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2003年12月

LV5「ららら科學の子」

矢作俊彦著/文藝春秋/1800円

ららら科學の子
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前半から中盤にかけては傑作。
後半少し著者の思い入れ過多となり読みづらくなってくるが、全体に流れるリリシズムと悔恨と諦観に、ある年齢以上(40歳以上かな。特に安保闘争年代)の読者は実に気持ちよく共感できることだろう。安保闘争で警官を殺してしまい逃げるように中国に渡った主人公が中国の山の中から30年ぶりに東京に戻ってくる(タイムマシン的設定)。その50歳の主人公が感じる浦島具合のリアリティと深い失望。日本がこの30年に歩んだ荒廃の道がそこに浮き彫りにされる。まさに科学の子と言ってもいい日本国の精神の荒廃が深く淡々と描かれていく中盤がすばらしい。

安保闘争やその世代(ある理想に生きた世代)を描いた本や映画はたくさん出た。でも誰もその結果とか答えを今に与えていない。この本は敢えてそれに挑んだ力作と言える。昭和の匂いを少しでも覚えている読者ならあのころの熱を思い出すとともにアレらはいったいどこに消えてしまったのだろうと感慨を持つだろう。そういう内省を自然と起こさせてくれる本でもある。
残念なのは、会話の主体がわかりにくいこと。カギ括弧内の発言が誰が言ったのかがすっと頭に入ってきにくい書き方なのだ。途中そこで何度もひっかかり、物語の流れを寸断した。

題名がいいなぁ。ららら科學の子。もっと重い題名もありえるのに、アトムに象徴させた上に「ららら」をつけたのが秀逸。

2003年12月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「バベットの晩餐会」

イサク・ディーネセン著/枡田啓介訳/ちくま文庫/680円

バベットの晩餐会
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この本での表記はイサク・ディーネセンとなっているが、ボクの中ではアイザック・ディネーセンである(ただし、この名で覚えられてしまってはいるが、英語読みに忠実にするならばアイザック・ダイネセンらしい。イサク・ディーネセンはデンマーク語読み。どちらにしろディネーセンはありえない、ディーネセンである、と訳者)。

ボクのフェバリットでもある「アフリカの日々」の著者。
彼女は英語版ではこの男性名を名乗るが、母国語であるデンマーク語で書くときはカレン・ブリクセンの名前を使った。先に英語で書いてから、自らデンマーク語で書き改め、ほぼ同時に出版するという特異なカタチをとった作家である。そうして書かれた英語版とデンマーク語版で内容にかなりへだたりがある場合があり、この「バベットの晩餐会」はそれに当たるらしい。デンマーク語版の方がずいぶんページ数が多いというのだ。そういうこともあって、この本はデンマーク語版を元にしているので、実はカレンの名前を著者に使うべきなのだが、併録の「エーレンガート」がイサクの版からとっているので訳者も悩んだらしい。結局通りがいいイサクの名前を使用したということだ。

この「バベットの晩餐会」は映画で観ていたが(傑作!)、原作をずっと読まずにいたのでいそいそと。
短い小説だが、予想通りの格調高さ。そして誇り。「アフリカの日々」でも感じたが、この行間から匂い立つような誇りはなんだろう。著者独特の文体だ。

内容的には、ある意味この短編の中に人生のすべてが入っているなぁと思わせる名作。寓話的ではあるが、芸術とはなにかをここまできっちり表現した小説も少ないだろう。併録されている「エーレンガート」もとてもいい。たまにこういう格調高い文章を読むと、現代作家をつまらなく感じてしまう。

2003年12月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV4「花火」

川内倫子著/リトル・モア/1800円

花火
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第27回木村伊兵衛写真賞受賞の写真集。
9月に花火師デビューしたボクであるが、一緒に花火打ち上げをしている仲間がこの写真集に写っているということを聞き、前から探していたのだった。やっと見つけて購入。

