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2003年10月

LV5「対話篇」

金城一紀著/講談社/1400円

対話篇
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傑作。いまのところ今年一番である。
プラトンの哲学書みたいな「対話篇」という題名、そして簡素すぎる装丁が手に取るのをためらわせるかもしれないが、まだの方はぜひ。「恋愛小説」「永遠の円環」「花」の3つの短編からなっているが、それぞれ微妙にリンクして補完しあっている構成。どの短編もすばらしいし、泣ける。どれも扱っているのは死である。でも語っているのは生なのだ。高らかに生を謳い、大丈夫だよと静かに寄り添ってくれる。

映画化されるらしい「花」が特にいい。ここまで前向きに生を語り死を描き、納得させる物語も近来稀だ。ストレートすぎて照れる部分もあるが、心のどこかで「そうだ。そうなのだ」とガッツポーズをとっている自分がいる。で、ラストは涙涙。というか、こういう小説を書きたいな、と心から思った。哀しいお話なのだが、でも生きていくことを心から応援している。こういう小説こそ真の小説ではないか、とすら。

表題作にない「対話篇」がどうしてこの短編集の題名として選ばれたのかは、読めば感じられる仕組みになっている。そういえば、長く対話をしてないなと気がついた。毎日毎日薄っぺらい時間が対話なしに過ぎていく。
余談だが、ボクはリヒャルト・シュトラウスの交響詩とかをまだあまり聴いてなかった。が、この本の中の「恋愛小説」を読んでから聴き始めてみたらとても良かった。とても身近な作曲家のひとりになった。そういう効能もこの短編集にはあります。

2003年10月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「バレエに連れてって!」

守山実花著/青弓社/1600円

バレエに連れてって!―簡単楽々入門書
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ロシア個人旅行では8泊のうちバレエを6舞台観る予定なので(追記;結局8泊8舞台観た←バカ)、予習は欠かせない。
というか、バレエについては初心者に近いボクが、いきなり本場でボリショイバレエを観まくるのだ。吸収できるものはすべて吸収したいと願うのも無理はない、よね? ということで、今月はバレエ本を6冊も読んでいる。

その中で初心者のボクにとって一番タメになり面白かったのがこの本。つまり、これからバレエを観たいと思っているアナタにもこの本はトップクラスに有効と言っても過言ではない。
この本のいいところはバレエを「有り難い高級芸術」の域から引きずり降ろして、いかに楽しいものか、という観点からすべてを描いているところ。ある種、仏像を中世のロックスターに見立てたみうらじゅんの「見仏記」と近いテイスト。そしてホイチョイの「見栄講座」も少し入っている。とにかく読者を騙してでもバレエを見せたい!見せちゃえば勝ち!みたいな精神で書かれている感じ。いいぞいいぞ。こういう本が読みたかったのだ。

そんでもって、バレエなんてそれでいいのだ、とボクも思う。あそこのパがどうのとかアラベスクがどうのとかほとんど関係ない。ただ心を開いて素直に楽しめばバレエはこんなに面白い、でいいと思う。それを再確認させてくれる本である。

2003年10月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:アート・舞台

LV4「いったい、この国はどうなってしまったのか!」

魚住昭・斎藤貴男著/NHK出版/1700円

いったい、この国はどうなってしまったのか!
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憂国の書というより憂マスコミの書である。
だから題名はストレートに「いったい、この国のマスコミはどうなってしまったのか!」の方がキャッチーだし扇情的だしずっと内容に近いと思う。もちろん国民や国の政策も憂えているのだが、それらの原因をメディア報道としている部分が多く、マスコミの功罪という切り口でまとめてしまった方がずっとわかりやすく読者の胸にささると思うのだ。そして、マスコミに従事する人々に直接届くメッセージになったはずなのである。題名で一般化してしまったのがちょっと悔やまれる。

