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2003年09月

LV5「デッドエンドの思い出」

よしもとばなな著/文藝春秋/1143円

デッドエンドの思い出
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書き下ろし短編集。
しみじみせつなくなりたいときにうってつけの本かもしれない。砂糖菓子のように甘い物語たちだし、いい人しか出てこないし、「なんだかなー」と思う部分もある。特に男性キャラたちがいい人すぎるのもなんだかなー(ま、いつものことだけど)。でも、どうしてもこの魅力にはあらがえない。そんな感じ。あ、正確に言うと登場人物たちはかなり辛い目にあったりするのだけど、不思議に静謐で幸せな読後感が待っている。これもいつものことだけど。

「幽霊の家」「おかあさーん!」「あったくなんかない」「ともちゃんの幸せ」「デッドエンドの思い出」の5編収録。どれも印象深い。帯で著者が「これまで書いた自分の作品の中で、いちばん好きです。これが書けたので、小説家になってよかったと思いました」と書いているのは表題作「デッドエンドの思い出」。甘々なこの作品を一番好きと正面切って言われるとちょっと鼻白むが、いかにも「よしもとばなな」であることは確か。ボクも思わず何度か読み返し、昔の失恋とか思いだし、涙にくれたりしたりした(笑)。そういうチカラは確かにある作品。泣けるししみじみ感に浸れるこの感じはマジで捨てがたい。

さてこの本は目次の横に「藤子・F・不二雄先生に捧ぐ」と書いてある。
そして短編「デッドエンドの思い出」の中で語られるドラえもんの時計の写真がその言葉の横にカラーで載っている。短編の中で主人公は、その時計に描かれているのび太とドラえもんの姿(のび太の部屋で寝ころんで漫画を読んでいる)こそ幸せの姿なのだと言っている。実はこの短編集にとってこの時計のエピソードの意味は実に重いのではないかと思う。あ、そういうことが言いたかったのね、と氷解する部分がいろいろある。一種中原中也的な手触りが読後に残るのはそういうことなのだな。ふむふむ。←ひとりで納得。

2003年09月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「どこにでもある場所とどこにもいないわたし」

村上龍著/文藝春秋/1200円

どこにでもある場所とどこにもいない私
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非現実的な時間の流れの中でぼや〜っとカラダが浮かぶような感覚に、特に都会の人が多い空間でおそわれることがボクにはたまにあるのだが、そんな感じがわかる人にはこの本はとても共感できると思う。
これは、そういう時間凝縮感をどこにでもある場所(コンビニ、居酒屋、公園、カラオケルーム…)を舞台に描いた不思議な短編集で、すべての短編に小さな希望が用意してある。浮遊するような文体の中で描かれるそれらの希望は現実感がなく、それがとってもイマっぽい。ここらへんの距離感の取り方が相変わらず見事だなぁと感嘆。

村上龍はあとがきで「強力に近代化が推し進められていたころは、そのネガティブな側面を描くことが文学の使命だった。近代化の陰で差別される人や取り残される人、押しつぶされる人、近代化を拒否する人などを日本近代文学は描いてきた。近代化が終焉して久しい現代に、そんな手法とテーマの小説はもう必要ではない」とハッキリ書き、「この短編集には、それぞれの登場人物固有の希望を書き込みたかった。社会的な希望ではない。他人と共有することのできない個別の希望だ」と続けている。ええ。つまりそういうことです。というか、作家がそこまであとがきで説明しなくてもいいだろうとちょっと思ったけど(笑)。
関係ないが、カバーの背表紙が読みにくくてかなわん。浮遊感狙いかな?(笑)。もうちょっと読めるようにするべきだと思うが。

2003年09月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「ZOO」

乙一著/集英社/1500円

ZOO
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帯に「何なんだこれは。北上次郎  第3回本格ミステリ大賞受賞後第一作。天衣無縫。驚天動地。ジャンル分け不能。驚異の天才乙一、最新短編集」とある。

