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2002年07月

LV5「センセイの鞄」

川上弘美著/平凡社/1400円

センセイの鞄
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話題作。というかヒット作。
川上弘美は芥川賞受賞作「蛇を踏む」のとんでもない異化の世界の印象が強く、体調がいいときにしかトライする気になれなかったのだけど、巷に「これはいい!」という声が溢れているので手に取ってみた。結論から言うと、これはいい!です、はい。

37歳になる独身女性ツキコと30歳以上年上のセンセイとの静かな愛の物語。
冒頭から引き込まれ、何も起こらないのにワクワクし、最後には読み終わるのが惜しくなってくる。特に会話がいい。お行儀のよい会話にお行儀のよい展開をつけて、昭和時代っぽい純な味を出している。主人公同士の小津安二郎的距離感も心地よく、小説を読む楽しみを思い出させてくれる。
著者はどこかのインタビューで「私は何かを伝えようと思って小説を書きません。伝えようとすると小説ではなくお説教になってしまう」と言っていたが、その通りの作法で書かれており、それも心地よい原因のひとつであろう。なんというか、フランス料理で商売できるほどの腕の人が作る家庭的お総菜を個人的にゆっくり味わわせてくれた後のような、滋味溢れる充足感がここにはある。静かで温かい気持ちになりたいときなど、おすすめ。

2002年07月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「不肖の息子」

森下賢一著/白水社/1900円

不肖の息子―歴史に名を馳せた父たちの困惑
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副題が「歴史に名を馳せた父たちの困惑」。
偉大な父と、そういう父を持ってしまった息子(たいていがしょーもない)の人生を集め、ざっと鳥瞰した構成だ。

「ジョー・ケネディとその息子エドワード」「エジソンと息子トーマス・ジュニア、ウィリアム」「カポネと息子ソニー」「ヘミングウェイと息子グレゴリー」「ロックフェラーと息子ネルソン」……。
著者は淡々と必要最低限の事実を並べて父と息子の人生を追うのだが、それが実にいいリズムとペーソスを生んでいる。いろいろ突っ込みたくなる出来事満載なのだが、中途半端に突っ込まない態度がこの本をいいものにしている。すごすぎる父を持った息子の人生、というとなんか特殊な例のようだが、これだけまとめてそういう例を読んでいくと、人の生のある普遍が見えてくるのもおもしろい。

2002年07月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , 自伝・評伝

LV5「まれに見るバカ」

勢古浩爾著/洋泉社/720円

まれに見るバカ
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章立てをご紹介すると、第一章 バカはなぜ罪なのか 第二章 バカ本を読む 第三章 現代バカ著名人列伝 第四章 現代無名バカ列伝 第五章 わたしの嫌いな10のバカ言葉 第六章「あとがき日付」一言バカの諸君 第七章 バカを寿ぐ、である。

実に面白そうではないか。
んでもって著者はなーんにも遠慮せずバカをバカと呼び、バカにし切り捨てる。しかも上から見てバカにするのではなく、下から仰ぎ見てニャンニャンじゃれついてバカと呼ぶのでもなく、しっかり同じ地平に立ってバカにする。しかも「こういう本を出している自分が一番バカでして」みたいな自虐やおもねりがない。それが一番潔く気持ちよい。

バカ本、現代バカ著名人列伝のあたりは、遠慮がない分、実に鋭い書評・人物評になっており、特におもしろい。
無名バカ列伝も良い。社会をバカという切り口で切ると実に爽快だということがわかる。ただ、バカにバカというバカはバカに違いない的な二重三重四重構造に時たま著者が陥り、読者もなにがなんだかわからなくなってしまうところがあるのだが、まぁバカ本だからそれもいいか。細かく異論がある向きもあろうが、勢いがあってボクは気に入った。

