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2003年01月

LV5「永遠の不服従のために」

辺見庸著/毎日新聞社/1429円

永遠の不服従のために
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第二次世界大戦前の日本人が特別に愚かだったのだと思っている人はかなりおめでたい。
自分だったらあんな好戦的な風潮に乗らず冷静に時代をながめて戦争に反対しただろう、などと考えている人はおめでたいのを通り越してバカかもしれない。戦争は一夜にして起こるものではない。じわじわと起こるのだ。気が付いたときには戦争しないといけない環境になっていて、反対しようにも出来ない状況になっているのだ。戦争は宣戦布告で始まるのではない。その何年も前からじわじわ始まっているのである。

サンデー毎日に連載している「反時代のパンセ」をまとめたこの本は、その「じわじわ始まっている戦争」への反戦活動である、と言ったら乱暴か。戦争状態へとじわじわ突入していくことを関心あるふりしてにこやかに許しているボクやアナタたちへの少々いらついた叱責でもある。でも著者は叱責だけして自分は安全な「評論家」のスタンスを良しとしない。自分の身をきっちり危険に晒して叱責言論・反戦活動を行っている。そのことが文章に底知れぬ迫力を与えている。

彼は「坑道のカナリア」になろうとしているのではない。カナリアよりもっと強い存在になろうとしている。この本を読んで感心しているに留まっているくらいなら、読まない方がマシかもしれない。さてアナタはどういう態度にでるのだ?とナイフをつきつけられるような本である。

2003年01月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:時事・政治・国際

LV5「テレビの黄金時代」

小林信彦著/文藝春秋/1857円

テレビの黄金時代
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テレビの黄金時代を主観・客観双方からきっちり眺められるのはこの人しかいないかもしれない、と思わせる著者が書いたテレビ青春記。
テレビ番組作りに濃く参加しつつ雑誌を運営し、常にテレビ界とは距離を置いていた著者だからこそ書けるテレビメディア史でもある。そしてもちろん、お笑い芸人やバラエティを見る著者の目も当代一流。そんな人が書いたテレビの本だもの、おもしろくないわけがない。

ある意味、テレビ番組発達史として貴重な文献でもあるが、ここは素直にアマチュアの集まりだったテレビ創成時代〜黄金時代を読み物として楽しみたい。特に九ちゃんを作っていく過程やバラエティに命をかけた男たちの物語が面白い。番組をどうやって作ってきたか、人間模様はどうだったのか、顧みて今のバラエティはどうなのか、など、興味は尽きない。ボクよりちょっと上の世代(リアルタイムでテレビ創成時代を見ている世代)には特にたまらない記述が続くだろう。

贅沢言うなら、写真をもう少し入れて欲しかったかな。シズル感が全然違っただろう。1857円という定価だもの、写真くらい欲しい感じ。

2003年01月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:映画・映像 , 評論

LV5「広島快食案内」

シャオヘイ著/南々社/1200円

広島快食案内―星の数で評価
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広島のうまい店ガイドである。
自分で探したうまい店1200軒の中から255軒を厳選掲載して星の数で評価しコメントしている労作。ページ構成もわかりやすく読みやすい。ひとりの素人が自分の考えを素直に表明し手作りで作ったガイドとして近来まれに見る出来の良さだと思う。文章が少々一辺倒なのと店の全体像への言及が少し少ないのが難かな。細かい描写が多く店全体の感じが掴みにくいところがあるのだ。各章末のコラムはとても面白い。

プロのライターが書いた本には生活がない。生活を書けないから料理へのコメントに傾斜していく。そして料理を芸術とまで昇華し評価してしまう。本当にレストランの料理とは芸術なのだろうか。レストランの料理とは生活の中の句読点的「食事」ではないのだろうか…。
ボクは「生活」や「食事」の視点がないガイドが嫌いなのだが、この一素人が書いた本にはちゃんと生活の匂いがある。生活の食事の延長に店がある、と考える人にとっては信頼に足る唯一無二のガイドになることだろう。逆に、料理の何たるかを知らない素人が書いた本なんか信頼できるか!と考える人にはまるで信頼できない本だろう。でも、個人的には、後者のタイプの人とはお友達にもなりたくないからどうでもいいや。

著者の人気ウェブ「快食.com」の単行本化というとお気楽そうだが、実際にこういう風に一冊の本としてまとめることの大変さは(ジバランなどをまとめた経験から)自分のことのようにわかる。
マスコミの東京偏重により東京の店ばかり取り上げられる昨今だが、地方の一都市にもすばらしくも愛すべき店がいっぱいあることを肌感覚で教えてくれるこの本は貴重だ。レストラン好きなら、広島に行く予定すらなくても、本棚に並べておくと幸せな気分になれる。そんな一冊である。