北上次郎が「何なんだ」と驚くだけのことはある。なるほど、なんなんだろう? まず設定がとても奇抜。なのに読者の心に真っ直ぐ入り込んでくる叙情とテーマがある。奇抜な短編ミステリなのに、人生の深みや哲学を感じさせるのだ。ふーんである。ラストも悲惨なものが多く、安易なハッピーエンドはない。そういえば、こういうタイプはいままでにはないものだなぁ。

著者名 は「おついち」と読む。愛機だった電卓のZ1(ゼットワン)から名前を取っているらしい。乙一=Z1。なるほどね。このペンネームからわかるように、著者にとって物語構成はある種のゲーム・プログラミングなのだろうと思う。古いタイプの作家からは考えにくい態度だろう。いいことなのだ。

どの短編も面白かったが、「カザリとヨーコ」「SEVEN ROOMS」が特に印象的だった。あ、「SO-far」も良かったなぁ。トリッキーな魅力を追っていくとそのうち行き詰まると思うが、あまり多作にならず、ゆっくり書いていってほしい作家かも。って、いまごろやっと読んで何言ってるか、という感じかもしれないが。おすすめ。

2003年09月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV5「かえっていく場所」

椎名誠著/集英社/1400円

かえっていく場所
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帯に「シーナ版私小説の集大成」とある。いつものシーナ文体ではない、ちょっと静かな家族私小説だ。
ひどく小学生的な感想を言うと、この本を読んで初めて「椎名誠もいろいろ大変な思いをしているのだな」と意識した。というか、人生を楽しみきっている人なのだろうなとなんとなく感じていたので、ここまで真情を吐露されると少しびっくりしてしまう。冷静に考えれば当たり前のことなのだが、それぞれみんな大変なのだな。あは。マジで小学生みたいな感想だな。ちなみに野田知佑の乱れを書いたところなど少々衝撃的だったかな。いったい幸せに生きるってなんなんだろう。

静かな文体がとてもいい。妻娘息子に投じる視線も自然体で気持ちいい。読みやすく美しく、なんともホッと出来る本であった。ただ、椎名誠の人生もいろいろ大変なのだというこのイメージは、これからの「シーナ」にとってどうなのだろうとは思う。明るいエッセイを読んでも裏の苦労が見えてきてしまう。それは作家にとってどうなのだ? わざわざ私小説を書かなくても良かったのではないか? そんな心配が少し。

2003年09月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本) , エッセイ

LV4「主婦は踊る」

青木るえか著/角川文庫/400円

主婦は踊る
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「主婦でスミマセン」の続編。
あら〜前作よりパワーダウンかなぁと感じつつ前半を読み終わり、あぁ主婦日記かぁ…ありがちかもなぁと中盤を読み終わり、そそくさと終盤にさしかかったのだが、この終盤で大逆転大スマッシュが待っていたとは! 

「主婦と情熱」と銘打たれたその章は、涙と笑いが詰まっている傑作であった。
OSK(大阪松竹歌劇団)に雪崩を打って嵌りこんでいくその様たるや、なんつうかSFファンタジーみたいであった。浮世離れと自分でも思いつつリアルに恋愛していくダメ主婦るえか。あぁ笑った。というか泣いた。著者には会ったことないが、もう3年分くらい会った気になった。おもしろし。

ちなみに、OSKは今年5月で解散。81年の歴史に幕を閉じた。著者は存続運動のボランティアをやっているようだが、その後どうなったのだろう。自力公演の話も書いてあるが…。笑って泣いただけに、他人事ではない感じ(笑)。