著者はふたりとも元マスコミ記者で現フリージャーナリスト。だからこそ同業の裏がわかり、偽善に満ちたマスコミ報道を厳しく指弾し、同業なら見えているはずの重要問題点を看過する彼らを憂うことができる。ただ、憂えた先に、大いなる諦めと絶望しか見えないのが気に入らない。がんばらなきゃ、と自分を励ましつつ、その奥に自己憐憫的諦観が読者に見えてしまう。だからとてもイイコトを伝えてくれているのに、読者も一緒になって虚無感に苛まれ、大いなる諦観に酔っていってしまう。刺激的な本だからぜひいろんなヒトに読んでもらいたいと思うが、嘆くだけで終わっているように読後思えてしまうのがただただ惜しい。

2003年10月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:時事・政治・国際

LV4「光ってみえるもの、あれは」

川上弘美著/中央公論新社/1500円

光ってみえるもの、あれは
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高校生の頃の、不安定でリアルじゃなくて自分の存在をどこか遠くへドライブしたい気分が、この小説では実に巧みに描かれている。
そういう意味では、主人公の翠(男)より友達の花田の方がその不安定度が高くて共感できそうな感じだが、著者はそういう「作家が高校生を描くとこうなる、の典型である小説的高校生」を主人公に持ってくるようなことをしない。ぼんやりしているがよりリアルに近い翠をあえて描き込んでいく。そこらへんのシャイさと程の良さが川上弘美。渋いのだ。

ボクは著者の、著者と同年代っぽい(例えば「センセイの鞄」の主人公のような)女性像が好きである。ふわふわと宙を漂うように現実と快楽といつかはなくなる生命との間を生きている感じを実にうまく書いていると思っている。その感じはこの本でも味わえる。主人公の家の祖母と母の日常だ。高校生たちのふわふわ感より、ある一定年齢以上の女性のふわふわ感の方が著者は圧倒的にうまい。物語の展開よりもこの家の日常にずっと浸っていたいと思ったのはボクだけだろうか。

高校生の瑞々しい描き方でこの本は好評のようだが、ボクは彼らに瑞々しさを感じなかった。逆に年老いて感じたくらい。リアルな感じとふわふわ感で独特の世界を紡ぎ出してはいるが、物語としては芯がなく、少し物足りないのも事実かな。

2003年10月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV4「バレエの魔力」

鈴木晶著/講談社現代新書/680円

バレエの魔力
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守山美花の「バレエに連れてって!」と本質的には同じテイストだが、こちらは著者が男である分、少しミーハー度が減少している。
テーマ的には「おじさんたちよ、バレエをみよう」である。バレエが好きなんていうオジサンは確かに超少数派であり、口にするのも恥ずかしい現実はあるのだが、そうでもないよ楽しいよ一度は見てみようよ、という視点で書いてある。しっかり理屈や歴史も入っている。理屈っぽくて蘊蓄好きのオジサンたちには上記「バレエに連れてって!」よりこっちの方が読みやすいかもしれない。新書だから薄いし、持ち歩くのも恥ずかしくないし。

この本と上記「バレエに連れてって!」が結局一番わかりやすかった。初心者はこの2冊でいいかも。あとは2002年7月に読んだ「ユカリューシャ」あたりを読んでおくと、ダンサー側の見方もわかって楽しいかも。

2003年10月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:アート・舞台

LV3「大黒屋光太夫」

吉村昭著/毎日新聞社/上下各1500円

大黒屋光太夫 (上)
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10月頭にモスクワ〜サンクトペテルブルグに個人旅行に行く予定になったので、急遽読んだ長編。上下巻であるがとても読みやすいのであっという間だった。著者は「書き終えるまで死にたくないと何度も思った」と書いているから、ひょっとしたら遺作になるかもしれない。そういう意味では吉村歴史文学(と呼ぶのだそうだ)の集大成とも言えるだろう。

とはいえ、妙な力が入っているわけではなく平明かつ流れるような文章。
鳥羽から江戸に向かう途中で嵐にあって漂流し、ロシアの島に流れ着き、カムチャッカ半島から西端のペテルブルグまで大陸横断し、エカテリーナ女帝に謁見し、ロシア政府の方針を変更させて帰国許可を勝ち取り、また大陸横断し、北海道から江戸、そして故郷に帰り着くまでの10数年の道のり。
ただでさえも感動的な物語なのだが、著者は淡々と描いていき、ラストあたりは少し盛り上げが足りないかと思うくらい。でもいまのボクにはこの程度の盛り上げがちょうどいい。ちょっと浅田次郎が書く大黒屋光太夫でも読んでみたい気もしたが(笑)。あ、淡々とといっても、ちゃんと盛り上げてはいるんですよ。極寒の描写なども圧巻。ただ、事実が感動的すぎるので、それに比べると淡々、といったところ。抑制が効いたストーリーメイクはさすがなもの。興味ある方にはおすすめ。

