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2004年01月

LV5「13歳のハローワーク」

村上龍著/はまのゆか絵/幻冬舎/2600円

13歳のハローワーク
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この本を読むといままで子供たちに「自分のやりたいことを見つけなさい」とか言ってきたのがいかに無責任かわかるであろう。
これは村上龍が彼独自の「教育とは有利性の獲得」という持論に基づき、13歳前後の子供たちがこれから職業を選択していくための指針を具体的に示した職業百科である。全部で513の職業が収められており、子供たちがいま「好きでたまらないこと」の延長にどんな職業があるのか、それになるためにはどういう勉強・訓練が必要なのかが的確に示されている。いわば、人生の513択。

たとえばこの本は、いま子供が「おしゃれが好き」ということなら将来的にこんな職業がある、と提示する。
ファッションデザイナー、ジュエリーデザイナー、ファッションモデル、靴デザイナー、バッグデザイナー、帽子デザイナー、テキスタイルデザイナー、ソーイングスタッフ、テーラー、和裁士、リフォーマー、アパレルメーカーで働く、スタイリスト、フォーマルスペシャリスト、着物コンサルタント、着付師、美容師、理容師、調香師、メイクアップアーティスト、ネイルアーティスト、エステティシャン。

そしてそれぞれの職業の内容、功罪、なるための方法などをわかりやすく書いている。
ボクたちが13歳のころこんなに将来を具体的に意識しただろうか。すばらしいなぁ。もちろんすべて村上龍が書いたわけではないだろう。著というよりは編著に近い。

いい学校を出ていい会社に入るという生き方が必ずしもいい人生と限らないのは、ほとんどのサラリーマンが実感していることだ。
ボクを含めたサラリーマンたちは「何になるか」ではなく「どの会社に入るか」で人生を考えてしまった。このライフモデルは幸せになれるわけではないという点でとっくの昔に崩壊している。なのに新しい指針を子供たちに示せずにいるボクたち。村上龍はそこに具体的な職業紹介で応じた。さすがである。このコンセプトは切れ味がある。目指す職業を決めて一刻も早く社会に出て、アドバンテージを獲得しサバイバルせよ、という明確な指針。これがいまの大人たちに一番欠けているものかもしれない。

というか、ボクたちが13歳のころにこの本があったら…と強く思う。ボクたちはどんな生き方がこの世にあるか、具体的に知らずに大学生になり、大学3年のころにはもうつぶしがきかなくなっていた。そういう漠然とした生き方ではこれからは生き残れないだろう。

要所で入る、著者のエッセイもかなりシャープ。とてもよい。
特に最後にまとめてある「いろいろな働き方の選択」という項など、ほとんど人生論である。前書きで彼は「わたしは1日に12時間原稿を書いて、それを何ヶ月も、何年も続けても平気です」とある。そういう職業を見つけるために、この本をいま読もう。子供を持つ親だけでなく、すべての大人に勧める。人生100年時代。40歳とかだって13歳みたいなものなのだ。

2004年01月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:教育・環境・福祉 , 児童・ティーンズ

LV4「おい、ブッシュ、世界を返せ!」

マイケル・ムーア著/黒原敏行訳/アーティストハウス/1600円

おい、ブッシュ、世界を返せ!
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原題は「Dude,where's my country?」。邦題はギリギリの距離感かな。
相変わらず痛快な内容である。というか、前作「アホでマヌケなアメリカ白人」に比べると共和党批判が激しくなっており、ほとんど「みんなで民主党を応援しよう!」になっているので、アメリカ国外に住むボクたちにとっては少し鼻白む部分も多い(特に後半)。が、前半から中盤にかけての論点の鋭さはさすがなもので、ブッシュやネオコンたちにぜひ反論してほしいと熱望するほど。どう反論するのか是非聞きたい。そして小泉首相にも。そんな勢いに満ちた快著である。

この中であるエピソードが明かされている。あのベストセラー「アホでマヌケなアメリカ白人」が発売中止寸前だったというのだ。
あの本の初版5万部はたまたま9.11の前日に刷り上がった。出版社は内容の50%にものぼる我らが愛国的指導者ブッシュ大統領への批判を削除するよう求め、削除しなければ全部パルプに戻すと通告した。一語たりとも変更しないと突っぱねたムーアのせいで、それから5ヶ月間、本は倉庫に眠り続けた。そのことを著者の講演会で耳にした、友人でも何でもないニュージャージー州の図書館司書アン・スパラニーズは、闇に葬られようとしているその本のことを大勢の司書仲間にEメールで教えたのである。メールはネット上を駆けめぐり、数日内に怒れる司書たちのメールが出版社に殺到し、ついに出版社が折れて発売にこぎつける。出版社側はイヤイヤで、何の広告も打たず書評依頼すらしなかったらしいが、この本は発売後数時間でアマゾンの売り上げランキング1位に躍り出て、5日以内に9刷(現在52刷)。アメリカのハードカバー・ノンフィクション部門で年間ベストセラー1位まで行ったという。

