ふと気がつくと、昨日と同じような一日を送っている。
昨日と同じように会社に通い、昨日と同じようにテレビを見、昨日と同じようにビールをグビる。
生活のためとはいえ、そんな毎日を送って老いぼれてくのはゴメン、だよね?

同じ顔した毎日に、ほんの小さな無理ない刺激。

機械的な毎日に人生を牛耳られないために。「オサニチ」。連載中。

 


第5回「寿司ネタ産地へ小旅行」(2002年6月)


ちょっと気の利いた寿司屋に入ると、壁の品書きにネタの産地が書いてあったりすることがある。「うちはこだわって仕入れをしているぜい!」という主張に近い。

気の利きすぎた寿司屋に入ると「仕入れが最高なのは当たり前でい」と逆になにも書いてなかったりするが、握りを客の前に出しながらコソッと「閖上(ゆりあげ)の赤貝です」などとささやいてくれたりする。
そう言われるとおいしさも倍増するから不思議だ。おお、いまボクは最高の産地で採った旬のネタをむしゃむしゃ食べているのだ!という興奮が舌を心地よく刺激してくれる。わさびより効く最上のスパイスかもしれない。

ここのが最高!と言われる産地は全国に散らばっている。
明石の鯛やタコなど良い例である。 前出の閖上(宮城)の赤貝、大間(青森)の本マグロ、大原(千葉)のアワビなどいろいろある。
東京で江戸前の寿司屋に入ると東京湾の産地がズラッと並ぶ店もある。千葉の富津を中心に佐島に三崎、久里浜に松輪……。その中でも特によく見かけるのが、「小柴のシャコ」と「野島のアナゴ」である。

実はこの小柴と野島が前から気になっていた。
シャコと言えば小柴が最高、アナゴはやっぱり野島だね、などとカウンターで始終聞かされていれば気にもなる。東京湾に面するらしいがそんな漁港聞いたことないぞ。
んでもってある日調べてみたら、な、な、なんと! 神奈川県は金沢八景にふたつともあったのである。しかも隣り合っているではないか。ううむ、そんなに近いとは!

お出かけしたのは言うまでもない。 高速使えば都心から30分。寿司屋では超有名な小柴や野島は、八景島シーパラダイスの真横の小さな小さな漁港であった(正確に言うと、現地での今の呼び名は柴港、金沢港と変わっていたが)。こんなところで最上質のシャコやアナゴが上がっていたのねー、と感慨しきりである。

このお出かけの効用はふたつある。

ひとつは「寿司屋でのシャコとアナゴがめちゃ身近になること」。
小柴のシャコを食べるにしても小柴に行ったことがあるとないとでは大違い。「あー、小柴ね」と知ったかぶりできるとかそういうことではない(それも少しはある)。食べた時にそれが上がった漁港の絵がまぶたの裏に浮かぶと味は確実に変わってくる。地に舌がつくとでもいいましょうか。なんというか自分のテリトリーで採れたネタって感じになり、寿司屋でのくつろぎが違ってくる。

ふたつめとしては「SF的大都市東京を生活の場と認識できること」。
現実感のないこの大都市からちょっとだけ土や海の匂いがしてくる感じ。地のものを食べる意義はそこにある。自然と食べ物への感謝の念も湧き上がってくる。

あ、それと「漁港近くの寿司屋でシャコやアナゴを食べる醍醐味」もあるな。 休日の小旅行としてオススメだ。移動時間は少ないし、シーパラダイスもあるし、なにより旨い。そして安い。東京の数分の一の値段で小柴や野島を食べられる。漁港のおっちゃんに聞けばおいしい寿司屋を教えてくれる(日曜は休みの場合もあるので注意)。
「野島のアナゴねー、あーボク現地で食べたことあるなー」などと寿司屋でさりげなく言える特典までついてきたりなんかしちゃったりして。


 ※東京以外にお住まいの方は、お近くの寿司ネタ産地を探してみてください。
※※野島では「島寿し」が安くて大量で地魚おいてあって良いかも。
  「島寿し」 横浜市金沢区乙舳町11-1/045-781-2337/月休

 

野島近くの海岸(野島の公園から出られる)。
東京湾って意外ときれいでびっくり。みんな潮干狩りとかやっていた。
実際には野島港というのは存在せず、いまでは金沢港という名前になっている。小さな港だ。 金沢港から柴港(小柴)まで、車で3分くらい。


柴港(小柴)。
小さい小さい港だが、日曜には市をやったりしていて、わりと活気がある。
右の奥の方には八景島シーパラダイスが見える。
近くでは「金寿司」(だったかな?)が美味しいと港のおじさんが言っていた。


柴港の真ん前に「ブレーメン」というパン屋がある。
そこで売っていたのは、なんと「しゃこパン」(左)と「穴子パン」(右) 。小柴のシャコと野島の穴子を両方売りにしているんだね。いいことだ。
両方食べてみたが、 穴子パンはカレー味にしてあって、穴子の味がいまひとつしない。しゃこパンの方が個性的でうまかったかな。




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