2002年07月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 評論

LV5「君の鳥は歌を歌える」

桝野浩一著/角川文庫/590円

君の鳥は歌を歌える
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自称「日本一の特殊歌人」桝野浩一が、他人が作った映画や小説やエッセイや演劇をその内容をふまえつつ短歌にしてみた、という「鳩よ!」連載の企画を一冊にまとめたもの。題名はビートルズの「And your bird can sing」から。ボクがビートルズの曲の中でもっとも愛する一曲である。それにも惹かれて熟読。

実際、熟読に値する。 もともと実にクレバーである著者が、彼が良いと思って選んだ元ネタのエッセンスを抽出してくれたうえに、その本質を短歌にしてくれるわけで、つまりは人生のエッセンス満載なのだ。なんというか赤ペン持って線引きながら読みたい気分になるくらい啓示的な文章に満ちている。
そして肝心の短歌が実にしっくりくるのも参る。名作もいくつかある。いや、いくつもある。読み終わるのに4時間かかるような本より、一行の短歌の方が強いことがあることを改めて知った気分。著者のファンたちにとっては今更何を褒めているのだ?だろうが、まぁ今更にしろ、彼にちゃんとのめりこんでみたいとちょっと思ったのでした。

2002年07月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:詩集・歌集など , エッセイ

LV5「天文学者の虫眼鏡」

池内了著/文春新書/680円

天文学者の虫眼鏡―文学と科学のあいだ
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毎日新聞で古館伊知郎が「目から鱗の名著」と書いていたのを思い出して本屋で購入。
1999年出版の本で、内容自体は96〜97年に「図書」に連載されていたもの。著者は自称「文系」天文学者。様々な文学作品をひもといたエッセイなのだが、着眼点が非常に面白く、知的興奮度は抜群である。

例えば「コップ一杯の水にニュートンの脳細胞を作っていた原子が4000個も含まれている」とか「超自然的な力が働くように思える予知夢であるが、偶然に予知夢を見る人を確率論で計算していくとたった一日で日本に26人もいるはず」とか、文学を起点にこんな面白い話まで発展していくのか、という話が満載なのである。漱石の猫を分析した章も興味深いし、カエサルのローマ暦の話もわかりやすい。
新書はこうあるべし、という見本のような本である。面白い章と面白くない章の差が顕著なのが残念だが、かなり楽しめる。おすすめだ。

2002年07月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 科学

LV5「ユカリューシャ」

斎藤友佳理著/世界文化社/1575円

ユカリューシャ―奇跡の復活を果たしたバレリーナ
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副題は「奇跡の復活を果たしたバレリーナ」。
著者は東京バレエ団のプリマ・バレリーナで、この世界では有名な人。題名のユカリューシャはロシアにおける著者のニックネームだ。

著者の、バレエに賭けた半生の記である。
バレエとの出会い、ソ連のボリショイ劇場での日々、ボリショイのプリンシパル・ダンサーであるニコライ・フョードロフとの結婚、出産、致命的なケガ、復活の「ジゼル」…と、話の前後がたまにわからなくなる部分があるのだが、劇的な人生が冷静な主観で書かれており、とても興味深い。バレエを真剣に観た回数が少ないボクにも内容はわかりやすく、また、もっといろいろ観てみたい気にもさせる。

著者は謙虚なので苦労の部分はそんなに大仰に書いていない。が、日本人ダンサーがボリショイで踊ったりするには並大抵でない苦労があったはず。半生を振り返るに(といっても著者はまだ35歳だが)いい思い出しか浮かばなかったのかもしれないが、ドロドロした内面にもう少し踏み込んでくれたなら、この本はもっとコクのあるものになっていただろう。その辺がちょっとだけ物足りない。

2002年07月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:アート・舞台 , 自伝・評伝

LV4「旅行者の朝食」

米原万里著/文藝春秋/1524円

旅行者の朝食
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名エッセイスト米原万里。「彼女のエッセイにハズレなし」はすでに定説で、ボクは過剰な期待をもって読み始める。この本もその例に漏れず。期待が過剰すぎてちょっとガクッと来たが、エッセイとしての出来はほぼ完璧。いつもはあるはずの哄笑する部分が今回はない、というところだけが不満なのである。気楽に読み流すエッセイとしてはとてもいい時間をボクたちに与えてくれるだろう。

