つ(というか、せざるを得なくなった)著者の対談集。
刺激的な題名ではあるが、内容的にはちょっと迎合的。特に活発な論戦があるわけではない。特に「学校崩壊」という著書を持つ河上亮一との対談は題名からして熾烈なものを予想したが、少し肩すかしであった。

著者の主張は(彼の教育関係本には一応目を通すことにしている)ボクにとっては目新しくないものであった。
が、次々パワフルに対談したり調査したりを続けることによって、彼の主張はより深くなっていることは実感する。もしくはより村上龍的になっている。さてこうなってくると行き着く先は「著者自身がこの国の希望をアナウンスすること」であろう。すべての主張はそこにたどり着いてしまう気がする。そして彼はそれを考え始めているような気がこの本を読んで、した。

なお、巻末の「中学生1600人アンケート」はかなり面白いが、谷岡一郎著「『社会調査』のウソ」を読んでリサーチ・リテラシーを少し鍛えてからこれを読むと、これもどうかなぁと思う。
まずアンケートを取った普通校に進学校やフリースクールをまぜる比率を全国的比率に合わせるべきである(数的に)。次に「アンケートを返してくる生徒は、その時点で問題意識がある生徒」であること。アンケートすら返す気力、積極性がない生徒こそ「崩壊の原点」なのではないのか。三つ目に、ピックアップしている回答が「村上龍の主張に都合のいいものに偏っている」はずであること。せめて回答例の全体分布を載せた上でピックアップするべき。

このままこれが「中学生全体の意見」とされてしまうと害悪このうえない。「このアンケートを読んでこの題名を考えついた」と著者は言うが…その程度で教育の崩壊を「嘘」と断言するのはいかがなものだろう。

2001年04月01日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:対談 , 教育・環境・福祉

LV5「Sydney !」

村上春樹/文藝春秋/1619円

シドニー!
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村上春樹によるシドニーオリンピック観戦記である。
いや、観戦記というよりシドニー街紀行の趣の方が強い。ちゅうかシドニー滞在日記、かな。その滞在期間中にたまたまオリンピックがあった、みたいな距離感で書かれている。その距離感がボクには心地よかった。オリンピック賛歌にしてないし、熱くもなっていないし、無理矢理感動もしていない。
著者自身告白しているが「オリンピックは退屈である」という認識が原点になっているので(共感するなぁ)、作家の好奇心は当然別のところへ広がる。コアラや食べ物や潜水艦やオーストラリアの歴史へ。その辺の広がりをそのまま書いていることが実にいい効果を上げている。そして、ある感動的な出来事によりシドニーの街(オーストラリア人の意識)が変質化していく様の捉え方は、「アンダーグラウンド」以来醸成され続けてきた彼の主題に近いせいなのか、ちゃんと深く掘り下げてあって面白かった。

導入部と〆の部分もとっても良い。これらがあったからこの本は「作品」になったのだと思う。オリンピック選手という「オリンピックを最大の非日常」と置いている人たちの描写で、「オリンピックは退屈な日常」と思っている著者の日記を挟み込む、というその構成。それによって、この本は単なる日記と違う緊張感を得ている。
全体に軽妙でいいテンポ。習作的比喩の多用が作家の日常の努力をかいま見るようで興味深い。それにしてもあれからたった半年なのに、もうすでにずいぶん遠い昔みたいだね、シドニー五輪。

2001年03月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル: , スポーツ , エッセイ

LV0「『希望の国のエクソダス』取材ノート」

村上龍著/文藝春秋/1143円

『希望の国のエクソダス』取材ノート
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わりと酷評してしまった「希望の国のエクソダス」だが、あれは小説としては酷いと思うが近未来シミュレーションとしてはよく出来ていたと思う(中学生が独立する、というシナリオを除いて)。この本は、その近未来シミュレーションのもととなった取材ノート。つまり「村上龍の勉強帳」である。シミュレーションの元ネタをしっかり読んでボクなりに近未来を展望してみたかったから、買った。

