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2000年10月

LV5「海から来た妖精」

香山滋著/中島河太郎編/牧神社/1800円

海から来た妖精古本屋で購入した一冊。1975年5月に発売されている。当時で1800円。カラー刷りでもない150頁の本としてはめちゃ高い。副題は「香山滋代表短編集 上」。下巻は古本屋に売ってなかった。探さなければ。

著者はゴジラを創造した人物として名高いファンタジー小説家。
いやファンタジーというより幻想文学といったほうがしっくりくるな。75年に亡くなった大人の童話作家なのである。一読、実に良い。いまと当時では時間の流れ方が違うので物語のスピードがたるい部分もあるが、その分ゆっくり幻想世界に沈んでいける。この「物語にゆっくり沈んでいく皮膚感覚」を物語が失って久しい気がする。フィクションは多いが「ものがたり」が少なくなったんだな、とこの本を読んで実感した。
どの短編も良い。個人的には「ネンゴ・ネンゴ」が気に入った。目の前に暗い海辺の暗い家が浮かび上がる。その家の饐えた匂いが鼻腔にむせかえる。闇。闇があったころの日本の素晴らしさがここにあるのである。なんだか澁澤龍彦を再読したくなったぞ。

※amazonでは登録すらありませんでした。

2000年10月01日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ファンタジー

LV4「緋の女 スカーレット・ウーマン」

J・D・クリスティリアン著/棚橋志行訳/扶桑社ミステリー/686円

緋の女 スカーレット・ウーマン
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著者は匿名作家らしい。世界的ベストセラーを書いた人の別名なのだそうだが、かたくなに匿名を守っているのだとか。トレヴェニアンもそうだったっけ? 「イマージュ」の作者もそうだったような。まぁ匿名でいままでの自分の領域と違う世界を書きたくなる気持ちはわかる。

印象としては良くできたミステリー。全米、そして日本でも(数年前だが)絶賛されたのはよくわかる。
19世紀後半のニューヨークを舞台に、時代考証がよくされているせいだろう、リアリティ溢れた冒険に同行できるのである。スカーレット・ウーマンというのはいわゆる売春婦のことだが、舞台を女性運動黎明期に持ってきた分、別の意味も持ってきている。著者の頭の良さの勝利だろう。

難を言えば、キャラの立ちがもうひとつなのだ。もうほんの少し、体臭みたいなものが匂ってきたらかなり作品に奥行きが出ただろう。あと、ストーリーもわりと複雑。印象がちょっと分散してしまうのが惜しい。凝りすぎなのかな、ひと言で言うと。あの世界観の中でもうちょっとシンプルな物語が語られたら・・・抜群だったかも。

2000年10月01日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV3「…の反対は?」

リチャード・ウィルバー著/長田弘訳/みすず書房/1600円

…の反対は?
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非常に信頼している詩人・長田弘がみすず書房で「長田弘が選んだ7冊」というシリーズを始めた。数ある海外の絵本の中から彼が厳選した7冊、ということらしい。今月はその第一回配本。「・・・の反対は?」と「白バラはどこに」の二冊。こりゃ買わねばなるまい。

まず一冊目。
この本は大人向けであろう。かなり高度な「反対語」の世界が繰り広げられており、頭の固くなった大人がじっくりと味わいつつ読むべき本である。冒頭からして「くたばっちまえの反対は?----スープ!」ってな具合。まぁちょっと海外の習慣とかに寄る部分もあって違和感ある反対語もあるのだが、この著者のくわだてに乗って寝転がっていろんなものの反対語を考えてみると様々な発見がありおもしろいのだ。ある意味「哲学的な」絵本。これを7冊のうちの1冊目に持ってくるあたりに長田弘の攻めの姿勢が見える。ちなみに5歳の娘に読み聞かせたらチンプンカンプンだった。

2000年10月01日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:絵本

LV3「ロスト・ジェネレーションの食卓」

スザンヌ・ロドリゲス=ハンター著/山本博監訳・山本やよい訳/早川書房/3500円

ロスト・ジェネレーションの食卓―偉大な作家・芸術家たちは何を食べたのか
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「ロスト・ジェネレーション」って良く使う言葉だけどどういう意味かわかっている人はわりと少ない。
調べたら、これは第一次大戦後の若者をさす言葉。正しい礼儀作法を身につけるべき18から25歳に軍隊暮らしをした男をさして、しつけが出来ていない世代という意味でフランスの誰かが言った「ジェネラシオン・ペルデュ」という言葉をヘミングウェイが英語に直訳した、ということらしい。だからそれを「失われた世代」と邦訳するのは二重に間違いを犯していることになる。失われた世代、って訳語は格好いいけどね。でも意味的にはまるで違うニュアンスになってしまった。

