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1999年11月

LV5「夢奇譚」

アルトゥル・シュニッツラー著/池田香代子訳/文春文庫/381円

夢奇譚
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キューブリックの遺作映画「アイズ・ワイド・シャット」の原作。
いまから74年も前にウィーンで書かれた物語。フロイトが「わが精神のドッペルゲンガー」と呼んだ著者シュニッツラーの著書は森鴎外がいくつか翻訳しているようだ。

薄っぺらい本だから一日で読める。ただ内容的には薄っぺらくない。かなり心に残った。
主人公(夫。映画ならトム・クルーズ)の意識の流れを克明に追って行くのだが、自分が最良のものとして選んでいる人生(日常、仕事、そして妻)が、自らの内面の真実とズレてしまっていることに気がつき懊悩するに至る心理描写が見事。そしてそれは決して一致するものではない、と持っていくニヒリズムもなかなか共感できるものである。夢とリアルなものの間に境界線は果たしてあるのか。そしてどちらが本当の「心の真実」なのか。深い夜、ベッドに横になりながら自分の心の奥底をしっかり見据えさせる力をこの薄い本は持っている。

映画はまだ観ていないのだが、この「意識の流れ」的原作をどう映画化しているのか、先に映画を観てしまった人には味わえない楽しみが残されているのがうれしい。

1999年11月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV5「ショッピングの女王」

中村うさぎ著/文藝春秋/1238円

ショッピングの女王
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週刊文春で連載しているものの単行本化。

連載もいつも楽しみに読んでいるが、こうしてまとめて読んでみるとあらためて著者の知能犯的「自分あざ笑い文体」の心地よさに気がつく。この本からある種の「癒し」を受ける読者も多いだろうな。ここまで見事に自分をあざ笑っている人はそうはいないからね。しかも頭の中で精神的に自分をあざ笑っているだけでなく、実際に金もべらぼうにかかっている。自分の暮らし自体をあざ笑っているのだ。いや、ここまで来ると時代をもあざ笑っているな。身と生活をもって時代をあざわらっているこの態度。これを賞賛せずにいられましょうか。

そしてその表現技術。とりあえず「平成自分あざ笑い文体」は確立させたと思う。そう、自分をあざ笑うその手法だけでなく、話し言葉と書き言葉のめちゃ具合のいい合体の仕方や突っ込みの入れ方、男っぽい語尾など、どれをとっても感心してしまう。特に開き直った後半が見事。「平成自分あざ笑い文体」と「超高価な買い物&借金生活」と「連載慣れしてきたイキオイ」が三つ巴になって読者に迫ってくる。うん、やっぱり三ツ星、でしょう。

1999年11月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV4「恋愛中毒」

山本文緒著/角川書店/1800円

恋愛中毒
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著者の本を読むのは3作目。「あなたには帰る家がある」で大好きになり「みんないってしまう」で失望。もう一冊読んでみようこれがダメだったらサヨナラかも、って読んだこの本はとても面白かった。うん、次も読むぞ。

先月小池真理子の「恋」を読んだが、恋愛感情についての描写は「恋愛中毒」の方がずっと上手い。非常によく書き込んでありリアル。
特にP28からP29に至る表現なんて好きだなぁ。それと中盤までの主人公に対する読者のカタルシスが、結末にさしかかるにつれてなんとなくほどけていく感じも(確信犯的に表現していると信じるが)見事だ。ミステリーだと思わずに読み始めたら実はミステリーだった、というのも軽い驚きだった。

ただ、題名が内容と合致しないのが難。よく出来た題名なだけにちょっと騙された感が残る。この内容だと「中毒」というよりは「依存」なんだな。「恋愛依存」じゃ題名にならないけど。なんというか、中毒的にいくつもの恋愛が描かれていると思ったら、結果的に2つの恋愛しか書かれていないのがなんだかはぐらかされた感じがして損なのだ。

1999年11月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本) , ミステリー

LV4「わたしのグランパ」

筒井康隆著/文藝春秋/952円

わたしのグランパ
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著者にとっては「時をかける少女」以来のジュブナイル(少年少女小説)。「時をかける少女」は大好きだったからかなり期待して読んだ。

読んですぐ思ったのは「筒井康隆は夏目漱石の『坊ちゃん』を歳とらせてみたかったのかな。そして彼に平成の街を歩かせてみたかったのかな」ということ。
古き良き昭和(明治?)の殻をお尻に残しているような任侠ジジイを平成の孫娘と触れあわせてみることで、著者は、姿勢が良かった頃の日本と姿勢が悪くなり始めている日本を接触させてみたのだと思う。一本筋が通っている生き方。そういう生き方をこの時代に提示したかったのかもしれない。

夏目の「坊ちゃん」がわりと素っ気なく終わるように、この本も素っ気なく終わりを迎える。なんだかこのジジイともっとずっと一緒にいたかった感じの物足りなさ。中学生の描写もありがちかつ性善説的で気恥ずかしい部分が多い。そういう意味ではどうかなぁと思ったが、ジジイの存在はとても印象的で素晴らしい。人物造形の勝利だろう。

1999年11月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV3「顔に降りかかる雨」

桐野夏生著/講談社文庫/619円

顔に降りかかる雨
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著者が1993年に発表した推理小説。第39回江戸川乱歩賞を受賞している。

「OUT」で新境地を開く前に創出した主人公、村野ミオが活躍するシリーズの第一作で、その硬質な文体や人物の造形の仕方など現在の著者の原点を見る思いがする。でも「OUT」や「柔らかな頬」と比べては可哀想なのだが、やっぱりちょっと劣るなぁ。筋的にも文章的にも。特にストーリーの持って行き方。プロット自体は悪くないと思うのだけど、なんで読後にこう満足感がないのだろう。

