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2002年09月

LV5「海馬」

池谷裕二・糸井重里著/朝日出版社/1700円

海馬/脳は疲れない ほぼ日ブックス
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副題は「脳は疲れない」。ほぼ日ブックス第二弾の一冊。

東大薬学部の気鋭の学者である池谷氏と糸井氏の対談をまとめたもので、脳についての最新研究における池谷氏の成果と糸井氏のクリエーターとしての視点がコラボレーションして、実に興味深い内容になっている。
少し挙げるだけでも「脳はいくら使ってもまったく疲れない」「30歳過ぎてから頭は飛躍的に良くなる」「睡眠時間は脳の疲れを取る時間なのではなく、脳が情報を整理する時間である」「夢は整理の過程でいろんな情報をランダムに結びつけてみることから起こる」「脳細胞は一秒に一個死んでいくが、もともとの容量が莫大なので無視していい」「使えば使うほど脳は成長する」……などなど、いままでのいろんな胸のつかえがおり、現41歳のボクに自信と勇気を与えてくれる内容がゴマンと入っている。
各章ごとにまとめも作ってあり、記憶をきちんと整理したあとの脳の中身みたいな印象に本が仕上がっているのもいい。あとはこのまとめ(記憶)をなにと結びつけて、読者自身がブレイクスルーを起こすか、である。

発見は多かったが、特に「脳は疲れない」ことと「睡眠とは脳の最適化作業なのだ」と気づかされたのは大きい。もっともっと脳を酷使しようという気になったしね。うはは。んでもって、ちゃんと睡眠しないと、整理されない雑然とした脳になる、というのも実感としてわかる。インプットがそのまま積み重なっているようなあの徹夜明けの気分。なるほど、ちゃんと寝よう。

などなど、目から鱗の発見が多く、味読したい事実が多い本であった。
池谷氏が最前線で研究する31歳の学者であるというのもいい。糸井氏の先輩風を全く吹かせない謙虚で好奇に満ちた姿勢もいい。ふたりとも論の掘り起こし方は天才的だ。脳を知り、脳を刺激するために読むべき一冊。

2002年09月01日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:対談 , 科学

LV5「にぎやかな湾に背負われた船」

小野正嗣著/朝日新聞社/1200円

にぎやかな湾に背負われた船
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筒井康隆が帯に「少しほめ過ぎになるが、小生はガルシア・マルケス+中上健次という感銘を得た」と書いている。
とてもよくわかるが、ボクはそれは作者の目指すところではないのではないか、と思う。骨太さは似ているが、もっと軽快でサラリとしている。いくらでも重くどっしり書ける題材なのに、いくらでもややこしく人の性(さが)を入れ込める筋なのに、全体的に「毒みたいなもの」が意識して上手に排除されている。湿度が低い。妙に薄暗さがない。デビュー当時の村上春樹が中上健次的純文学を書いたとしたら、たとえばこんな感じになったかも、というイメージが少しした。イマの気分にとてもマッチする純文学だなぁ。読後、ついに平成の純文学が出た、とすら思った。

ユーモアの存在も大きい。どんなに暗い話になろうとそこはかとなくユーモラスな匂いが漂っている。著者がフランスの現代詩の世界と深く関わっていることもあるのであろうか。
あと、変なイメージかもしれないが、読んでいる最中ずっとブリューゲルの絵を思い浮かべていた。すべての登場人物がブリューゲルの絵のような印象でボクの頭の中に生きていた。あの、ブリューゲル的な細かい絵のような客観性と遠景がそこにあるからだろう。でもってその距離感はボク好みである。ま、早い話、気に入ったのですね。著者の作品はこれからも追ってみたい。

2002年09月01日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「光の帝国」

恩田陸著/集英社文庫/495円

光の帝国―常野物語
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ある日メールが来て「なぜ恩田陸を読んでないの?」とあった。あぁ恩田陸、そういえば気になっていたけど読んでなかったなぁ、ということで数冊取り寄せて読んでみた。