薄い写真集であるが、中身は濃い。花火を都会の生活の中の一事象として切り取っており、あの、打ち上げられた瞬間の時間が止まった感じもとてもよく写し取られている。都会の景色の中の異物としての花火。それを魂抜かれたような顔で見つめる人々。醜い電柱や電線の向こうで一瞬止まる花火。それを無視するように話す人々。写真家の目線は花火によって異化された都会に向けられている。感性あふれるいい写真集だ。

2003年12月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:写真集・イラスト集

LV3「無名」

沢木耕太郎著/幻冬舎/1500円

無名
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あの沢木耕太郎が無名の人である実の父親の死について書いたというのだもの、読まざるをえないだろう。
でも、実はあまり期待しなかった。沢木耕太郎はある冷たい客観性を持った上で対象物に(仕事として)熱く近づいて行くときにこそそのチカラを発揮すると思うから。父が対象物というのは少し出発点がウェットになりすぎ、著者のいい部分が活かされないのではないかと予想したのだ(名作「深夜特急」も、彼は基本的に対象物に冷たい。そしてそれを熱めに書く。逆のように思っている人も多いと思うが、ボクはそう思う。まぁ時間を置いて書いたらしいのもあるかもしれないが)。

ボクの予想はある部分当たりある部分はずれた。どうも父親に対してもともとウェットではなかったようだ。だから彼の文章の良さはキープされていた。が、熱く近づくには苦しい対象物だったようで、ぐっと胸に来るチカラが全体を通して感じられなかった。たぶん著者自身、抑制を効かせることを意識していてそれが効き過ぎたのかもしれない。また著者ならではの掘り下げがいまひとつなのも不満。全体にまぁまぁ良かったのだけど、沢木耕太郎が書くならもっと何かを期待してしまう。そんな感じ。

2003年12月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション

LV3「西麻布ダンス教室」

桜井圭介・いとうせいこう・押切伸一著/白水社/2600円

西麻布ダンス教室―舞踊鑑賞の手引き
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バレエ系の本や情報をあさっていると、この本を絶賛する評がとても多いのに気づき、遅ればせながら熟読。基本的に「やさしくわかりやすく神髄まで」な本だし、先生役の桜井圭介と生徒役のいとうせいこう・押切伸一の3人のぶっちゃけた対話で章が進んでいくので読みやすいのだが、やっぱり初心者にはつらいかも、というのが感想。だって固有名詞(人名)がドカドカ出てきて初心者はこんがらがりまくるんだもの。でも、経験を積んで1年後とかに読んだらきっととてもいい感じに読めるのだろうと思う。中級者には最適な本だと思われる。というか、こういう「油断すると難解になってしまうことを平易に説いてくれるセンスのいい本」というのは大好き。1年後再読候補本。

2003年12月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:アート・舞台

LV3「永遠の文庫〈解説〉名作選」

斉藤愼爾編/メタローグ/2000円

永遠の文庫「解説」名作選
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ボクたちが中学生高校生だったころの文庫が手に入らなくなってきた。
つまり30年くらい前の古典的文庫群。もちろん小説は再販されたりしてこれからも生き残っていくことが多いだろうが(絶版も多いだろうが)、痛いのは、再版されると解説も変わること。文庫にはさまざまな名解説がある、名文がたくさんあるんだけどなぁ…などと思っていたら奥さん! こんな本が出たですよ!