経済学者からディーラー、現役中学生、経歴未詳の不良まで、13のインタビューを収めている。
が、まぁ当然といえば当然なのだが、著者は小説のストーリーに沿った答えを引き出すべくインタビューしているので、インタビューされた側が必ずしも彼らの本音を吐露しているわけではない。というか、村上龍が喜びそうな方向で答えを出している。そういう意味ではちょっと拍子抜け。彼らのせいでも著者のせいでもなく、企画のせいか。つうか、そんなこと最初からわかってたんだから、買うなよ、オレ。もちろん中にはとても有意義なインタビューもあった。不良へのインタビューが一番面白かった。

2001年02月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション

LV1「希望の国のエクソダス」

村上龍著/文藝春秋/1571円

希望の国のエクソダス
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読みながら「あれ、オレって落合信彦読んでるんだっけ?」と表紙を見返してしまった。
ひと言で言うなら、現代日本の問題点を羅列して将来を予測し、それを物語に翻訳した本。問題意識が強い著者ならではの本ではあるが、全体にやけに自虐的だし、「オレっていろいろ考えてるでしょ、憂いているでしょ」という感じが鼻につくし、だいたい小説になっていない気がする。炭坑の中のカナリアのつもりかもだけど、著者ほどの「小説家」なら、ありそうな未来を想像しなぞるのではなく、その裏にある根本的な人間の姿を創造し、まったく違う世界観のもとに表現してほしいと思う。現代日本の問題点を物語に翻訳するのではなく、現代人そのものを物語に翻訳・昇華してほしいと願う。例えばオウムや阪神大震災を見事に昇華しきった村上春樹のように。

こういう本を「流行作家ムラカミリュウ」が出す意味はわかる。波紋を投げかけ、それはかなりの人に届いたことであろう。でも「小説家ムラカミリュウ」には出して欲しくなかったな。「共生虫」がいまいちだったので今度こそ、と期待したけどガックリ来てしまった。もうすでに小説家というよりは時事作家なのかもしれない。

物語自体は、2/3までは面白かった(戦慄もした)。
でもラストはあんまりだろう。無理矢理「希望」を作り出したかったのだろうが。
あと、中学生の描き方に「自虐的オジサン史観」が入っている気がする。戦後の進歩的文化人が欧米を卑屈に仰ぎ見た感じに似ている。ちょっと不快。村上龍ファンとして悲しい限り。JMMなどの活動は素晴らしいと思うし、問題点を考えさせるキッカケとして優れてはいるが、彼にはやっぱり小説家として戻ってきてほしい。ボクにはまだアナタの「小説」が必要なのだ。

2001年01月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「翻訳夜話」

村上春樹・柴田元幸著/文春新書/740円

翻訳夜話
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素晴らしい企画。本屋でこれを見つけたときは目をむいたぜ。
なにせ村上春樹と柴田元幸が翻訳について語るのである。そのうえ村上がオースターを、柴田がカーヴァーを訳して対比させて、そしてそれをテキストにしてまた語り合うのである。うーむ。なんちゅう気の効いた企画なんだ!!

彼らの翻訳手法の対談は、同時に優れた文章談義になっており、また小説表現の秘密にまで踏み込まれている。このところ翻訳論みたいな本がいろいろ出ていたが(今月もそういう本を一冊読んだが)、納得したという面でこの本を越えるものはなかなかないだろう。つうか、たぶん「名手による経験談」かつ「平明シンプルな語り口」が効いているんだろうな。青山南も加えて三人で話したらまた違った展開だったろうなぁ。そういう対談も読んでみたい。

翻訳で本の内容が変わってくることにボクが気がついたのはディネーセンの「アフリカ農場」を違う翻訳で読み比べた経験から。
それ以来特に翻訳には注意を払っているが、村上と柴田の対訳を読んでみて「これほどまでに違ってくるんだな」と驚愕。だって同じ小説がまるで違う趣になるんだよ。比較的文体が近いふたりなのに。参ったな。そういう驚きを得るだけでも価値ある本。

