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2002年02月

LV5「舌づくし」

徳岡孝夫著/文藝春秋/1714円

舌づくし
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季刊誌「四季の味」での著者のコラムを集めたもの。
すべてのコラムが料理や味の思い出に収束しているから一見食べ物が主役の本のように思えるがさにあらず。テーマは確かに「味」ではあるが、ある時はメインディッシュになり、ある時は付け合わせになり、ある時は調味料になり、著者の半生というお皿を様々に彩る役目しか得ていない。であるから、味エッセイと括ってしまうと的を射ないことになる。というか、そう括ってしまいたくない魅力に溢れた名エッセイ集だ。

フルブライトで留学し、毎日新聞社を経てサンデー毎日の編集委員などを歴任した著者は、とにかく経験豊富。世の中の見方も一元的ではなく、たいへん「大人」である。そしてまたそれを静かで味わい深い文章に託せる筆力を持つ。菊池寛賞や日本推理作家協会賞、新潮学芸賞などを受賞しているのもうなずける文章力。一読魅了されてしまった。

ほとんど半生記に近い構成である。このエッセイを読むことで著者の半生は浮き彫りにされてくる。淡々とした名文で綴られたそれは季節と味と様々な人生が交錯して飽きさせない。決して派手ではないが、着飾らない素朴で滋味溢れる食事をしたあとに感じるような深い満足感。折に触れ読み返したい本になった。

2002年02月01日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒 , エッセイ , 自伝・評伝

LV5「転がる香港に苔は生えない」

星野博美著/情報センター出版局/1900円

転がる香港に苔は生えない
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2000年4月初版の本で、大宅賞もとっており、前から読みたかったのだが本屋で見つけてやっと読んだ。581ページの大部。中国返還の前と後、激動の香港の、現地人でも住むのをためらうような地域に2年間住み込んだ著者の貴重なノンフィクションである。

取材目的で入ったのではなく人生生活として香港に入ったことがノンフィクションに厚みを与えている。しかも著者は現地語(広東語)がある程度しゃべれる。危ない場所や汚いところもあまり物怖じせず入っていく。そして現地の人とかなり濃いふれあいを重ねている。そういう貴重な体験を、ちょっと内省的だが素直で精緻な文章で表現し、ボクたちに伝えてくれている。対象を客観的かつ肌感覚で捉えられ、それを静かな筆致と心地よいリズムで表現できる日本人の書き手があの時期の香港にいたことを、同国人として幸せに思う。

題名がいい。動的で勢いのある題名なので中身もそうかなと思って読み始めるが、中身はわりと静かで分析的。そのギャップに戸惑いながら読み進むと、だんだん著者が題名に込めた思いが見えてくる。そして「さざれ石の巌となりて苔のむすまで」変わらない安定を望む日本人との鮮やかな対比が(結果として)見えてくる。

これはあの時期の香港を語った都市的ノンフィクションというよりは、「苔むす」日本人である著者が「苔の生えない」香港人の中に混じることで自分を見つけていく(もしくは見失う)、模索と喪失の物語だ。だから美しく切ない。堪能した。著者の視点と同化して他にもいろんなものを見てみたい。他の作品も読んでみよう。

2002年02月01日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション ,

LV5「屍蘭 新宿鮫3」

大沢在昌著/光文社文庫/667円

屍蘭―新宿鮫〈3〉
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「しかばねらん」と読む。
なんとなく読み始めた新宿鮫シリーズもこれで3冊目。1冊目はうーん程度な印象だったが、2冊目の「毒猿」でのめり込んでしまった。で、3冊目。前回、前々回とはまるで違うシチュエーションと犯人像を提出してきていてサスガである。また、今回は主人公自体に殺人の疑いがかけられるというサスペンスつき。演出に苦労のあとが見える。

犯人自体のアクと魅力は「毒猿」の方が数倍上だし、アクションが少ない分今回は静かな印象もあるが、やっぱり面白い。新宿のど真ん中ではなく、ちょっと外れに場を設定してきたのも、リアリティを増す効果があった。完全無欠的主人公である鮫島も妙に実在感を増している。これで犯人にもう少しカタルシスみたいなものを感じさせてくれれば傑作であったかも。そこだけ弱い。あ、あと、犯人の殺人が簡単に成功してしまうのもちょっと違和感。

2002年02月01日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV3「ビッグ・ファット・キャットの世界一簡単な英語の本」

向山淳子・向山貴彦著/幻冬舎/1300円

ビッグ・ファット・キャットの世界一簡単な英語の本
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ベストセラーらしい。帯に「ついに英語がわかります!」とありがちなことが書いてあるのだが、全体が醸し出す雰囲気と題名になぜか惹かれ(あと薄さにも)、ふと手に取った。

