2000年07月
「月曜日は最悪だとみんなは言うけれど」

amazon著者は熱心な「アメリカ文学ウォッチャー」である。その著者がいままで面白いと思ってアメリカの雑誌からスクラップしたいろいろなコラム、文章、短編、を親切丁寧に我々に提示してくれた一冊。
著者の「文学への視線」がこの本の雑多な文章を結びつけていて、そしてその視線はどの作家に対しても非常に「フェア」である。それが気持ちがいい(このフェアというスタンスは著者のあらゆる著作に通底するコンセプトだ)。例えば、こういう本は著者がその熱狂を語ってしまって読者を置き去りにすることになりがちだ。だが、読者に対してもフェアである村上春樹はそれを全くしない。これがなかなかに難しいのだ。それを著者はさりげなくやりおおせている。うーむ・・・。我々読者は、村上春樹という「アメリカ文学ソムリエ」を持っていることをシアワセに思うべきだろう。いやホント。
レイモンド・カーヴァーの話題で半分くらい取られているから彼の短編を読んだことない人にはつまらないかもしれない。が、読んだことある人なら「文学の成り立ち」を含めていろいろ考えさせられる。カーヴァー・ファンにもオススメの一冊。なお、はっきり言って題名は悪い。あまりに内容がわかりにくい。
2000年07月01日(土) 12:00:00・リンク用URL
「虫の目で人の世を見る」

amazon副題が「構造主義生物学外伝」。難しそうだし題名的にも哲学的だが、内容は全然そんなことはない。
以前「昆虫のパンセ」という著者の本を読んだことがあるが(いま再読中)、この本はその時の印象よりかなり軽妙。非常に程のよいエッセイ集になっている。いいなぁ、こういう感じのエッセイ。新しい視点・経験を与えてくれつつ、お気楽・適当に読み飛ばせる。そして読後には世の中が読む前よりほんの少しだけ豊かに見えてくる…。簡単そうに見えて、こういうエッセイは実は難しいのである。
で、さりげなく「イイタイコト」を混ぜ込んである。「客観は普遍ならず。主観の中にこそ普遍はある」…。なるほど。確かに虫やら猫やらに人間の客観(例えば科学・数学)は通じない。つまり客観が普遍だというのは人間の大いなる傲慢なのであるか。なるほどなるほど。
虫屋という言葉があるのは知っていたが、それにしてもすごい世界だなぁ。その昔(小学生低学年)、昆虫博士と友達から呼ばれていたボクであるが(ホント)、あの世界を年寄りになるまで引きずって歩いている人がいっぱいいるのだねぇ。はっきり言って素晴らしいと感嘆しつつ読み進んだのでありました。なお、終盤は河童の話になるが、これは洒落っぽくクソ真面目に書いてある。
2000年07月01日(土) 12:00:00・リンク用URL
「死者の書」

amazonミステリーなのかな。いや、ホラーか。うーんそれともファンタジー小説か。まぁどれでもいい。鬼才と言われる作家のデビュー作で、アメリカではベストセラーだったらしい。
面白い。発想といい展開といい不思議な文体といい行間の深さといい、非常に楽しめる。だけどだけど、結局最後は拍子抜けだったのである。むーん。前半から終盤まではホントにいいの。でもね、終盤からラストにかけてがどうにも居心地が悪いのだ。息切れしたのかなぁ。それとも終盤までの怒濤の展開を支えきれなくなったのか。処女作だけにいろいろ考えられるけど、まぁ広げすぎ、なのかな。収まりがつけにくい展開ではあるし。
作家は想像力だけで世界を構築できる、ある意味で「神」なのだけど、そういう意味ではこの本はまさに「想像力そのもの」。
ちょっと映画「マトリックス」的部分や、ゲーム「ウルティマ・オンライン」的な部分もあって、面白い。読後はわりと拍子抜けだけど、時間が経つに従って印象が深まるタイプの本である。
2000年07月01日(土) 12:00:00・リンク用URL
「放浪の天才数学者エルデシュ」

amazon先月読んだ「フェルマーの最終定理」が面白かったから今月も数学者ものを探した。そこにちょうど新刊。藤原正彦の数学に関するエッセイ(「心は孤独な数学者」とか)はほとんど読んだりしていたから、もともと好きなのかもね、数学者噺。
で、エルデシュ。ファインマンなみに変人として有名な人だけあって、エピソード満載。そのエピソードを追っているだけでめちゃくちゃ面白い。ここまで破天荒な人も珍しい。これだけの素材、上手に扱えばそのエピソードだけで人は読む。
が、「フェルマーの最終定理」は数学がわからない人でも楽しく読めるのに対して、この本は中盤かなり数学的に突っ込んだ記述もなされていて、それが辛い人には辛いかもしれない(辛い人=ボク)。
このぐらい突っ込まないとつまらないという人もいるかもしれないが、その論がエルデシュと遠いところでなされているのが問題だ。エルデシュ周りの定理とかなら読者ももっと我慢しただろう。最終定理を解いたアンドリュー・ワイルズに対する記述もかなり出てきて、個人的には先月とうまく繋がって面白かったけど、もう一息って感じの本。
2000年07月01日(土) 12:00:00・リンク用URL
「もっと食べたい 私の好きなすばやー物語2」