2000年11月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:対談 , 評論

LV3「そうだ、村上さんに聞いてみよう」

村上春樹著・安西水丸絵/朝日新聞社/940円

「そうだ、村上さんに聞いてみよう」と世間の人々が村上春樹にとりあえずぶっつける282の大疑問に果たして村上さんはちゃんと答えられるのか?
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副題が「と世間の人々が村上春樹にとりあえずぶっつける282の大疑問に果たして村上さんはちゃんと答えられるのか?」という長いもの。まぁ内容はそういうことです、はい。

村上朝日堂のホームページに寄せられた読者からの質問に著者が丁寧に答えていったもので、その質問は多岐に渡る。じゃー村上ファンしか面白くないかと言われれば、それはそうなのだが、答えが丁寧なのでファンじゃない人も「なるほどねー」的納得は随所にあるだろう。まぁ端的に言って、ボクにはとても面白かった。創作に秘密にもずいぶん答えているしね。「なるほどねー」的納得感がボクにはとてもあったのである。

ちなみに村上朝日堂のホームページは以前愛読していたが(いまは著者による更新は終了している)、さぬきうどんの話題もいっぱいあって、その中で読者のひとりが「さとなおのページのさぬきうどん紀行が面白い」と村上さんに推薦してくれていて、ボクはドキドキと村上さんのそれに対する返事を待ったのだけど(数%の確率で公開返事として掲載されるのです)、それには無反応だったな。ま、当たり前か。そんなことを唐突に思いだした(笑)

2000年09月01日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV5「月曜日は最悪だとみんなは言うけれど」

村上春樹編・訳/中央公論新社/1800円

月曜日は最悪だとみんなは言うけれど
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著者は熱心な「アメリカ文学ウォッチャー」である。その著者がいままで面白いと思ってアメリカの雑誌からスクラップしたいろいろなコラム、文章、短編、を親切丁寧に我々に提示してくれた一冊。

著者の「文学への視線」がこの本の雑多な文章を結びつけていて、そしてその視線はどの作家に対しても非常に「フェア」である。それが気持ちがいい(このフェアというスタンスは著者のあらゆる著作に通底するコンセプトだ)。例えば、こういう本は著者がその熱狂を語ってしまって読者を置き去りにすることになりがちだ。だが、読者に対してもフェアである村上春樹はそれを全くしない。これがなかなかに難しいのだ。それを著者はさりげなくやりおおせている。うーむ・・・。我々読者は、村上春樹という「アメリカ文学ソムリエ」を持っていることをシアワセに思うべきだろう。いやホント。

レイモンド・カーヴァーの話題で半分くらい取られているから彼の短編を読んだことない人にはつまらないかもしれない。が、読んだことある人なら「文学の成り立ち」を含めていろいろ考えさせられる。カーヴァー・ファンにもオススメの一冊。なお、はっきり言って題名は悪い。あまりに内容がわかりにくい。

2000年07月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外) , 評論

LV1「共生虫」

村上龍著/講談社/1500円

共生虫
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「インザミソスープ」を書いている時に酒鬼薔薇事件が起き、今度はこの本を出したと思ったらバスジャック事件が起きた。

そういう意味で著者は現代少年の心の空虚さを見事に読みとり、作家の想像力をもって一歩先を書いている。
が、この本が「インザミソスープ」と違うのは、先を読みとって書くことに懸命でそれだけで終わってしまっている点である。少年たちの心をなぞるだけで終わっている。そしてなぞったことを著者はかなり誇りに思っている。オレほど読めているヤツはいない、と。確かに今の少年たちの心を読みとるのは並みではない。でもそんな鼻高さが行間から読みとれてしまうのは、ちょっと。

インターネットを題材にしつつ、ネットの世界そのものを文学で表そうとした試みは評価できる。共生虫というモチーフ自体がウェブそのものであり、そのあたりの描き方は見事。でも引きこもりの少年をそこにからめてしまうのはちょっと陳腐かもしれない。村上龍は楽な道を歩こうとしているのか。この辺を題材に量産しはじめると、時事作家っぽくなってしまわないかと心配だ。100年後の世界で村上春樹は小説家だろうが、村上龍は時事作家と位置づけられてしまいやしないか。村上春樹の新作のように時事ネタを扱うにしてもそれを消化しきった上で昇華してほしい気がする。

