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2002年10月

LV5「海辺のカフカ」

村上春樹著/新潮社/上下各1600円

海辺のカフカ〈上〉
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変な話、ちょっと「村上春樹のさだまさし化」を感じた。
さだまさしは途中から「もっと直接的に言わないと伝わらない」と焦ってしまったところがあって、いままで周辺状況を丹念に描くことで伝えてきた主題を、直接歌詞に乗せて歌いはじめた。個人的にそれからの彼をあまり好きになれないのだが、村上春樹もそうならなければいいな、とちょっと感じる。そう。村上春樹はもっと直接的に言うことに決めたのだと思う。それは、「アンダーグラウンド」以来現実とより深くコミットし始めた著者にとって、必然の成り行きだったのかもしれない。

例によって出来の良い寓話が入り組んで、奥の深い世界を構成している。その寓話(および隠喩)が何を指しているかがいままでよりもより直接的にわかりやすいように書かれている。そんなに種明かししちゃっちゃつまらないです、と訴えたくなるくらい。要所要所に違和感や異化を入れ込んだり(あまりに世慣れした15歳とか)、いままでになく時事的リアリティを入れ込んだり(街やテレビ番組の描写とか)、大筋に関係ない描写で読者を煙に巻いたり(フェミニストとの議論とか)、いろいろと著者の煙巻き(?)は感じるのだが、全体的にはこれまでの著作にないくらい直線的にイイタイコトに収束していく。
その寓話の設定と収束の仕方はさすがに見事で、これだけをとっても傑出した小説と呼べるだろう。ただ、いつもより「より説明的だ」ということだ。例えばジョニ・ウォーカーやカーネル・サンダースだってメタファーとしては実にわかりやすい。いままでならそこらへんをちゃんと謎っぽくしていたのだが。

主題はいままで彼が繰り返し語ってきた範囲を出ていない。著者をずっと追ってきた読者なら「またこれか」と思うだろう(同時に安心もするのだが)。でも今回はもう一歩踏み込んで「メッセージ」としているのが違うところ。また、ふたつの物語が交差していく構成は「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」と同じ。ただし、「世界の終わり…」は暗示としての交差だったのに、今回はリアルに交差する。こここそ、現実にコミットした村上春樹が変化した部分だと思う。

物語作家として、世の中にメタファーを提示する以上の役割を明確に意識し始めた村上春樹。たぶん次作で超寓話的物語を出してはぐらかし、その後「海辺のカフカ」よりも強い直接的メッセージを持つ物語を提示してくるのではないかな、とちょっと予想(笑

2002年10月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV4「文壇アイドル論」

斎藤美奈子著/岩波書店/1700円

文壇アイドル論
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「どんなにいい製品でも需要がないところに供給はない。彼らがアイドルであるなら当然その背後に彼らをスターダムにのし上げたジャーナリズムと読者の存在がある。彼らがどのように語られ評され報じられたかを見ることでアイドルのアイドルたるゆえんを探ってみたかった」という意味のことを、この、ナイフの切れ味が今一番鋭い文芸評論家は書いている。
で、著者に取り上げられあっちこっちから切られまくってしまう文壇のアイドルは登場順に、村上春樹、俵万智、吉本ばなな、林真理子、上野千鶴子、立花隆、村上龍、田中康夫、なのだ。ね、面白そうでしょ?

で、実際に面白い本である。
まずアイドルがどう語られ評されたかの例を上げつつその傾向をざっくり切り分け、交通整理し、そのアイドルの本質はなんなのかを浮かび上がらせていくのである。「村上春樹ってゲーセンじゃん」「吉本ばななってコバルトじゃん」みたいな感じ。一般読者にはここらへんの「総括」が一番面白い。

が、この本は「一般読者向け」な部分と「評論家向け」な部分がある。本質を見ず時代に媚びた文芸評論を続ける評論家たちへの厳しい評価と嘲笑が裏テーマ(本テーマ)だからだ。アイドルたちを通した時事文芸評論家論でもあるわけ。このテーマがこの本を実に魅力的にしている。マーケティング的アイドル論だったら二流評論家でも出せるだろうが、斎藤美奈子ならではな部分はまさにこの、同業者へのブラック・ナイフの鋭さ具合にある。

