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2002年06月

LV5「シカゴよりこわい町」

リチャード・ペック著/斎藤倫子訳/東京創元社/1900円

シカゴよりこわい町
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ちょっと童話的な美しい小編。
子供のころを回想するカタチで書かれた小説で、シカゴから遠く離れたおばあちゃんの家に夏休みに行った数年間の思い出を書いているだけの物語なのだが、そのおばあちゃんのキャラクターが尋常でなく立っているので、非常に面白くなっている。

原題は「A Long Way From Chicago」。
邦題に「こわい」という言葉を入れたのは、子供達にはかなり怖ろしいおばあちゃんだからであろう(結果的にこの邦題はいまひとつであると思うが)。愛想は悪いし、平気で大嘘つくし、盗みはするし、銃はぶっぱなすし…。ただ、彼女の中の正義・尊厳は揺るぎなく、読み続けるに従ってその一貫性が快感に変わってくる。今度は何をしでかしてくれるのだろうと、どんどんページが進むのである。なのに、200ページ弱の薄い本なので(その割に1900円もするが)、すぐ読み終わってしまう。もっとずっと読んでいたかった。

エピローグが美しい。思わず涙がこぼれる。
第二次世界大戦に向かう軍隊輸送列車がおばあちゃんの横を通り過ぎる場面がアメリカの古き良き時代の終焉を象徴し、主人公のイノセンスの終焉も同時に表しているようだ。

2002年06月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV5「謝々!チャイニーズ」

星野博美著/情報センター出版局/1400円

謝々!チャイニーズ―中国・華南、真夏のトラベリング・バス
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「転がる香港に苔は生えない」で大宅賞を取った著者のデビュー作。写真集をふくめて著者の本はほとんど購入しているボクであるが、デビュー作が一番最後になってしまった。

で、感想はというと「一番おもしろいじゃん!」である。よくデビュー作にはその著者のすべてが入っているというが、まさにそんな感じ。訥々とした静かな語り口と、若くして人生の軸がぶれない安定感が全編を貫き、読者は安心して星野博美ワールドの中に埋没していくことが出来る。

副題は「中国・華南、真夏のトラベリング・バス」。
ベトナム国境の街東興(トンシン)から上海までバスを使って彷徨っていくノンフィクションだ。トラブル続きのバス旅行。いまの流行で行けば、ハイテンション・カルチャーギャップ紀行文にするのが一番お手軽なのだろうが、著者は性格の暗さ(?)もあって、じっくり足を踏みしめる。そのことが、この本を「こんな旅行をした」という単なる紀行文ではなく「こんな人生を生きた」という著者自身の物語にしている所以だろう。何度か読み返してみたくなる名ノンフィクションである。

2002年06月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション ,

LV4「横断歩道」

黒井千次著/潮出版社/1600円

横断歩道
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静かな小説である。
ある主婦がプールで知り合った同年代の女性と友達になるが、彼女はある日突然姿を消す。彼女がいる日常に慣れた主婦は彼女を捜し始める…というような物語なのだが、読後、さてココにどう書こうかと困ってしまうほどなにも起こらず、結果も展望も解決も現れない。だけど不思議に印象的。
読者によっては退屈を感じる人もいると思う。20代に読んだら退屈だろう。でも40.50歳以降に読むとわりと空気が読め、共感を得られる気がする。ボクは現代の危うい人生構築を外側から内側に向かって注意深くじっくり描いていることに好感を持った。意識して構築したわけでもない人生に埋没している安心感と不安。ある時、ほんの小さなキッカケでそこから一歩出る。すると違う景色が見え始めるのだが、それもまた非常に不安…。構築した人生に絡め取られ、行くも戻るもしにくくなった中年以降の不安感を静かに描いている。題名の「横断歩道」はそんな向こう岸への(安全な)一歩を象徴しているようだ。

著者は何も起こらないことにさすがに不安を持ったのか、ちょっとした出来事を重ねてミステリーっぽくしたりもするのだが、それはちょっと中途半端であった。ミステリー的にするより、より純文学的に持っていった方が個人的には望ましかったな。思わせぶりな小説と切り捨てることも出来るだろうが、正直ボクはわりと好きである。