2000年06月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「神の子どもたちはみな踊る」

村上春樹著/新潮社/1300円

神の子どもたちはみな踊る
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とっても完成された短編6編。
共通するモチーフは阪神大震災である。そういう意味では「連作小説」になるのだろう。

わけわかんねぇよ、って読後感の方もいらっしゃるかもしれないが、ボクは非常にしっくりきた。それは阪神大震災による「喪失」を体験したという個人的環境も手伝っているのかもしれない。短編の名手がじっくり仕掛けたそれはボクの心の奥深くまでしっかり食い込んできた。

基盤を崩された者の不安感、カラッポ感、ひいては神の不在感、そして自分の不在感…。そんなものを浮き彫りにするために著者はいろんな仕掛けを繰り出す。
そして「突然基盤を崩される」ということが震災だけでなくごく日常に存在し、それはある意味「死」をも包含するのだということを暗示している。そこには神も不在である。自我も不在である。そしてそれを現代社会の病理ではなく、普遍の問題として描こうとしている。阪神大震災という時事ネタを使用してはいるが、著者は巧妙に物語から時制を排除し、問題を普遍化しているのだ。

地下鉄サリン事件を掘り下げた著者の当然の帰着点だろう。あれも突然な出来事による基盤の喪失であった。そういった体験が個人にどのように作用し人生がどのように変わっていったか、著者は尋常ならざる興味を持って取材し「アンダーグラウンド」一連の本に仕上げた。

なぜあそこまで興味をもったのか、当時はいまひとつピンとこなかったが、これを読んでようやくわかった。この短編はそれを受けての著者の「ある回答」なのだ。この短編の中のどれかは、将来著者によって長編に生まれ変わる予感がする。

2000年05月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV3「最前線」

村上龍著/ラインブックス/1600円

最前線
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村上龍の対談集。各界最前線を走っていて、かつ、その状況をノンフィクションとして発表している人たちを迎えていろんな問題に迫っている。河上亮一、諏訪哲二から、宇田川悟、宮崎学まで、何人かハズシた人はいるが、でもそれぞれ非常に面白く読んだ。時代は「超情報化社会」である。だのに、その最前線の現場の状況は驚くほど我々に伝わっていないのがこれを読むとよくわかる。特に教育現場。そしてヨーロッパの状況。

うーん。確かに村上龍の言うように日本は近代化を終えたのだと思う。そして彼のいう意味での「個人」がこれからの主役になっていくだろう。著者は文筆という表現形態を持っている最前線の人々(ノンフィクション・ライター)とこの本を作ることでネットワークを持ち、近代化の終焉などをしっかりアナウンスしていこうという野望があるのではないか、とちょっと思った。

2000年01月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:対談 , 時事・政治・国際

LV2「もし僕らのことばがウィスキーであったなら」

村上春樹著/平凡社/1400円

もし僕らのことばがウィスキーであったなら
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なぜか秋くらいからシングルモルトに凝りだしている。そしたらこんな本が本屋に並ぶようになった。やっぱり流行っているのかな。それともボクが流行の先端を…(やめなさい)。

サントリークォータリーに97年に掲出したアイラ&アイルランド訪問記を一冊にまとめたもの。
奥さんである村上陽子の写真を多用してページ数を稼いでいるが、本文は値段を非常に高く感じる短さ。
文章は清潔で真摯でシングルモルトが行間から香り立つようだが、正直な読後感は「ものたりない」である。長く書けばいいというものではないが、やっぱりストレートグラス3杯くらいで終わっちゃう量だと詰まらないのだ。せめて一晩、ゆっくり飲みながら楽しみたいではないか。こういう本であればこそ。

2000年01月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒 ,

LV5「スプートニクの恋人」

村上春樹著/講談社/1600円

スプートニクの恋人
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著者長年のモチーフである「どこにも行けないメリーゴーラウンド」が、「どこにも行けない、かつ一瞬しかすれ違わない人工衛星」に姿を変え、著者長年の主旋律である「こっち側とあっち側は背中合わせでその境目がどんどん希薄になっていく」様が丁寧に描かれている。スプートニクとは例のライカ犬が乗って世界で初めて宇宙を飛んだソ連製の人工衛星。小説中では少ししか登場しないが、この小説の「記号ではなく象徴」だ。とても上手だ。そこらへん。

