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2002年04月

LV5「最上階の殺人」

アントニイ・バークリー著/大澤晶訳/新潮社/2000円

最上階の殺人
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1931年にイギリスで発表された作品だけど、日本では去年の8月初版。近年の海外古典発掘ブームで掘り出されたもの。
著者は名探偵ロジャー・シェリンガムのシリーズで当時かなり有名な推理作家だったらしい。これはそのシリーズの第7作目にあたる。アガサ・クリスティが1920年デビューだからほぼ同年代に活躍した作家ですね。

70年も前の作品とはいえ、それを知らずに読んだボクとしては古さをほとんど感じなかった。当然行われるべき科学捜査が行われないので不思議に思い、やっと古い作品であることに気づいた始末。つまり、トリックはともかく、文章や設定、キャラの立ち方、洒落た会話に至るまで、現代にも通じる魅力がこの作品には溢れているということだ。のんびりした世相は感じられるものの、違和感はあまりない。
また、名探偵といいながら実に普通の知能の持ち主である主人公がいろいろ悩みながら推理していくのが活写されてて面白い。読者は彼と一緒に悩み煮詰まりたどり着き、そして恥をかく。うん、オーソドクスだけど楽しめる。また、脇役も魅力溢れている。特に秘書として雇ったステラは抜群のキャラ。わりと普通っぽい推理小説であるこの物語を一気に魅力的にしている。

今月の1番目に薦めるほどか、と言われると少し迷うが、かなり楽しめたのは確か。著者の他の作品も翻訳されるのが待たれる。

2002年04月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV5「話の後始末」

立川志の輔・天野祐吉著/マドラ出版/1600円

話の後始末
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おもしろい構成の本だ。
志の輔(ためしてガッテンの人)が絶妙なマクラと共に落語をしゃべり、その後、天野祐吉と世の中についてあーだこーだ対談する、という構成の章が5つ。おふたりによるそういう構成の「講演」を本にしたものらしい。落語と対談はテーマが同じなので、無理なくそのふたつがつながっているのもなかなかいい。帯に「落語つき世相放談」とあるが、そのコピーが一番内容を言い得ているかも。

まず落語がおもしろい。オリジナルもあるが(よくできている)、基本は古典落語。有名なものばかりだが、あらためて志の輔の視点で読まされると非常に笑える。この人、落語うまいかも。また、そのあと天野祐吉が登場して、まずは落語の感想から入っていき、どんどん世相に話が広がっていくバランスが良い。ふたりとも話し上手かつ品がいいので、なんだか気持ちよく言葉の波に乗っていけるのである。そこには笑いだけでなく発見も多々ある。

2002年04月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:アート・舞台 , 対談

LV5「食物語」

野地秩嘉著/光文社/1300円

食物語―フードストーリー
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副題は「フードストーリー」。
著者の本はずいぶん前に「キャンティ物語」を読んだことがある。とても印象的だった。その著者がいろんなレストランや旅館、バーなどで生きてきた人間くさい人々を書いているノンフィクション。料理人がほとんどであるが、ブリュッセルの豆腐職人や熱海のレストラン兼業医師、沖縄のバーのオーナーなど、変わり種も多い。とても静かで落ち着いたタッチのノンフィクションで、その人の人生がじんわり伝わってくる。

料理人を取材して書いた本はゴマンとあるが、その中でも出色の出来だと思う。必要以上に崇めていないのが気持ちいい。いい距離感なのだ。職人の半生として等身大に描けている。だから泣ける。特殊の才能がある職人ではなく、ひとりの人間の人生として書いてあるからだ。題名が普通すぎるのが難な気もするが、この普通さは狙いかも。そういう本だ。

2002年04月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , 食・酒

LV5「国境」

黒川博行著/講談社/1900円

国境
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先月、東野圭吾のサイトの中で「黒川博行の『切断』、『封印』、『疫病神』、『国境』は傑作」と書かれていると書いた。で、先月は「疫病神」を読んだ。今月は「国境」である。「疫病神」の二宮と桑原が、今度は北朝鮮の国境を破る羽目になり、またコンビを組む。この強烈な個性のコンビが復活すると聞いただけで読みたくなる。著者はとてもいいキャラを発掘したなあ。

