2001年10月
「グリッツ」

amazonなんとなく読まずにいて、なんとなく気になっていたエルモア・レナードだが、あるきっかけがあって三冊購入。そのうちの一冊。
まぁ代表作と言っていいのかな。原著は1985年だからかなり古い警察小説だが、これはなかなか面白かった。主人公や犯人の描き方がとっても良い。レナード・タッチ、と巷で言われるほど特徴的とは思わないのは2001年の読者だからかな。もうこれはこの15年でマネしつくされたタッチなのだろう。そういう意味では新鮮さはないが、充分楽しめる作品。
グリッツとは「安っぽくて金ぴかの」みたいな言葉。カジノの街アトランティック・シティのことだ。プエルト・リコからそこにわざわざ飛んでいく主人公の気持ちがいまいち掴めないまま物語が進むのがちょっと居心地悪いが、犯人が変に輝いているので気にならなかったりもする。この、犯人が変に輝く感じがなかなか良い。変質者の主観描写が素晴らしい。
2001年10月01日(月) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:ミステリー
「精霊流し」

amazonさだまさし初の小説。TV番組「関口宏の本パラ!」での仕掛けに乗って書いた書き下ろしである。
ほとんど自伝と言ってもいい作品で、短編8つからなっているが、どのエピソードも密接に関わり合っており、全体でひとつの作品になっている。8つのエピソードはすべて「死」を題材にしている。そういう意味では8つの精霊船と言えるかもしれない。この本自体が、彼の人生での精霊流しになっているのだ。
期待はしなかった。一部で「泣ける!」「初めて小説を書いたとは思えない」「感動にふるえた!」との評判があったし、中学高校時代にさだまさしをかなり聴いていることもあって興味はあった。ただ、さだまさしは自分の中で封印した過去なので「今」の彼の小説を読むことにちょっと抵抗があったし、照れくさい感じがあった。
結果から言うと、いい本だった。ラストは確かに泣けた。参ったなぁ。実際かなりうまいとは思う。推敲が足りないんだろう、とか、ちょっと自慢めいて鼻につく、とか、ちょいと格好よく書きすぎじゃない?な部分はいろいろある。説明しすぎたりキレイゴトにしすぎたり。でも全体に彼のいい時のいい歌を心を澄まして聴いているような、静かな時が流れる。思ったよりサビを歌い上げず、あっさり書いているのも成功している。表現者としてある意味熟成されているのだ。著者の様々な歌の主題も結果的に解題され、彼の歌をいろいろ知っている人には特に興味深い部分も多いだろう。
読後、さだまさしのCDを無性に聴きたくなる。これは歌の延長なのだ。8曲入ったアルバムなのだ。彼の中では、表現手段として、歌と小説の区別はあまりなかったのだろうと思われる。
2001年10月01日(月) 12:00:00・リンク用URL
「闘うプログラマー」

amazon副題に「ビル・ゲイツの野望を担った男達」とある。ウィンドウズNTの開発のものすごさ(死の行軍)を書いたノンフィクション。言うなれば、ウィンドウズNT版「プロジェクトX」である。
なんとなくソフト開発物語が読みたくて探して買った本だが、実は初版1994年である古い本。そのことに途中まで気がつかない辺りが、ボクのウィン系への疎さを感じさせますな ←マック派だしさ。
ま、確かにその開発行程はすさまじい。
でも「アラこの程度?」とも一方で思っちゃうくらいはボクも忙しい時期があったので、なんだろう、ある種死の行軍をしたもの同士の連帯感が出演者と読者であるボクの間に芽生えたり。はは。でも、死の行軍を終えた彼らが「疑問ももたずに長時間勤務を受けいれる純真さを失った」と書いてあるところがあるが、ここらへんは特に共感しちゃったのだった。
内容的には面白いし、マイクロソフト・オールスターズがいきいきと動き回ってくれるので、MS嫌いなボクであっても、なんとなくMSを見直したり。じぃっとプログラミングの様子を追っていたりするのでどうしてもノンフィクションとしては中だるみや退屈な部分も出てくる(だって動きがないしさ)。そこらへんが欠陥ではあるが、興味のある向きには面白い本だろう。でもラストをもう少し盛り上げてもいいと思ったな。原題は「SHOWSTOPPER!」。うぅ。個人的にドキッとする原題なんです、はい。心臓に悪いです。
2001年10月01日(月) 12:00:00・リンク用URL
「墜ちていく僕たち」

amazon森博嗣は、これから少しずつジワジワと全部読んでいくかもしれないな、と思っている作家のひとりだ。これは新作だが、いつもの感じと少し趣が違う。ま、橋本治風文体から始まるからそう感じるだけなのかもしれないけど、ちょっと実験的な匂いのする短編集である。
ラーメンを食べたらいきなり性転換してしまう、という荒唐無稽な短編5つなのだが、それぞれの主人公の立場と文体が変わるので、わりと快調に読む進む。描写も主観表現もうまい。遊びな部分も気がきいている。で、ラストの短編で、、、うーむ。このラストの仕掛けがもっともっと面白ければかなりいい本に仕上がるのだが、肩すかしが中途半端で、どうにも乗り切れないままに終わってしまうのが残念。もっと知性的頭脳的にドンッと落としてほしかったな。
しかし……このラストにしたいがために、4編引きずったのだろうか。ま、小説すばるへの連載なので、全体俯瞰のオチではなさそうだが、そうでないにしてもそう見えてしまうあたりが難。悪ふざけを楽しんでもいいけど、1575円払って受ける悪ふざけとしては、もう気持ち凝ってほしかった感じ。
2001年10月01日(月) 12:00:00・リンク用URL
「慶応三年生まれ 七人の旋毛曲り」