このところボクの思い入れにいまいち応えてくれなかった村上春樹であるが、この本は彼の主題が折り重なって現れ、二重にも三重にも織り込まれ、目眩がしそうな充実感を覚えた。さすがである。
ただ、ストーリーテリング的にははぐらかされる人もいるだろうし、主題的にピンと来ない人には単につまらない本かもしれない。終わり方に不満の残る人もいるだろう。でもボクの中ではすべて辻褄があい、過不足なくすべてが絡み合った。

現実と非現実のどちらが「リアル」なのか、そして「リアル」を通して我々はどこかへ行けるのか…、そんな疑問に呆然としたことがある人なら読んで損はない。

1999年06月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV3「憂鬱な希望としてのインターネット」

村上龍著/メディアファクトリー/1400円

憂鬱な希望としてのインターネット
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「人間はなんでこんなにコミュニケーションしたがるのだろう」という実感はボクにもある。実質的には妻や子供とのコミュニケーションだけで満足している面もあるのだが、こうしてホームページやら何やらで「さもしく」「憂鬱に」コニュニケーションを広げようとしている。
そして、インターネット上でのコミュニケーションが増大すればするほど、実生活上の家族以外の人とのコミュニケーションが面倒になっていっている。人間のコミュニケート量は上限があるのか? コミュニケーションにも満腹中枢があるのか? でも満腹だけど、食欲はあるぞ。この感覚はどうなっているんだ?

人間という存在はコミュニケーションそのもの、と考えるならば、インターネットは素晴らしい道具だ。
なんやらかんやら文句を付けてこの道具を使おうとしない人たちはコミュニケーションということを軽視している。ただ、満腹だけど飢餓である、というある種の病気にかかりやすくはある。そこらへんが著者にとっても「憂鬱な希望」なのかもしれない。

1999年04月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:IT・ネット , エッセイ

LV5「ライン」

村上龍著/幻冬舎/1500円

ライン
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99年1月に読んだ「ワイン 一杯だけの真実」で散文が到達しうるある境地まで達してしまったと思われる村上龍。
この「ライン」も、同じようにとんでもないレベルに達した技術をもって現代日本というこの「特殊に寂しい社会」をさらりと浮き彫りにする。くどいほど濃い文体で書いていた頃に比べれば関西ダシのような薄さなのだが、それがある一線を越えてしまった表現レベルの証である。

TVケーブルや電話線などの「ライン」を通る情報が見えてしまうユウコという女性を象徴に、ラインは見えるけど中には入り込んでいかない寂しい人間関係を次々とつなげて書いている。表現手法は「パルプフィクション」的ですごく新しいというわけではないが、主題を描くのにこれ以上の構成はないだろう。

著者のあとがきが秀逸。
「文学は言葉を持たない人々の上に君臨するものではないが、彼らの空洞をただなぞるものでもない。文学は想像力を駆使し、物語の構造を借りて、彼らの言葉を翻訳する」。

そういう意味で、翻訳は見事に成功していると言えよう。少なくともボクには彼らの言葉が聞こえてきている。そして胸が悪くなるような感慨を著者からいつも得ている。空洞をなぞっているだけの文学が多い中、著者の一歩つっこんだ表現レベルには文字通り恐れ入っている。

1999年03月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV1「またたび回覧板」

群ようこ著/新潮文庫/476円

またたび回覧板
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群ようこって、相性悪いのかな。
一作くらい(題名忘れた)すっげー面白いのを読んだ気がして、それ以来たまに読むんだけど、なんだか当たらない。でもこんなに人気がある。男にはつまらないタイプのエッセイなのか? 
日常密着型エッセイとしてはまとまりもいいし親密感もあるんだけど、どうも気持ちがはじけない。まぁ新幹線とかで読み飛ばすには最適ではあるんだけど…、電車を降りた途端に内容を忘れてしまうなぁ…。

