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2000年01月

LV5「さゆり」

アーサー・ゴールデン著/小川高義訳/文藝春秋/上下各1524円

さゆり〈上〉
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スピルバーグがこの本の映画化権を取ったとか、全米で200万部売れたとか、とにかく話題の本ではある。

アメリカ人が芸者のことを書いた本なのだが(原題は「Memories of a Geisha」、「将軍」にあったような“ねじ曲がった日本観”みたいなものはここにはなく、日本人でもここまで精密・正確には書けないのではないか、と思わせるくらい描写は見事。これは訳者の力もあるとは思うが、とにかく祇園の芸者たちの日常が行間から匂い立ってくるのだ。

上巻は特に大傑作。芸者の回想録なのに手に汗握るとは思わなかった。下巻はそれに比べると数段落ちてしまう。エピソードの積み重ね方も雑で、主人公へのカタルシスすら消えていってしまうのが残念。またラストにかけての展開もおざなりで、上巻が面白かった分、読後はなんだかがっかりしてしまった。でも、それでもまぁ最高点だろうなぁ。

まるで日本人が書いているように、日本人にとっては常識なことを著者はまるで説明しない。あれで全米200万の読者は正確に理解したのだろうか。そこらへんが心配。あと、あの独特の祇園言葉を英語ではどう書いたのだろう。ちょっと原書を読んでみたい気分。

2000年01月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV5「炎の仏師 松本明慶」

かぜ耕士・檜山秀樹著/ネスコ・文藝春秋/1700円

炎の仏師 松本明慶
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運慶・快慶を越えると噂される天才仏師の存在をご存知だろうか。
京都の仏師松本明慶。
彼のドキュメンタリー番組を撮ったテレビスタッフが書き下ろしたその半生と語録、である。頭で考えた温室の言葉ではなく、まさに彼本人の経験に基づいた野性の言葉。直接的に胸に響いてくるこの言葉たちが非常に興味深く面白い。

檜山秀樹が取材し、かぜ耕士が構成執筆した本。そう、昔の深夜放送ファンには懐かしい名前ですよね、かぜ耕士。いまはドキュメンタリー番組の構成作家をしているだけあって、本の構成も見事だし、文章もナレーションを読んでいるようにすぐ頭に入ってくる。この本に残念な点があるとすれば写真が少ないこと。明慶師の彫った仏像の写真がもっとふんだんに使われているとずっと楽しかったと思う。なお、かぜさんについてはこちらにくわしい情報を載せています。

2000年01月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:自伝・評伝

LV5「谷岡ヤスジ傑作選 天才の証明」

谷岡ヤスジ著/実業之日本社/1500円

天才の証明―谷岡ヤスジ傑作選
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1999年6月14日に喉頭ガンで亡くなった漫画家谷岡ヤスジの追悼傑作選である。

500ページ超の大部ながらその内容の詰まり方は尋常でなく(例によって漫画そのものはムダだらけなのだが)、その価格も含めて、出版社に感謝したい企画だ。
読み返してみて、そのリズム感、その論理の飛躍、その空気、その言葉使いの斬新さ、その線のシンプルさ、などなど、あぁ赤塚不二夫よりもうひとまわり天才な人なんだなぁと再確認。特に言葉使いはすごいなぁ。あの言葉頭の略しかたなどクラクラしてしまう。一気に読むとちょっとつらい部分もあるが、昆布をしがむように毎日少しずつ味わうには最適な本だ。

2000年01月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:漫画

LV4「不肖・宮嶋 踊る大取材線」

宮嶋茂樹著/新潮社/1500円

不肖・宮嶋 踊る大取材線
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週刊文春の愛読者なら誰でも知っている不肖宮嶋カメラマン。
彼のフリーカメラマンとしての修羅場の数々がここに書かれていて非常に面白い。関西弁そのままに書いた文章はちょっとアクが強すぎて長く読んでいると飽きも来るが、内容がいいから許せる。フライデーや文春でスクープした時の裏話が特に興味深い。あぁあの何気なく見飛ばしているグラビアページの裏にはこういう攻防があってこういう苦労があるのかぁ、と初めて知ったボクである。知らない世界のことを知るのは面白いなぁ。そういう読書的快感が味わえる一冊だ。

ただ、やっぱり文体がちょっと下品めかも。文春のルポで読む彼の文章にはわりと格調(日本人が失った戦前文体的な)を感じたものだが、書き下ろしとしての文章はイキオイを重視したのか、格調は感じられない。だからといってその分面白くなっているかと言われるとそれもハテナ。それだけが残念、かな。

2000年01月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:時事・政治・国際 , ノンフィクション

LV3「どこまで続くヌカルミぞ」

俵孝太郎著/文春新書/690円

どこまで続くヌカルミぞ―老老介護奮戦記
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副題は「老老介護奮戦記」。

キャスターである著者の老老介護の毎日がこれぞ赤裸々とばかりに書かれているのだ。儒教以来の親孝行精神を受け継ぐ人が読んだら卒倒するような、親に対しての厳しい言葉の数々。ただ、子供からの一方的な視点から書かれているとはいえ、ドラ息子ならぬ「ドラ親」を持つ苦労は読むに従ってどんどん身につまされていく。また兄弟との確執もすごい。なんというか、まぁでもよくここまで書いたなぁ。

人間は年をとるに従って人格が完成されていくのではなくて、単に若いときの性格が煮詰まるだけなのだな、と妙に納得させられる。これから日本人がいままで経験したことがない介護社会が出現するが、ここに書かれているような問題が各家庭個別毎に違ったカタチを持って起こってくるのだ。おっそろしいことだ。これでは備えるのは無理である。在宅介護制度自体をやはり見直す時がそのうち来よう。

