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2003年02月

LV5「スコット・リッターの証言 イラク戦争〜ブッシュ政権が隠したい事実」

ウィリアム・リバーズ・ピット+スコット・リッター著/星川淳訳/合同出版/1200円

イラク戦争―元国連大量破壊兵器査察官スコット・リッターの証言 ブッシュ政権が隠したい事実
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帯に「イラク攻撃は前代未聞の愚行だ」とある。
アメリカ人の元国連査察官で長くイラクを査察したスコット・リッターが書いた薄い本だが、内容は戦争に傾きつつあるアメリカ(というかブッシュ)の暴走に警鐘を鳴らしてあまりある。なにしろ査察官自身が自信を持って「核兵器は議論の余地なく廃棄され、化学兵器や生物兵器も破棄され、残っているとしてもすでに用をなさない」と言い切っているのである。それも実に冷静沈着かつ「発言を裏付ける文書を持って」である。そのスタンスは戦争反対論者というより科学者のそれである。そしてきちんと愛国者である。アメリカを愛するがゆえの告発だ。胸に響く。

特に41ページから始まる、ピットによるリッターのインタビューは圧巻。
チェイニー、ラムズフェルド他がどれだけ薄弱な根拠に乗っ取り、さまざまなことをごまかしているかがよく見えてくる。また、ハディル・ハムザ、リチャード・バトラーたちの大嘘にも「裏付ける文書を持って」反論している。ここらへんの「体制側による情報の作られ方(メディア・コントロール)」は背筋が寒くなるほどである。まさに「ブッシュ政権が隠したい事実」であろう。

リッターの言っていることが事実なのかどうかの検証資料をボクは持っていない。が、詳細に読んでいっても、論説は実に明解で反論の余地がないように思える。今回のイラク攻撃について少しでも思考しようとする人は、まずこの本を読むべきだ。そして客観的に眺めてみることだ。たった120ページの薄い本だが、これだけで充分じゃんと思うくらいブッシュの論理を打ち破っていると思う。

2003年02月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:時事・政治・国際

LV5「ウィーン・フィル 音と響きの秘密 」

中野雄著/文春新書/790円

ウィーン・フィル 音と響きの秘密
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クラシックにあまり興味がない人たちは共通してこんな疑問を思う。「なぜ同じ曲なのに指揮者とか演奏者とかが違うだけでマニアたちは騒いだり解釈がどうのと言うのだ? 楽譜通りに演奏しておけばいいのではないのか」。ある程度好きになってからでも、指揮者によるまとめ方の違いの意味やオケによる音色の違いの必然性などが見えなかったりする。
そういう疑問にすべて明解に答えを出すだけでなく、クラシック音楽とは何なのかということにも(結果として)すべて答えてしまっている本がこれ。別にQ&A本ではないのだが、結果的にすべてが書いてあるのだよ、この薄い新書に。

いやー、長年いろいろ疑問に思っていたことがコレ一冊でほとんど解けてしまった気分。
ウィーン・フィルに焦点を合わせてはいるものの、ほとんど「ウィーンフィルのエピソードを通してみたクラシックの魅力の秘密」みたいな感じ。楽団員のエピソードによって解き明かされていく指揮法の違いやその重要性、オケの音色や個性の成り立ち、これからのクラシック音楽の問題点など、これほど明解に解き明かしてくれる本はない。かといって難しい本ではない。クラシック初心者でも十分楽しめる。なにしろエピソードから解き明かしているので。

これを読むとひたすらクラシックが聴きたくなる。
それもフルトヴェングラーやボスコフスキー、ミトロプーロス、カラヤン。いままで何を聴いていたのだろう。もう一度ちゃんとすべての音楽を聴き直したくなってきた。表題が「ウィーン・フィル」としているので、マニアしか買わない可能性も高いが、それではもったいなさすぎる評論だとボクは思う。

2003年02月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:音楽

LV5「落語的生活ことはじめ」

くまざわあかね著/平凡社/1400円

落語的生活ことはじめ―大阪下町・昭和十年体験記
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副題は「大阪下町・昭和十年体験記」。
著者は落語の台本を書く仕事をしている。で、「台本書いていてカンテキや火鉢、箱膳などの道具の細かい点がよくわからない。他の小道具でも使ってみてはじめてわかる発見があるのではないか…。それじゃぁ落語的な古い生活をしてみようではないか!」と思ったがこの本のキッカケ。