この本はその「文庫の解説を取り上げた」という切り口がすばらしい。実際に読み始めると、わりとマニアックな小説を取り上げているので鼻白む部分もあるのだが、さすがに選ばれているだけある名文揃い。評論上級者が本編に負けないように書いているせいか、迫力すら感じる。そしてなんだか学生時代の向学心まで戻ってくるような懐かしさすら感じた。

向田邦子の「父の詫び状」を解説する沢木耕太郎や、池澤夏樹の「スティル・ライフ」を解説する須賀敦子、野坂昭如の「エロ事師たち」を解説する澁澤龍彦など、聞いただけで読んでみたいでしょ? 解説とはそういう名文がいっぱい溢れている宝庫であることをわからせてくれるいい本なのである。

2003年12月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:評論

LV3「シェリー、ポート、マデイラの本」

明比淑子著/小学館/3200円

シェリー、ポート、マデイラの本
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いままでなかったんですよね、こういう本。世界三大酒精強化ワインである、スペインのシェリー、ポルトガルのポートとマディラのガイド本。それぞれに現在の姿から歴史、作り方、主要メーカーの主要商品までカラー写真や図を多様してわかりやすく書かれており、これ一冊持っていればだいたい用は足りる。
ボクはシェリーが大好きで週2〜3回は飲む。ワインに比べて酒精強化ワインは日本ではさげすまれる部分もあるが、飲み慣れるとこんなに気楽でおいしい飲み物もない。著者はその辺の楽しさを含めて、いい感じで布教してくれている感じ。全体に装丁や紙質、写真の写りなども上品な出来。手元に置いて調べるのに、こういうおしゃれな本はうれしいかも。

2003年12月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒

LV2「甘露なごほうび」

渡辺満里奈著/マガジンハウス/1500円

甘露なごほうび
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渡辺満里奈が「Hanako」で連載している食べ歩きエッセイみたいであるが(Hanakoは読まないので知らない)、なかなか達者でおもしろい。タレント本かぁと思いつつ期待せず買ったのだが、様々な店の食べ歩きをミーハーになりすぎず、落ち着きすぎず、偉そうなところもまるでなく、身の丈で語っていて気持ちいい。ふわふわと漂いつつ気持ちよく読了。
ボクも食べ歩きエッセイを朝日新聞に連載していたことがあるのでわかるのだが、毎週毎週食べ物について書き続けるしんどさはまた格別なものだ。どうしても切り口が似てくるし、事件も起きないし、紹介するの値しない店も多くてセレクトに困るし。著者はそのへんの苦労を感じさせず、天然な明るさで書ききっている。なかなかだなぁ、と感嘆しきり。意外と難しいのだ、こういう技。

2003年12月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒

LV1「バレエ・テクニックのすべて」

赤尾雄人著/新書館/1600円

バレエ・テクニックのすべて
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バレエを観るヒトのためのバレエ・テクニック解説書。まぁ少しバレエを観だすと「この型はよく出てくるけどなんだろう」とかいろいろ知りたくなってくる。そういう初・中級者には実にためになる本である。
この本のいいところは、わりと写真(のモデル)がいいこと。解説自体は、極力わかりやすくしてくれた努力のあとは見えるのだが、やっぱり少しマニアック。中級者以上じゃないとついていけないかもしれない。が、初級者が「あぁあの踊りはグラン・ジュテ・アン・トゥールナンと呼ぶのか」などと理解するには十分かも。資料として持っているにはいい本。読むにはつらい。当たり前か。

2003年12月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:アート・舞台

LV0「バレエ入門 〜バレリーナの手紙」

川路明著/土屋書店/1800円

バレエ入門―バレリーナの手紙
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もうバレエの入門書はお腹いっぱいで読みたくなかったのだが、著者の名前を見て考えを変えた。
川路明って、あの知る人ぞ知る名著「江戸前にぎりこだわり日記」の著者じゃないですか! ほー、本職ではこんなことをやっていたのね、といきなり関心と愛と親近感が生まれ購入。
ただ、いかにも古い装丁なのとムック版の大きさ、バレエ・ダンサーに向けてのバレエ入門であること、バレリーナである姉が妹に話しかけるという設定……などなどで「きっとボクには合わない」と確信しつつの購入だったのだが、その心配はまさにあたり。んーつまらなかった。というか、古い。写真も悪い。絵もデザインも昭和30年代な感じ。やっぱつらかったかなぁ…。

2003年12月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:アート・舞台

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