2002年10月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:評論

LV4「iモード以前」

松永真理著/岩波書店/1400円

iモード以前
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先月「iモード事件」を読んだのは、なんとなくこの本が読みたかったからその前哨戦としてだった。ま、面白かったのだが、やはり本命と思っていたこの本の方が良かったな。iモードで成功するまでの著者の仕事遍歴、そして勤め先の「リクルート」で出会った魅力的な人々のことがくわしく書かれている。著者の肉声も前著よりはよく伝わってくる。

著者のビジネス上の成功がゴールとしてわかっているので、書き方によっては自慢になってしまう題材だが、上手にその辺の嫌味を排除してある。逆に「こういう環境とすばらしい人たちに助けられたんです」的嫌味が出てきているくらい。でも確かにいい環境だな、リクルート創成期って。どうしてもリクルート事件を連想してしまってダークなイメージになるのだが、当時のリクルートみたいな環境があれば、日本はもっと多彩な人材がいろんなところから出てきていたであろう。それを知るためだけでも読む価値はあるし、ビジネスの現場で壁にぶち当たっている人たちが読むと即効性がありそうな本でもある。ただしなんでも他者のせいにしがちな人にとっては逆効果かもしれない。

2002年10月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:経済・ビジネス , IT・ネット

LV4「南の島に暮らす日本人たち」

井形慶子著/ちくま文庫/600円

南の島に暮らす日本人たち
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小さな会社を経営し走り回って生きてきた37歳の著者がある日偶然に癌の可能性を指摘され、いつかはこうしようと考えてきた長期的人生計画を狂わされると同時に、「走り回っただけで終わるのか、こんなはずではなかったのに」と絶望する。結果的には良性腫瘍だったのだが、「もうしたいことを我慢しない、もう自分をみじめにも不幸にもしない」と誓う著者は「すでに南の島でやりたい人生を臆面なく選んでいる人たち」に興味がふくらみ、手術後ひとり南の島に旅に出る。そして、サイパン、テニアン、ロタ、パラオ、ヤップ、と、そこに住む日本人たちの人生に次々に触れていく、というノンフィクションだ。

南の陽光のもとを旅しているのに、とても内省的で静かな文章だ。
著者の人生と日本軍の過去と南の島で生きる孤独などが行間から浮かび上がって来る分、ちょっと重めなのだ。が、しかし、この旅は沈んだまま終わらない。希望をしっかり見せてくれる。最終的に「人はなんでも出来る」という強い自信とともに帰京するのである。ある種「いろんな人生を選んでいいんだよ」という読者励ましの本にもなっている。

2002年10月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ ,

LV4「何もそこまで」

ナンシー関著/角川文庫/476円

何もそこまで
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友達には絶対なりたくないけど敬愛していた作家、ナンシー関。
ボクが週刊文春を毎週読んでいた頃と、彼女がいきいき連載していたころが重なるので、ある時期のボクの人生にとって欠かせないパーツであった。彼女が今年の6/12に亡くなると同時に、日本の芸能界&テレビ批評は終わりを告げたと言ってもいい。時代の空気をお茶の間から掬い取り、ある毒としてテレビや芸能人にぶつけていた彼女だが、単なるテレビ批評に終わらず、それが時代評論としても普遍性を持っていた点が偉大だったと思う。あの時代の空気のつかみ方、表現の仕方は舌を巻くしかない。タレントの肝をひと言で表現するように、時代すらも彼女は乱暴に言ってのけていた。

この本はその週刊文春での連載をまとめたもの。
おなじみの筆致、おなじみのテイストでつづられる。消しゴム版画作家としてのすばらしさもあるが、こうして過去の著作を読んでいるとまぁ惜しい人を亡くしたものだと嘆息する。もっともっと読みたかったなぁ。他にもたくさん本は出ているのだが、なんだか読む気にならないくらい著者を惜しんでいる。

2002年10月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 評論 , 映画・映像 , 写真集・イラスト集

LV4「HARRY POTTER AND THE PRISONER OF AZKABAN」

J.K.ROWLING著/SCHOLASTIC/$7.99

Harry Potter and the Prisoner of Azkaban (US) (Paper) (3)
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ハリーポッターの第三巻、原書で読み下し。
英語力ないため不完全だが、とにかく読み下したという記録にここに載せておこう。これがあったがために日本語の本は冊数がはかどっていない部分もあるし。
この原書はUS版のようだ。意識せず買ったのだが、UK版とは単語や表現が少し違うらしい。ま、確かにUSとUKでは例えば同じゴミでもUSでは「trash」、UKでは「rubbish」のように、少しずつ違うよね。
原書を読んで思うのは、 日本語版で読んだ感じよりオドロオドロな単語が多かったこと。そしてリズムが非常に良い。わからないところなど、たまに日本語版と読み比べもしたが、邦訳は非常に苦労の後が見えるものの、ちょっとリズムが悪いなぁと感じるところが多かった。
ということで、いまは第四巻に挑戦中。700ページ超なので10月いっぱいでは無理だなぁ。11月にはなんとかしたい。 (邦訳は10/23に発売になる)