2003年09月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV3「もっとコロッケな日本語を」

東海林さだお著/文藝春秋/1095円

もっとコロッケな日本語を
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東海林さだおを好きな人は多い。ボクももちろん好きだが、どちらかというと消極的に「嫌いではない」といったスタンス。なんかね、決して敵を作らない内容と文章が、どこかでウソっぽく感じられてしまい、好きになりきれないのだ。とかいいつつ、たまにこうして彼の本を読むとやっぱりうひゃうひゃ笑って楽しんでしまう。うーむ。結局嫉妬に近い気持ちがあるのかもしれない(笑)。

この本は「オール讀物」に連載されたものをまとめたもので、例によって食事関係の章も多いが、この本に限ってはそれ以外が面白い。特に好きなのは「ドーダの人々」シリーズと「なにわ七低山めぐり」。大笑いである。また、対談も面白かった。イラストも絶品。そう、結局とても面白い本なのです。まぁなんというか、老後に取っておきたい作家ではあるなぁ…。

2003年09月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 対談 , 食・酒

LV3「なぜ私たちは3ヶ月で英語が話せるようになったのか」

本城武則著/実業之日本社/952円

なぜ私たちは3カ月で英語が話せるようになったのか
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この本は、見た目も目的も英会話の本であるのだが、実は自分のプレゼンテーション、いやもっと言うと生き方の本とすら言えるかもしれない内容を持っている。
なぜ日本人は英語が話せないのか、という命題を「対人恐怖症」「白人崇拝病」「声が小さい」などという「日本人の性格」で解いていっているあたりが個人的に目ウロコ。そしてそれらを治す対策を著者の教室でやっただけで、生徒がどんどん(しかも3ヶ月で)英語が話せるようになっていったというのだ。

って、ここで短くまとめてもウソっぽいな。
でもこの薄い本に詰まっているノウハウは、実は何よりも日本人に足りないものなのだ。というか、日本語を使う状況ですら、ほとんどの日本人がこれらのことが出来ていない。ましてや英語においておや。これらを治すだけで「コミュニケーション力」が数倍になるのは明白だし、「コミュニケーション力」が数倍になると英語も通じるようになる(話せるようになる、ではない)のはもっと明白だ。あーなるほどなるほど……。この本を読み終わっただけで妙な自信がついてしまったボクをどうしよう。うはは。もう英語が話せるような気分になっているのだ。そしてそれがこの本のゴールなのだ。サンキューソーマッチ!

2003年09月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:実用・ホビー

LV3「間取りの手帖」

佐藤和歌子著/リトル・モア/950円

間取りの手帖
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文字通り「間取り」のみの本。
チラシとか賃貸ニュースとかに載っているマンションとかの間取り。膨大な量にのぼるそれらの間取り集から、めちゃくちゃヘンテコな間取りだけを取りだしてまとめたのが本書なのだ。

こんなところに本当に人が住んでいるの?と疑問に思うような変わった間取りを1ページにひとつ収録してある。そして気の利いたコピーがひとつ(コピーの出来がとてもよい)。著者は賃貸ニュースとか細かく細かく見続けたのだろうなぁ。でないとこういうコレクションは出来ない。そういう意味では(きっと趣味なのだろうが)大労作。だってさ、一目で「変な間取り」とわかるものばかりではないのだよ。よーく見てよーく考えて「あ、あれ?」と気づく変な間取りも多いのだ。

この本の遊び方としては、コピーを隠してまず間取りをじっと見る。そしてその「変」な部分をじっと探す。自分が住んでみた身になって想像をいろいろ働かせる。そして「あっ!」と気づく。「なんだこの間取り〜!」と大笑いする。そんな遊びをやってると日曜なんてあっという間です。そういう本。おすすめ。

2003年09月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:雑学・その他 , 写真集・イラスト集

LV2「バースデイ・ストーリー」

村上春樹編訳/中央公論新社/1600円

バースデイ・ストーリーズ
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バースデイにまつわる10の海外短編を村上春樹が選び、訳した本。最後に村上春樹の「バースデイ・ガール」という短編も収録されている。