抱腹絶倒感やシズル感は前回の方が強いが、なにしろ主な舞台は北朝鮮である。未知かつ不可思議な国である。その異様さをちゃんと描写しながら物語は進むのだが、これがとてもリアルに描かれていて、空気感までしっかり伝わってくる。それだけでもこの本は買いだ。理解できないもの(北朝鮮)への根元的恐怖が行間からじっとり伝わってくるのである。そして読み終わる頃にはなんとなく北朝鮮を知った気になる。

前作同様、犯罪の背景が入り組んでいてとてもわかりにくい。説明も長いしシンプルではない。前後関係を理解するのにそれなりの集中力もいる。そしてそこに北朝鮮の現状描写が入るから非常にまどろっこしい。でも、それを上回る魅力が作品中に溢れているのも前作と一緒。キャラの立ち方をはじめ、ギャグ的センス、コンビの絶妙な絡みなど、かなり面白い。ヤクザものがお嫌いな人でも楽しめるはず。わりとオススメ。

2002年04月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV5「肩ごしの恋人」

唯川恵著/マガジンハウス/1400円

肩ごしの恋人
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2001年下半期の直木賞受賞作。
読み始めは「うーん、ありがちな現代女性元気もの? こりゃ退屈かも」と思ったが、進むに従ってその描写力、キャラの立ち方、わざとらしくなく類型的でない女性の本音の出し方(←男性として読んでいても自然な本音と思える)、そして人生の主導権を社会にも男にも渡さない感じ……すべてによく書けていることに気がつく。直木賞もだてではない。

あ、でも、最初は「わざとらしい」と思ったんだった。類型的とも思ったんだった。それなのに読み終わる頃には逆の印象を持っている。そう、読み始めは主人公に違和感を与えつつすごいスピード感で導入しておいて、読み進むに従ってじわじわと外堀から主人公たちに共感を覚えさせていく感じがうまい。第一印象が悪い人ほどいい友達になる、という言葉が当てはまるような本かも。

性格の違うふたりの女性の幸せ探し物語と言ってしまうとそれまでなのだが、全体に妙にリアリティがある。設定も展開もリアリティがないのに、これだけリアリティを感じさせるのはやっぱりキャラの立ち方かなぁ。肩ごしの恋人に男を選ぶ必要もない感じとか、結論としての結婚を選ばない感じとか、妙に自然でリアリティがあるのだ。それは著者の筆力のなせる技なのかも。普通っぽく見えて侮りがたい筆力だ。

2002年04月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「オバはん編集長でもわかる世界のオキテ」

福田和也著/新潮文庫/362円

オバはん編集長でもわかる世界のオキテ―福田和也緊急講義
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「新潮45」で「オバはんでも45分でわかるニッポン」という題名で連載していたときから愛読していたものが一冊にまとまった。

362円でこれだけ現代世界をシンプルに理解できる本も珍しい。
テロやアフガン攻撃や日本国憲法や不審船騒ぎや……とにかくオバはんが先入観と感情と狭い理解のみで質問していき、著者はそれに根気よく丁寧に答えていく。
もともと著者はやさしくわかりやすく解説することに長けてはいるが、「新潮45」の新編集長(オバはん)のものの知らなさは抜群なので、それに対してサルにもムカデにもわかるように根気強く説明していく様は、さながら北京原人に車の運転を教えるが如し。ちょっと感動的ですらある。いや、サルよりたち悪いかも。サルはオバはんみたいなコテコテの先入観に毒されてないもん。世の中の深い部分を見ようとしないタイプの代表としてオバはんは完璧な配役なのだ。

説明する側は実にたいへんだろうが、読む側は実におもしろい。バイプレーヤーとして出てくる編集者たちも(描き方がいいのだろうが)とても面白い。読み飛ばすだけでも世界がかなりわかる。オススメである。
※ちなみにオバはんみたいなタイプの人こそ本当の意味で頭がいいと思っていたりもする。

