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1999年12月

LV5「投球論」

川口和久著/講談社現代新書/640円

投球論
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会社の先輩が「とてもいいよ」と貸してくれた本。

元広島東洋カープの川口投手がピッチャーについて対戦術について過去の勝負について、そして野球について、真摯に語ったもの。
ピッチャーはアタマがいい人が多いと聞くが、これだけの文章を書ける人はそうはいないであろう。一晩で読める小編だが、実に内容が深く文章も達意。パーンとかパチンとかガチャンとかの擬音も大変適切。言葉ではなかなか通じない投球のコツみたいなことをそういう擬音や達意の文章を通じてしっかり伝えてくれるのだ。しかも偉ぶらない。説教しない。人生を語らない。うーん。川口、キミはすごい。

この頃野球をさっぱり見なくなったボクであるが、ピッチャーはこういうことを考えて投げていて、キャッチャーはああいうことを考えてサインを出していて、バッターはそういうことを意識して打ちにくる、というのがわかってくると俄然興味が湧いてくる。選手が100人いたら100通りの「論」があってそれがせめぎ合っているのだろうなぁ。川口が解説している番組なら見たいぞ。きっと性格的に要所でひと言ぼそっと話すだけなんだろうけど。

1999年12月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:スポーツ

LV5「誰か『戦前』を知らないか」

山本夏彦著/文春新書/690円

誰か「戦前」を知らないか―夏彦迷惑問答
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副題が「夏彦迷惑問答」。

雑誌「室内」の連載をまとめたもの。
20代女性の聞き手と著者が会話するというカタチで進行するが、聞き手がなかなか上手で著者の味を見事に引き出している。この会話形態は著者の成功パターンのひとつであろう。一人称ぼやきエッセイより格段にリズムが出るし、なにより読者が置いてきぼりをくわずにすむ。注意して避けてもくどい説教になってしまう時がある題材なだけに、特に若い読者(この著者の場合50歳以下すべてか)にとっていいと思う。時になかなか笑えるし(著者が意識しているほどではないのだが)。

内容的には「戦前真っ暗史観」を実に明快に切り崩していて気分がよい。
戦前戦中共に飢えてはいなかった。これも明快。その他、忘れ去られつつあるいろんな物事を釣瓶落としに語ってみせる術は驚異的なものだ。資料としてもある意味一級。この著者がなくなるともう昭和ですら「時代劇」になってしまうのだろうな、とちょっと薄ら寒くなる。

1999年12月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 時事・政治・国際 , 評論

LV5「江戸前ずしの悦楽」

早川光著/晶文社出版/2400円

江戸前ずしの悦楽―「次郎よこはま店」の十二カ月
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副題が「次郎よこはま店の十二ヶ月」。
つまり銀座の名店「すきやばし次郎」から分かれた店を、著者が3年以上毎月一度通い続けて食べ続け、寿司の本質に迫っている本なのだ。面白い。

以前「すきやばし次郎 旬を握る」(里見真三著/文藝春秋)という本を読んだが、ああいう「取材本」よりもやっぱり個人の視点・味覚・感想が入った本の方が面白いよね。そういう好例ではないだろうか。特に味覚表現がとてもいい。素直で実感がこもっている。寿司が食べたくなる。あー、また個人的寿司ブームがきそうだよー。

水谷八郎という職人の素晴らしさもこの本の魅力。ただところどころに彼がタバコを吸うらしき記述が出てきているのが気になるな、個人的には。タバコを吸う人が握る寿司はなんとなく生理的に受け付けないから。

著者の本は「ミネラル・ウォーターで生まれ変わる」「東京名物」に続き三冊目だが、どの本も実に誠実。ただ、きちんと「自分」を出してきているのはこの本が初めてかもしれない。これからの動静が楽しみなひとり。ちなみに著者の本業は映画監督。

1999年12月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒

LV4「ハサミ男」

殊能将之著/講談社ノベルス/980円

ハサミ男
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帯に「最近、推理小説らしい推理小説がないとボヤいている人へ。--法月綸太郎」とある。
確かに二重三重に読者を騙す罠が仕掛けられていてタネがわかってくるに従い呆然とすること確実。え!?そんなはずは、と前半を思わず読み直してしまう。映像がない「本」という特性自体が罠なのだ。いや、題名自体も・・・まぁやめておこう。とにかく見事と言わざるを得ない。まさに知能犯の仕業である。

ただ、コクというかヒダヒダというかそういったものを求める向きには不満が残るだろう。感心はするが感動はしない内容だ。「よく出来ているね」という感想しか残らないタイプの推理小説。特に犯人(ハサミ男以外の)の書き込みが足りない。まぁ無い物ねだり、かな。ちなみに第13回メフィスト賞を受賞したらしい。

1999年12月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV4「ゴールド・ラッシュ」

柳美里著/新潮社/1700円

ゴールドラッシュ
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14歳の少年の殺人、という酒鬼薔薇事件を彷彿とさせるような題材を、真摯に誠実に驚異的な集中力で書き上げた長編。

ある時期の村上龍のような行間の濃さを感じる。壮絶なる想像力のたまものだ。そう、別の意味でも、壮絶。主人公のキレ具合にすらカタルシスを感じるような筆力でラストまで緊張感を途切らすことなく引っ張っていっている様が壮絶なのだ。著者が髪を振り乱しながら書いている様が目に浮かぶような感じ。わかる? 
そういう意味では生理的に受け付けない人もいるかもしれない。ボクは受け付けたのだが、でも14歳の主人公への著者の寄り添い方が濃厚すぎて、逆に読者を冷めさせるところがあるのが残念かもしれない。14歳の心情を理解しよう、書ききろう、と涙ぐましく努力した痕跡が見えてしまう感じがちょっと…。「14歳」をアンファン・テリブル的に描くようなミスは犯していないが、やっぱりある種のイノセントさを押しつけている気はする。