収録された短編は、レイモンド・カーヴァーのものをはじめ、ポール・セロー、イーサン・ケイニンなどの有名どころから、訳者ならではのセレクトによる現代アメリカ作家を含み、なかなか魅力的なラインナップ。訳者ファンならずとも、読んでみたくなるアンソロジーだろう。

と、紹介したうえで乱暴に決めつけてみたい。
この本は冒頭のラッセル・バンクスが書いた「ムーア人」のみでいい。これを読むためだけに買う価値があるとボクは思う。でも他の短編は……どうかなぁ。あんまりピンと来ないなぁという印象。この手のアンソロジーは好きだし、読者層の開拓にもつながるし、企画としてとても良いとは思うが、もうちょっとレベルを揃えて欲しい感じ。もしくはボクが読みとれてないのかな。

2003年09月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV2「翻訳夜話2 サリンジャー戦記」

村上春樹・柴田元幸著/文春新書/740円

翻訳夜話2 サリンジャー戦記
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うーん。前作の「翻訳夜話」でお腹いっぱいかな、ボク的には。あっちの方が数倍面白かったし、知的興奮があった。

今回は「サリンジャー戦記」ということで、村上春樹が訳した「キャッチャー・イン・ザ・ライ」の訳出裏話になっているのだが(他にもサービス原稿いっぱいなのだが)、なんだか(厳しく言えば)言い訳と苦労話と自慢が感じられてちょっと鼻についてしまった。著者は両者ともに尊敬しているボクだが、これは蛇足だったのではないかなぁ。「キャッチャー」に(著者との契約で)訳者あとがきを載せられなかった村上春樹が、せっかく書いた原稿の行き場を作りたくて対談もつけてしまった、みたいな見方すらしてしまうボク…。

もちろんサリンジャーマニアなボクだし、著者両者ともに好きなので、内容自体を楽しまなかったかと言われるとウソになる。
あぁこういうことだったのか、とか、なるほどなるほどー、とか、でもさぁ、とか、いっぱいあって十二分に楽しんだ。でもね、やっぱ蛇足だと思うのです。柴田元幸も、村上春樹を前にすると妙に軽薄でイヤ(笑)。つか、好きな素材が揃いすぎていて、なんか気分的に天の邪鬼になってしまったかも。そんな複雑な気分デス。

2003年09月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:評論 , エッセイ

LV0「愛という試練 マイナスのナルシスの告白」

中島義道著/紀伊国屋書店/1400円

愛という試練
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冒頭を少しだけ引用しよう。
「はじめから告白するが、『ひとを愛する』とはどういうことか、私にはよくわからない。私もいままでの人生で多少の男女を愛してきた(と思う)が、それがいかなる種類の愛に属するのかよくわからない。というより、さらに私は懐疑的であり、私ははたしてひとを愛することができるのか、私が愛だと思ってきたもの、体験してきたものは、じつは愛ではなく愛に似たほかの何かではないのか、という疑いを消すことができない」「これは抽象的な懐疑ではない。自分の中の深いところに巣くっている『自己愛』のおぞましさに悲鳴を上げているからである」

さて、この後、240ページに渡って、えげつないまでの私事の露出と内省と自慢と後悔と分析が続く。
著者がある種独特の哲学者であり、そこが好きで著作をかなり読んでいるボクではあるのだが、こういう「ゲロ」をヒトに見せるのはやっぱりどうかと思う。冒頭の自己分析は大いに共感できる部分もあり、ヒトが「愛」と呼ぶもののほとんどは「自己愛」だとボクも思ってはいるが、そこから深い精神的旅路が始まるのかと期待して買って、ゲロを見せられるのはたまらない。
表現とは、自分の中から出てくる吐瀉物を何かに昇華させて、ヒトが見るに足るものに変える作業をいうのではないのだろうか、などとちょっと思った。偉そうで申し訳ないのだけど。

2003年09月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:哲学・精神世界

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