なんというか、ストーリーを破綻がないように精緻に作り上げて、それをハードボイルドな文体で装うのに腐心した、という感じ。感心はするけど感動はしない。主人公の心の襞がもうひとつ描き切れていないからかもしれない。いま同じストーリーで書き直したら全然違うものを書くだろうな、桐野夏生。

1999年11月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV3「ベッドの軋み」

阿木燿子著/マガジンハウス/1400円

ベッドの軋み
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ひと言で言うと、作詞家阿木燿子が書いた短編ポルノ小説集、かな。
全体を読み終わるとどれも「日常の異化としてのセックス」を描いていることがわかるんだけど、一編一編はわりとポルノ。女性の視点かつ作詞家的言葉の選び方がわりと心地よいとは思うけど。

著者のあとがきを読むと「棘のあるシーツ」という前作があるらしい。「この二冊に共通するテーマは、エロスである。男と女のエロティックな関係、もしくは女性が性的な成熟を極めるまでの過程を描きたいと思い、書き溜めたものばかりだ」と書いてある。なるほど、過程としての異化、なのね。人生と一緒なんだねぇ、なんて変な感心をしたりして。

1999年11月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV3「コンパクトカメラ撮影事典」

丹野清志著/ナツメ社/1300円

コンパクトカメラ撮影事典
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カメラという趣味を始めようと思ったわけではないのだが、ちょっとした「人生メモ」的にミノルタの「TC-1」という、レンズが良くて非常に小さなコンパクトカメラを持ち歩くようになった。モノクロ・フィルムを入れて28・の広角で日常を写す。そこには芸術を撮ってやろうとかいうような気概はまるでなく、ただ毎日を楽しむ手段・道具の一つ、という意識しかないのだけれど、なんとなく日常風景への視点が自分の中で変換していることに気がついたりする。わりと面白い。

この「TC-1」、露出制御は絞り優先AEなので「カメラ無知」のボクは何冊か本を買って研究したのだが、その中ではこの本が一番面白かった。いや、撮影のABCを教えてくれるという意味では他にもいい本はあった。この本がいいのは、撮影事典などというタイトルのくせにほとんど「エッセイ」なのだ。著者による「コンパクトカメラな日常」のエッセイ。そしてコンパクトカメラとは何か、ということをこの本ほど看破している本はなかった。スペック的な意味ではなく、精神的・人生的な意味でね。そういう意味でひたすら共感した事典であった。以上。

1999年11月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:映画・映像 , 実用・ホビー

LV2「服部幸應流うまい料理の方程式」

服部幸應著/KAWADE夢新書/667円

服部幸応流うまい料理の方程式―達人だけが知っている“味覚の黄金律”を初めて明かす!
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野崎洋光著の名作「美味しい方程式」の題名に似すぎていてちょっとイヤだったけど、内容的にはわりと興味深い項目もあった。

「塩梅の方程式」「旬の食材の方程式」「調理・味付けの方程式」「絶対味覚の方程式」「うまい店の方程式」の各項目別に、著者の秘中の秘を公開しているカタチになっているのだが、良くできている項目とそうでない項目の差が激しいとはいえ、面白い項目もちゃんと存在する。ある程度料理や食べ歩きの経験があった方が面白いが、それなりにわかりやすくまとめてあるので興味がある向きにはいいだろう。

ただ、ショルダーコピーの「達人だけが知っている味覚の黄金律を初めて明かす!」や、帯の「あなたの食の常識がガラリと変わる!」はずいぶんオーバー。ちょっと誇大。

1999年11月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒

LV1「機長の一万日」

田口美貴夫著/講談社/1600円

機長の一万日―コックピットの恐さと快感!
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副題は「コックピットの恐さと快感!」。「機長という仕事」についてのノンフィクション・エッセイである。

著者はJALの現役ベテラン機長。数々の経験を踏まえてやわらかいタッチで機長の仕事を綴ってくれている。飛行機での旅が多い人にとっては「なるほどあのサインはこういう理由でこうなのか」「ああいう揺れはこういう事態なのか」みたいな、機内でのナゾがちょこちょこ解ける一冊だ。ただ、マニアックと初心者向けの中間って感じでちょっと中途半端なのが難。それと、エッセイとしての面白さに欠ける。続編「機長の700万マイル」の方がエピソードがユニークでまだ面白い。

何の気なしに二冊買って読んだが、どうやら山崎豊子の著書発売以来この手の航空機業界本はちょっとブーム化しているようだ。なんだかブームに乗ってしまったようで悔しい。全然違うのに。

1999年11月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , エッセイ

LV1「機長の700万マイル」

田口美貴夫著/講談社/1600円

機長の700万マイル―翼は語る
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「機長の一万日」の続編である。

普通この手のノンフィクション・エッセイは処女作の方が面白いと相場は決まっている。が、この二冊に関しては続編の方がずっと面白い。珍しいパターン。書き慣れもあるだろうが、前作で書いた内容を簡単にレジメして、それ以外のエピソードなどに内容を絞ったのがより面白くなった要因だろう。
前作はある意味「機長という仕事とはどういうことか」という説明から始めないといけなかった分、理屈っぽくなっている。初歩的説明でかなりのページ数を取られている感じ。続編のこっちの方がいい意味ワイドショー的で、飛行機や航空機業界、機長の生活などにミーハーな興味しか持っていない読者(つまりボク)には手っ取り早い感じだ。

まぁどちらにしても単行本で買うほどではないかも。文庫になるのを待ってから買った方が賢いかも。

1999年11月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , エッセイ

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