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1999年02月

LV5「ふるほん文庫やさんの奇跡」

谷口雅男著/ダイアモンド社/1600円

ふるほん文庫やさんの奇跡
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なにしろ「奇跡」なのであるからして、かなりの奇跡を期待するのであるが、本書は裏切らない。まぁ本来の意味の奇跡というよりは「奇」なる「足跡」という感じではあるが。

とにかく面白い。一気に読める。内容はくどくどしているし文章も勢いのみであるが、この著者の場合、その人生・生き方が面白すぎてその他の要素がなにも気にならなくなるのである。

「文庫本のみの古本屋」をまさに波瀾万丈なる半生の後に開き孤軍奮闘する様を著者本人が書きまくっているのだが、約7年間1日240円の食費で過ごしたり、結婚を一回の電話だけで決めたり、愛知から福岡への本屋移転を結婚と同時に即決したり、もうめちゃくちゃ。しまいには給料ももらわず、この本の印税も計画中の文庫本のみの図書館「としょかん文庫やさん」にすべて寄付するという無私無欲。

「全身全霊を尽くす」とはどういうことなのか…。子供の頃読んだ偉人伝の登場人物でなく、同じ時代に生きている人の身近な例として、ボクは初めて知ったような気がする。

1999年02月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:自伝・評伝

LV5「ここがホームシック・レストラン」

アン・タイラー著/中野恵津子訳/文春文庫/752円

ここがホームシック・レストラン
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このところどしどし文庫化が進むアン・タイラー。これは1982にアメリカで出版された長編の文庫化にして新刊だ。

前半はなんだかとろいな、と感じたが、中盤からは一気に読ませて呆然と空を仰がせる。さすがアン・タイラー、としかいいようがない。心の襞を、まるで標本にするように丁寧に採集していくその手法は、こうして家族をいろんな角度から書かせると特に際だち、なんだか違う人生を生ききったような充実した読後感をもたらす。
この長編に限って言えば、エズラの心の襞にだけ、読んでいて入り込みにくかったのが残念だが、生きている限りついてまわる「家族という小宇宙」をこれほどまでに彫りだして見せた小説は少ない。

読む人によっては甘ったるいソープドラマと取るかもしれないが、ボクはアン・タイラーを支持します。ゆっくり惜しみながら全作読もっと。

1999年02月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV5「屈辱ポンチ」

町田康著/文藝春秋/1143円

屈辱ポンチ
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エッセイがいまいちで「あれ?」と思っていたが、こうして小説を書くと文句ナシの筆力を見せる町田康。2編入っているが、特に「けものがれ、俺らの猿と」がいい。

町田康の小説は終わり方が好きである。ド頭から盛り上がり、そのまま文体の力でダラダラと盛り上がり続ける小説だからだろう、後半になっても〆が予想できない。しかし著者は忽然とあざやかに幕を下ろすのであり、その終わり方は音楽で言ったら後奏なしのサビ終わり、という感じだ。

相変わらず文学でパンクロックしているのだが、読後感がこんなにいいのは何故か。文体のリズムもあろうが、この幕の下ろし方も大いに影響している気がする。次作も即買い。

1999年02月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV4「見仏記 海外編」

いとうせいこう・みうらじゅん著/角川書店/1900円

見仏記 海外篇
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「見仏記」のファンとしては海外編も当然読む。

古寺仏閣少年だったボクは仏像に対してある種の愛情を捧げてきたが、みうらじゅん氏のような卓越した仏像の捉え方は、自分の中の仏像観の崩壊であり、そしてなにより「物事を自分の視点で見ること」の象徴でもあった。それまで世間一般的な仏像の見方をしていたボクは、それほど彼の仏像の見方にショックを受けたのである。そのショック以降、「見仏記」はボクの中である種特別な位置を保っているのだが、これはその海外編。韓国・タイ・中国・インドと、仏像伝来逆ルートを歩いて行く。

いとうせいこう氏の文章が海外取材のせいかがんばっちゃっていて少々理屈っぽくなった気もするが、みうら氏は相変わらず肩の力が抜けていて良い。今月タイに出張しておきながら(仕事の忙しさにかまけて)仏像をあまり見なかった自分が疎ましくなる。

1999年02月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル: , エッセイ , 雑学・その他 , アート・舞台

LV3「コンビニ ファミレス 回転寿司」

中村靖彦著/文春新書/710円

コンビニ ファミレス 回転寿司
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思ったより面白かった。
表題の3つの食を手がかりに現代日本の食事情を紐解き、農業やら残飯やら自給率やら子供の食やらに言及している。目線がかなり「お年寄り」なので(著者は64歳)、20代30代の人間には当然のことにも驚きを表明したりしているのはご愛敬だが、その分(ボクたちにとっては)新鮮な視点で探求している部分もあって、いろいろ考えるきっかけとなった。

「飽食」と言われて久しい日本であるが、「豊食」を経て「放食」になったわけですね(まぁそんなことはこの本のどこにも書かれていないのだけど)。食はその国固有の文化であると思うけど、確実に「崩蝕」しつつあるようです。