ブッシュ批判の数々や「フランスは本当の意味で友達だ」と言及したあたりに並んで、このエピソードが特に印象に残った。ここから何を感じるかはみなさんにまかせますが。

2004年01月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:時事・政治・国際

LV3「カヴァフィス全詩集」

カヴァフィス著/中井久夫訳/みすず書房/3700円

カヴァフィス全詩集
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どの新聞だったかなぁ。カヴァフィスの詩を引用しているコラムがあって、その詩におお~っと感動して、ネットでこの本を注文した。で、1ページ目から丁寧に読んでいってその詩を探したのだけど、訳の違いもあるのか何度読んでもその詩が見つからず。その新聞のコラムは切り抜いておらず(出先だったのかも)、結局その詩とは再会できず仕舞い。がっくりである。(もしかしたら「市(まち)」という詩かもしれないという漠然とした印象はあるのだが)

ま、結果的にカヴァフィスと出会えたわけで良かったのです。
カヴァフィスは今世紀最大のギリシャ語詩人と言われ、20世紀言語芸術の極北のひとつとされているらしいが(本の紹介から)、彼が紡ぎ出す言葉は現代日本に住む我々にも平易でわかりやすく、実に示唆に富んでいる。ローカルな題材やギリシャ神話系題材も多いのでそっち方面の教養に薄いボクとしてはその手の詩は読み飛ばすしかなかったのだが、それでも十分に楽しめた。性の悦びをうたった官能詩も多いし。

ちなみに、エドワード・サイードが今年9月に亡くなった時、娘さんが父のお気に入りだったというカヴァフィスの「野蛮人を待つ」を朗読したそうだ。この詩はいい。ボクもかなり気に入った。また上述の「市」や「せめて出来るだけ」「認識」「隣のテーブル」「絶望して」など、わりと初期の詩が好きかも。

2004年01月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:詩集・歌集など

LV3「本人の人々」

南伸坊著/南文子写真/マガジンハウス/838円

本人の人々
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言うなればナンシー関や高橋春男の実写版である。
15分もあれば読み終わってしまう本かもしれないが、内容は実に濃い。顔マネでは定評がある南伸坊がいろんな「本人」になりきって顔を作って写真に写り、「本人」になりきって文章も書いている。

文章もさすがだが、なんといっても顔がすごい。特徴の切り取り方が尋常ではない。イチローの口元、新庄の目、石井一久の口、寺原隼人の眉(あれ、野球選手ばかり)などの形態模写もすごいが、性格そのものを(ある種の悪意を持って)映し出したその技がまたすごい。村上龍や清原、養老孟司、手嶋龍一、加藤紘一、山崎拓、宮崎駿……いややめよう。ひとりひとり例を挙げても仕方がない。中にはハァ?という模写もあるが、8割方絶品に似ている。

コピーライターになりたてのころ、コピーのコツとして「他人になったつもりで書いてみる」というを習ったことがある。このコピーを長嶋ならどう書くか、林真理子ならどう書くか、桑田佳祐ならどう書くか、など、本人になりきって書いてみるのだ。そうすると意外なほど発想が広がったのを覚えている。この本の効用もそんなところにあるのかもしれない。

2004年01月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 写真集・イラスト集

LV3「リンボウ先生のオペラ講談」

林望著/光文社新書/850円

リンボウ先生のオペラ講談
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オペラの本数々あれど、代表的なオペラについて微に入り細を穿ちその「あらすじ」を書き込み、解説してくれた本は他にはないだろう。なんだかんだいっても異国の異文化であるオペラはやっぱり理解しにくい。音楽だけでなく、まず筋自体が理解しにくい。それを林望が著者特有の親切さでしっかり頭から追いつつ理解させてくれるのである。あらすじを追うだけでなく、解説や感想をいいタイミングで入れてくれているのがいい。

取り上げられているのは「フィガロの結婚」「セヴィリアの理髪師」「愛の妙薬」「ラ・トラヴィアータ」「カルメン」「トスカ」の6作品。オペラを観る前にこの本で筋と見所を予習しておけば、あとは心おきなくすばらしい音楽に浸れるのだ。
こういう本が欲しかったし、意外となかった。こういう目の付け所が著者っぽいな。巻末に著者お勧めの音源一覧もついている。アリア別なのがちょっと煩雑だけど。

2004年01月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:アート・舞台 , 音楽

LV2「他者の苦痛へのまなざし」

スーザン・ソンタグ著/北條文緒訳/みすず書房/1800円

他者の苦痛へのまなざし
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大雑把に言えば、戦争写真論である。
戦争の苦痛と戦争写真によって伝えられる映像の苦痛、その直接性と間接性の差に起因する様々な問題を具体的な写真例を取り上げながら(本書に写真は一枚も載ってないが)論じていく。スーザン・ソンタグの論はチョムスキーなどよりも読みにくいという印象があったボクだが、この本はわりと平易でわかりやすかった。ただし、比較的当たり前な論の展開だなぁと思ったのも事実。ひとつひとつ命題をつぶしていっているあたりは、きっと必要なのだろうけど、一般読者としてはわりと退屈かもしれない。