2002年06月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV4「フランス料理を料理する」

湯浅赳男著/洋泉社/740円

フランス料理を料理する―文明の交差点としてのフランス料理
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フランス料理分析の本は巷にわりとある。が、この本がわりといいのは、フレンチにあまり詳しくない異分野学者(比較文明史)である著者が、詳しくないからこそ書けるわかりやすさでフレンチのいろんな魅力に踏み込んでいるところ。門外漢的であるからこそ気がつく切り口もあり、ボクにはとっても新鮮であった。
フレンチに詳しい人にはすでに知っている話題も多いだろうが、頭を整理する意味で非常に役に立つし、新たな発見も多かった。そして、西洋史的なものがフレンチという切り口でスッと整理できるのも快感。

個人的には、スープに関する諸考察、もともと料理とは見せ物であったという事実、カトラリー系の歴史的ブラウズに目を開かれた。
なるほどーである。ま、個人的興味としての二つ星なので、あまりフレンチに興味がないひとにはもとより面白くない本かもしれない。ただ、内容的には非常に優しく書いてあるのでフレンチ初心者でも楽しめる。

2002年06月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒

LV4「悪魔のパス 天使のゴール」

村上龍著/幻冬舎/1600円

悪魔のパス 天使のゴール
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サッカー小説と呼んでいいかもしれない。特に最後の100ページのサッカー描写は小説が初めてサッカーを描ききったと言えるくらいな出来で、村上龍もそれを目的にしたようである。

ただ、全編中田ヒデへのオマージュでもあるので、どうも「ねぇねぇヒデー、ボクってサッカーをとってもよく理解しているでしょ?  褒めて褒めて〜」みたいな著者の気持ちが少し見えてしまって、読者としてはちょっと白けるところがある。
そう、これは中田ヒデに対するラブレターに近い小説だ。サスペンス的な部分を付けてはいるが、それもちょっと中途半端だし(結末はいまいち)、ほとんど「ボクって中田とこんなに親しいんだよね。サッカーのことこんなに理解しているんだよね」という自慢に読めるのが弱点。

とはいえ、ラスト100ページだけでも買いである。
部分的に梶原一騎を思わせるような誇張もあるのだが、カラダが震える描写の連続。サッカーへの理解は確かに深い。下手に中田など準主人公として登場させずに(名前は夜羽。やはねと読ませるのだが、ほとんどヨハネである。神なのだ)、秀逸なサッカー描写を活かしつつ、もうちょっと違うストーリーにしてほしかった。オマージュするにしても、もうちょっと別のカタチがある気がする。

2002年06月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV3「ソウルボート」

遊田玉彦著/平凡社/1600円

ソウルボート―魂の舟
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沖縄の風水を取材に行ったライターがそれをきっかけに宮古島のユタと関わり、祖先との因縁を追う魂の旅に出る……精神的シーク&ファインド小説であるが、著者の実体験を素材にしているのか、かなり濃く印象的な物語である。

フィクションなのかノンフィクションなのか判別がつかないままストーリーは進む(一人称ではないのでフィクションっぽいが、内容的にノンフィクションっぽい)。前半は妙に自意識過剰な感じがし、終盤はなんだか肩すかし感があったが、中盤は力ある展開に非常に惹きつけられた。
ただ、ノンフィクションならユタの存在や言葉にもっと突っ込んでほしいし、フィクションなら終盤で読者を置いてきぼりにしないで欲しいし、どちらとも取れないその構成が全体を中途半端にしてしまった感はある。どちらとも取れない構成だからこそ非現実的な話にもついていけるという部分は確かにあるが、読者的カタルシスがもう少し欲しいかも。
最後まで、出来事をすべて信じていいのか、それとも創作なのか、読者的スタンスを決められなかったのが残念なところ。スタンスが決められないから、魂を探す主人公の盛り上がりにいまひとつついて行きにくい。

とはいえ、個人的には非常に興味がある題材である。現実感のない毎日にふと立ち止まるには格好の内容だ。著者デビュー作らしいが、今後の作品も読んでみたい。ちなみに「ゆうでんたまひこ」と読むらしい。

2002年06月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV3「南の島のティオ」

池澤夏樹著/文春文庫/437円

南の島のティオ
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南の小さな島で暮らすティオという少年の物語。
小さな物語を集めた本で、気楽に手軽にゆったりした島時間に浸れる。欺瞞的忙しさに追われる都会の日常からほんの数分逃避するには格好の本であろう。