1999年03月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV5「ワイン 一杯だけの真実」

村上龍著/幻冬社/1400円

ワイン一杯だけの真実
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今度の村上龍はワインが題材か…。ブームに乗っているみたいでイヤだな…と思いつつ読んだ。

オーパス・ワン、マルゴー、ラ・ターシュなど8本のワインが絡む8つの物語。
映画小説とかレストラン小説とかを以前発表している著者であるだけに、同じような筆致なのであろうと高をくくって読んだのだが、期待はいい方に裏切られてしまった。ここには散文としての小説のある到達点があると思う。筋とか主題とかそんなものにとらわれない「文体だけの小説」・・・とでもいうのか、文体だけでここまで読ませる物語は得難いものがある。

筋を追うタイプの読者にはつまらない本かもしれないが、もうこうなってくると題材は現実感のないものであれば何でもありだと思う。ただ、ボクは敢えて日本的・土俗的なもの、例えば日本酒とかをテーマに選んで著者の中との違和感を追ってみて欲しかった気がする。もう一歩深いところに行くために。

1999年01月01日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV2「約束された場所で」

村上春樹著/文藝春秋/1524円

約束された場所で―underground〈2〉
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副題が「underground〈2〉」。つまり、地下鉄サリン事件の被害者たちをインタビューした分厚い本「アンダーグラウンド」の続編にあたる。

今度は加害者側をインタビューしており巻末に河合隼雄氏との分析対談もある。
インタビュアーが黒子をやめて一歩前に出てきた感じだ。それは小説家として正しい態度であると思うが(前作ではその点が少々物足りなかった)、今度はバイアスのかかり方が最初からいくぶん加害者否定になっているところが不満である。常識家ならそれでいいのだが、小説家がそれでいいのであろうか。

また、サンプル数が少ないのも不満。前作はその飽きるほどのサンプル数が結果的に全体を浮き彫りにしたのだが、今回はそういう作用がなかった。単に「特殊な人々」という見え方にしかならないサンプル数である。

評価すべきなのは「この時期に出した」ということ。もう一度あの問題を根本から考え直すのに最適のタイミングではなかろうか。

1999年01月01日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , 対談

LV2「辺境・近境」

村上春樹著/新潮社/1400円

辺境・近境
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辺境がなくなってしまった時代の辺境旅行記。
重い筆致と軽い筆致を取り混ぜながら、メキシコやらノモンハンやらさぬきうどん(!)やらアメリカやら神戸やらを著者が旅した記録である。時間をかけてじっくり書く小説群については超絶なる比喩や展開を軽々とやってのける著者であるが、このようにわりと軽く書いている本が思いのほか面白くないと感じるのはボクだけであろうか。例えば椎名誠や嵐山光三郎の紀行文を読むとその本を片手に同じところを旅してみたくなる。が、村上春樹のそれはどうもそういう気が起こらない。そこがこの本の問題点かもしれない。

最後の辺境は自分自身の内部だとしたら、村上春樹というヒトにはそこを旅してもらいたいものである。やはり小説が読みたい。紀行文にはあまり魅力を感じない。ちょっと厳しいか。

1998年07月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル: , エッセイ

LV5「寂しい国の殺人」

村上龍著/シングルカット社/1800円

寂しい国の殺人
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1週間ほどこの本を毎日読んでいた。1回30分程で読めるから持ち歩いていた。

「イン ザ・ミソ・スープ」の随筆版とでも呼ぶのかな。
物語に昇華していない分とてもわかりやすいテキストとして時代を読み解く鍵になる。居眠りしがちな問題意識を揺り起こすチカラがここにはある。今のボクにこの本に書かれていることがたまたま合致したということもあると思うけど。

「イン ザ・ミソ・スープ」を読んで現代に生きるということはどういうことなのかについて考え込んだ人には是非この本も読むことを勧める。

1998年02月01日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:時事・政治・国際 , エッセイ

LV4「Portrait in Jazz」

和田誠・村上春樹著/新潮社/2200円

ポートレイト・イン・ジャズ
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和田誠のイラストに村上春樹の文章でジャズを描く、となれば冬の一晩を楽しく過ごせること請け合いだ。