第五章で指摘されている「アメリカに奴隷制の歴史博物館がないのはなぜか」「写真を見ることでわれわれが攻める権利をもっていると信じている対象は誰なのか」というあたりの論展開、そして第六章の、死体や暴力を受けた肉体、苦痛の映像などが性的興味を喚起するという出発点からの論展開が興味深かった。

というか、この本の秀逸な部分はその題名が大きい。いい題名だなぁ。原題は「Regarding the pain of others」。

2004年01月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:時事・政治・国際 , 評論

LV2「蕎麦の蘊蓄」

太野祺郎著/講談社+α新書/780円

蕎麦の蘊蓄―五味を超える美味しさの条件
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蕎麦のあれこれについて、コンパクトにわかりやすくまとめてあるいい本である。様々な要素をまとめてあるので既知のこともたくさん出てくるが、ある意味「蕎麦の蘊蓄網羅本」なので仕方がないだろう。コンパクトに網羅してある分、幾分内容が薄くなっているが、まぁでもこれ以上の知識は素人にはいらないだろうなぁ。程のよいマニアックぶり。選定してある蕎麦店が少し偏っているかなとも思うが、まぁそこからは読者の好みということで。
ただ、蕎麦喰いや蕎麦打ちってどうしても求道者的イメージが出てしまうのがイヤなのだが、どうもその辺の匂いがこの本からもしてくるのが個人的にはなんだかなな感じ。蕎麦ってどうしてそうなるのだろう。うどんはそうならないのに。もう少し肩の力を抜いてくれ、とちょっと思った。

2004年01月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒

LV2「シェフ、板長を斬る悪口雑言集」

友里征耶著/グラフ社/1400円

シェフ、板長を斬る 悪口雑言集―東京のレストラン、料理店の評価
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この本の趣旨はボクが7年前にジバラン(自腹覆面レストランガイド)で提示したものとほぼ同じなので、他の人はともかくボクには特に新鮮なものではない。徹底的に一般人側にスタンスを置いてみると、どうしてもこういった内容になっていく。ボクもジバランを始めた直後は過激に一般人側に立っていた。でもボクも5年ほど経験を積み、ネガティブな言葉だけでは何も伝わらないことに思い至り、いまはスタンスを変えている。とはいえ、著者が言うように、食評論家たちのスタンスのぬるさ、偽善さ、読者裏切りに近い書きっぷりには相変わらず辟易している。もうこのごろでは食雑誌すらあまり読まないくらいである。

だから基本的に著者の趣旨には賛成する。
ただ、この本にはいろいろ難点がある。まず題名。悪口雑言ではなく意見なのだから、きちんとそういうスタンスを貫く題名にすべきだ。インパクトを狙ったのはわかるが…。シェフ・板長は敵ではなく、楽しい食の時間をいっしょに作り上げる味方なはず。それなのに切り捨てすぎる。一般人側に立ったいい評論がいいシェフ・板長を育てることもままあることを忘れてほしくないと思う。
また、中で「自分はこういうひどい扱いを受けた!」と強く主張している部分がいくつかあるが、ここの書き方を少し工夫してポジティブにしてほしかった。題名とこのあたりの書き方が違うだけでこの本は鋭い問題提起本になるのに惜しい感じ。ネガティブに書いている限りその問題提起はマイナーに落ちてしまう可能性がある。ある程度著者とスタンスが近いと思うからこそ、そこがなんとかならなかったかなと残念に思う。難しいことなのだけど。←同じようなことをやってきたからこそわかる難しさ。

2004年01月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒

LV1「100歳まで生きてしまった」

ニーナ・エリス著/実川元子訳/新潮社/1600円

100歳まで生きてしまった
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100歳以上の老人をセンテナリアンと呼ぶらしい。この本はそのセンテナリアンを著者がインタビューしまわった本である。
インタビューしたのは19人。著者はインタビューしながら、わりと正直に「つまらない」「頭が痛くなる」「何言っているかわからない」など書いているが、読んでいる側も同様で、全体に心躍るものはなく、なんだか老人の戯言につきあわされた思いが残る。センテナリアンならではの知恵や含蓄や到達点が示されるわけではなく、単に100年以上の人生が淡々と提示され、そこに著者自体の人生と感想が重なるだけなのだ。
100歳以上というのはいろんなことがシンプルになってしまっていて、インタビューしてもすべて同じようなものなのかもしれない。センテナリアンをインタビューするからこそ本になるのだが、老人に人生の知恵を語らせるなら、もうちょっと生に色気があるであろう80歳代とかにした方が面白いかもしれない。まぁなんつうか、そんなに得るものがない本だった。

2004年01月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , 自伝・評伝

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