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2007年04月

LV5「『エンタメ』の夜明け」

馬場康夫著/講談社/1400円

「エンタメ」の夜明け ディズニーランドが日本に来た!
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副題が「ディズニーランドが日本に来た!」。
ホイチョイ・プロダクションズのリーダー馬場康夫の書き下ろし。日本のエンタテインメント・ビジネスを「始めた人」へのオマージュであり、日本のエンタテインメント草創期の記録でもある。

まず文章がいい。事実との距離のとり方が絶妙。客観的で独白的でハードボイルドだ。たぶん(たぶんだけど)森山周一郎の声を意識して書いたんじゃないかな(笑)。彼が読むとびったりハマル感じ。そんな文章である。変に熱いドキュメンタリーにせず、ちょっと上から硬派かつ冷めた目で俯瞰している。これはたぶん著者自身がこの題材に惚れ込んでいるからこそ、なのだろう。いくらでも熱く書けるからこそ、逆にきっちり客観的に距離を置いた感じ。そしてその手法は成功している。

内容は、小谷正一と堀貞一郎という2人のプロデューサーを軸にしたノンフィクション。
ふたりとも広告会社の電通にいて大阪万博、そしてディズニーランドの立ち上げに関わった。その半生と仕事を丹念に追った上で著者はこう言い切っている。「ディズニーランドの出現ほど、日本の行方を変えたできごとはなかった」と。このちょっと鼻白む結論もこの本を読んだあとだとすとんと胃の腑に落ちる。そして一般的には「無名」であるこのふたりが日本にボディーブロー的に与えた影響の大きさに感動するのである。

あえて言えば、盛り上げたあげくのディズニー誘致顛末を多少端折ったのが残念。そこがこの本の骨ではないとはいえ、ちょっとだけはぐらかされた感も残る。また、小谷正一の記述ももう少し読みたい。特に引退前後からの記述が(資料が少ないとはいえ)もう少し欲しいのも事実だ。

ホイチョイでの活躍を含めて、著者は「時代の空気とそれを作っている人々」が本当に好きなんだろうな。時代の観察者として馬場康夫という逸材を持っている我々はとても幸せなんだろうと改めて思う。
これからエンタメを目指す若手は特に必読。現在普通に享受しているエンタメの裏にある歴史を知りたい人もぜひ読んで欲しい本。

2007年04月10日(火) 19:28:11・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , 自伝・評伝

LV5「幸福な食卓」

瀬尾まいこ著/講談社/1470円

幸福な食卓
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寡聞にして瀬尾まいこのことを知らなかったが、中一の娘に激薦められて読んだ。最初がこの「幸福の食卓」。とても良かった。しばらく他のも読んでみたい作家である。

出てくるキャラがとてもいい。直ちゃんも大浦くんも実に魅力的で、しかもリアリティがある。父も母も通り一遍でないキャラ設定で、シンプルに見える断片の奥底にちゃんといろんなものを抱えている様子がさりげなく描写されている。なんつうか「表面に見えている姿は氷山の一角」的な描き込みがちゃんと出来ている感じ。なかなか種を明かさず、だんだんキャラの薄皮がはがれていく快感。そしてはがれていくに従ってキャラがより魅力的になるのである。逆のパターンも多い中、さすがな筆力と構成力。周到にキャラ設定して書き始める作家なのかもしれないが、意外とそういうのを感じさせないなにげなさもこの著者のイイトコロ。

ふわふわ生きているようで意外と地に足が着いているキャラたち。細かいところの書き込みがしっかりしているのでリアリティがあるのだが、この空気感はとてもモダンだと思った。イマっぽい。えてしてステロタイプな描き方になってしまう現代の病巣(家族崩壊や学級崩壊)もスラリとスマートに書ききっている。こういう距離感がいいな。

2007年04月20日(金) 15:35:27・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV4 「アフリカにょろり旅」

青山潤著/講談社/1600円

アフリカにょろり旅
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幻の熱帯ウナギ捕獲のためにアフリカ奥地に入り込んだ東大の研究者による冒険記。

とはいえ研究の書ではまるでなく(題名でわかるか)、いわゆる「爆笑紀行」的趣き。特殊すぎるその体験のすべてが事細かく書かれてあり、読者は日本のベッドで彼らの地獄の日々(そーとー地獄)をウヒヒと笑いながら追体験できる。なんていい世の中なのだろうか(笑)

世界に存在するウナギは全18種類。東大の研究室はそのうち17種を採集し終わっていた。だがアフリカに生息するラビアータという種類だけがどうしても手に入らない。それを採集するために、著者青山潤と相棒の渡邊俊がふたりで灼熱のウナギ捕りツアーを敢行する。マラウイ、ジンバブエ、モザンビーク。アフリカ南部奥地でひたすらウナギを探す毎日。次々に起こるアクシデント。灼熱。危険。焦燥。体力の限界。友情。それら全部引っくるめて「にょろり旅」。ひたすら明るい筆致が救いとなり、読者は気楽に旅を楽しめる。著者は意識していないかもしれないが、もう少しでも筆致が暗かったらと意外と読んでいて厳しかったかもしれない。そのくらい過酷さが行間に感じられた。

