1995年9月。
ドイツ出張でフランクフルトにいたボクは、「国境を越えたらそこはもうフランスじゃないか!海外出張なんてそんなにないんだからここまできたらどうしてもうまいフレンチが食いたい!!」
と、フランクフルトに住む日本人夫婦(転勤で現地に住んでいた。新聞社勤務)に無理を言って車を出してもらい、日帰りでフレンチを食べに行きました。
以下はそのフランス行きを、ある日本のフランス料理好きの友人にレポートしたe-mailです。シズル感があるのでそのまま掲載します。

※まだフレンチ初心者の頃に書いたコラムなので、ちょいと驚きの種類が初心者っぽいですが、まぁそんなものとして読んでください。

 

フランスはランスの三ツ星レストラン「レ・クレイエール」は、フランクフルトから車を飛ばして片道4時間、日帰りで食べにいくにはちょっと遠いけどしょうがない。いまフランスでもトップと言われるこの店の味(ミシュランで☆☆☆、ゴーミヨでも19.5点)を知って、日本のフレンチと比較したいという思いには勝てません。
いや、正直に言えばそんな批評精神で行ったのではないな。ただただ、おいしいフレンチが食べたかったのです。

ドイツからの国境を越えるとだんだん風景から泥臭さが消えていき、車窓からブドウの木が見え始めます。たぶんシャルドネ。そう、ここランスはシャンパーニュ地方の中心都市。「まずはシャンパンだな」……心はもうウェイティング・バーなのでした。

7ヘクタールの敷地を持つホテル&レストラン「レ・クレイエール」は石造りの重厚な構え。
そのわりにエントランスは明るく、ガラス張りのウェイティング・バーがすぐのところにあります。ゆったりソファーで アペリティフを飲みつつメニューを選ぶ。レストランで一番楽しい時間はいつなのかをよく心得ているんですね。しかもわき役のシャンパンが……

こ、これは……

ボクは今までシャンパンってそんなにおいしいものとは思ってなかったんですけど、これは「いままで日本で飲んでいたのはいったい何だったのだろう」と思う代物。
乾いた空気と長いドライブ、と言う要素がかなり影響していたことも否めませんが、なんといっても‘地酒’はその地で飲むのが一番、と言う法則を思い出しました。その土地の気候風土に合ったものが最上の状態で(また、最上のソムリエによってセレクトされて)出てくるんですから、おいしいのも当たり前と言えば当たり前。

さて、いよいよレストランに案内されます。
緑が窓いっぱいに広がるその部屋はすでに外人(?)でいっぱい。20テーブルぐらいあったでしょうか。有色人種は我々だけでした。

まずソムリエ登場。ヴィンテージもの(製造年が入ってる奴)のシャンパンを頼んでまたまた驚嘆しつつ、食事が始まりました。
「そんなに頼んで食べられるのか?」とメートル・ドテルに心配されたりしたけど大食には自信があったし、たまには健啖家の日本人を見せてやってもいいと思ってフルで注文した料理はまず「サーモンのフュメ」から。
桜のチップの香りがプンプンの燻製で、これははじめから「やられた!」という感じ。おいしすぎる。サーモンの身もふんわりちょうど良く出来上がっていてうまい。付け合わせがマッシュドポテト。そう、もうメインのひと皿って感じなのです。実際、魚のメインにこれを頼むひとも多いらしい。どうやら名物料理のうちのひとつみたいでした。
そりゃそうだろうな、おいしすぎるもん。記憶に残る一品でした。

はじめからこれじゃぁ、あとの展開の仕方が難しいだろうに……
すぐそれが杞憂にすぎないとわかりました。一品めを軽く越える出来栄え、「オマールとリードボーのラビオリ、フォアグラソース」
これも名物料理らしい。ただただうまい、としか書きようがない自分が情けないけど、美食とは驚きだ、とつくづく思いました。ごめんなさいね、こんな表現で。でも、まったりとした味わいが…、とか書いてもしょうがないんです。一番ふさわしい言葉があるとすればこうです。

「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

今回はこの料理が一番おいしかった。


前菜はこれでおしまい。口直しに一口スープが出て(これがあって助かった。なければ前の味をズーっと引きずってしまうところだった)メインの魚に突入。
う〜ん、今回これが残念。ちょっと塩味がきつかったのでした。日本だと淡白すぎる皿が多いCodを頼んだんですが、確かにこのぐらい味に主張がないと他の皿に負けてしまうんだろうなぁ、フランス人にはこのぐらいで適当なんだろうなぁと思いつつ、あぁ塩っ辛い!が本音。今回の唯一の汚点皿。

さて肉のメイン。
これは絶品でしたよ。「鳩のキャベツ包み、フォアグラとキャビアのソース」というスペシャリテをもらったのですが、濃厚でとろけるようなソースに香ばしい鳩がすごくよく合い、また、キャベツの歯触りとそのほのかな香りがそれに加点するんです。
これまた「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」ものでした。

最後にチーズ。
チーズ好きの妻に報告するためにもいろいろ食べました。
もちろん料理の流れとワインの相性も考えて(いい忘れましたが、ワインはボルドーのフルボディの赤、1983のChateau Trotte Vieilleというのに移っています。 ソムリエの強いお勧め。未飲のワインでしたがタンニンがなくバラの香りがふっくらしてよく鳩に合いました)。地元のチーズ数種と、リバロ、エポワッスなどのウオッシュ・タイプ。さすが三ツ星。状態が抜群でうまかった。

もうこの頃になると食べてるのは我々だけ。
フルコースを食べるのは最近あまり流行ってないらしく、みんな2.3皿で、デザートも食べず庭のテラスのコーヒーへに移っていきました。デザートは「クレーム・ブリュレ」
締めくくりとしてコースに負けない味。これも記憶にしっかり残る一品です。


さて、総体的に言えば。
やはり脱帽もので、各皿各皿必ず驚きが隠されていました。
ひと皿だけなら、日本でも2.3店張り合える店があると思うのです。プチ・ポワンやコート・ドールで食べた皿など十分張り合えます。が、各皿それぞれとなるとちょっと思いつきません。
ま、三ツ星レストランは日本で言ったら吉兆か瓢亭。国を代表するクオリティで勝負してきますから極東の小さい店が対等にいけるわけはないのです。でも、そう考えると日本のレストランは十分がんばっています。「!!!!」と驚きつつ、「この程度が世界のトップか」という思いも一方で確かにあったのですから。

気になる値段はひとり(3人で行きました)約25000円。
シャンパンからワインからロケーションから全部含めてこれ。

うーん、安い!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

95年10月記




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