2002年04月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:時事・政治・国際 , 対談

LV5「新世紀へようこそ」

池澤夏樹著/光文社/1400円

新世紀へようこそ
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著者が9.11のテロ事件を受けて始めたメール・マガジンのコラムを収録したもの。
著者のサイトでもほぼ同じ内容が読めるが、やはり本の方が目的のコラムを探しやすく、寝ながら読めるのでボクには便利。読者の反応もきっちり載っていて、著者のそれに対する反省や反論も誠実に書かれていてわかりやすい。なにしろ毎日のように書かれているコラムなので、作家の思考構築過程も浮き彫りになっているのが面白い。推敲や論を寝かすということができない分、かなり日々の本音が出てきていると思う。そういう環境の中でこれだけ冷静で客観的な文章を出し続けられるあたりに、著者の真の力が見える。さすがだ。

2001年9月11日にボクたちは真の意味で新世紀を迎えた。この意識が題名になっている。
世界は変わった。変わり続けている。週刊誌や月刊誌ですら、もう発言が追いつかない。この想いが著者にメルマガを書かせたようだ。著者にそこまで焦燥感を持たせたもの。著者に表現手段として評論や小説ではなく「ひとりの人間としての発言」を選ばせたもの。それを考えるとき、ボク自身としても、生き方を試される気持ちになる。読みながら、ボクはのほほんと何をやっているのだろう、と何度も自分に拳を向けた。

2002年04月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:時事・政治・国際

LV5「若山弦蔵のバックグラウンドミュージック」

TBSラジオ編/コスモの本/1900円

若山弦蔵のバックグラウンドミュージック―365日にんげん歳時記
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パーソナリティ:若山弦蔵、スクリプト:かぜ耕士、選曲:大江田信。副題「365日にんげん歳時記」。

この本はTBSラジオの長寿番組「若山弦蔵のバックグラウンドミュージック」の放送で使われた「今日はこんな日」的歳時記ネタを、1日1ページとして365日分集めたもの。放送を知っている人はもちろん、放送を聴いたことない人も楽しめる雑学の集大成となっている。

たとえば4月1日のページを見てみると、「ザ・ピーナッツ」が生まれた日として、彼女らの履歴やカバー曲、映画「モスラ」における小美人役などについても詳しく触れられていて、その舞台がインファント島であるなどという細かいこともきっちり調べられて書かれている。細部に神が宿ることをしっかり知っているプロフェッショナルなスクリプトライターの存在が大きい。しかもこれは本文で、その下にある脚注にはもっと詳しい情報や、4/1に生まれた有名人書かれていたりする。選曲から参考文献まで、心配りが異常な本。超労作だ。

こう書くと辞典的に思われるかもだが、そうでは決してない。読んで面白い本になっている。一日ひとつ、ゆっくり楽しめる本なので1900円はお得に感じる。読んでいると人生のいろんな話題がキレイにつながって感じられてくる。単なる辞典ではない証拠であろう。実は出版に当たって出版社を紹介するという協力をしたので書評しにくいのだが、雑学やネタ本が好きな方にも、小さな読み物が好きな方にもオススメ。

2002年04月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:雑学・その他 , 音楽 , 映画・映像

LV3「私が彼を殺した」

東野圭吾著/講談社文庫/695円

私が彼を殺した
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物語の結末をわざと伏せて読者の推理にまかせる小説をリドルストーリーと呼ぶらしい。
この本はまさにそれ。なにしろ最後に「犯人はあなたです」と刑事(「嘘をもうひとつだけ」の加賀刑事登場)が言って、犯人の名前をあかさずに本は終わってしまうのだ。
なにー!?である。容疑者は3人。構成上、エピローグがない作りなので、容疑者以外の意外な人物が犯人ということはあり得ない。動機のある3人のうちの誰かが犯人なのだが、これがなかなか良くできていて難しいのである。全員「私が彼を殺した」と思っていたりする。うーむ。しかもそれぞれの容疑者の一人称で各章が書かれているという凝った構成。さすがに頭のいい作家である。キレイにできている。