まずは処女作「六番目の小夜子」と「ネバーランド」とこれ。
で、「ネバーランド」の方が完成度高いとは思うけど、一番強く印象に残ったのがこれである。副題に「常野(とこの)物語」とあるが、実際には副題を本題にした方がよかったと思う。「光の帝国」なんて、内容とまるでそぐわないし、第一スターウォーズちっくでなんだかおどろおどろしいではないか。

内容的には不思議な能力を持つ一族の繁栄と存亡の話であり、とても美しく、そして緊張感に満ちた連作短編集である。
滅び行く一族の哀愁と見えぬ敵との闘いに対する悲壮感が物語に深みを与えている。一族の歴史や敵の必然性、逃げていくべきなどもちゃんと書き込んでいけば(今はまったく書かれていず、読者はわからないままラストまで引っ張られる)、ある意味「十二国記」的一大叙事詩にもなりえる題材。そのうちきちんと書き直して欲しいと願ってやまない。

2002年09月01日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV4「iモード事件」

松永真理著/角川文庫/457円

iモード事件
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文庫になったので読んでみた。というか次作「iモード以前」を読みたかったので、いまさらながらにこのベストセラーを買って読んだのである。ま、順序として。
よく売れた本だし、著者もいろんなメディアで取り上げられ話題になったので、いまさら感想を書いても仕方ないが、内容は実に上手に客観化されてあり、どう仕事が進みどう著者が悩みどう成功したかがよくわかるおもしろい本だった。ビジネス書・教訓書としてよく出来ている。が、著者自身の体臭みたいなものは意外と伝わってこない。著者とその仲間たちがこう動いたから成功した、という一種の人的テクノロジーは書いてあっても、著者自身の肉声が意外と読者に届かない。というか、目的がビジネス書的なのだろうからそれでもいいのだろうが、ボク的にはちょっとだけ肩透かしをくった感じ。
著者の肉声に関心があるボクは、次作に期待。批判的に書いたが十分面白かったので「LOVE!」。

2002年09月01日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:経済・ビジネス , IT・ネット

LV4「ネバーランド」

恩田陸著/集英社/1500円

ネバーランド
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上記のように恩田陸読み数冊のうちの一冊。
学園ものであるが、妙にリアリティがあってよく出来ている。完成度は「光の帝国」より上だろう。ただ、なんとなく全体に既視感があり、読んでいてもうひとつ乗り切れなかったのも事実。父母の愛やトラウマに振り回される少年たちの桎梏と破綻。それを乗り越える勇気と友情。密室的な冬の学生寮という舞台といい、少年たちの描き方といい、いい物語なのだけど既視感が感動の邪魔をする。天童荒太の「永遠の仔」にもちょっと似ている(初出はどっちが先か調べてないが)。トラウマって題材はあのころのはやりではあったけど。

ネバーランドとは言うまでもなくピーターパンの住む世界。大人になりたくないピーターパンの世界を題名に持ってくるのもちょいと安直。あえて期待するが、あとがきで著者も書いているように、これをもとに違う長編を生み出して欲しい。そのための習作と考えると納得がいく。習作にしては完成度高いが。

2002年09月01日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV3「六番目の小夜子」

恩田陸著/新潮文庫/514円

六番目の小夜子
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著者の処女作で、あとがきによると「最初に勤めていた会社を辞めて、三週間くらいで書いたこの小説が第三回ファンタジーノベル大賞の候補になり、酷評されてあっさり落選し、文庫として世に出たもののすぐ絶版になった」らしい。
で、大幅に加筆修正して再版したものがこれである。NHKでドラマ化され人気を博したのも記憶に新しい(あれは脚本の宮村優子が大幅に書き直したらしいが)。

酷評された理由も読めばわかる気がするが、要所要所が妙に印象的な本で、全体の筋は忘れても細部がやけに記憶に残る。そういう意味ではとても力がある小説だと思う。キャラがしっかり立っていて、作者はそれを良い勢いを持って書いているから、全体にドライブ感が生まれている。
でもまぁ、ジュブナイルノベル的かな。ボクは嫌いではなく、それなりに楽しんだけど、ミステリー好きが読むとちょいとつらいかもしれない。そんな感じ。