それはともかく、一人っ子で良かったと実感をもって感じてしまった。兄弟の存在が問題を余計にやっかいにしていく様は目を覆うばかり。

2000年01月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:教育・環境・福祉 , ノンフィクション

LV3「最前線」

村上龍著/ラインブックス/1600円

最前線
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村上龍の対談集。各界最前線を走っていて、かつ、その状況をノンフィクションとして発表している人たちを迎えていろんな問題に迫っている。河上亮一、諏訪哲二から、宇田川悟、宮崎学まで、何人かハズシた人はいるが、でもそれぞれ非常に面白く読んだ。時代は「超情報化社会」である。だのに、その最前線の現場の状況は驚くほど我々に伝わっていないのがこれを読むとよくわかる。特に教育現場。そしてヨーロッパの状況。

うーん。確かに村上龍の言うように日本は近代化を終えたのだと思う。そして彼のいう意味での「個人」がこれからの主役になっていくだろう。著者は文筆という表現形態を持っている最前線の人々(ノンフィクション・ライター)とこの本を作ることでネットワークを持ち、近代化の終焉などをしっかりアナウンスしていこうという野望があるのではないか、とちょっと思った。

2000年01月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:対談 , 時事・政治・国際

LV3「クラシック千夜一曲」

宮城谷昌光著/集英社新書/680円

クラシック千夜一曲―音楽という真実
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先月に続いてクラシック紹介のいい本に出会った。
著者はご存知のように中国古代史系の作家。音楽は専門外である。しかし、だからこそ素直でしがらみのない音楽評が読めるのである。全部で10曲しか紹介していないが、著者はそれぞれに複数(時には10枚強も)のCDを聴き比べ、それぞれについて「自分の言葉」で論評してくれている。自分の実体験を交えつつ、一門外漢として「外への言葉」として論じてくれているのだ。

専門家たちによる専門用語の羅列されたライナーノーツやCD選集とはひと味もふた味も違ったクラシック推薦盤エッセイ。自分の言葉・視点で物事を表現することがいかに大切か、再確認させられた気がする。

2000年01月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:音楽

LV2「落花流水」

山本文緒著/集英社/1400円

落花流水
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「恋愛中毒」が面白かったから、次作もさっそく手に取った。一部でまたしても激賞されているらしいが、うーん、これはいまひとつ面白くなかったな。

1967年から10年ごとに7章、つまり2027年まである女性の生涯を追った物語で、章ごとに人称が変わり視点も変わる構成は非常に新鮮で面白い。
ただ、大長編ならいざ知らず、250ページ程度の本でそれをすると主人公の人格につながりが見えてこなくなり、なんだか不可解な思いのまま最終ページに行き着くことになる。それがつらい。例えばスポイルされた少女という設定で始まる第一章の記述で少女をそれなりに理解しようとした読者は2章以下の彼女の行動・性格に違和感を感じる。その間の飛び方は実生活では当然なのだが、中編小説ではなんというか読書感情に破綻を来すような気がするのだ。あ、それと、2027年とかの描写は「実際はもうちょっと違った世界になっていると思うな」みたいなSF的視点が読者に芽生えてしまうのもつらいな。

著者は相変わらず文章がうまいが、最後までカタルシスが感じられなかったし全体に散漫な印象を持った一冊。着眼点はとてもいいと思うのだけど。惜しい感じ。

2000年01月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV2「もし僕らのことばがウィスキーであったなら」

村上春樹著/平凡社/1400円

もし僕らのことばがウィスキーであったなら
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なぜか秋くらいからシングルモルトに凝りだしている。そしたらこんな本が本屋に並ぶようになった。やっぱり流行っているのかな。それともボクが流行の先端を…(やめなさい)。

サントリークォータリーに97年に掲出したアイラ&アイルランド訪問記を一冊にまとめたもの。
奥さんである村上陽子の写真を多用してページ数を稼いでいるが、本文は値段を非常に高く感じる短さ。
文章は清潔で真摯でシングルモルトが行間から香り立つようだが、正直な読後感は「ものたりない」である。長く書けばいいというものではないが、やっぱりストレートグラス3杯くらいで終わっちゃう量だと詰まらないのだ。せめて一晩、ゆっくり飲みながら楽しみたいではないか。こういう本であればこそ。

2000年01月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒 ,

LV1「もてない男」

小谷野敦著/ちくま新書/660円

もてない男―恋愛論を超えて
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ああ、この本って評判いいんですよね。「本の雑誌」では99年ベスト10の3位に入っていたりする。
でもなぁ。だからなーに?って感じがぬぐえない。確かに新たな恋愛論ではあると思うし、ある切り口を読者に提供&再認識させてくれている。ただ、論文とエッセイの間的な中途半端さや、いろんな本からの引用で論を進めているあたりの持って行き方がちょっとどうかと思う。こういう論は自分の言葉でこそ読者の目を開かせて欲しいのだ。赤裸々な書き方、イコール、本質をついている新しい視点、ではないと思う。

途中の赤裸々な性表現なども(別に上品ぶったりイイコぶったりするわけでは全然ないのだが)露悪的でそんなに感心しない。ああいう直接表現をあんまり使わずに展開してくれたらまた違ったのに、と思う。論文ならそれでもいい。でも著者本人はエッセイと位置づけている。うーん。ちょっと中途半端な気がした。なんでこんなに世の中に受けているんだろう。

2000年01月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

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