2003年01月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒 ,

LV5「私の遺言」

佐藤愛子著/文藝春秋/1238円

私の遺言
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この本で作家佐藤愛子が作家生命をかけて遺言していることが本当であるならば、ボクも彼女と同じように人生観を変えなければならない。
つまりはそういう本だ。彼女は作家生命をかけて「死後の世界はある」と断言している。彼女の長年に渡る実体験を根拠にしているだけに説得力はある。この、北海道の別荘での霊的実体験は著者の他の本でも読んだことがあり、どこかでこれらについて著者が答えを出してくるとは思っていたが、最後の言葉としてこう押し出してくるとはよっぽどの覚悟だったと思われる。科学偏重の世の中に、名のある作家がこう押し出すのはそれなりに勇気のいることだし。

ボクには、シャーリー・マクレーンから入りシルバー・バーチ、ホワイト・イーグル、エドガー・ケーシーその他、当時出ていたたいていの心霊世界本を読了している過去がある。サイババ系ももちろん漁った。そういう死後の世界と現世の意味について完璧に信じ切っていた時期を過ぎ、その後反動のようにそれらを徹底的に疑い、今はどちらかというと「やっぱないかも」という方に傾いている。そこらへんは自分の中でかなり検証してきた。
そんな今読んだこの本は、忘れかけた揺さぶりをボクの精神にかける。佐藤愛子がその存在をかけて主張するように死後の世界が存在し、現世の意味がそういうことだとするならば、ボクの生きる意味もまた少し違った意味を帯びてくる。うーむ。

さすがの著者も目を曇らせているのかな?な記述が、実は多々出てくる。招霊会の模様などさすがにちょっとそれはないだろうという感じ。なんでキツネの霊がついたからってキツネの格好になるんじゃい、など。ただ、それらを差し引いても著者の身の回りに起こった出来事がウソとは思えない。うーん、どうなんだろう。

著者が佐藤愛子でなければまさに眉に唾な本だ。あの佐藤愛子が書いたからこそ、変な記述がいろいろあってもどこかで「本当かも」と思わせる。そう言う意味では著者にしか書けなかった本ではある。

2003年01月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:哲学・精神世界

LV3「小さき者へ」

重松清著/毎日新聞社/1700円

小さき者へ
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先月も書いたが、重松清は好きだけどあまり読みたくない。これも買い置きしてなかったら読まなかったかも。でもやっぱりこういう家族短編ものはうまいなぁ。どちらかというと先月読んだ「ナイフ」の方が数倍印象的だが、これはこれでちゃんと面白い。

全体にあざといと感じる部分も多い。
たとえば表題作「小さき者へ」。引きこもり&家庭内暴力に荒む息子への父からの手紙の形式をとっている。難しい題材だと思うし難しい方法で敢えて書いたんだなとも思うが、泣かせに入った部分があざとくてボクはちょっとついていきにくい。リアリティももうひとつ。同じようなあざとさを感じる部分が他の短編にもあり、読んでいてそこらへんが照れくさくなるので、ちょっとつらい。

ただ、浅田次郎がそうだったように著者もほぼ確信犯なので、これはボクがどうのこうの言う部分ではないだろう。ちゃんと読者を泣かして明日への勇気を与える。その目的は果たされていると思う。つか、泣いたし(笑)。収録短編の中では「団旗はためく下に」が特に泣ける。ここの中で書かれている「応援ということの意味」こそ、重松清の執筆姿勢なのだと思う。そう言う意味で著者にとっての重要作かも。

2003年01月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV3「犬の家庭教師」

中村重信著/WAVE出版/1300円

犬の家庭教師―間違いだらけのしつけ方
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副題は「間違いだらけのしつけ方」。この本を読んで、ボクは世の中に蔓延するアルファ・シンドローム(権勢症候群)理論から脱した。ありがたく思っている。

家で犬を飼い始めて、しつけの本をいろいろ買った。そこに共通して書かれているのは「犬のリーダーになれ」ということ。ほとんどすべての本がそのしつけ法で書かれている。
曰く、「犬は狼と同じく群れで生活する動物だからリーダー願望がある(自分がリーダーになろうとする)。そういう権勢欲をアルファ・シンドロームという。そうさせてはいけない。飼い主がリーダーにならないといけない」と。で、すべてのしつけが「犬をリーダーにさせない」という発想で説かれているのだ。例えば、餌を催促して鳴くのも犬がリーダーとして飼い主に命令していることになるから良くない、ドアから先に犬を出すのもリーダーと勘違いするから良くない、などとなる。最初は素直に読んでいたボクも「ホントか?」と疑問を持ちはじめていた。だいたい、動物王国で10数頭飼いに接しているが、群れる犬もいるが群れない犬もいた。リーダー願望を持っている犬ばかりではないと思うぞ。狼とは違うんじゃないか?

この本は「そういう考えでしつけが出来る犬はそれでいい」と断りながらも、世界を席巻しているアルファ・シンドローム理論に真っ向から反論している。犬に支配性などない。だいたい狼と違って、人間に親しみを感じて近寄ってきた動物である。狼と一緒にできない。犬に負けまいと飼い主ががんばるから関係が悪くなる。だいたいこの理論だと人間の赤ちゃんがお腹すいたと泣くのも親に対する命令となる。人間も群れで生活するがアルファ・シンドロームなのか?