amazon「わたしの好きなすばやー物語」という名作がまずあって、これはその、久々の第二巻。沖縄そば(現地では「すば」という。つまりそば屋はすばやー)のガイドブックである。副題は「沖縄じゅうの美味しいそば屋さん大紹介と沖縄そばの真実にカラム!」。
沖縄中の店を多数紹介しつつ、それぞれの紹介文が単独なエッセイになっている。著者は複数。どっちかというとレポート集に近いかな。第一巻の手作り感はここでも健在で、それがとても心地よい。なんとなく全体に漂う「てーげー感」が気持ちよいのだ。それと、東京のマスコミにあるような「誉めるために誉める臭さ」がここにはないのもいいな。
それにしても沖縄そば屋の屋号(名前)はバラエティに富んでいるなぁ。面白すぎ。去年、この本をはじめとするいろんなガイドを見つつ沖縄そば屋を80軒ほど廻ったボクだが、また行きたくなってくる。むー、食べたい。
2000年07月01日(土) 12:00:00・リンク用URL
「シメール」

amazon直木賞候補にもなった前作「この闇と光」が非常に面白かったので、かなりの期待と共に読んだ新作。
前作同様、独特のゴシック・ロマン的作風で、一度中に入り込むとひんやりと薄暗く気持ちいいのだが、前作ほどのインパクトも発見もなく、ずいぶん拍子抜けしてしまった。出だし良し。中盤もなかなかいい。が、服部まゆみならここからもうひとつひねってくるだろう、とワクワクしつつ読む進めると、エンディングは「は?」の拍子抜け。ああいうラストにする意味はアタマではわかるものの、心は承知しないなぁ。例えば昭和初期にこの小説が発表されていたらあのラストでもいいのだけど、これだけ不可解なことが日常的に起きる平成の世にこれを読むと、やっぱりちょっと拍子抜けなのだ。
結果として、全体に冗長に感じられてしまったのも残念。ちゃんと削いで書いてあるのに、読み終わってみると薄く伸ばして書いてあるような印象が残る。うーむ。あと、重要な伏線であるテレヴィゲームとの関連も中途半端。きれいに納まると期待したのに。
2000年07月01日(土) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:小説(日本)
「ゴルゴン」

amazon副題は「幻獣夜話」。ファンタジーもの(一部モダンホラー)の短編集で、1983年の世界幻想文学大賞(短編部門)も取っている。著者はこの世界の一人者。
と、まぁ読む前はわりと期待したのだが、この本に限って言えば、少年少女用の域を出ていない印象。文章がわりと稚拙。同じ題材でももっともっと幻想的に出来ないだろうか。読者の想像力をもっともっと刺激することが出来ないだろうか。あー、小野不由美のレベルの高さをまざまざと見せつけられるなぁ。
1983年と言えばまだ8ビットのファミコンが出た頃、という感じか? その頃ならまだ許せるが、今現在ではもうこのレベルじゃ子供は楽しまないだろう。
幻想文学はRPGに勝てるのか。この本レベルだとボロ負け。小野不由美の十二国記シリーズまで行くと、漢字の美しさや想像力の喚起でなんとか文学の勝ち、かな。要は想像力の喚起なんだな、きっと。FF8なんて想像力が入り込めないリアルさがあって、結局つまらなかったもんな。
2000年07月01日(土) 12:00:00・リンク用URL
「シャーロック・ホームズのクロニクル」

amazonいわゆるホームズ・パスティーシュですね。贋作、というか、まぁコナン・ドイルになりきって、ホームズの推理短編を書き下ろしたもの。著者は「シャーロック・ホームズの秘密ファイル」に続く第二作目。ホームズ・パスティーュもののなかでは定評ある人。
個人的に転勤という大イベントがあって、とにかく雑事の中でも気楽に読める本としてこれを選んでみた。
ホームズはかなりマニアックに好きだった時期もあるから。で、読み始めはその徹底した贋作ぶりに違和感があって笑ってしまったが、読み進むに従ってその違和感が消え、お馴染みの19世紀末のロンドン・ベーカー街が浮かび上がってくる。うーん、さすがな力量。
だが、もっと読み進むと「こりゃダメかも」に変わっていく。推理の質がわりとお粗末なのだ。いや実はコナン・ドイル本家のホームズ短編も最後の方はお粗末な出来のものも多かった。そういう意味では質的にも後期の正調贋作になっているのだが、贋作でお粗末ぶりを見させられるとどうして白ける。それだけ。
2000年07月01日(土) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:ミステリー
「クラシック名盤ほめ殺し」

amazonほめ殺し、というか、まぁ言いたい放題に近い内容ではある。
名盤といわれるものを独自の評価で切ったものなのだが、天使と悪魔に役割を与え、その対談にしたことで毒が薄らぎ、しかもそこに知識を詰め込みすぎ、ギャグまで詰め込んでいたりするから、一読ではなにをどう誉めているのか貶しているのかよくわからないのが難。結果として「マニアックな人に対する内輪受け的言いたい放題」になってしまい、ボクみたいに中途半端な位置にいるものにとっては詰まらない内容になった。
もうちょっと整理されているとわからないなりに面白かったりするし、この著者の全体スタンスが見えてきたりして、読者は著者にしっかり付いていけるのだが、これではちょっとついて行きにくいなぁ。もっとたくさん知識があった上で読むと、行間のニュアンスや「わかるひとだけわかればいいや」的ほのめかしにも反応できて楽しいのだろうけど…。そういう意味では上級者向きか。
2000年07月01日(土) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:音楽