その昔ボクは駿台予備校で伊藤和夫という先生に英文解釈を習い、目から鱗が何枚も落ちたことをよく覚えている。特に落ちたのは「文章の始めに出てくる名詞は主語である」という定理。当たり前かつ単純なことなのだが、伊藤先生がそれを解き明かすと魔法のように英文が読めるようになった。たった一時間の授業ですらすら読めるようになった。まわりには泣いている人もいた。それくらい感動的だったのだ。この本は(もちろんそこまで感動的ではなかったが)ちょっと伊藤先生の教え方を思い出した。英語を極限まで単純化しているという意味において。

著者は言う。「英語は世界で一番簡単な言語です。もっとも簡単な言語だったからこそ、こんなに広まったのです」。確かにそうだ。複雑怪奇な日本語を使いこなせる、という超高度な言語能力を持っている我々が、その世界一簡単な言語を使いこなせないわけがない。そういう自信と、単純化された英語の法則を得たい向きにはオススメ。きっと繰り返し読むべき本なのだろう。ボクみたいな英語落第者は特に。

2002年02月01日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:実用・ホビー

LV3「贅沢入門」

福田和也著/PHP研究所/1250円

贅沢入門
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著者がWebマガジン「JUSTICE」に連載していた「福田和也の『目』」というコラムをまとめたもの。
食・遊・知・旅といった分野での著者のいろんな贅沢趣味を少々の嫌味を顧みず書いたもので、ウェブ上のコラムということもあり、かなり気楽にプライベートに書いている印象を受けた。独善的にすら感じられるコラムもあるが、実用的な贅沢に役に立つことはもちろん、ある種精神的ハイソに毎日を送る術がしっかり書いてあって面白い。

しかし、かなり「贅沢」ではある。読んでいて鼻白む部分もずいぶんある。きっとくだらないことには徹底してお金を使わないのだろうが、ある意味お金の使い方として迫力を感じた。そしてそういう「贅沢」が自らを刺激し、自らのクオリティも高めてくれることを著者はしっかり自覚している。自らを高めるためにちゃんと贅沢しなさいよ、と読者に語りかけている本でもあるのだ。

2002年02月01日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒 , , エッセイ

LV2「世界は『使われなかった人生』であふれてる」

沢木耕太郎著/暮しの手帖社/1300円

世界は「使われなかった人生」であふれてる
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いい題名である。で、題名からはわかりにくいが、実は映画評コラムを集めた本である。
「暮しの手帖」という渋くも良質な雑誌に連載中のものから30編選んだものだ。著者も書いているが、これは映画評というよりは映画に触発された著者のエッセイという感じで、映画の筋は追ってくれるが、映画に密着して話しが進むわけでもない。それがボクにはちょうどいい距離感であった。

本編に入る前の短文がいい。映画を想うとき語るとき、我々は「ありえたかもしれない人生」というスタンスをとることがよくある。ありえたかもしれない人生をそこに見るのだ。でもこの本は「使われなかった人生」というスタンスをとることでもう一歩踏み込んでいる。「『ありえたかもしれない人生』には、もう手の届かない、だから夢を見るしかない遠さがあるが、『使われなかった人生』には、具体的な可能性があったと思われる近さがある」と。で、「使われなかった人生」がいかに我々の間に溢れているかを語っているのだ(ここらへんは本文を読まないとちょっと伝わりにくいかも)。

ただ、使われなかった人生、というスタンスが30編もの映画評にきっちり活きているかと言われるとそうでもない。そのスタンスを活かした狙いのエッセイ、というわけではないのだ。題名やはじめの短文がいいだけに、そこにちょっと不満が残るのは確か。

2002年02月01日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:映画・映像 , 評論

LV2「恋する料理人」

小山裕久著/講談社/2200円

恋する料理人
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徳島、そして東京の日本料理店「青柳」「婆娑羅」「basara」の総料理長として著名な著者の料理エッセイ。別に彼の恋物語が書いてあるわけではなく、料理に恋した料理人の現段階での総決算的エッセイという感じだ。

そう、総決算と取れるのは、かなり自信に満ちたエッセイだからだ。謙虚な料理エッセイが多い中、異例と言ってもいいくらい自信に満ちている。自分は料理技術的に頂上にいるんだということをそろそろ表明してもいいでしょ?的スタンスで書かれている。日本人的にウェットに読むとこれはかなり嫌味だが、ドライに読めば、だからこそ面白いということになる。両面あるなぁ。ただ、自信を前面に押し出した料理は、客のための料理ではなく自分のための料理であることが多い。文章もまたそういう面はあるだろう。客(読者)のために心を尽くされた感はあまりなかった。でも面白いことは面白い。だって頂上の人では確かにあるから。

いくつか共感した一節がある。例えば「一年中あらゆる野菜が溢れ、旬がなくなってさみしいということがよくいわれます。しかしそれは間違いだと思うのです」という一節。わりとボクも同じことを考えていた。四季を通じてさまざまな野菜に出会えるのは、昔を考えればバラダイスであるよね。

