ふと気がつくと、昨日と同じような一日を送っている。
昨日と同じように会社に通い、昨日と同じようにテレビを見、昨日と同じようにビールをグビる。
生活のためとはいえ、そんな毎日を送って老いぼれてくのはゴメン、だよね?

同じ顔した毎日に、ほんの小さな無理ない刺激。

機械的な毎日に人生を牛耳られないために。「オサニチ」。連載中。

 


第4回「通勤落語」(2002年5月)


ボクはiPod(MacのMP3プレーヤ)愛用者である()。

MP3プレーヤと言われても何がなにやらという向きには、ウォークマン(古っ)の進化版と思っていただくといいかもしれない。
5ギガバイトのハードディスク内蔵で約1000曲を持ち歩ける。軽いしお洒落。写真のように手のひらサイズなのだ。
そのうえ、音飛びしないし検索も瞬時。1000曲を気分次第で聴き分けられて実に重宝しているのだ。

最初は好きな曲を片っ端から入れて楽しんだ。
古いフォークからPOPS、交響曲、JAZZまで、アルバムごとに入れ替えていた今までに比べ格段に音楽が身近になった。「いつか時間があったら聴こう」と思っていたダイアナ・ロス全曲集やビル・エバンス全曲集なども入れて、仕事の合間を見つけて聴き通した。そのうち英会話教材も入れだした。

5GB1000曲ではとても足りないなぁ、もっと大きい容量のもの出ないかなぁと思っていたら、このまえ10GBモデルが出た。10GBだと2000曲! おお!とさっそく買い換えてしまうくらい、iPodはボクの生活に入り込んでいるのである。携帯電話は忘れてもiPodだけはどこに行くにも忘れない。

このiPodに落語を入れてみたのはいつのことだったろう。
ふと思いついて、持っていた古今亭志ん朝のCD「文七元結」をiPodに入れて通勤途中に聴いたのである。
この時が結果的に生活革命の瞬間だったのである(んなオーバーな)。音楽とは全然違う刺激感。まず通勤が180度変わった。苦行だったそれが「え、もう会社についちゃったの? もっと聴いていたい!」になった。
音楽と違って落語はひとつひとつが長い。聴き始めると話に引き込まれてあっという間に1時間くらい経ってしまう。どこをどう歩いて会社についたかも覚えていないくらい引き込まれるのだ。

気分転換的にも音楽より即効性がある。
笑いこそ百薬の長だ。どんなに気分が落ち込んでいてもいつしか心は江戸に飛び、グググッと笑いの世界に引き込まれていく。何度も聞いたお話であるはずなのに笑える場所では何度でも笑える。ふと気がつくと気分は一気に五月の空のように明朗になっている。

仕事にもいい影響を与えるぞ。
宵越しの金は持たない江戸っ子気質が乗り移るのか、はたまた貧乏長屋に住んでいたって楽しい人生ならまぁいいじゃん的気分になるのか、とにかく「肩の力が抜ける」のだ。なんとかなるさと楽天的になり、ビジネスも対人関係もすらすらうまく行ったりする。

そして日本人が全員持っておくべき基礎教養も知らぬうちに身につけられる。そう、古典落語の筋くらい基礎教養なのだ。「お、それって芝浜みたいだね」とか、わかる人にしかわからない会話を粋にしてみたいというもんだ。

ただ、困るのはどうしても爆笑が顔に出てしまうこと。
電車の中だったりするといきなりアナタは「変な人」である。不機嫌顔ばかりの中で「ぐはははんぐぐぅ」(←笑ったあと堪えてます)となってしまう恥ずかしさ。堪えているから変に顔が歪む。不気味だ。
道歩いているときも、前から来た人に変な顔される。でもね、電車でも道でも、ボクの不気味な笑い顔はみんなに笑いを与えている。あの人なにひとりでニヤニヤ笑ってるの? と不審がられつつ、思わずその人も笑い顔になっていたりする。笑いは伝染するのだ。笑う門には福来たる。日本経済にとっても非常にいいことではないか。

まずはわかりやすく上手な志ん朝あたりから始めるのがオススメだ。ただし自転車通勤しながらの落語清聴は、引き込まれすぎてたまに危ない思いもするからご注意を!



※)アップルのiPodサイト(いまでは20GBタイプも売ってます)
  http://www.apple.co.jp/ipod/

 




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