まず和田誠によるジャズ・プレイヤーのイラストありきで、それに村上春樹がエッセイを乗せていっているのが普通の本と逆。プレイヤーの個性をつかんだ上質のイラストに刺激されて(プレイヤーの人選がまたすばらしい)、実にリズミカルにエッセイがスイングしている。村上春樹はこういう企画ものでも大変丁寧に書き込む。しかも新しい視点を各編ひとつは読者に与えてくれる。やっぱりすごい文筆家なのだなぁ。
というか、ジャズを好きに書く、という場を得て、イキイキしている感じ。すばらしい。

1998年02月01日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:音楽 , 写真集・イラスト集

LV5「イン ザ・ミソスープ」

村上龍著/読売新聞社/1500円

イン ザ・ミソスープ
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圧倒的傑作。
ゴツンと楔を打ちつけられる。ボクたちはなんてリアリティのない時代に生きているのだろう。どうしてこの日本という共同体はこんなに薄っぺらくなってしまったのだろう。どうしてこの共同体は癒しの力を失ってしまったのだろう……。
この小説を読んで初めてそういうことを再確認しだすボクもそうとう不感症なのだが、著者はそれらをごく平易な形で読者に提示してみせてくれる。説明しすぎていると思われるくらいだ。そのうえ、この小説がすごいのは我々が感じているリアリティのなさをしっかり紙の上に定着させたこと。並みの筆力ではこれはできない。もの凄いリアリティで日本で生きる人々のリアリティのなさを描いている。

著者は「汚物処理のようなことを一人でまかされている気分になった」とあとがきで書いているが、まさにそういう実感をボクも持つ。汚物処理というより汚物整理に近いけど。

読み終わったあとしばらく身体がリアリティを失い、ふわ~と浮遊している感覚にボクは襲われた。小説のもつ暴力的なまでの「異化の力」を久々に感じた。

1997年12月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV3「若い読者のための短編小説案内」

村上春樹著/文藝春秋/1238円

若い読者のための短編小説案内
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アメリカの大学での著者の授業そのままに構成してある日本短編小説ゼミナール。

テーマに指定した短編に対する著者の真摯なる態度と丁寧な読み込みは驚嘆に値するしこちらも背筋が伸びる。
が、もしできうるならばそれらの短編も一緒に収録して欲しかったと思うのだ。全然読んだことのない第三の新人と呼ばれる作家達の短編。一般書店では手に入りにくいのが多いので、熱意があれば図書館にでも行けばいいのだろうが、なかなかそうは時間がない人が多いから…。

いや、一般化するのは卑怯か。そう、僕はそれだけの努力をしてまでこれらのテキストとなった短編を探し出して読むパワーがない。同時収録してくれたらなんて良かっただろう、と夢想してしまった怠け者なのでした。だってテーマ本を読まないとこの本の面白さは半減以下なのだもの。

1997年12月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:評論

LV0「あなたがいなくなった後の東京物語」

村上龍著/角川書店/1200円

あなたがいなくなった後の東京物語
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「あなた」とは読者ではない。ロンドンにいってしまった「あなた」である。その「あなた」にあてた手紙形式のエッセイ。

「週刊東京ウォーカー」に連載していたものをまとめたもので(だからあんまり東京に関係ないことばかり書いているのに「東京物語」なのね)、一応、映画「KYOKO」を監督する過程を追いながら書いているのだが、はっきり言って内容はスカスカである。この著者に限りこういう肩のちからが抜け切ったエッセイでも読みたいという読者はいると思うからそれをどうのは言わない。ただ単に面白くなかった。それだけ。ウェッブ上にこれよりおもしろい日記エッセイはゴマンとある。

1997年08月01日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV4「アンダーグラウンド」

村上春樹著/講談社/2575円

アンダーグラウンド
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地下鉄サリン事件の被害者達をたんねんに拾いだしてまとめた分厚いインタビュー集。先月の「AV女優」に似た構成。もともとこういう構成の本は好きだ。リアリティが違う。

作家村上春樹は知る人ぞ知るインタビューの名手で前にジョン・アービングをインタビューしたものを読んで舌を巻いたことがある。
今回も簡潔に要点をついている。が、読んでいるあいだ中「何故この著者が?」という思いが離れなかった。それは最後に著者自身の言葉で語られてはいるのだが、答えにはなっていない気がする。