具体的には(江戸時代的生活はさすがに無理なので)昭和十年と設定。
冷蔵庫なしテレビなし電話なし。電球は40ワット。昼は着物。寝るときゃ浴衣。銭湯使って足りない物はご近所や大家さんに助けてもらう。ご飯は羽釜、おかずはカンテキ(七輪)で作る。机の横には火鉢があって、かけてあるヤカンからは常に湯気がシューシュー……それを一ヶ月やってみようというのだ。すばらしい。そういう発想大好き。で、そういう発想をするヒトだもの、本も当然おもしろい。日記風のルポになっていて一緒に昭和十年に生活しているようである。厳しく言うと、終わり方が中途半端なのと、どうせなら最低半年、そして厳冬も体験してほしかったと思うのだが、読者のわがままだな。充分おもしろいし、自分でもやってみたくなる。

たった65年前、日本人はみなそういう生活をしていたのだが、 いまそれをしようと思うとぶち当たる壁が非常に多いのもよくわかる。死語かつ死道具のいかに多いことか。日本が過去の豊かな価値観をいかに惜しげもなく捨ててきたかをわかると同時に真の豊かさとは何かを考えるキッカケになる。はやりのスローライフ的読み物としても秀逸。オススメ。

2003年02月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , アート・舞台 , 雑学・その他

LV5「なにも見ていない」

ダニエル・アラス著/宮下志朗訳/白水社/2600円

なにも見ていない―名画をめぐる六つの冒険
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副題は「名画をめぐる六つの冒険」。
帯は「いまもっとも注目される美術史家によるスリリングなエッセイ。文献学的な方法論を越えた新しい絵画解読法を提唱する」。

うはは。文献学とか解読法とか言われるとちょい難しい専門書的な感じだ。でも絵画素人のボクでも楽しく読めたから大丈夫。なにが楽しいって「見る」ということの本質がここに書かれているから。
絵を見るのに美術史的知識もなにもいらない。そういうのを持っている人は結局「なにも見ていない」ことが多いのだ。よーくこの絵を見てご覧? ほら、こんな風に画家は描いているんだ。美術史的にはこう解釈されているが、そんなのなにも見ていない。先入観を捨ててよーく見てご覧?……簡単に言えばこういう感じ。

ボクたちはどんなことについても目では見ず脳で見ることが多い。
道端のタンポポでも「あ、タンポポか」とわかった時点で見ることをやめてしまう。もう見知らぬ花としてよーく見るという行動は起こさない。絵もいっしょ。「あ、受胎告知か」とわかった時点で見ることをやめてしまう。見ているようでなにも見なくなる。でも、そんなことではなくてちゃんと見てみる。遠近やリアリティや絵の端の風景までよーく見てみる。大画家が描いた絵でもおかしいところはおかしいと思ってみる。そうするとこんなにいろいろ見えてくる。

実はこういう態度自体が人生を楽しむコツというか真髄だったりすると個人的には思っているので、この本は意義深かった。文体が妙に気取っていて、いらない工夫とかをいろいろしているのが読みづらいが、わからないところはさっと飛ばしてでも読む価値あり。実に示唆に富んでいる。

2003年02月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:アート・舞台 , 評論

LV5「主婦でスミマセン」

青木るえか著/角川文庫/381円

主婦でスミマセン
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わかりやすく説明すると「史上最弱なるダメ主婦のダメダメな日常を赤裸々に書いた爆笑エッセイ」ということになるのだろうか。
解説もそんな感じで書いてある。が、どちらかというとそのダメぶりで笑わせる(共感を得る)というよりは、「ダメ主婦が開き直って史上最強を手に入れた!」というイメージに近いかなぁ。なんというか、ここまでダメだと逆に強いよなぁと思わせる毎日を送っている著者の日常ルポなのだ。はっきり言っておもしろい。書いている内容もおもしろいが文章がまたおもしろい。軽妙かつのんびり、そして深淵(←深遠ではない)。この淵にはあまり近寄りたくないが、淵の深さだけはわかる、底に豊かなものがあるのもわかる、みたいな感じ。

で、この本を読み終わる頃には「ダメって何?」とみんなきっと思っているだろう。世間体とか常識とか清潔とかって一体何? 実に些末で、まったく本質に関係ないことではないか。どうしてそんなことに汲々として生きているのだろう?と不思議になる。そういう意味で、著者は自分を(世間常識的に)貶めることで、ボクたちに本質を見る勇気を与えてくれている。381円でそれが買える。るえか。すばらしい。

2003年02月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV4「現代史の対決」

秦郁彦著/文藝春秋/1810円

現代史の対決
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現代日本史の諸問題をもう一度客観的に考え直すにはうってつけの本である。