1999年02月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒

LV3「大人のための偉人伝」

木原武一著/新潮選書/1155円

大人のための偉人伝
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直近に読んだ「ふるほん文庫やさんの奇跡」の著者がある意味「偉人」なので、えぇと昔読んだ偉人さんたちってどんなだったかなぁ、と急に興味が湧き、本棚をひっくり返したらこの本が出てきた。故に再読。買ったのはずいぶん前だからいまでは定価も違うかもしれない。

題名通り、大人のための本である。子供たちに偉人伝を独占させておくのはもったいないという考えから書かれている。賛成。リンカーン、エジソン、ナイチンゲール、キュリー夫人、野口英世…久しぶりに読んだら実に面白く、昔読んだ印象と違う人もいた。皆に共通するのは「可能な時間をすべて全身全霊対象物に捧げるその集中力・情熱」だ。それは決して特別な才能ではない。ただ、心を尽くすこと。まぁ「そういう対象物が見つかったラッキーな人々」という冷めた見方をする人もいるかもだが、この人たちはその分野でなくても名をなしただろうな。心を尽くせば対象物も見つかるものなのだ。

そういえばシュワイツァーの自伝は読んだことあるけど、ヘレン・ケラーのはなかったなぁ。子供用に超訳されたのではない実物のそれを近いうちに読んでみよう。

1999年02月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:自伝・評伝

LV3「死語コレクション」

水原明人著/講談社現代新書/800円

「死語」コレクション―歴史の中に消えた言葉
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副題は「歴史の中に消えた言葉」。
いわゆる死語の辞典風なのだが、別に50音順になっているわけではない。この本がユニークなのは、明治天皇崩御から時系列を追って死語を追っていることで、項目ごとの死語の解説もきちんと読み物になっている。つまり1ページ目から読んでいって最後まで、順に読んでいくと日本の近代史が浮かび上がってくる構造になっているのだ。しかも順に読んでいくことがあまり苦痛にならないのがいい。

難点は近代史を浮かび上がらせようとするあまりなのか「おい、これはまだ死語ではないだろう」というような言葉が数多く見られること。「死語認定」は難しい作業だろうが、勝手に殺された言葉たちはちょっと可愛そう。

1999年02月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:雑学・その他

LV1「似顔絵物語」

和田誠著/白水社/1700円

似顔絵物語
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まぁなんというか、サラサラした本だ。まるで著者の似顔絵のようである。
山藤章二が書いたら濃厚にして毒のあるものになろうし、高橋春男が書いたら饒舌でデフォルメされたものになるだろう。そういう意味では画文一致。著者の本はほとんど読んでいるが、今回ほどそれを顕著に感じたことはなかった。

不満としては、似顔絵にまつわるいろいろをなぞっただけの内容の薄さと、挿し絵(似顔絵の例)の少なさ。著者による映画についての本などの内容の濃さ・着眼点の素晴らしさに比べるとどうしても見劣りがする。自分の本業な分だけ書きにくかったこともあろうが、もう少しつっこんで書いて欲しかった。

なお、表紙の絵はパターンを変えて5つこの本の中に出てくる。著者からのサービスですね。

1999年02月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 写真集・イラスト集

LV1「秘密」

東野圭吾著/文藝春秋/1905円

秘密
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絶賛する人も多いこの話題の本がこの評価とは厳しすぎる、とおっしゃる方もおられようが、ボクにはつまらなかった。まるで極私的意見ですのでご勘弁を。

ちょっと期待が大きかった分だけがっかりも大きかった。これなら北村薫の「ターン」の方が好きかも(題材はちょこっと違うけど)。
なんというか、砂糖菓子のように甘いのだ。いや、テーマが甘いのは悪くないのだけど、テーマに引きずられて人物造形や文体もお菓子のようになってしまった気がする。そのせいでちょっと昼メロチックになった。近頃の浅田次郎のような甘ったるさ。例えばケン・グリムウッドの「リプレイ」のような冷徹さを見習って欲しいなと思うのだけど。

ちなみに、表紙カバーをはずすと本体に絵が描いてある。こっちの装丁の方が好き。カバーデザインは思わせぶりすぎな気がする。

1999年02月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV1「昭和恋々」

山本夏彦・久世光彦著/清流出版/1600円

昭和恋々―あのころ、こんな暮らしがあった
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この超絶共著でこの評価、というのは、期待をかなり裏切った、ということです(期待しすぎ?)。

書き手抜群。昭和という故郷を失った我々が、昭和を恋々と懐かしむ際の語り部として彼らはまず最良の人選。題材も抜群。いまこそ「昭和」を語るべき。写真もなかなか良し。あー、ボクたち(S30年代以前生まれ)の小さい頃はこうだったよなーとの感慨…。

だのに、なんでこんなに面白くなかったんだろう。
古い記憶自慢大会みたいになったからかなぁ、「懐かしのメロディ」的番組を見ているような行き場のなさを感じてしまった。「懐メロ」としては良く出来ている。この本の役割も価値もわかる。だが、このふたりの書き手を擁しておいて「懐メロ」に終わらせるのはもったいなさすぎるのだ。「老人のマスターベーション」に終わらせるには、書き手も題材も良すぎるのだ。惜しい。

1999年02月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 写真集・イラスト集

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