地下や井戸を重要モチーフにする著者にとって「その日東京の地下で何が起こったのか」は興味があるところなのだろうが、ジャーナリズムでも小説でもない新しいカタチが著者によってここで現われるのではないか、と期待した読者は肩すかしを食う。
ボクは「東京の地下で何が起きたか」よりもインタビューをすべて終えた後「村上春樹に何が起きたか」が読みたかった。労作だが力作ではない。今後の著者の栄養にはなっただろうが。
ただし、インタビュー内容は衿を正されるような迫力がある。

1997年05月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション

LV1「ホテル・ジャンキー」

村瀬千文著/スターツ出版/1400円

ホテル・ジャンキー―ホテルが大好きでやめられない
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副題が「ホテルが大好きでやめられない」。

利用者サイドから見たホテル辛口エッセイではあるのだが、批評とエッセイと紀行文と半生記が混じりあってどうにも中途半端な感をいだかせる。世界の高級ホテル61軒について言及されているのでお好きな向き(ボクも嫌いではない)には楽しいかもしれないが、もう少し焦点を絞って書いて欲しかったかも。ホテル批評を目指して頓挫した女性誌的エッセイ、という感想。惜しいのだけど。

1997年04月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:

LV3「はじめての夜・二度目の夜・最後の夜」

村上龍著/集英社/1400円

はじめての夜 二度目の夜 最後の夜
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「料理小説」と銘打っている。ボクも好きなフレンチレストラン、長崎はハウステンボスにある「エリタージュ」を舞台にして主人公(著者がモデル)と幼馴染みの女性の3つの夜を描いている。おのおのの夜がフルコースの経過と共に描かれていて好きな人にはたまらないだろう。

ただ、なんとなくだが、「エリタージュを舞台に小説書くよ」と上柿元シェフと約束してしまったから無理矢理ストーリーを広げたみたいな感じがある(あくまで想像)。著者のエリタージュ好きは知る人には有名で毎月のように通っているらしいし、故郷の佐世保は目と鼻の先だし。もしかしたらハウステンボスの機関誌とかに発表したものなのかもしれない。

そういう意味でちょっと後付けっぽいストーリーなのだが、そこは力技が得意な著者ゆえなかなか素晴らしい。細部に著者の「生き方のスタイル」についての本音が散りばめられているのが面白い。

1997年02月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本) , 食・酒

LV1「海風通信-カモガワ開拓日記-」

村山由佳著/集英社/1900円

海風通信―カモガワ開拓日記
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千葉県の鴨川に住む著者の毎日を綴ったエッセイ。
写真やイラスト(著者)もふんだんできれいな本だが、いわゆる「田舎生活ってこんなに素晴らしいよ」本の域をそんなに出ていないのが残念。ちょっと全体に甘ったるくファンシーなのもボクの趣味ではない。わりと地に足のついた生活をしているのだからもっと浮つかずに書いて欲しかったな。それだけの力量がある著者だと思うし。
ちなみに「手作り味噌の作り方」はとても参考になった。

1997年02月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV5「ねじまき鳥クロニクル〈第3部〉―鳥刺し男編」

村上春樹著/新潮社/2205円

ねじまき鳥クロニクル〈第3部〉―鳥刺し男編
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第3巻完結編。
いったいどうしたんだ?という1巻、2巻のダラダラから、一気にストーリーテラーの本領に達していくその収束力はすごい。この収束のために1巻2巻のゆるさがあったのだと納得してしまう出来。ここへきて第一級の文学の完成をみた感じである。すばらしい。
枝葉のストーリーが完結してなくてなんか欲求不満が残る部分もある。「死が生の一側面に過ぎないように(著者は今まで繰り返しこのことを語ってきた)、過去も現在の一側面に過ぎない、そして未来も」という今回の主題からして、わざとストーリーを完結させていないということもあるのかもしれない。とにもかくにも‘力作’には違いない。「国境の南--」の数倍好き。

1995年10月01日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

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