副題は「偉大な作家・芸術家たちは何を食べてきたか」。
ヘミングウェイ、フィッツジェラルド、ピカソ、ガートルードなどのロスト・ジェネレーションの有名アーチストたちのエピソードを紹介し、そのエピソードに出てくる料理をくわしいレシピとともに紹介した本である。
全部にレシピがついているのが良い。また訳注も充実していて素晴らしい。例えばシルヴィア・ビーチとジェイムズ・ジョイスが初めて出会った夜の料理のレシピをくわしく読む、それだけでまるでタイムマシンに乗ったようにその夜にボクたちは行けるのである。このリアリティはなんなんだろう。急に親近感がわき、その夜の会話の雰囲気まで眼前に浮かび上がってくるではないか。おもしろいなー。

料理に興味があり、文学にも興味がある方はぜひ読んでみると良い。日本では嵐山光三郎が「文人悪食」を書いているが、あれもくわしいレシピがあったらもっと良かったなぁ。難を言えばこの本、値段が異様に高い。意味もなく巻頭に観光ガイドみたいなカラー写真がついているからもあるだろう。再現した料理の写真ならわかるが、こんな写真は無駄。その分1000円は安くして欲しい。だって360ページほどの普通の本なのに3500円! 許せないでしょ?

2000年10月01日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒

LV2「駅弁学講座」

林順信・小林しのぶ著/集英社新書/695円

駅弁学講座
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日本独自の食文化「駅弁」についての考察本。
JTBの月刊誌「旅」で16年間駅弁行脚をした名コンビが書き下ろした駅弁雑学集でもある。駅弁にどんなものがあるかといった初心者系ではなく、駅弁こぼれ話的マニア話が多く読んでいて面白い。中途半端に妥協してないし。

ただ、その分、総花的な資料部分と講義的お話部分が混在してしまい、全体にごちゃごちゃしてしまったのが残念。
知りたい情報を後から探そうとしてもなかなかたどり着けなかったりする。構成をもうちょっとすっきりさせたらより良くなったと思う。イイタイコトが多い時になりがちなパターンなんだけど。

個人的には「幕の内弁当の条件」がわかってスッキリした。正しい幕の内弁当とは「ご飯は小さな俵型に握ってあること」「おかずに煮物がしっかりついていること」が必要条件らしい。うーむ。俵型が必要条件とは知らなかったー。

2000年10月01日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒 ,

LV1「白バラはどこに」

クリストフ・ガラーツ&ロベルト・イーノセンティ著/ロベルト・イーノセンティ絵/長田弘訳/みすず書房/1800円

白バラはどこに
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「長田弘が選んだ7冊」の2冊目。
これは戦争の物語。哲学的な「・・・の反対は?」と同時配本でナチスものを持ってくるあたりはバランス感覚がいいというか、教育的過ぎるというか・・・実はちょっとガッカリ。なんというか「良書」を読まされている時の居心地の悪さがどうしても漂うのだ。文体に甘さがないのが救いだが、結末もお涙頂戴系。大人が読むには少しセンチすぎるようである。

ただし、子供にとっての「戦争の入り口」としては実はいいのかもしれない。テレビゲームでの殺し合いが氾濫するなか、こういう物語が彼らの心に一滴でも潤いを与えられるなら、意味があるのかもしれない。それは認める。でも、長田弘という希有の詩人が世に問う7冊としては・・・わりとイマイチかも。正直言って。
ちなみに5歳の娘はこの本の「絵」が好きみたい。筋にはあまり乗ってこなかった。戦争という概念がよく理解できないのだ。子供が「戦争ということ」を理解できない世の中。いまの日本はその意味では実に幸せな集合体と言わざるを得ない。昔から考えたら「理想郷」に近い。平和ボケ? 結構なことじゃないか。

2000年10月01日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:絵本

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