いつもの如くロシアの話題が中心であるが(だって著者はロシア語通訳だから)、今回は「食べ物」に焦点を絞っている。不勉強にもジャガイモの普及の話は知らなかったのでその章が特に印象に残っているな。話題を食に絞ってしまったせいか、いつものキレがない部分もあるが、楽しいエッセイ集ではある。

2002年07月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒 , , エッセイ

LV3「新・パリでお昼ごはん」

稲葉由紀子著/TBSブリタニカ/1700円

新・パリでお昼ごはん
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フランス出張中にパリに寄るので、パリでひとりで入れるレストランガイドはないものかと探していた。そしたらお誂え向きにこの本を見つけたのである。パリ好きにはかなり有名な本みたいだ。1997年に出た本を2002年用に構成しなおしたもの。42軒のお昼がとてもいいレストランが載っている。

ま、ガイドではあるのだが、42軒それぞれの紹介が4ページに渡るエッセイになっているのがこの本のミソ。これ一冊読み終えると、ランチを通してパリの様々な断面が疑似体験できるようになっている。そこが秀逸。特にボクみたいな食いしん坊には、そこらのパリエッセイより頭に入りやすく血肉になりやすい。
実際にはこの中の一軒にしか行けなかったが、東京に帰ってからもなんとなくパリを感じたくなったらこの本を開くかもしれない。そんな本である。

2002年07月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒 ,

LV2「『極み』のホテル」

富田昭次著/光文社新書/700円

「極み」のホテル―至福の時間に浸る
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2001年3月の時点で日本全国に8220軒のホテルが営業しているそうだ。この中で(ってすべてを回ったわけではもちろんないだろうが)著者が厳選した113軒が静かなエッセイとともにここに載っている。
「超高層を極める」「リゾートを極める」「高士を極める」など、テーマ別になっているのもわかりやすく、地方別ホテル別に構成するのとまた違った味が出てとてもいい。

意外なホテルが取り上げられていたり、近くにそんなホテルがあるのかと驚いたり、いろいろ発見しながら楽しんだ。
日本には日本旅館という別の形態があり、高級ホテルと高級日本旅館のどっちを選べと言われたら後者かなぁと思うボクではあるが、この本を読むと日本のホテル文化もずいぶん成熟してきたようである。ちょっとホテルに泊まるための旅に、出かけてみようかな。

2002年07月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:

LV1「理想の国語教科書」

齋藤孝著/文藝春秋/1238円

理想の国語教科書
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昔、国語の教科書を読むのが大好きだったボクは、4月にはその年に習う文章をすべて読んでしまって、残りの11ヶ月を限りない欲求不満とともに過ごした記憶がある。
そんなボクにとって、「声に出して読みたい日本語」を大ベストセラーにした著者が選んだ、教科書に取り上げたい名文の集大成であるこの本は実に興味深いものである。期待して読んだ。全編ふりがな付きであり、一学期、二学期と章分けもしてあり、小学生にも読ませられる構成になっている。丁寧な編集だ。

ま、名文を読む作業は楽しかった。
でもこれらが本当に最高レベルの日本語なのかは非常に疑問が残る。かなり一般的すぎる選択だ。もちろん教科書であるから名文を読ませつつ文豪などの存在を教えたり子どもの倫理観などに影響を及ぼす名作を選ぶ必要はあるが、新たに世にプレゼンするのだから独自の視点で「これぞ名文」を発掘して提出してほしかった。
また、イマの作家を正面切って取り上げる必要はないのか。明治の作家中心で本当にいいのか。最高レベルの日本語はそこにしかないのか。そして「野口シカ」の手紙はそこに入るのか(感動的ではあるが教科書としてどうなのか)。などなど、疑問はいろいろ残る。作品の選び方がとってもありきたりだと思うのだ。残念。また、著者による解説がつまらないこともちょっと不満。

2002年07月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:教育・環境・福祉 , 児童・ティーンズ

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