この本はお笑い系ではあるが、実はこのウナギ研究班、ちゃんとスゴイ。世界で初めてニホンウナギの産卵場をほぼ特定したりしている。そういう理系学者がこういうハードルの低い本を書いて研究の現場を面白おかしく紹介してくれたこと自体が素晴らしい。こういった本がもっともっと増えるといいなぁ。最先端の研究の現場ほど面白いものはない。ちゃんとボクら素人にもわかるように翻訳して楽しく書いてくれれば、これほど知的冒険に満ちた題材はないだろう。

2007年04月10日(火) 18:26:29・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , , 雑学・その他

LV4「野ブタ。をプロデュース」

白岩玄著/河出書房新社/1050円

野ブタ。をプロデュース
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2004年度文藝賞受賞作品。芥川賞候補にもなった。
題名が独特なのと、亀梨和也が主演してドラマになったこと(彼と堀北真希の出世作でもある)、役名の修二と彰で「青春アミーゴ」を歌いヒットしたことなどで、知名度は抜群だろう。ボクも読もう読もうと思っていたがようやく読めた。

単純に面白かった。
高校生の物語だが、高校生に限らず若者全体の「ポジショニング命な感覚」「表面的なプロデュースで渡っていく感じ」をここまでリアルにわかりやすく描ききった本は他にあまりないだろう。ポジショニング。プロデュース力。これがすべて。中身も深みもいらないのだ。
そのテーマを、「着ぐるみ」と称して自分を演出する秀逸な主人公・修二に託し、彼に信太(野ブタ)をプロデュースさせることでよりわかりやすく表出させているあたりが舌を巻くくらい上手。さすが。しかも45歳のオッサン(ボクです)ですらとっても共感できるくらい、いくつも入口とヒントを用意してくれている。

というか、高校の話というよりは「日本社会の上手な泳ぎ渡り方」にまで普遍化されたらどうなっていたんだろう、とか考えてしまう。サラリーマンだって「着ぐるみ」を着るし、「ポジショニングを敏感に察知」するし、「自分や部下をプロデュース」して生きている。表面的なのだ。修二の親世代か先生たちを絡めて普遍化させていたらどんな作品になっていたかな…。

ちなみにラストは賛否両論あるらしいが、このリセット感は絶対必要だと思う。ポジショニングに失敗したらあっさりリセットする。それでこそ修二である。

2007年04月25日(水) 16:44:49・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV2「温室デイズ」

瀬尾まいこ著/角川書店/1365円

温室デイズ
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「幸福な食卓」を読んでとても良かったのと、学級崩壊の描き方がスマートで好感がもてたので、続けて瀬尾まいこの「温室デイズ」を読んだ。

テーマはまっすぐ学級崩壊とイジメ。
とはいえ全然ドロドロしてなくて、あっさり推移していく。この、真っ向から立ち向かわないあっさり感が逆にリアリティを生んでいる。上から見て書くとお説教っぽくなったり、懸命に生徒たちに寄り添って書くとオーバーになったりするところを上手に避けて通ることによって、逆にリアルな空気感が出てきているのである。金八なら解決できるところをあえて解決させない「流し感」。このあっさりした収め方は逆に勇気がいる気がする。なかなかやるなぁ。

ただ、じゃあそのリアル感だけで小説が持つかというとそうでもない。小説全体として考えると物足りなかったのも確か。収めどころがどうしても欲しくなる。あっさり終わって好ましいけど物足りない。複雑な感じ。あと「幸福の食卓」に出てきたような秀逸なキャラがひとり欲しかった。不良役がそうとも言えるがもう少し突っ込み足りず。惜しい。

2007年04月21日(土) 8:57:03・リンク用URL

ジャンル:小説(日本) , 児童・ティーンズ

LV2「強運の持ち主」

瀬尾まいこ著/文藝春秋/1300円

強運の持ち主
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占い師ルイーズ吉田を主人公にした短編小説集。
瀬尾まいこは三冊目。どの本も題名が普通っぽい。その普通ぽさも著者らしいのだが、ちょっと惜しいかな。この本ももう少しマシな題名があった気がする。

相変わらずあっさりさっぱりした読後感。でも主人公設定がなかなかユニークで面白いので印象に残る本となった。技のないインチキ占い師。適当に相手から情報を引き出して、気持ちよくさせてあげ、背中を押してあげる仕事。占いというより相談。そして当然そこにいろんな悩みが持ち込まれるわけで、小説的展開に持って行きやすい。もっと野心的に書けばいくらでも劇的なお話しになるだろうに、それをしないでひたすらあっさり持っていっちゃうのが著者独特の価値観だ(価値観なのだろう。他の本もそうだもの)。

主人公の彼が「占い上では強運の持ち主」という設定なのだが、特にそれをいかした展開はない。その辺、やっぱり少し物足りなく読み終わった。意外と数冊のシリーズにして、全体で俯瞰したら面白い題材なのかも。続編とかあったらダラダラ読みたい気分。

2007年04月22日(日) 21:13:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

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