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2001年01月

LV5「停電の夜に」

ジュンパ・ラヒリ著/小川高義訳/新潮クレストブックス/1900円

停電の夜に
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山本夏彦は向田邦子を評して「向田邦子は、突然現れてほとんど名人である」と言ったが、このジュンパ・ラヒリというNYC在住のベンガル人女性はまさにそんな感じである。この本がデビュー短編集なのだが、いきなり「ほとんど名人」なのである。一読びっくり。再読ほっこり。このデビュー作で2000年度ピュリツァー賞、O・ヘンリー賞、ニューヨーカー新人賞などを総なめしたのも理解できる。うーん、スゴイ…。

静かな語り口。無駄のないフォルム。全体に独特の距離感のある描き方で、それは主人公に対しても同じ。短編の最後の方で、ふっと主人公からの距離を遠くに見せる感じが絶妙(映像で言ったら最後にすっと程良く引く感じ)。うーん。物語の収め方がいいなぁ。好きなタイプのエンディング。
どの短編もとっても良かったが、特に印象に残っているのは「本物の門番」「病気の通訳」「ピルザダさんが食事に来たころ」。なんとなく彼らの世界観が読んでずいぶんたったいまでも心の中に巣くっているという意味で印象に残っている。でも全部いい。今年のベスト1かもしれない。オススメ。

2001年01月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV5「死と生きる ~獄中哲学対話」

池田晶子・陸田真志著/新潮社/1500円

死と生きる―獄中哲学対話
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ず~いぶん前から気になっていた本で、1999年の2月に出た既刊。「とてもいいよ」「ぜひ読んで」というメールをいっぱいいただいていたが、本屋で見つけることがなく、なんとなくいままでダラダラと気になっていた。そしたら20世紀最後の月に小さな本屋でばったり遭遇。喜び勇んで購入しその晩から腰をすえて読み始めた。

1行1行立ち止まって考えつつ読まなければ進めない本だ。だから結局2週間以上かかってしまった。今月読書数が少ないのはこの本のせい。でもそれだけの価値はある。
死刑囚と池田晶子の哲学往復書簡なのだが、これがまた生半可でない一騎打ち。ドキドキもの。常に「考えよ!」とボクのお尻を叩いてくれる池田晶子も相変わらずスゴイが、死刑囚陸田真志の言葉がまた平明でとても良い。彼の言葉でやっといままで池田晶子が言っていた意味がわかったこともしばしば。例示も巧みだし。

彼らの言葉をなぞりながら、自分の心と必死に対話する。考えるキッカケとしてこの本は優れている。明日事故で死ぬかもしれないボクもまた、時間は限られている。考えよ、考えよ。考えるほどに、いまの仕事や生活の矛盾点が出てきてしまいそこでヤバくなって考えるのを止めてしまうのだが、それでも考えよ。なぜヤバいと思うのか考えよ…と、無限に「考えの湿原」を歩いていきたくなる好著。続編は出ないのかなぁ。

2001年01月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:哲学・精神世界

LV5「竹中教授のみんなの経済学」

竹中平蔵著/幻冬舎/1300円

竹中教授のみんなの経済学
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佐藤雅彦と共著で「経済ってそういうことだったのか会議」をベストセラーにした著者による経済学解説書。

ひとこと、とってもわかりやすい。
経済学科だったくせに経済の「け」の字もわからないボクなのだが、経済学科だったということがどうやら後ろめたいらしく、わりと経済入門みたいな本は読む(読もうとする)。いろいろ読んだが、この本は最上クラスにわかりやすい。いいぞ。その上、いたずらに不安を煽っていないところが好ましい。いやそれどころか日本ってちゃんとすごいのだ、と自信さえつけさせてくれるところがある。こういうのを本当の意味で大局的というのだと思うな。

この本がいいところは、まだある。経済の解説書なのに、ちゃんと自分の言葉で語っている点。変に客観的になっていないのだ。あと要所で出てくる「つぶやき」の題材もいい。うん。数回読み直してみたい好著。

2001年01月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:経済・ビジネス , 時事・政治・国際

LV3「私の嫌いな10の言葉」

中島義道著/新潮社/1200円

私の嫌いな10の言葉
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池田晶子と中島義道の本は目につけば買うようにしている。この「戦う哲学者」である著者の本はこれで5冊目かな。「孤独について」「うるさい日本の私」などカラミ系の本が印象深い。