筆力には敬意を表したい。行間から壮絶さが抜けたらまたひとレベル上の文学になると思う。はい、生意気です。すいません。

1999年12月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV4「のり平のパーッといきましょう」

三木のり平著/聞き書き・小田豊二/小学館/2100円

のり平のパーッといきましょう
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今年の1月25日に亡くなった喜劇役者三木のり平の「聞き書き一代記」。のり平の言葉がしゃべり言葉でそのまま書かれているのがユニークかつ素晴らしい。そのしゃべり言葉のリズムを読むだけでも儲けモノの一冊だ。

三木のり平に特に思い入れのない人々(ボクを含めて)が読んでもピンと来なかったり面白くなかったりする部分は確かに多いが、その豊富なエピソードから浮かび上がる昭和という時代がとにかく面白いのだ。書かれているギャグとかはイマイチずれちゃっているんだけど、そんなこと読んでいる間はまるで気にならない。

後半の手紙の引用や途中で出てくる芸事に対する一家言、喜劇やネタに対する考え方など、彼でなければ語れない言葉も多く、なるほどこういう人を失ったのだな、と改めて残念な気持ちになる。ひと言で言えば非常に「粋」な本だ。

1999年12月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:自伝・評伝 , アート・舞台 , 映画・映像

LV4「クラシックCDの名盤」

宇野功芳・中野雄・福島章恭著/文春新書/880円

クラシックCDの名盤
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久しぶりに読んで楽しい名盤案内が出た。
いや、読んで「楽しいように作ってある」名盤案内は他にもあるか。エッセイ風にしたりお笑い風にしたりマンガを入れたり…。でもそういうのが楽しかった試しがない。そういう意味の楽しさではなくて、この本のいいところはそれぞれ個性と一家言ある書き手が一曲についてそれぞれベストのCDを挙げ、対抗しあっているところ。対話形式ではなくそれぞれ独立したコラムなのだが、たぶん書く順番を決めているのであろう、最初に書いた人の選択を批判したり後に書く人の選択を牽制したりされておりなんだか楽しくなるのだ。

例えばメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲など、中野氏が一番最初に書いたのを受けて宇野氏が「なんじゃアレを紹介しないのならワシがする」とばかりに書くものを変更しつつ「福島氏はチョン・キョンファか」と牽制する。福島氏は「はずれてすいません」とクーレンを推薦する、といった具合。

もちろんバッティングしないものを紹介する場合も多いが、それぞれに曲への捉え方、選択の基準、自宅で使用しているオーディオ機器によって演奏の好き嫌いが変わってくるところなどいろいろ見えて、それなりに知っている人には非常に楽しい名盤案内だろう。そんなに詳しくないボクでもかなり楽しめるし、いろいろ聴いてみたくなる。あー、しばらくはクラシックにもはまりそうだ。

1999年12月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:音楽

LV3「東京 消えた街角」

加藤嶺夫著/河出書房新社/2500円

東京 消えた街角
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写真集である。東京23区の昔の街角写真をいっぱい掲載している。ざっと見て昭和40年代の写真が多いだろうか。ちゃんと何丁目何番まで撮った場所が載っているので、イマの風景と比較することは可能だ。そういう意味で、東京に住んでいる人には立ち読みするだけでも面白い資料であろうし、昔の東京を知っている人には懐かしくて時間を忘れる写真集である。

ボクは昭和36年に東京の大森で生まれ、その後24年間東京に暮らした(一時保土ヶ谷)。
昭和40年代後半の東京ならその匂いや空気を昨日のことのように覚えている。だから大変楽しんだ。著者は専門のカメラマンではなく単に趣味として撮り続けていたようだが、そのうまいような下手なようななんとも微妙な構図が逆に記憶の不確かさと重なってとても不思議な効果を及ぼしている。こういう回顧趣味的写真集はいっぱいあるが、その中でもなんとなく好ましい一冊。

1999年12月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:写真集・イラスト集

LV1「料理研究家たち」

宮葉子著/NHK出版/1400円

「料理研究家」たち
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題材よし。藤野真紀子、有元葉子、上野万梨子、北村光世、枝元なほみというそれなりに名前のある料理研究家をインタビューして、その生き方をルポしたものだ。近頃人気の職業だけに時事性には申し分ない。また、ルポとしては浮ついてなく静かな筆致でしっかり書かれており、ある種の好感は持てる。

が、問題は、なんか読んでいてときめかないことだ。静かすぎる。暗い、と言ってもいい。5人の料理研究家たちはそれなりにはずんだ人生を送っているのだが、どうもそれが伝わってこないのが致命的だ。表現的にも、ちょっと純文学調も入ったりして、どうも自己陶酔的ニュアンスを感じてしまう。題材はいいんだけどなぁ。

1999年12月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒 , ノンフィクション

LV1「すしの歴史を訪ねる」

日比野光敏著/岩波新書/740円

すしの歴史を訪ねる
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うーん。この本を面白いとか面白くないとか言うのは筋違いなのかもしれない。だって基本的に「資料」なのだから。

でも、資料とはいえ、新書版で広く売っているからには少しはエンターテイメントもいるだろう。
よく調べてはあるから興味がある人にはかなり面白いのかもしれないが、ボクだって寿司にはかなり興味がある方なのだ。そのボクが読んでいて退屈した。その辺が新書としてどうなのか、などと議論を始めても仕方がないが、もうちょっとなんとかなったのではないか、と思う。生意気かもしれないけど。

1999年12月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒

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