追記:光太夫がエカテリーナ女帝と謁見したエカテリーナ宮殿に、この本を読んだ1週間後に行った。
この部屋で待機して、この部屋で謁見したのかな、などと想像しながら光太夫と同じ空間を体験した。宮殿を出て、あまりに美しい秋の庭園を散歩しながら、きっと光太夫はこれと全く同じ美しさを体験したに違いないと確信を持った。200年の時を越えて同じ土地に立つカタルシス。歴史小説の感動の大部分は「いまとつながっている」この感じなのだろうと思ったり。

2003年10月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:歴史小説

LV3「オネーギン」

プーシキン著/池田健太郎訳/岩波文庫/500円

オネーギン
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ロシアに旅行に行くと急に決めたので、ドストエフスキーやトルストイやチェーホフを読み返したかったが時間がなく、一番薄い本だけどロシアでは一番重要視されている作家プーシキンの代表作「エフゲニー・オネーギン」を読み返すことにした(金城の「対話篇」でも出てくるしね)。

中学以来の再読。昔買った本が見つからなかったので新しいのを買って読んだ(岩波文庫を20年ぶりに買ったよ)。
日本ではそう人気のある本ではないが、ロシアでは古典中の古典である。ちなみに映画もDVDで出てたので観た。99年東京国際映画祭最優秀監督賞を受賞したもの。この本と映画とでロシアを身近にし、ペテルブルグの雰囲気を随分掴んで出かけたわけだ。

時間がとても早く過ぎる現代に暮らしていると、プーシキンの描く19世紀初頭のロシアはとても悠長かつ冗長に感じられる。特にこの本は文明批評や風刺を盛り込んであるのでわからない名詞も多く、興味ない人には少しつらい本かもしれない。でも圧倒的に美しい。現代ではオーバーすぎる言い回しが多いが、ここまでリズムよく美文を振り回されると許せてしまう。

「ルージン」とか「青年時代」とか「桜の園」とか「罪と罰」とか読み返したくなってきた。いや、一番好きだったロシア文学が他にあったはず…。思い出せない。なにしろいまから30年弱前に読んだんだもんなぁ。
でも中学高校でロシア文学他の古典に触れ、その後まったくそういうのを読まなくなる日本人の生き方もどこかいびつだね。古典は中年以降の心によく効くはず。そろそろゆっくり再読しだす年齢かも。

2003年10月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV3「出会いの先に」

進藤晶子著/ASKII/1600円

出会いの先に
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9月に進藤晶子がパーソナリティを務めるT-FMの番組にゲスト出演した。
TBSでキャスターやっているころからその感じの良さにぐっと来ていたが、実際に会ってみるとそりゃぁもう想像以上。ニコニコと自然体でゲストのボクを導いてくれ、生放送の緊張をまったく忘れてしまった。そんな彼女が本を出したというのでさっそく買ってみた一冊。

週刊アスキーで連載している対談(現在100人ほど)から14人をセレクトした本で、対談相手は「現代を牽引するトップランナーたち」。庵野秀明、坂本龍一、桐野夏生、古田敦也、糸井重里、阿川佐和子、荒木経惟、花村萬月、松永真、中村正人、三谷幸喜、浅利慶太、西村由紀江、多田琢、と言った人々の名前が並ぶ。個人的には、松永真と中村正人の対談が興味深かった。
対談ってインタビュアーの力量がそのまま出てしまう恐ろしい分野なのだが、進藤晶子の場合、ある種のお育ちの良さがすべての対談者に影響を与え、優しくゆっくりと話が進んでいく。インタビュアーとしては発展途上かもしれないが、相手の心を開かせてしまう名人にこの人はなれるかもしれない。そんなことを思った。

