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2000年06月

LV5「フェルマーの最終定理」

サイモン・シン著/青木薫訳/新潮社/2300円

フェルマーの最終定理―ピュタゴラスに始まり、ワイルズが証明するまで
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友人が面白いよと貸してくれた本。うん、面白かった。
フェルマー系の本は他にもいろいろ出ているが、この本がすごいのはかなりつっこんで数学を書いていること。ある意味フェルマーの最終定理を起点にした数学史になっている。で、その数学史が面白い。身近な命題を持ち出してなんというか「面白い数学の授業を聞いているような」気分になってくる。うーん、数学をちゃんと勉強しておけば良かったよー。こんなに面白い学問、他になさそうな気になってくるではないか。そこらへんがとてもうまい本なのである。ピタゴラスについて突っ込んだ章なんか面白かったな。

もともとはイギリスのテレビ番組のための取材が基本になっている。だから文章も要所要所が映像的で面白い。知的興奮と快感を適度に感じさせるバランス感覚もテレビ的である。そのへんもこの本の成功要因であろう。
日本人の我々にとっては「谷山-志村予想」に深く突っ込んだ章などなかなか愛国心をくすぐられてうれしい。インド系の著者はマイノリティ人種を全く差別しないのも素晴らしい。面白くためになり知的好奇心も満足させてくれる一冊である。おすすめ。

2000年06月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , 科学

LV5「作家の値うち」

福田和也著/飛鳥新社/1300円

作家の値うち
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これは上司が「ある意味、本のジバランだよ」と教えてくれた本。
ミステリー、エンターテイメント、純文学の各分野に渡って、日本の作家の主要作品574点を100点満点で超辛口に批評してある本なのである。実に厳しく、実に平明にその作品群を批評し採点していくその意思力は相当なもので、舌を巻く。「作家の価値は人の記憶に残る作品をどれだけ書けるかで決まる」という切り口は確かにちょっとジバラン的。共感するなぁ。

それにしても厳しい。
船戸与一や鈴木光司などボロクソである。大江健三郎の「同時代ゲーム」ですら26点(100点満点)。
誉めるだけの書評が(新聞・雑誌を中心に)はびこるなか、こういう書評の存在は至極意味がある。作家や編集者が緊張を強いられるだけでも大きな意味があるのである。作家は作家という地位に安住し、ゲームやテレビ難を言えば「審査基準が明解でない」ことが惜しい。26点はなぜ21点でも31点でもなく26点なのか、がわからない。気分で付けていると言われても仕方ないだろう。ちなみに要所で入るコラムもよい。

文壇(?)に勇気を持って石を投げ込んだことを大きく評価したい一冊。

2000年06月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:評論

LV5「耳そぎ饅頭」

町田康著/マガジンハウス/1500円

耳そぎ饅頭
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雑誌「鳩よ!」に連載されていたエッセイをまとめたもの。
エッセイより小説の方が面白いと思っていた町田康であるが、このエッセイ集はとても良かった。「偏屈」というキーワードのもと、著者の世間に対する目線、普通に暮らしてみようと試みる奮闘が実にリズム良く描けており、最後の方になるとこのリズム感から離れるのが惜しくてもっともっと読みたくなってしまう麻薬性すら感じさせる。ま、ちょっとだけくどいところとかもあるんだけど、このパンクのリズムに乗れる人ならまず楽しめると思う。

例えばお馴染みのゲームソフト「タワー」を描いた章など、この著者の筆力の底力を見た気がした。自分なら同じ題材でこう上手に書けるだろうか。もちろん書けるはずもないのだが、題材が身近なだけに彼我の差がより浮き彫りにされてしまう。うーむ。

2000年06月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV4「アメリカ文学のレッスン」

柴田元幸著/講談社現代新書/660円

アメリカ文学のレッスン
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柴田元幸が雑誌「本」で連載していた「アメリカ文学講義ノート」に加筆修正し、改題したもの。
ボク自身は、講義とかレッスンとかいう題名は内容を言い表していないと思う。確かに読むに従いアメリカ文学の全貌が文学史と違う側面から浮かび上がっては来るのだが、これは決してレッスンではない。「アメリカ文学を通してみた人の世」であり「アメリカ文学によって表される人生の諸相」を著者の視点で突っ込んで考えていったものである。

かなり面白いのだが、レッスンとエッセイの中間といった感じになってしまい、中途半端感があるのが残念。もっと生き生きとしたエッセイにしてほしかったなぁと思う。アメリカ文学についてある程度背景をわかっている層に対してのちょっと高度なおもしろエッセイみたいのが読みたかった。

読んでくると彼は意外とレイモンド・カーヴァーに刺激されているのがわかる。カーヴァーの代表的翻訳者は村上春樹だが、柴田元幸の訳も読み比べてみたいと思わせる。作家が訳すのとはまた違ったミニマリズムの特徴がそこに表出してきそうだからである。「アフリカの日々」に代表的訳がふたつあるように、カーヴァーにも欲しい。

2000年06月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:評論

LV4「パチリの人」

伊藤礼著/新潮社/1300円

パチリの人
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文壇囲碁界というものがあるらしい。なんだか恐ろしくも近づきたくない世界ではあるが、本書はその文壇名人戦で三連覇した著者による囲碁エッセイ。囲碁については門外漢なボクではあるが興味はある。そのうえ著者は数年前にわりと楽しんだエッセイ集「狸ビール」の作者。なんとなく楽しめそうなので、買った。