2002年10月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外) , ファンタジー , 児童・ティーンズ

LV3「パーク・ライフ」

吉田修一著/文藝春秋/1238円

パーク・ライフ
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今年度芥川賞受賞作。
基本的に著者の持つ描写力やリアリティの紡ぎ出し方、かすかな希望への謙虚な表現、などは好きである。好みの方向。
が、この短編に描かれている世界はちょっと物足りないのも確か。淡々とした日常と、その裏にリアルに存在する世界の動き(それも負に近いもの)の対比が特に物足りない。だから、あるスライス・オブ・ライフにしか見えてこない。ボクたちの日常はそういうバランスなのだ、ということはわかる。が、メタファー的なものでも良いから、確固たる対比がボクは欲しかった。描写やストーリーが良いだけに、逆に主題が明確に見えてこない。ラストもはぐらかしで終わっているように思えてしまう。ラストが、かすかで微妙な明日への希望であるなら、中盤にそれに対するものが欲しい。そんな印象。

独自の視点で日常を切り出すことには成功しているが、じゃぁこれが芥川賞かというとウームとうなるなぁ。一番大事な部分をはぐらかして書いているような印象がどうしてもぬぐえなかった。併載の短編「flowers」の構図のわかりやすさもどうなのかと思うが、こっちの方が印象は強かった。

2002年10月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV3「調理場という戦場」

斉須政雄著/朝日出版社/1800円

調理場という戦場 ほぼ日ブックス
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三田の名フレンチレストラン「コート・ドール」のシェフである著者はいままでに数冊名著を残している。特に「十皿の料理」は名作で、レシピとその思い出を語っているだけなのに、何度もの再読に耐える深みを持つ。その「十皿の料理」が横軸だとすると、この本は著者の修行店を順番にたどることで縦軸で彼の人生を鳥瞰できるようになっている。両方読むと欠けているパーツが埋まっていき、見事にひとつの人生が見えてくる感じだ。

前半は傑作に近いと思う。
が、中盤から後半に向けてお説教めいた人生訓が出てきてしまい、ちょっと鼻白む。著者の持ち味は(その料理も含めて)淡々として客観視だと思うのだが。 歳を経て、そろそろ言ってもいいか、という部分はあるのだろうが、少々くどく、謙虚と声高主張の入り交じり方がバランス悪く、前半に感じた感動が色あせていくのを読んでいて感じた。惜しい。

著者のレストランは3回ほど行っているが、最新では去年の今頃行き、そのときはちょっとがっかりさせられた。ハズレがない店(シェフ)と信じていただけに「カラダの調子でも悪いのではなかろうか」と心配した。が、この本を読んでちょっと理由がわかった気がする。人生を語り、説教を始めてしまうと、ある意味自分の言葉に縛られて、人間「守りに入る」場合がある。「自己模倣しだす」場合もある。とても難しいことだとは思うが、まだそうなってほしくないシェフである。

2002年10月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒

LV1「フランスには、なぜ恋愛スキャンダルがないのか?」

棚沢直子・草野いづみ著/角川ソフィア文庫/600円

フランスには、なぜ恋愛スキャンダルがないのか?
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6月にフランスに行き、その印象を不定期日記につづったら、やけに受けた。フランス特有の価値観に改めて感じいった人が多かったのだ。で、ある人から「日記を読んでこの本を思い出しました」とメールをもらったので読んでみた一冊。

ちょっと厳しすぎるかなと自分でも思ってはいる。というのも、資料としてとてもよく出来ているし、結論としての分析もとても面白いから。ただ、もうちょっとミーハー的な「フランス恋愛価値観のいろいろ」を読みたかった感じなので、そういう意味ではがっかりしたかも。だって恋愛観の歴史的必然性や宗教的裏付けを追うのにほぼ8割使ってしまっているんだもの。それらを読んでいるうちに、フランス人の恋愛について知りたかったワクワク感が、なんだか大学の研究室のほこりくささでかすんでしまったみたいな感じになったから。ちょっと惜しいなぁ。テーマは最高なのに。

2002年10月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:時事・政治・国際 , 評論

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