この本は彼の嫌いな言葉を10あげて、どこが間違っていてどう嫌いなのか、を詳細に論じた本。
その言葉とは「相手の気持ちを考えろよ!」「ひとりで生きてるんじゃないからな!」「おまえのためを思って言ってるんだぞ!」などなど、人が日常な~んの考えもなく発している偽善かつ欺瞞かつ傲慢な言葉の数々だ。

言葉の選び方と嫌いな理由には、ほぼすべてに深い共感。
ボクも「相手の気持ちになれ」みたいな言葉の欺瞞加減がイヤでイヤでたまらなかったので、深く頷くばかり。ただ、全体に文章が軽くてワイドショーみたいなのが難。言っていることはいいんだけど、話が横道に逸れた途端、いきなり駄文体になってしまうのはナゼ? なんだか言っている筋がよくわからなくなる。急に個人攻撃したり中野翠を激賞したり。簡潔に深く、例示も的確にそれらの言葉を語ってくれたら、ひょっとしたら名著になったかもしれないのに。言いたいことが頭の中に充満しちゃって結局なに言っているかわからなくなる人っているけど、この本、ちょっとそんな感じにもなってしまっているのだ。「うるさい日本の私」以降、本を出せば出すほどそんな感が深くなる著者。うーむ。次作はどうしよう。

2001年01月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:哲学・精神世界

LV1「希望の国のエクソダス」

村上龍著/文藝春秋/1571円

希望の国のエクソダス
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読みながら「あれ、オレって落合信彦読んでるんだっけ?」と表紙を見返してしまった。
ひと言で言うなら、現代日本の問題点を羅列して将来を予測し、それを物語に翻訳した本。問題意識が強い著者ならではの本ではあるが、全体にやけに自虐的だし、「オレっていろいろ考えてるでしょ、憂いているでしょ」という感じが鼻につくし、だいたい小説になっていない気がする。炭坑の中のカナリアのつもりかもだけど、著者ほどの「小説家」なら、ありそうな未来を想像しなぞるのではなく、その裏にある根本的な人間の姿を創造し、まったく違う世界観のもとに表現してほしいと思う。現代日本の問題点を物語に翻訳するのではなく、現代人そのものを物語に翻訳・昇華してほしいと願う。例えばオウムや阪神大震災を見事に昇華しきった村上春樹のように。

こういう本を「流行作家ムラカミリュウ」が出す意味はわかる。波紋を投げかけ、それはかなりの人に届いたことであろう。でも「小説家ムラカミリュウ」には出して欲しくなかったな。「共生虫」がいまいちだったので今度こそ、と期待したけどガックリ来てしまった。もうすでに小説家というよりは時事作家なのかもしれない。

物語自体は、2/3までは面白かった(戦慄もした)。
でもラストはあんまりだろう。無理矢理「希望」を作り出したかったのだろうが。
あと、中学生の描き方に「自虐的オジサン史観」が入っている気がする。戦後の進歩的文化人が欧米を卑屈に仰ぎ見た感じに似ている。ちょっと不快。村上龍ファンとして悲しい限り。JMMなどの活動は素晴らしいと思うし、問題点を考えさせるキッカケとして優れてはいるが、彼にはやっぱり小説家として戻ってきてほしい。ボクにはまだアナタの「小説」が必要なのだ。

2001年01月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV0「作家の値打ちの使い方」

福田和也著/飛鳥新社/1300円

『作家の値うち』の使い方
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前著「作家の値打ち」はいい本だった。
画期的だしきちんと文壇大手術用のメスが機能していた。だから、あの手の実験書としては画期的に売れたのだろう。この本はその二匹目のドジョウという感じかも。飛鳥新社は出さなくてもよい後日談的本を出版してしまった。それがこの本。出さなくても良かった気がする。

「作家の値打ち」についての評論や評判、座談を中心に、かろうじて「絶版・品切れ版作家の値打ち」を載せてはいるが、ほぼ内容がない内容。いかに前著が波紋を投げかけたか、などということは一冊の本にする必要もなく、あえて言うならネットにサイトを作ってその後日談を掲載しておいた方がまだ良かったわけで、1300円はいかにも高い。福田和也自体の「作家の値打ち」を下げる行為である。こんな本を買うなら著者が高得点つけた本を買えよ!と、著者自身心のそこでは思っているのではないかなぁ。残念。

2001年01月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:評論

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