さて、ボクの推理だが・・・でもここで書くとネタバレになるので書けないなぁ。
ポイントはみっつ。ケースは複数あった。ケースのすり替えがあった。すり替え可能なタイミングは数回あるが、すり替え可能な人はひとりしかいない。ってところでしょうか。ま、正解があかされていないので、たぶん、ということしか言えないのだけれども。

2002年04月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV3「目撃 アメリカ崩壊」

青木冨貴子著/文春新書/680円

目撃 アメリカ崩壊
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9.11をワールドトレードセンタービルからたった13ブロック北のアパートで体験した著者による、迫真のレポート。

ピート・ハミル氏の奥さんでもある彼女の記事は冷静かつクレバーでわりと信頼しているが、このレポートも冷静な良さを残しつつ、実体験した人でないと書けない迫力に満ちていて貴重だ。
特にビル崩壊の現場での記述は力がある。思わず阪神大震災を体験した記憶が蘇ってくる。そして現場にいたからこその様々な怒りも蘇る。冷静な自分と怒りに身を任せている自分・・・大災害現場にいた人のそんな複雑な心境が著者にも見え、共感は強かった。著者自身のアフガンに対するフェアな視点や、たったひとりアフガン空爆に反対したバーバラ・リー議員に対する賞賛などのジャーナリスト的視点に、本能的怒りと恐怖が混じってくる微妙なニュアンス。

ただ、スーザン・ソンタグやノーム・チョムスキーがテロ直後に出した声明のような、圧倒的に冷徹な視点が欲しかったと思うのは贅沢か。アメリカという強大国に住む日本人トップジャーナリストのひとりとしての独自のスタンスを求めるのは贅沢か。感情に左右されたりウェットになったりすることなく冷徹に現場を見る視点がもっと欲しいと思うのは贅沢か。迫真のレポートだけで終わらず、一歩も二歩も踏み込んで欲しかったという贅沢な思いをこの本には持っている。

2002年04月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , 時事・政治・国際

LV3「木立ちのなかに引っ越しました」

高木美保著/幻冬舎文庫/571円

木立ちのなかに引っ越しました
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病院の待ち時間1時間ほどでササッと読めた本ではあるが、わりと文章もよく、好感が持てた。
ご存じの通り、高木美保は女優である。昔NHKのドラマでチェリストをやった演技が印象に残っていたりして、好きな女優のひとりではある。そんな彼女が都会から那須に引っ越した動機、顛末、そして自然に触れたり農業したりする日々の生活の魅力が書かれている。

内容的にはありがちとも言えるが、品がよくハシャギのない文章は気持ちよく、読んでいてゆったりした気持ちになる。特に田舎に引っ越そうという人や、ファーミング(農業)を始めたいと思っている人にとってはいい参考になるのではないだろうか。都会生活者がはじめて田舎に住む戸惑いなどもよく書けている。

2002年04月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV1「サンタのおばさん」

東野圭吾著/杉田比呂美絵/文藝春秋/1333円

サンタのおばさん
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先月読んだ東野圭吾の「片想い」の中に出てくる逸話がそのまま本(童話)になっている。
性差別的な主題に沿った劇中劇だったので、サンタのおじさんならぬ「おばさん」なのである。テーマとしても題名としても面白いのでかなり期待したのだが、なんだか童話として昇華しきれてない印象。理屈が勝ってしまったようで惜しい感じ。悪く言えば説明的なのだ。説明もなく、エンターテイメントで引っ張ったあげくに、読み終わってから性別とは何かを深く考えさせてくれるような、そんな贅沢な希望を勝手に思っていたのだが…。
「片想い」の中で描かれていた劇団の劇の方がずっと面白そうであった。ちょっとがっかり。

2002年04月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:絵本 , 児童・ティーンズ

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