amazon約550ページの労作。
「大」労作になるはずだったのに、途中で著者自身飽きてしまい、尻切れトンボで終わっている。それでも労作ではあるのだが、置いて行かれた読者はどないすればいいねん、って感は残る。
慶応三年に7人の偉人が生まれている。
夏目漱石、正岡子規、尾崎紅葉、幸田露伴、斉藤緑雨、宮武外骨、南方熊楠。
彼らの人生をそれぞれ並列に追うことで、近代日本の歩みを解き明かしていこうという野心作で、目の付け所は素晴らしいのだが、どうにもこうにも構造上散漫になっていくし、膨大な原文資料を読み解いていくのが難解であるし、7人という多人数を並列に追う無理が途中からモロに出て来ちゃっているし、緑雨や熊楠はあまり登場しないし、盛り上がりなく時系列的に平坦に読んでいくのが(読者的に)だんだん苦痛になってくるし、で、まぁなんというか、労作なのだが、辛い本になっちゃっているのが残念。
個人的には尾崎紅葉の実際みたいなものが知れたのが収穫。面白いエピソードも多数あり、文学史的にはいい本かもしれない。
でもなー、破綻しちゃっているよなー。著者の筆力ははなはだ評価しているが、ここまでの本を書くのには、少しタイミングが早すぎたのかもしれない。もっと筆力がついてから書いてほしい題材であった。とても期待しただけに、残念。
2001年10月01日(月) 12:00:00・リンク用URL
「インターネット的」

amazon著者が人気HPの運営で得た「肌感」を文章化して、ネットの本質をやさしくひらたい言葉で語っている。
仕事でもプライベートでもインターネットの現場に身を置いているボクにとっては、旧知だったり分析済みだったりする事柄が多い内容だったが(偉そう?)、一般的にはいい本だとは思う。ちょっと尻切れトンボな感じがあるけど、これまたインターネット的でいいではないか。結果までたどり着いてない感じが。そしてそれを出版しちゃうお手軽な感じが。
ボクも6年以上HP運営をやってきているので、アタマで考えただけの人より、肌感で掴んでいることは多いと思う。そういう意味での共感は多かった。やっぱり現場の言葉は強いのだ。学者の分析言葉には飽き飽きしていたからその点はうれしかった。ボク的には「消費にどれだけクリエイティブになれるか」あたりの命題が面白かったな。他のことはわりと考えていたことに近かったが、この命題はあまり考えていなかったので。
著者は「とりあえず今はインターネット的な世界についての翻訳者という位置で楽しむもんね」と目論んでいるんだろうな。昔からその辺の「場所取り感覚」はお見事の一語に尽きる。結果としてインターネット的世界の内にいる人からも外にいる人からも嫌われず、独特の立場で楽しんでいられる。ヤルなぁ、である。
2001年10月01日(月) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:IT・ネット
「野獣の街」

amazon「グリッツ」はなかなか面白かったエルモア・レナードだが、こっちはボク的にはイマイチだった。でもこっちの方が代表作に取り上げられること、多いんだね。うーむ。犯人のキャラ造形とかはこっちの方が上かなぁ。でも「グリッツ」の犯人の変な輝きみたいなものがない気がするなぁ。
ちゅうか、全体に印象が薄い。この本。読み終わってたったの数週間だけど筋が思い出せないよ。いや狂牛病に冒されているのかと心配になるくらい思い出せない。困ったな。別に困らんか。
2001年10月01日(月) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:ミステリー
「動物の言い分 人間の言い分」

amazonこの手の自然科学系もしくは動物科学系の本は興味深くて好きなのだ。日常から遊離できるし想像も膨らむ。この本も導入部はなかなかに良かった。お、面白いなと思った。人間の論理から見たものではなく、動物独自の論理を追っていくように見えた。でも、なんとなく拡散していってしまうのが残念。途中から普通の「事典」風になっていってしまうのだ。
動物のコミュニケーションの仕方をわかりやすく書いてくれているのは興味深い。事実がいろいろ書いてあるのはいいのだ。でもそれだけなのが残念。事典を読みたいのではなくて、そこから導き出せる動物の言い分について、もうちょっと主観的なコメントを多く欲しかった。もう一歩こちらの想像力を刺激する部分がほしいのだ。新書ならでは、の。
学者さんがおもしろ優しくテーマを掘り下げた、にとどまっている気がする。それでいいじゃんと言われればその通り。でもボクはそこにもうひとつエンターテイメントの付加を求めたい。テーマを掘り下げるのは、もうネット内でタダで読めるような時代になってきた。売るからにはプラスワンがほしいのだ。
2001年10月01日(月) 12:00:00・リンク用URL