リーダーになろうと厳しく飼い主がしつけた犬は恐怖から服従しているだけ。道を少しそれると反抗的な犬になる。著者の主張は明快でわかりやすい。しかも謙虚。この本がなかったら、ずっとボクは犬に上から押しつけるコミュニケーションをしていただろう。犬を飼っている人は必読かもしれない。

2003年01月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:実用・ホビー

LV2「私の仕事」

緒方貞子著/草思社/1600円

私の仕事
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副題は「国連難民高等弁務官の十年と平和の構築」。
そう、あの「日本一格好いい女性」緒方貞子が自分の仕事を振り返って書いた本である。うはーこりゃ激務だー!とビックリする仕事日記や回顧録、各地での講演、若い人達への提言など、内容は盛り沢山。じっくり読んでいくとそれはそれは立派な仕事と主張が散りばめてあり、圧倒されるし偉いなぁと客観的に思う。どういう仕事をしているかを知るためだけでも読む価値はあるかもしれない。特に「はじめに」で書かれている著者の基本スタンスは熟読に値する。

が、偉いなぁと感心していることを前提に、敢えて苦言を呈したい。
まず、学者が書いた本みたいになってしまっていること。国際政治学者や記者向けならこれでいいが、一般向けであるならある程度の噛み砕きは必要。忙しいだろうが、後進や若者のために、いかに意義深くすばらしい仕事かをやさしくわかりやすく書くことに大きな意味があると思う。何人かのトップクラスの科学者が科学用語を使わずに自分の仕事をきっちり紹介し若者たちを啓蒙しているようなことを著者にも期待したいのだ。
今のままではある程度の知識がある人以外とはコミュニケーションしようとしていない文章と言わざるを得ない。読み進めるのに国際政治の広い知識が必要な本であるのが非常に残念だ。また、全体にお行儀が良すぎて、教科書を読んでいるような気分になった。各方面に気を遣いつつ失言を避けて発言しないといけない仕事だということはわかるが、そういう発言を集めて本にしても読む側はいまひとつ乗れない(過去の出来事であるから特に)。「世界へ出ていく若者たちへ」と題された若者への提言の文章もとても硬い。彼女にこそ、自分の言葉で熱く訴えて欲しい。

もちろん、ちゃんと書く時間がないからこうしてまとめたのだろうし、出さないより出した方が著者の仕事への理解・普及になるからいいのであるが、著者だからこそ、期待してしまう。いい本であることを前提としてだけど。

2003年01月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:時事・政治・国際 , 自伝・評伝

LV1「まだまだまともな日本」

フロリアン・クルマス著/山下公子訳/文藝春秋/1714円

まだまだまともな日本
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日本って全然ダメ〜!って新聞や本ばかり読んでいるので、たまには「日本も捨てたもんではない」というニュアンスを読みたくて購入。最初に言っておきたいが、256ページの小版本で1714円は暴利と感じる。質的にも量的にも内容的にも新書で700円くらいで出すべき本だ。

ま、それはともかくとして。著者は日本に12年住みドイツに帰ったドイツ人教授。
1999年に「制御不能の日本」という日本を憂う本を出しドイツに帰ったのだが、ドイツに帰ってみたら「日本ってこんなに住みよい国だったのか!」と驚くほどドイツがひどかったのよこれが奥さん! という、要するにそういう本だ。
まえがきにこうある。「日本社会がうまく機能しなくなっており、伝統的美徳も失われかけていると感じていらっしゃる方は、一度ドイツにおいでになるか、あるいは少なくとも本書を読んで、ドイツではどんな有様なのかをごらんになってみていただきたい」。んー、著者が「どこに住んでも文句を言うタイプ」という可能性もあるが、まぁ読んでみるとドイツ社会も確かにかなりひどいな。でも悪い国同士比べあってもどこにも行けないという気も。だいたい「まだまだまともな」って、日本はひどいけどもっと下がいるよってニュアンスでかなり自虐的。原題は全然違うので、訳者と編集者がつけたのだろうが、ヤな題名だ。

日本のイイトコロとして取り上げられている例が、それぞれ検証が薄く、反論がいくらでも出来るのも難点。
そして訳者の問題もあろうが、文章がかなり読みにくいのも難点。それでも我慢して読んでいくと最後に「訳者あとがき」が来るのだが、これがまた著者に冷たい。読後感をとても悪くする訳者あとがきだ。つか、買って損した気にさせるあとがきを訳者が書くのはどうだろう。
日本のイイトコロはもちろんたくさんある。いろいろ自信を失っている我々には一服の玉露的効果を与える本だろう。だが、いろんな意味で1714円の価値はないかも。新書だったらまた違う印象だったかもしれないが。

2003年01月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:時事・政治・国際

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