中盤までは退屈。著者の文章リズムに馴染めずに、諧謔的なところも笑えずダラダラと続く。
が、一度馴染んでしまうと意外なほど気持ちの良いエッセイになった(単に著者の調子が中盤からやっと出てきたという説もある)。一度気持ちが良くなってくるとなかなか味がある文章だと気がつく。最後の方はかなり楽しんだ。題名も装丁もいい。飄々とした書き口も気に入った。次作も楽しみである。

2000年06月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV3「中国料理の迷宮」

勝見洋一著/講談社現代新書/700円

中国料理の迷宮
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薄らぼんやりしている中国料理の全体像とその複雑怪奇さなど、普通に中華を食べている分には伺いしれない部分が浮き彫りにされてくる本である。
雑然としていた中華料理という引き出しにきっちり仕切りが入り整理が出来た感じである。あー、なるほどそうなのか、ふーん、なるほどこういう歴史があるのか・・・そう、この本は中華料理を題材に中国の歴史を紐解こうという新しい試みでもあるのだが、そう欲張ってしまったのがちょっと欠点にもなってしまっている。

中国体験豊富な著者のそこここに入ってくる体験談は面白い。ただそれと資料的書き連ねとのバランスが悪いのがこの本を読みにくくしている。歴史や資料の部分をもっと読みやすくしてくれればずいぶん印象が変わったと思う。

2000年06月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒 ,

LV3「小さな農園主の日記」

玉村豊男著/講談社現代新書/660円

小さな農園主の日記
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ウェブで日記を読むのに似て、やはりダラダラと日記を読むのは快感なのである。
ただ、著者はここで「日記作家宣言」をしているがが、日記文学というものは(いまや)同時性がかなり重要になっている。書いた1年後に出版される日記はやはり鮮度が薄れ、どんなに文学的昇華がなされていようとも腐りかけていることは確かなのである(紫式部日記的な古典的価値・歴史的価値があるものは別)。リアルタイムの日記をリアルタイムで読む。その同時性がウェブ時代では求められるであろう。著者が日記作家を目指すのであれば、まずウェブで始めて欲しい。そして同時性という有史以来初めての文学的イノチを上手に昇華してほしい。

まぁそんなようなことをアタマでは思うのだが、賞味期限を越えていても人の日記は面白い。この本もそれなりに面白い。同時性があったらもっとだな、と贅沢を思うだけなのである。

2000年06月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV1「完本 文語文」

山本夏彦著/文藝春秋/1524円

完本 文語文
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夏彦節は気持ちいいが、くどい。彼の読者なら「またこの話題かよ」というネタが山ほどここには出てくる。それを楽しむ度量を持っているつもりではあるが、ネタを広げることによって論点がずれていくのはどうにも心地が悪いものだ。

文語文という格好の主題をもって書かれたこの本をボクはかなりの期待を持って読んだ。実際、文語文の美しさやリズムをこれによって見直された。音読を前提とする文語文の美しさが失われたことは、日本の精神構造自体にもかなりの影響を与えたであろう。その辺りを(ネタをへらへら広げずに)著者はもっともっと突っ込んで書いて欲しい。ちゃんと労作にしてほしい。これでは単なる「老人の感想文」である。

ま、あとがきに「例によって調べて書くことは学者諸君にまかせて」とあるように実感的感想文であることは著者も承知の上だし、文語についていろんなところに書いたエッセイを寄せ集めたものだから求心力を失うのも仕方がない。が、文語についていま読者を共感させつつきっちり書ける数少ない書き手なのだから、(寄せ集めではない)きっちり腰を据えた読み物にしてもらいたかった。いろいろ勉強になる部分は多かったが、ちょっと中途半端に感じた一冊。

2000年06月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:評論

LV1「共生虫」

村上龍著/講談社/1500円

共生虫
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「インザミソスープ」を書いている時に酒鬼薔薇事件が起き、今度はこの本を出したと思ったらバスジャック事件が起きた。

そういう意味で著者は現代少年の心の空虚さを見事に読みとり、作家の想像力をもって一歩先を書いている。
が、この本が「インザミソスープ」と違うのは、先を読みとって書くことに懸命でそれだけで終わってしまっている点である。少年たちの心をなぞるだけで終わっている。そしてなぞったことを著者はかなり誇りに思っている。オレほど読めているヤツはいない、と。確かに今の少年たちの心を読みとるのは並みではない。でもそんな鼻高さが行間から読みとれてしまうのは、ちょっと。

インターネットを題材にしつつ、ネットの世界そのものを文学で表そうとした試みは評価できる。共生虫というモチーフ自体がウェブそのものであり、そのあたりの描き方は見事。でも引きこもりの少年をそこにからめてしまうのはちょっと陳腐かもしれない。村上龍は楽な道を歩こうとしているのか。この辺を題材に量産しはじめると、時事作家っぽくなってしまわないかと心配だ。100年後の世界で村上春樹は小説家だろうが、村上龍は時事作家と位置づけられてしまいやしないか。村上春樹の新作のように時事ネタを扱うにしてもそれを消化しきった上で昇華してほしい気がする。

2000年06月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

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