2002年02月01日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒

LV2「ラーメンを味わいつくす」

佐々木晶著/光文社新書/700円

ラーメンを味わいつくす
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「TVチャンピオン第7回ラーメン王選手権」で優勝した著者のラーメンエッセイ+お奨めラーメン店350店リスト。

ボク個人は、実は、あまりラーメンに固執していない。世のラーメンブームでいわゆる「天才ラーメン職人」が多々輩出しているのをかなりネガティブに見ているくらいで、なんというか、ヒトが言うほどラーメンに「舌の上の芸術」的深みを感じないのだ。経験不足もあるだろう。まだラーメンにビックリさせてもらったことがないのが大きい。早くラーメンでビックリして、世のラーメン好きといろいろ話をしてみたいとは思うのだが…。

ということもあって、ラーメン本というよりは、ある食に凝った著者のエッセイとして読んだ。
さぬきうどんや沖縄に凝った経験上、その方向性は共感たっぷりである。で、この手のラーメン本がほとんどラーメン道みたいなものに偏りすぎているのに比べて、この本はわりと客観的に凝った軌跡が書かれているので、ラーメンの味自体に共感持てないボクでも胸焼けせず非常に面白く読めたのである。
巻末の350店リストを見ると、行っている店もわりとある。うーむ…。これは!と思わされるラーメンを探してもうちょっと食べてみよう。淡々とした文章だがなんとなくラーメン欲が出るいいエッセイであった。

2002年02月01日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒 , エッセイ

LV2「他言は無用」

リチャード・ハル著/越前敏弥訳/創元推理文庫/600円

他言は無用
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いわゆる英国紳士の社交場ともなっている「クラブ」。そこで起こった連続殺人事件を扱った推理小説であるが、1935年に書かれた古い作品であることもあり、今読むとちょっとイライラするくらいなのんびりさが漂っている。英国特有のシニカルな笑いと演出を余裕を持って楽しめ、その古さを味として面白がれる人でないとつらいかもしれない。
ただ、そのころのクラブの実際や、個性的でいかにもいそうな登場人物、英国的ゆったり感はそれなりに楽しめるし、現代英国でももしかしたら絶滅せず生き残っている種族の生態をかいま見られるという部分ではなかなか興味深い。つまりは英国好きならそれなりよ、というところか(ボクも英国好きなので読んだ)。

著者は技巧派推理作家として知られていたらしい。当時としては確かに技巧を凝らしてあったかもしれない。現代推理ものに比べて品はあるしのんびりさ加減も尋常じゃないし解決法も紳士的なので、ホッとする部分はあるのだが。

2002年02月01日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV1「忘れてはいけないことがある」

鎌田慧著/ダイヤモンド社/1600円

忘れてはいけないことがある
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社会派ルポライターである著者のいい評判は聞こえてきていた。著者と同時代に生きる光栄を語っていた文を誰かが書いていた記憶もある。で、ボクは著者初読。ちょっと期待して読んだ。

著者を褒めるヒトも多いので、この本だけで判断しにくい部分はあるのだが、客観的にこの本だけ取り上げると、かなりイマイチであった。「週刊女性」に連載されたコラムを中心としていることも影響しているかもしれないが、表層的で、論の展開に深みがなく、いたずらに告発的だったり、意味もなく嘆いてみたり、短絡的な結論付けが多かったり、なんだかなぁなコラムが多かった。
週刊誌のコラムを再編成するなら、出来がいい週のものだけを加筆してしっかりした論に仕立て上げ、後は捨てる。その方がいいのだろう。そんなことを思った。

2002年02月01日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:時事・政治・国際

LV0「看護婦探偵ケイト」

C・グリーン著/浅羽莢子訳/扶桑社ミステリー/740円

看護婦探偵ケイト
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看護婦が探偵を開業したから「看護婦探偵」……なんつうかベタベタな設定の推理小説である。
うはは、と笑いつつ、こういうのはまずハズれるんだよなとも思いつつ、なんとなく惹かれて読み始めてしまったのはやっぱりナースへの男性永遠の憧れがあるから?

んでもって、ええ、ハズしました。
英国推理作家協会の処女長編賞最終候補作、であるらしいので、ちょっと変わった設定のデビュー作を楽しめる推理小説マニアにはいいかもしれないが、客観的に見ると駄作ではないでしょうか。病院の裏側に精通している看護婦であるというメリットを活かしているのはいいが、人物の描き込みは雑だし、サスペンス的にも弱い。主人公にカタルシスも感じない。脇役も(足フェチの変人という設定はなかなかだが)いまいち体温が伝わってこない。ボク個人としては読まなくてもいい小説だと思う。

2002年02月01日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

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