南京事件、従軍慰安婦問題、教科書論争、靖国参拝問題、夫婦別姓問題、嫌煙権問題、など、それぞれ明解な視点をわかりやすく与えてくれ、ひとつひとつ考え直させられる。
帯に「歴史を書き手の政治的信条や倫理観を裏付けるために利用したり、人を裁く行為と混同する露骨な風潮はいっこうに変わっていない。とくに歴史専門家とみなされ、教育界でも影響力を持つ人たちによるこの種の所業を、歴史家として放置できないと私は考えている」という意味のことが書いてあるが、著者のスタンスはまさにこの通り。バイアスのかからない現代史の見方を丁寧にそして勇気を持って論じてくれている。南京事件みたいに風当たりの強そうな問題でもまるで怯まず対処している。

微妙な問題が多いせいもあってか、少々展開がわかりにくい章があるのが残念(たんにボクの理解力不足ということもあるとは思うけど)。あと、客観論旨と主観印象が混じるのも、人によっては読みにくいと感じるかもしれない。でもある種の現代史テキストとして、ボクはしばらく手元において参照したいと思っている。

2003年02月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:時事・政治・国際

LV3「半落ち」

横山秀夫著/講談社/1700円

半落ち
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「このミステリーがすごい2003年」と「文春ミステリーベスト10」の両方で1位とされた大ヒット作。直木賞候補にもなっている。

非常に評判がいいので期待して読み始めたが、期待しすぎたのかちょっと乗り切れなかった。文章は上品で構成もよく、細部までよく出来ている。でも、ボクにはラストの盛り上げがtoo muchかつ「よく出来ていすぎて」どうにも白ける部分が出てしまう。まぁ天童荒太の「永遠の仔」みたいな感涙大ヒット作や、「鉄道員」以降の浅田次郎の諸作でも単に「あざとい」と思ってしまうボクなので、これはもう相性が悪いというしかないのかもしれない。いや、まぁ、この本にもちゃんと泣かされたんですけどね。ちょっと涙しながらも、どうにも居心地が悪い感じが残ってしまって。

それぞれの章の刑事、検事、裁判官、記者などの人間模様は実によく書けている。
警察のシステムもいろいろと明解だった。逆に犯人が自白しない理由が一番しっくり来なかった感じ。もうちょっと他の解決策はなかったのだろうか。ちなみに半落ちとは、「全面的に容疑を認めているが口を割らない状態」かな。要するに「落ちきってはいない」状態ね。

2003年02月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV3「できるかな」

西原理恵子著/角川文庫/619円

できるかな
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できるかな、というとこんなサイトを思い浮かべるのがネット人の常識であるが、これは西原の「できるかな」である。
つか、いつものように、企画として筋が通っているのは最初の方だけ。あとはどんどんわけわかんなくなっていくのだが、それもこの著者の魅力。今回は原発の話とタイの話が白眉。現ダンナである鴨ちゃんとのきっかけみたいなのもそこはかとなく出てきて、のぞき見的興味も満たしてくれる。

初期の西原はすべての著作を読んでいたが、このごろは長旅の車中とかでの時間つぶし程度にしか読まなくなった。でも読むとやっぱりおもしろい。でも読まなくなった。なぜだろう。たぶん多作な感じが「いつでも読めるしいいや」につながっているのかな(一時の群ようこみたいに)。もうちょっと出し惜しみしてもいいかなと思う。

2003年02月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV2「あたしのマブイ見ませんでしたか」

池上永一著/角川文庫/552円

あたしのマブイ見ませんでしたか
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沖縄在住で沖縄の豊かな世界を書き続けている池上永一の本は前から読もう読もうと思っていたのだが、なぜか縁がなくいままで読まなかった。まずは手軽に著者初の短編集から。
でも他のから読んだ方が良かったかも。短編より長編のヒトなのかな。叙情性に富んだとても美しい創作世界になっているのだが、おとぎ話になりきっていないし、かと言ってリアルな世界を描いているわけでもない。その間を狙っているのはわかるのだが、読んでいてちょっとずつ中途半端な後味が残るのが残念。ちょっとした場面の描き方とか行間の雰囲気作りで違ってくるのだろうと思うのだけど、それは長編の方が出しやすいのかもしれない。じっくり世界観を作っていった方が向いている感じに思えた。
「カジマイ」「復活、へび女」「宗教新聞」とか、とても印象に残る短編がいくつかあった。次は長編の「夏化粧」を読んでみよう。

2003年02月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

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