2003年10月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:対談

LV3「チャイコフスキーのバレエ音楽」

小倉重夫著/共同通信社/1300円

チャイコフスキーのバレエ音楽
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モスクワ、サンクトペテルブルグのバレエ観劇に行く前に、予習として「白鳥の湖」全幕をCDで聴き直した。そしてビックリした。こんな名曲だったとは! 
そして改めてバレエ音楽を俯瞰してみると、そこに「悲愴」などで中学時代からお馴染みだったチャイコフスキーの姿が燦然と輝いているのが見えるではないか。へぇ〜チャイコってそうだったのね、と、個人的に気づかされた気分(詳しいヒトにとっては何言ってるのって感じだろうけど、バレエ音楽が眼中になかったボクからするとちょっと驚きだったのだ)。そんなことを思っているときにこの本を書店で見つけたら、そりゃ買うわな。

内容は「白鳥の湖」「眠れる森の美女」「くるみ割り人形」といったチャイコフスキー三大バレエをくわしく取り上げており、CDを聴き込んだボクにはわりとうれしい構成。作曲者側の論理が見えてくるのも(踊る側の論理から書いたバレエ本が多い中)とても参考になる。まぁ興味あるヒトにしか楽しくない本だろうけど、まじめできちんとしており、なかなか良い。

2003年10月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:アート・舞台 , 音楽

LV2「Made in LONDON」

熊川哲也著/文春文庫/667円

メイド・イン・ロンドン
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バレエ予習の6冊のうちの1冊。英国ロイヤルバレエでプリンシパルまで上りつめた熊川哲也の半生記である。ロイヤルバレエを退団して自らのバレエ団を旗揚げする直前に書かれた自伝なので、全体に少々チカラが入っているのは仕方がない。かなり自己陶酔的だし自慢的だが、バレエでトップを張るダンサーはそうであっても全く構わないと思う。というかそうあるべきかも。という感じで、わりと微笑ましく読んだ。

自伝であるが、苦労しました、という感じは微塵もないのがいい。なんかスルスルとここまで来てしまったのが当然な感じで描かれている。スルスル来たのに敢えて苦労をオーバーに描きがちな自伝という分野で、ここまで素直にそのスルスル感を書いているあたり、なんだか野球の新庄を思い出したり。きっとこのふたり、似てるぞ。
ま、薄い本だし、スルスルっとした内容だし、バレエや熊川哲也に興味がないひとにはオススメしない。でもちょっとは興味がある人なら、そこそこ楽しめる。そんな感じ。

2003年10月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:アート・舞台

LV2「バレエ誕生」

鈴木晶著/新書館/3200円

バレエ誕生
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バレエの歴史の本。他の入門編の本でも簡単な歴史を読める。が、ここでこの400ページにも及ぶ専門書(?)をざっと読んでおくとより理解がしやすくなるのも事実。こういうのはざっとでいいのだ。
書いたのは上記「バレエの魔力」の著者ゆえ、わかりやすく平明にツボを示してくれている。労作だと思うが、バレエ好き以外の人にはつらい本かもしれないなぁ。というか、まぁバレエに関心があるヒト以外はまず手に取らない本なのでこれでいいのか。敢えて言えば、昔の舞台演出の具体例みたいのがわかりやすく絵で示されて講評されているといいなぁと読みながら思った。時代とともにあったバレエの姿をもう少し体感したかったかも。

2003年10月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:アート・舞台

LV1「バレエ入門」

三浦雅士著/新書館/1600円

バレエ入門
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入門と銘打ってはいるが、かなり教科書的正攻法な入門なので、少し「お勉強」的雰囲気が漂ってしまう。バレエを観る、バレエを楽しむ、という目的であるなら、「バレエに連れてって!」「バレエの魔力」の方がずっと入門として相応しい。これはバレエ評論家入門に近いかも。
個々人の捉え方もあるだろうが、バレエが「お芸術」になってしまっている原因のひとつはバレエ業界のお高い方々の存在だと思う。バレエをずっと育ててきた苦労と歴史には敬意を表するが、一方でバレエの敷居を高くしたのも確か。この本にはその匂いがする。良い意味でも悪い意味でも。

2003年10月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:アート・舞台

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