描写が非常に自然。読んでいてどこにもつっかえるところがないし、ひっかかるところもない。一番難しいそういう技をなにげなくやっている著者の力量を感じる。そして、著者が沖縄に住んでいるところから来る問題意識もそこここに感じた。失ってしまったらもう元には戻らないもの、時間・精神・自然・精霊……そういったものを豊かに物語の中に棲ませ、違う方向へ行こうとしている現代人にそれらを思い出させる要素を散りばめている。とても好感が持てるのはそれが声高な主張ではないこと。しっかり物語の底に沈ませている。
第41回小学館文学賞を受賞している。

2002年06月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本) , 児童・ティーンズ

LV3「もう消費すら快楽じゃない彼女へ」

田口ランディ著/幻冬舎文庫/571円

もう消費すら快楽じゃない彼女へ
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実は小説でない田口ランディを読むのは初めてなのだが(つか、小説も「コンセント」しか読んでない)、この本のようなエッセイだと、なんというか、読者に嫌われないためにずいぶん気を使って書いているなぁという印象を受ける。もっと高慢に書いた方がキャラ立ちするなぁとも思うし、意外と普通っぽくて好ましく思う部分もある。ただ、読者がついてこれるか心配で論の展開をくどくしてしまっているような部分がある。これはウェブで書いていたという出自がそうさせるのかもしれない。不特定多数に対しての文体。本にして売った時点で「田口ランディを買うタイプの人しか読まなくなる」ので、そこまで気遣わなくてもいいなぁとちょっと思った。

内容的には面白かった。特にノリコという友達には瞠目。彼女の「人をなぜ殺してはいけないか」に対する答えの中の「感情は思考より劣ると信じ込んでいるのはナ〜ゼ?」は名文句だ。他にはロックに対する考察、無内容に対する考察など、刺激になる部分が多々あった。

2002年06月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV2「東京育ちの京都案内」

麻生圭子著/文春文庫/590円

東京育ちの京都案内
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コンセプトはとてもいい。京都初心者として京都に住んだ著者の、初心者だからこそわかり、そして書ける京都入門なのだ。東京から見て不思議に思える数々の京都伝説。そういうものをひとつひとつ解読してくれ、読者を京都の日常に連れて行ってくれる。

ボク自身、関西に15年住んだので、京都を少しは知っている。が、改めてこうして解説してくれると頭の中の靄がどんどん晴れていくようでとても気持ちがいい。京都を全く知らない人にとっては尚更だろう。これから京都で遊ぼうという人など一読してから出かけるとより深く遊べるかもしれない。

ただ、全体にグルーブ感にちょいと欠けるのが惜しい。よそ者として書いているわりには、(現在京都に住んでいることもあってあまりにバカなことや悪口は書きにくいからか)遠慮しいしい書いちゃっている。だから文章に勢いが出ない気がする。いっそ割り切って書いてくれたらもっともっと面白くなったのに、と、ちょっと残念である。ま、京都人の仲間として生きていきたいという気持ちがある限り難しいことなのだろうが。

2002年06月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:

LV1「人はどうして疲れるのか」

渡辺俊男著/ちくま新書/660円

人はどうして疲れるのか
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こうも日常疲れることが多いとこの題名は見逃せない。疲れ切った夜の本屋で見つけて思わずレジに運んでしまった。

で、しこしこ読み始めたのだが、なんというかあまり目新しいことは出てこなかったなぁ。つうか、疲れる原因はいまひとつ解明されていないらしい。だからこそ疲れを友に、楽しく生きよう、疲労回復にはこんな方法があるから試してみよう、みたいな収束点なのだが、うーむ、そんなことが知りたくて買ったんだっけなぁ…。
医学的な疲れの分析や対策などTVのバラエティででも見た方がきっとわかるし面白い。そんなのではなくて、新書だけに、もっと新しい視点がそこにあるのかと期待してしまったよ。
このごろの新書たち。とりあえず出せる題材は全部ツバつけとこう、みたいな流れを感じてなんだかとてもイヤ。ちょっと前だと「知の新しい切り口」的な本も多かったのに。

2002年06月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:健康

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