2002年09月01日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ファンタジー , 児童・ティーンズ

LV3「クラシックCD名盤バトル」

許光俊vs鈴木淳史/洋泉社/880円

クラシックCD名盤バトル
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帯に「『名曲・名盤』幻想を一蹴する、類書真っ青の『読むCDガイド』!」とある。
1965年生まれの許光俊氏と1970年生まれの鈴木淳史氏が先攻後攻としてクラシックの決定的名盤を挙げてバトルしていく本であるが、そのバトルは、潜在的にいままでの名盤紹介に向けられている。「名盤紹介本こきおろし精神」が原点にあるのがおもしろい。つまり、いままで類書で取り上げられた名盤などまず出てこないと思った方がよい。そして著者同士のバトルもすさまじく、また時にのどかで妙な味を持ち、読んでいてとても楽しめた。つか、自分のクラシック鑑賞質量のあまりの情けなさにがっかりすることがまず先に立つのだが。

そもそも客観的に誰もが認める名演奏などないのではないか、という視点は共感する。誰もが認めるものはある意味芸術ですらないだろう。そこで徹底的に自分の視点で「これぞ名盤!」を推してみるという作業に著者たちは挑んでいるのだが、それについては読んでいて実に晴れ晴れする。著者がわがままであればあるほど晴れ晴れする。よくまぁそこまで自信を持って言えるなぁという思いもありつつ、著者たちがバトルに選んだ「名盤」を聴いてみたくなること必定。

2002年09月01日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:音楽

LV3「世界音痴」

穂村弘著/小学館/1365円

世界音痴
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39歳独身総務課長代理、な、歌人である著者のさえない日常を淡々とつづったエッセイ集。
恋人も持たず、青春の明るさに乗れず、都市の暮らしに馴染めず、とにかく世界全体に適応できない彼の静かな告白的文章が続く。まさに世界音痴。題名はとてもナイスだ。

それぞれのエッセイの自分自身を見る目はとても確かで、ああそういう気持ちよくわかる、の連続である。文章も独特で味がある。いいエッセイ集だと思う。
ただ、各エッセイの最後に短歌がつくのだが、この短歌がエッセイを超えていれば(少なくともエッセイを強烈に引き立てていれば)、もっともっといい本になったと思う。桝野浩一だったらそれを果たすだろう。エッセイでなさけなさを書いておいて、短歌でそれを逆手にとって読者になにかを残そうとするだろう。寒川猫持も上手に計算してそれをすると想像する。
でもこの著者はそうしない。そこが味でもあり不満でもある。エッセイはおもしろいのに(後半のエッセイはいまひとつなんだけど)、全体として印象がいまひとつなのはそのせいかもしれない。この本を出した時点で、ある意味著者のなさけない日常は「売り」のひとつになったはず。そこを独自の視点で切り取ったいい歌を、ボクは読みたい。贅沢かな?

2002年09月01日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 詩集・歌集など

LV2「一生、遊んで暮らしたい」

中場利一著/角川文庫/438円

一生、遊んで暮らしたい
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相変わらず著者の岸和田話はおもしろい。
週刊プレイボーイに連載したエッセイをまとめたもので、「岸和田少年愚連隊」に出てくる愛すべき登場人物がいろいろ出演するので、あのシリーズが好きな読者にとってはそれだけでも買いである。久しぶりに彼独特の暴力描写や筆致をボクは楽しんだ。

とはいえ、岸和田話はどうやっても「岸和田少年愚連隊」のパワーを超えられない弱みを持つ。
初作の勢いを短い連載エッセイで超えようというのがまず無理である。そして、週一連載ということで書き殴っている章もある。それも仕方がない。そう、著者の話はおもしろいのだが、質はどうしても落ちている。ま、この後、著者は創作に精力を傾けだしたらしいので、そちらに期待したい。というか、「バラガキ」を読もうと思って忘れていたよ。注文しよっと。

※というか、書いてから気がついたけど、ずいぶん前に同じ本の単行本を買って書いていた。二度買い。あらら。

2002年09月01日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

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